幸い、先生の口は勝手に解放された。ただ先生ももうこの件には触れたくないみたいで、何も言わずに授業を再開してる。よくこの空気で授業を続けられるなって感心するよ。お通夜の方がまだましだと思うよ?
ともかく。とりあえずは授業が続けられて、その後の休み時間。
「ごめんなさい……!」
たくさんの人が私の元に謝りに来た。それはもう必死の様子で。これ、間違いなくニュクスのせいだよね?
「いや、えっと……」
「本当にごめんなさい! 許して! お願い!」
「ゆ、許すって、そんな……」
「お金!? それとも土下座すればいい!? 何でも言って……!」
う、うわあ……。なんだか、すごいことになってる……。たくさんの人がその場で土下座し始めてる。そんなこと、私は求めてないのに。
いやだって、これ写真に撮られてSNSで掲載されたら、絶対炎上するよね? 無理矢理土下座させたなんてなったら、私が捕まって……。
いや、ニュクスが介入しそうだから問題ない気がしてきた。むしろ見て見ぬ振りをされそうな気がしてきた。本当にニュクスが申し訳ない……!
とりあえず、今この場は私が許さないと終わりそうにない。ニュクスの恐怖はみんなの魂にまで焼き付いてしまっただろうから。
あの子、かわいいのになあ。どうしてか、私に関わることになると熱くなってる気がする。不思議だね。まだ私はニュクスのことをそこまで知らないのに。
「分かった。水に流す。私ももう怒らないから、みんなも土下座しないでね」
「い、いいのね!? 本当に!?」
「うん。もうやらないでね」
「分かった! ありがとう!」
そうしてみんなが解散していく。本当にただ謝りに来ただけみたいで、その結果、私の側には誰もいなくなってしまった。
遠巻きにされてるというか、関わり合いにならないようにしているというか、そんな感じだ。
触らぬ神になんとやら、だね。私も、何も言わないようにしよう。
結局、その後は静かに授業を受けることに……。
「ごめんなさい!」
なんてことはならなくて、休み時間になるたびに、他のクラスの人たちが謝りに来た。どうにもニュクスがやったことが知られていっているらしい。どうしてかなと思ったら。
「動画が出てる……」
クラスメイトの誰かがやらかしたらしい。とりあえず言いたい。
根性あるなあ!?
いやだって、めちゃくちゃ怖かったからねニュクス。そんなニュクスが教室にいるのに、こうしてしれっと撮影するなんて……。心臓に毛でも生えているんじゃないかな。剛毛が生えてそう。
ともかく、そんなニュクスの動画が流れたから、みんなが謝りに来てるみたいだった。
でも、ちょっとだけ思うよね。
「そんなに必死に謝るなら、最初からしなければいいのに」
そうぼそっとつぶやいたら、その場にいる全員がびくっとしていた。ちょっと面白かったのは内緒だ。
その謝罪ラッシュ以外は嫌がらせもなくなって、本当に静かに、過ごしやすくなった。
ただ、その……。贅沢かもしれないけれど。
先生、どうして一切私を当てないの? 問題の答えを順番に答えさせていく時も、あからさまに私を避けたけど……。
いや、分かるよ? どこでニュクスの逆鱗に触れるか分からないんだよね? 分かるけど、ちょっと寂しく感じました。いや、いいんだけどね……?
放課後。私は真っ直ぐに帰宅した。
「ニュクス」
「あ、おかえり、お姉ちゃん」
「うん……。ただいま」
正直、ちょっと不安だった。わりと本気で怖かったから。もしかしたら、帰ったらあの怖いニュクスのままじゃないかなって。
「ねえ、ニュクス」
「なあに?」
「その……」
どっちが本来のニュクスなのか。聞こうと思ったけど……。
「…………。いや……」
「……?」
「犬猫に負けるニュクスが怖いわけないか」
「なんか失礼なこと言われた気がするんだけど!?」
気のせい気のせい、と誤魔化しながらプリンを用意。ニュクスはいつも通り喜んで食べてくれた。
夜。自分のパソコンを使って、配信をしてみる。もちろん自分の部屋で。ダンジョンの時みたいなドローンを使った配信は私にはできないけど、アカウントそのものは私も使えるから、簡単な配信ならパソコンでできる。カメラもパソコンについてるからね。
コメントの読み上げのやり方は分からないから、自分で読まないといけないけど……。それぐらいは頑張ろう。
というわけで。
「どうも。彩花です」
『アヤカちゃんこんばんわー!』
『ヒャッハー! 新鮮な侵略者だー!』
『新鮮な侵略者とは』
たくさんのコメントが流れていく。画面には、私の部屋と私の顔。パソコンのカメラだからね。
『どこで配信やってんの?』
『誰かの部屋っぽい』
『この時間に私室っぽい部屋……。アヤカちゃんの私室やな!?』
「え、うん。そうだけど」
『ちょwww』
『マジで自室なのかよw』
『配信で自室をいきなり晒すスタイル、嫌いじゃないよ!』