「聞いているのですか! 今すぐに日本から……」
「黙れ」
いつの間にか、ニュクスは議員の目の前に移動していた。ニュクスの手が議員の首を掴み、締め上げる。
「あ、か……っ!?」
そのままゆっくりと、ニュクスが浮かび上がった。ゆっくりと浮かんで、議員さんはそのまま釣り上げられる形になってしまう。あれは苦しそうだ。
多分、見せしめ、かな……?
「私は侵略者である。上位者である。お前たちの支配者である」
議員さんがニュクスの腕を何度も叩いてるけど、ニュクスは手を離すつもりはないらしい。周りの人、警察とか警備とかの人が助けないのかなと思ってしまうけど、全員が萎縮していた。
殺気、のようなもの。本能が体を動かすことを拒否してる。多分、私にはあまり来ないようにしてくれてるみたいだけど……。周りの人は、どんな感覚になってるんだろう。
そして多分、この殺気は、画面の向こう側にも伝わってると思う。配信のコメントも流れなくなってしまってるから。
「勘違いした者の相手は、不快だ。見せしめが必要だ。そうは思わないか?」
「……っ」
「故に死ね。ここで死ね。見せしめとなれ」
これは、本気だね。本当にこの子は、まったく……。
「ニュクス。だめ」
「…………」
ニュクスがちらりと私を見た。とりあえず、怒って我を失う、なんてことはないみたい。逆に言うと、冷静に見せしめで殺そうとしてるというのがわりと怖いけど。
「何故」
「それをやると……。きっと、私はニュクスと今まで通りに話せなくなる。だから、だめ。やめてほしい」
「…………」
「私は、ニュクスと友だちでいたいから」
「…………」
「もちろん、ニュクスがどうしても許せないとか、そういうのがあったら、私も強く止められないけど……。今回のは、見せしめ、だよね? それはやめよう? ね?」
うーん……。あまり納得してないかな……。ちょっと憮然としてるというか……。不満げだ。ただ、話せなくなるって言った時にちょっとだけ反応してくれていたから、まだ私とは一緒にいたいと思ってくれてる、はず。そう思いたい。
んー……。
「プリンアラモードを食べに行こっか」
「プリン……アラモード?」
「そう。プリンに生クリームとか果物とかたくさんのせた、とっても豪華なデザート。つまり」
「つまり……?」
「プリンの進化形だ!」
「進化形……!」
興味を持ってくれてる。プリンは偉大だね。子供が好きなデザートだからね! ニュクスにも通用するってわけですよ!
いつの間にかあの殺気も霧散していて、みんなが安堵のため息を漏らしてる。あの議員さんは釣り上げられたままだけど。
「それに、ほら。きっと話し合いとか、するんでしょ? やりにくくなるよ?」
「なるほど確かに」
ニュクスは頷くと、ゆっくりと下りてきて議員さんを解放した。そのまま議員さんは気絶してしまう。本当に怖かっただろうからね。うちの妹が本当に申し訳ない。
『怖かったマジで怖かった死ぬかと思った』
『殺気ってほんまにあるんや……!』
『あんな空気の中で戦うファンタジーの人すごすぎだろ』
『そして殺気むんむんな侵略者を止めるアヤカは実はすごいのでは?』
『決め手はこの後の話し合いのやりやすさやな!』
『いやプリンアラモードだろw』
視聴者さんたちもわりと余裕が出てきたっぽいね。よかったよかった。
倒れた議員さんのことを慌てたように周りの人が運び出して……。ニュクスはそれを全て無視して、改めて用事のある人に向き直っていた。つまり、総理大臣に。
「騒がせた。謝罪する」
「い、いえ! 問題ありません!」
『首相さんがちがちである』
『一国の首相がびびるなよがんばれよ!』
『いやあ、無理やろ』
無理だと思うよ。むしろちゃんと会話をしようとする首相さんがわりと本当にすごいと思う。根性あるね!
「私の山についてだ」
「は、はあ……。ダンジョンを作るといった山、ですね……?」
「移住者を受け入れる。許可がほしい」
「…………。はい?」
『移住者?』
『移住者って、どこから?』
『外国人……ではないか』
『それならわざわざこうして許可取りにこないだろ』
私も詳しくないけど、普通に外国人を移住させるなら、正規の手続きをできるはず。いや、何か厳しい条件とかあるのかな? 分からないけど……。でも、違うと思う。
つまり。
「異星の者を住まわせる」
「な……っ!?」
「金銭のやり取りも発生するはず。税金などは免除してほしい」
「…………」
「すっごい百面相だね首相さん」
『おいアヤカwww』
『お前他人事だからってw』
『いや他人事じゃないだろ当事者だろお前』
いやあ……。当事者、ではあるだろうけど、私はこの話し合いとは関係ないだろうからね。このまま成り行きを見守るだけだ。
でも異星からの移住か……。あれかな。オリハルコンとか手に入れても加工が、みたいな話をしたから、その解決のためかな。異星からの移住はかなり無理矢理な解決だけど、手っ取り早い方法ではあるかも。
首相さんは小さく息をのんで、ゆっくりと頭を下げた。
「かしこまりました……。あなたに、お任せします」
「む……」
ニュクスがちょっと拍子抜けしたみたいな顔になってしまった。
でも……。仕方ないでしょ。見せしめで殺そうとしていたんだから、これをだめだと言って癇癪を起こされたらと考えたら、受け入れるしかないと思う。
もうちょっと前なら、弱腰だー、なんてことも言われただろうけど……。あの殺気の後だからね。誰も言えないよ。
だから……。私が、がんばろう。
「ニュクス」
「うん」
「交渉、したいんだよね」
「是」
あ、首相さんがばっと顔を上げた。理解したらしい。
これが許可を取るという建前の命令とかじゃなく、対価を求めてもいい交渉だということに。