「美味しかった?」
そう聞いてみると、ニュクスは笑顔で頷いた。
「うん! 美味しかった!」
「それならよかった。侵略者さんとも味覚はそこまで変わらないみたいだね」
「…………。はっ……!? これが……策士……!?」
「どこに策があったのか聞きたいな!?」
普通の雑談を振ろうとしてるぐらいなんだけど! むしろニュクスは勝手に食べて勝手に喜んでると言ってもいいぐらいだよ!
こほん、と咳払い。いい加減話を進めないと。
「あなたが、魔法の種をばらまいた侵略者。それで合ってる?」
「是。私が侵略者である」
「話しづらいのでその面倒なキャラ付けはやめてね?」
「ひどい」
「ひどくない」
本当に会話しづらい。変な威圧感もあるぐらいだし。
ニュクスはちょっとしょんぼりしていたけど、すぐに気を取り直して話し始めた。
「うん。私が、世界中に魔法の種をばらまいた」
「ふうん……。どうしてまたこっちに来たの?」
「この世界は私のものだよ。自分の持ち物の様子を見るのに、理由がいるの?」
わあ……。なんだか邪悪なことを言ってる。なるほど、これが侵略者!
でも、ニュクスはそう言った後、苦笑いを浮かべてしまった。
「ほんとは、世界がどういう風に変わったのか見たかっただけ。もう結構時間が経ったから、何か変化あったかなって」
でも、とニュクスは不満そうな顔になった。
「何も! 変わってない!」
「それはまあ……。あんな小さな魔法だと、何ができるのかって話だよ」
「それをあなたが言うの!?」
「え」
待ってなにその反応。いや違う。そう言うってことは、もしかしてこの子……。
「あなたが! 私に文句を言ったから控えめにしたのに!」
「あー……」
ちょっとだけ、頬が引きつってしまったのが自分でも分かってしまった。
そう。そうだ。三年前のあの時。侵略者を名乗る少女に文句を言ったのは、他でもない私だ。あのまま放置すると世界が大変なことになると思ってしまったから、思わず叫んでしまって……。そうしたら、侵略者に声が届いてしまった。正直あれには自分でも驚いたよ。
「私はもっと! この世界に変化してほしかったのに!」
「あっそ。私にも言いたいことはあるよ」
「はあ!? どうぞどうぞ! 言えることがあるならどうぞ!」
「あの時のせいで私、かなり迷惑被ってるんだけど」
「え」
私がちょっと睨みながらそう言うと、ニュクスはぴたりと発言を止めてしまった。え、え、と短い言葉を漏らして、何故か戸惑ってる。
「め、迷惑って……。なにが……?」
「あの時の、私の声。がっつりそのまま、世界中の人に聞こえちゃったみたいでね」
「あ、うん……はい……」
「当然、この近辺の人には普通に私だってばれたわけですよ」
「へ、へえ……」
「めちゃくちゃいじめられた。お前のせいだって、なんかすっごく文句言われて、いろいろあった。あなたのせいで、私の学校生活はめちゃくちゃ。どうしてくれるの?」
「あう……」
私が言い切ると、ニュクスは顔色を真っ青にしてしまった。その場で居住まいを正して、頭を下げてくる。
「ご、ごめんなさい……」
「いや……。別に……」
うん。そんなに素直に謝られるとは思ってなかった。やっぱりこの子、根は良い子なのかも。
「ふふ。ニュクスって、良い子だね」
「良い子……!? 三億年生きてきて初めて言われちゃった……!」
「待って」
億!? 三億!?
「ロリババア!?」
「怒るよ?」
「ごめん」
いやだって。三億って。人間じゃないってのは分かっていたけど、桁があまりにも違いすぎる……!
「え? 本当に? ニュクスって、三億歳なの?」
「地球換算だとそれぐらいだと思う。適当な計算だけど」
「おお……」
スケールが全然違う。なんだか、本当にとてもすごい。とてもすごいのに……。
「やっていることが、子供っぽい……!」
「子供っぽい!?」
いやだって。魔法の種をばらまくとか、発想がすごく子供だと思います。それに。
「三億歳が、十年ちょっとしか生きてない私の言葉に従うって……」
「い、言われるとすごくバカらしくなってきた……!?」
「自覚があるならいいよ……」
本当に、もっといろいろできただろうに。
「そもそもさ……。ニュクスの目的って、なに?」
「目的?」
「そう。目的。何かがあって侵略とか言ってたんでしょ?」
しかも、侵略済み。具体的に変わったことはちょっとした魔法が使えるようになったことだけだけど、逆に言えば地球規模で変化を起こせる立場ということ。
それなのに、今の今まで他のことを何もやってない。どうして侵略なんて考えたんだろう。
「うーん……。暇つぶしかなあ……」
「暇つぶし」
「そう。暇つぶし」
暇つぶしのスケールがおかしい。
「別に地球だけ侵略したってわけでもないよ。いろんな惑星の管理権を持ってるから」
「それはまたすごい……」
「すごいでしょ」
えっへんと胸を張るニュクス。ちょっとかわいいけど、私の感情はめちゃくちゃだ。
だって、いろんな惑星の管理権って……。絶対これ、太陽系とかそんなレベルの話じゃないよね? 別の銀河とか、そんなレベルの話だよね? なにそれ怖い。私が思っているよりもよっぽどすごい子かもしれない。
「地球の管理権も奪い取ったから、意思疎通を図りやすい人間さんと一緒にいろいろ遊ぼうかなって。そう思ったの」
「遊ぶ……。それだけ?」
「それだけ」
うん。とりあえず分かった。
「思った以上に子供だった」
「ひどい!?」
「事実だよ!」
規格外の力を持った子供だよこれ! 楽しそうとか言って地球人類滅亡とかあり得そうだよ!
「そ、そんなことしないよ! だって、そんなことしたら、みんな悲しいでしょ!?」
「いい子!」
「わあ!? 撫でないで……。あ、気持ちいい……」
なでなでしたらとろけたような顔になった。うーん……。かわいい。