私がスマホをしまうと、ニュクスがおそるおそるといった様子で戻ってきた。
「お姉ちゃん。どうだった?」
「とりあえずは大丈夫かな」
「よかった……」
分かりやすい安堵のため息をついてる。侵略者らしくないけど、ニュクスらしいとは思う。
それじゃあ、改めて。どこに行くか、だね。
「道案内はお願いできるの?」
「転移で移動するよ」
「あ、そう……」
なんだろう。安心なような、残念なような、複雑な心境です。
『なんだよ、人里までRPGのように旅するんだと思ったのに』
『途中でモンスターが出てきてレベル上げ、とかな!』
『いざ旅立ちの時!』
また聞こえてきたコメントは、他人事だからととっても楽しそうなものでした。目の前にいたら手が出ていたかもしれない。
またニュクスと手を繋いで、そしてすぐに景色が変わった。目の前には、石造りの大きな門。門の両脇には屈強な男の人。鎧姿で、槍を持ってる。兵士かな?
そんな二人の兵士は、突然現れた私たちに驚いていたけどすぐに槍を向けてきた。
「貴様ら! どこから……」
そして、ニュクスの顔を見て動きを止めた。見る見るうちに顔色が悪くなっていってる。
「ま、まさか……あなた様は……」
こほん、とニュクスが小さく咳払い。
「これはまさか!」
『知っているのかアヤカ!』
『ははーん。さてはいつものやつやな?』
『侵略者モードがくるぞ!』
まさしくその通りだと思う。でもニュクスが振り返って睨んできたので黙っておきます。私は長いものには巻かれるスタンスなので。
「私はニュクス。侵略者である」
「は、ははーっ!」
兵士はその場で膝を突いて頭を下げた。土下座だ。よく見たら少し震えてる気がする。兵士がそれでいいのか、と思うけど……。ここでは、それだけ恐れられている存在なのかも。
『これが侵略者を前にした本来の俺らの姿なのかも』
『地球でも一部では恐れられてそうだけどな』
『どこかの学校とかな!』
それは、まあ、うん。ニュクス襲来の直後は本当にすごかったからね。正直ちょっといい気味でした。
「冒険者ギルドに向かう。入っても構わないか?」
「も、もちろんです! すぐに迎えの馬車を……」
「必要ない。直接向かう」
「え」
「ん……? 何か?」
兵士たちが驚いたように顔を上げて、ニュクスは不思議そうに首を傾げた。兵士たちの顔が引きつっているように見える。
「あ、あの……! 迎えを! 用意させてください!」
「不要」
「冒険者ギルドに……! 先に知らせる意味合いもあります!」
「何故。知らせる目的が分からない」
ゆっくりと、ニュクスの目が細められた。
「何を隠している?」
「ひっ……」
これは面倒なことになってしまってる。ニュクスは別に怒ってないけど、侵略者のキャラ作りで誤解されやすい状況。兵士たちはもう完全にニュクスのことを恐れてる。
私は小さくため息をついて、ニュクスの頭に手を置いた。
「ニュクス」
「ん……。なに?」
「行こう? 冒険者ギルド、見てみたい」
「そう? 分かった」
ニュクスはそう言うと、あっさりと兵士たちを無視してしまった。目もくれずに門の方へと歩いていく。ニュクスは兵士たちに、ただ本当に疑問に思ったことを聞いただけで興味すらなかった、ということだろうね。
無関心、というやつ。それはちょっとだめじゃないかな、とも思ってしまう。
「ごめんなさい、通ります」
ただ震えるしかない兵士たちにそう言って、私はニュクスの後を追った。
『さすが侵略者というかなんというか』
『しょんべんちびりそうになりましたがそれが快感でした』
『やべえやつがいるぞ!?』
変態コメントはブロックだ。多分地球にいる文ちゃんがやってくれるはず。
門の中を歩きながらニュクスの後を追う。その間に、ちょっと気になったことを聞くことにした。
「ねえ、ニュクス。聞いてもいい?」
「うん! もちろん!」
振り返ったニュクスは満面の笑顔。さっきとのギャップがすごい。
『あらかわいい』
『大好きなお姉ちゃんに話しかけられて嬉しい妹ちゃん』
『侵略者様のお尻に全力で振られる尻尾が見えるぜ』
奇遇だね、私もだよ。
どうしてそんなに嬉しいのか分からないけど、とっても嬉しそうなニュクスに私はさっきのことでちょっと気になったことを聞いてみることにした。それは、とても単純なもの。
「ねえ、ニュクス。さっきの人たちの言葉が自然と分かったんだけど、これどうなってるの? 視聴者さんも問題なく聞き取ってるみたいだし」
『そういえば確かに』
『兵士さんらの言葉、完全に日本語だったな』
『どうなってんだこれ』
視聴者さんも気になり始めたらしい。間違いなく日本語だった。英語とかでもなく、日本語。
「そんなこと? 翻訳魔法だよ」
「翻訳魔法」
「うん。お姉ちゃんと、配信の魔法にかけてる。どんな言葉も自分の母国語に聞こえるはず」
「マジで?」
「マジで」
なにそれめちゃくちゃすごくない? つまり、気になってる映画が日本語訳されてなくても、私はそれを日本語で見ることができる……てこと!?
聞いてみたら、とっても微妙な顔で頷かれた。
「そう」
「なにかなその顔は」
「そんなくだらないことに使わないでほしい」
「くだらない!? 人類の夢だよこれは!」
「そ、そうなんだ……」
残念ながら理解してもらえなかったみたいで、ニュクスは困ったような笑顔でまた歩き始めてしまった。
どうして分からないかな、この私の気持ちが。
「そのあたりどう思いますか皆さん」
『お前がおかしい』
『ちょっと気持ちは分かるけど、真っ先に出るわけがない』
『先輩ってたまにぱっぱらぱーですね』
「ぱっぱらぱー!?」
今の文ちゃんのコメントだよね!? 味方がいなくて悲しいよ私は。
ため息をついて、ニュクスを追う。すぐに門をくぐり終えた。