ニュクスが指を軽く振ると、男の手がふわりと浮かんでそのままくっついてしまった。呆然としながら手を握ったり開いたりしてる。
「一応言っておきますけど……」
私が口を開くと、男の人がびくっと体を震わせた。
「次は、庇いませんから」
「わ、わかった! わかった! ありがとう! すまねえ!」
それだけ叫んで逃げていってしまった。もうちょっと何かないのかなと思ったけど、さすがにこれ以上は求めすぎ、かな?
『侵略者様沸点低すぎて笑えない』
『ていうかアヤカちゃんが関わるとすぐにキレてない? 今後大丈夫?』
正直わかんない。私の方が不安になってくるよ。
「ねえ、ニュクス」
「…………」
「私のことで怒ってくれるのは、嬉しい。気に掛けてくれてるんだなって。本当に嬉しいよ」
「…………。うん」
「でも……。すぐに暴力を……手を出すのはやめよう。特に殺すって脅すのも。ニュクスは本当にそれができちゃうから怖いんだよ」
「でも……」
「でも、とかじゃないよ」
「むにゅ」
両手でニュクスのほっぺたを挟む。おお、もちもちだ。もちもちほっぺ。そんなほっぺたを両手でむにむにとしちゃう。
「うむぅ……」
「私とニュクスの出会いは、ちょっとおかしなものだったけど……。せっかくだから、私もニュクスと一緒に遊びたいと思ってる」
「んむ……」
「でも……。誰かを殺しちゃうと、私はもう一緒に遊べなくなるかも。きっと、心のどこかで、ニュクスに逆らったら殺されちゃうんだって思うだろうから」
「…………」
「だから、ね? ニュクス。一緒に遊ぶためにも……。我慢してほしい」
ニュクスはとっても長生きらしいけど……。きっと、精神はまだ子供みたいなものなんだと思う。力を持ってしまった子供。そう感じてしまった。
力を持ってしまったから、自分の思うようになるように力を使ってしまって、恐れられて……。そして、侵略者を自称するようになった。そんな感じじゃないかな。
私も子供だけど、一緒に遊んであげることはできるから。せめて、何かのきっかけになってくれたらと思うよ。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「私が誰も殺さなかったら……。ずっと一緒に遊んでくれる?」
「うん。もちろん」
ニュクスが飽きてどこかに行ってしまうまで、私はニュクスと一緒に遊ぶよ。ニュクスがそう望んでくれている間は、ずっと。
「だって、私はお姉ちゃんなので!」
「うん。約束、だね」
「うんうん。約束約束……。あれ?」
なんだか……すごく嫌な予感がする! これ変な契約になってないかな!? ニュクスがくすくす笑ってるし!
いや、いいけどね? 私としてはニュクスが満足するまで一緒に遊ぶつもりではいるから。
『すげえ』
『お前マジでちゃんとお姉ちゃんしてるよ』
『感動しました。お姉ちゃんのファンになります』
「あ、変態さんのファンはいらないです」
『ひどいwww』
いやだって、変なことを口走る人があまりに多いからね……。
そんな話をこっそりしていたら、周りから声が戻り始めた。黙っていた人たちが少しずつ。
「まさか……あの侵略者に言うことをきかせてる……!?」
「ニュクス様があんなに大人しく従うなんて……!」
「お姉ちゃんって呼ばれてたよな……? まさか、姉妹!?」
「姉妹だとしても……侵略者よりは話がわかりそうだぞ!」
なんだかものすごく失礼なこと言われてない? まあ私がニュクスのお姉ちゃんであることは事実ですが! 事実! ですが!
『おいなんかアヤカちゃんが得意気な顔してるぞ』
『ほっといてやれよ。お姉ちゃん扱いされて嬉しいんだよ』
『お姉ちゃんと呼んであげていれば調子に乗りそう』
めちゃくちゃ失礼だけど否定できないね!
「ほ、ほらニュクス。本題に戻ろう。依頼しに来たんだよね」
「そうだった」
ニュクスは頷いて、受付の方に戻っていく。受付さんはそれはもう盛大に顔を引きつらせた。さっきまで話していた相手が侵略者だとは思ってなかっただろうからね。
「かわいそう」
『アヤカさん? 微妙に声が震えてませんか?』
『絶対笑ってるだろお前w』
『アヤカもたいがいいい性格してるよw』
私としては、ニュクスは怖くないというのを是非とも知ってほしいと思います。
「改めて、依頼がある」
「あ、はい……。依頼、ですか? ニュクス様ならご自身でどうにかできるのでは?」
「否。私には人脈がない」
「人脈……」
ごくり、と受付さんが喉を鳴らした。いやそんな、別に悪いことをしようとはしてないからね。してないよね?
「私が新たに支配した世界に移住する者を探している」
「新たに支配……!? どこを……何をするつもりなんですか!?」
「ダンジョンを作る。そのための人が欲しい」
「…………。はい?」
あ、これ意味が分かってないやつだ。多分そもそも前提が違っているような気がする。
さすがに無視できないので、私も会話に参加することにした。
「すみません。私からいいですか?」
「あ、これはお姉様。是非お願いします」
「…………。お姉様……」
「あの……?」
『お姉様と呼ばれて喜んでるんじゃないよ!』
『微妙にトリップするなやばいやつだぞお前w』
『正気に戻れ!』
「はっ!」
そうだった! 落ち着け私。頼りになる振る舞いをするのだ!