私がそっと手を離すと、ニュクスはちょっとだけ残念そうにしていた。それがまたとてもかわいい。帰ったらまた撫でてあげよう。こちょこちょと、ね。
そんなことよりも、だ。
「それで。移住者募集したの?」
「した。もうすぐ貼り出されるはず」
「移住の依頼、ねえ……」
カインさんとリーゼさんが興味を持ってるみたい。受付の方に視線をやっていて……。あ、受付の人が出てきた。向かう先は、こちら側。正確に言うと、壁際にある掲示板みたい。そこに貼り出すらしい。
「なるほど。受けたい依頼をあそこから選ぶんだね」
「そういうことだ。ちょっと見てくる」
受付さんが貼り出したニュクスの依頼をみんなが見に行く。大混雑だけど……。遠くからでもみんな見えてるらしい。見えない人ももちろんいるみたいだけど。
「新たに作るダンジョン都市への移住者募集……!?」
「依頼とはまた違うみたいだけど……。条件、いいなこれ」
「戦い方を知らない人への指導教官、か。応募してみようかな」
なんだかわりと好感触、だね。みんな興味深そうに読み進めてる。
「場所は特殊で、この国への行き来は約三十日に一回、か」
「おいおいニュクス様が転移で送迎かよ! 怖すぎるわ!」
「転移した直後に、騙されたなバカめ死ね、てか?」
『めちゃくちゃ好き放題言ってるw』
『大丈夫? 侵略者様怒らない?』
これぐらいなら大丈夫だと思うけど。ちらりとニュクスを見てみたら、むしろ機嫌良さそうに薄く笑っていた。
ニュクスは侮られたりしたら怒るけど、多分気安い接し方という程度ならむしろ喜ぶんだと思う。ラインというか、線引きがどこにあるのかがちょっと分からないけど……。でも、あからさまな態度じゃなかったら大丈夫なんじゃないかな。
「だからみんなもある程度気安くやればいいと思うよ」
『なるほど』
『侵略者様はきっと一人で寂しかったんやな』
『それで対等な相手を探していた、とかか』
『かわいい』
多分、そんな感じだと思う。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「余計なことは言わないでほしい」
「そう? 検討しておくね」
「それ絶対にやらないやつ……」
『どこでそんな言葉覚えたんだよw』
『次は検討を加速しますやな!』
『具体的に言えよといつも思うやつw』
気持ちだけはある、みたいなやつだよ。多分。
「じゃあ、お姉ちゃん。次に行こう」
「え? 待たなくていいの?」
「締め切りは明日。また明日のこの時間に来る」
「そっか。……いや考える時間短くない?」
一日しか与えないってかなり厳しいと思うんだけど。移住だよ? 人生の一大決心だと思うんだけどね。
でも、これに関してはニュクスに任せようと思う。この世界の常識なんて分からないし、募集も一回だけとは限らないし。
というわけで、カインさんに挨拶したかったけど、ニュクスの転移でいきなり移動。次に向かった先は、大きな洞窟の前だった。山の中の洞窟みたいで、山からは煙が出てる。
「これ、噴火しかけだったりしない?」
「違う。この煙はまた違うもの」
「へえ……?」
なんだろう。ちょっと気になる。
そうして、洞窟に入って。
「止まれ!」
いきなり呼び止められてしまった。
向かう先にいるのは、小さな人影。小学生ぐらいの背だけど、体型がずんぐりとしてる。そして髭がたっぷりだ。
つまり!
「ドワーフ!?」
「ああん? 見りゃ分かるだろうが」
『ドワーフだあああ!』
『リアルドワーフ!』
『ドワーフの女性はどんなのですか!?』
ちょっと失礼すぎると思うから黙っておいてほしい。いや、私とニュクスにしか聞こえてないだろうけど。
「ガストン。久しぶり」
「ああ……? って、ニュクス様じゃないですか! 久しぶりでさあ!」
ニュクスの知り合い、みたいだね? ガストンと呼ばれた人は、ニュクスを見るとなんだか嬉しそうに笑っていた。ニュクスも、心なしか楽しそう、かな?
「ちょうどいい。ガストンに頼みたいことがある」
「俺にですかい?」
「そう。もうすぐダンジョン都市が……」
「いいですぜ。引き受けましょう」
「できるから……、え?」
お、珍しいニュクスのきょとん顔だ。写真に残したいけど怒られそうだから我慢しよう。
ニュクスは少しぽかんとしていたけど、すぐに我に返って慌てたように言った。
「ま、まだ内容を言ってない」
「内容? いいですよそんなもん。ニュクス様の頼みならなんでも引き受けるんでね」
「…………」
なんだろう。なんだか、すごく珍しいものを見た気がする。対等、とはまた違うけど……。ニュクスに好意的な人は初めて見たかもしれない。ニュクスも侵略者ムーブしてないし。
『ドワーフさんは侵略者派閥?』
『いつの間にできたんだそんな派閥w』
『いやでも、なんかドワーフさんめちゃくちゃ信頼してね?』
ね。どういう関係なのか、私も気になる。