ガストンさんに案内された先は、洞窟の中とは思えないほど広い空間。上にも横にもすごく広くて、ちょっとした町ならすっぽり入ってしまいそうなほど。
事実、そんな広間に石造りの家が建っていた。お店まである。洞窟の中の町……。
「すごい……ゲームっぽい……!」
『わかる』
『とてもわかる』
『いかにもなファンタジーの町!』
なんだかすごいよね! 日本だとまず見られないと思う!
ガストンさんの案内に従って町の奥へ。一番奥に見える四階建ての立派な建物。そこに向かってるらしい。これからドワーフの国の王様に会うってことだよね。
ドワーフの国の王様。どんな人だろう。ガストンさんみたいな、いかにもドワーフな人なのかな。楽しみなような怖いような、複雑な心境。
ただ、それよりも驚いたのは。
「ニュクス様だ!」
「ニュクス様! お久しぶりです!」
「ニュクス様ー!」
なんだかニュクスが大人気ってことだね! 当の本人はそれを当然のように受け止めて……いるわけじゃなくて。
「んぅ……」
赤くなってる顔を見られないようにうつむいてる。恥ずかしがってる。とてもかわいいと思います。
「私の妹かわいいでしょ」
「かわいいですな。ただ、以前はこんなに恥ずかしがっておられなかったんですがね……」
ちらりと、ガストンさんの視線が私の方を向いて。
「親しい人がいると恥ずかしいってやつですかな」
「そうなの? そうなのニュクス? ねえ?」
「う、うるさい!」
「痛い!」
頭を叩かれてしまった。照れ隠しで叩いてくるのはひどいと思う。
『マジで根性あるなこの子』
『普通絶対上位者をからかおうと思える?』
『まあ頭おかしい子なので』
視聴者さんのコメントもちょっと辛辣になってきてない? 泣くよ?
そうしている間に、立派な家の前にたどり着いた。家の前には兵士さんらしき人が数人。剣や槍を持ってる。
でもそんな人たちも、相手がニュクスだと分かるとすぐに武器を下ろして頭を下げた。
「今更だけど……。ニュクス、なにやったの?」
「特に何も……」
「あれ?」
「人間さんにいじめられていたから、住処を作ってあげたぐらい」
「…………」
ああ、これ、本人にあまりその自覚はないけど、種族そのものを助けてるやつだ。ガストンさんなんか、ニュクスの言い方に苦笑いしてるし。
歩きながらガストンさんにもう少し詳しい話を聞いてみた。
この世界は、人間がたくさんいて、その数の優位で他の種族を支配していたのだとか。奴隷のような扱いだったらしい。
そんな中で現れたのが、ニュクス。見るに堪えないと迫害する側を攻撃して、ドワーフなどのそれぞれの種族を保護。そして住処を作っていったそうだ。
そんなわけで、人間側からは恐れられ、他の種族からは敬われている、ということだった。
「もう五百年前のことですな。当然俺たち含め、ほとんどのやつらは実際に見たわけじゃない。でもこうして本人が今でも顔を出すから、紛れもない事実としてずっと伝わってきてますわ」
「へえ……」
「エルフの連中なら、実際に見たやつもいるかもしれませんな」
それは……。是非とも話を聞いてみたいなって思ってしまう。当時のニュクスがどんな子だったのか、ちょっと気になるから。
それにしても……。
「五百年前かあ……」
『少なくとも五百歳を超えてるってわけやな』
『しかも別にこの世界で産まれ育ったわけでもなさそうやし、絶対にもっと上やろ』
『千歳とか、下手をすると万かも……』
普通にあり得そうだよね。ニュクスは不老不死ってやつなのかな? 本人も、以前私に三億歳だって言ってたし。
話している間に最上階に到着。大きな扉があって、そこが謁見の間らしい。
ちなみに建物の中は、ゲームで見るようないかにもなお城を小規模にしたようなものだった。絨毯も敷かれてる。ただ、調度品とかの類いはあまりなくて、代わりに剣みたいな武具の類いが飾られてた。
扉がゆっくりと開かれて、中に入る。
謁見の間、なんて言ってたけど、実際は大きな会議室みたいになっていた。大きな円卓が部屋の中央に置かれていて、一番奥のちょっと豪華な椅子に王様らしき人が座ってる。頭には、王冠。
「ようこそお越し下さいました、ニュクス様」
そう言って、王様が頭を下げた。
「久しぶりだ、国王」
「あ、侵略者ムーブなんだ……」
「…………」
じろりと睨まれた。ごめんて。
「して、ニュクス様。このたびはどのような用件でしょうか」
「伝達事項がある」
「どうぞ」
そこから、ニュクスから簡単に説明。私の世界にダンジョンを作るから、鉱石を加工できる人が欲しい、ということ。そしてその一人としてガストンさんを連れて行くということと、他にも数人、連れて行きたいということ。
さすがにこんな一方的なのはどうなんだろう、と思っていたけど、
「なるほど。承知しました」
そんなあっさりとした承諾だった。
「まずは希望者を募りましょう。明日までお待ちいただけますかな?」
「是。他の種族の元へも向かう。明日、また来る」
「了解致しました」
本当に、ただそれだけ。あっさりとしたものだった。
そのまま部屋を出て、外に向かう。つまりは、洞窟の外に。
「なんだか……本当にあっさりしててびっくりした。いいの? 他の依頼とか、そういうのはなかったの?」
そうガストンさんに聞いてみたら、ニュクスが前を歩いて聞いていないことを確認した上で、
「他の依頼よりも、ニュクス様が優先ってことですわ。これについては依頼があったとしても、その依頼者が納得しますんでね」
「そうなの?」
「へい。俺たちドワーフはニュクス様に確かに恩を感じてる。でもそれ以上に、恐れてもいる。あの方はいつでもここを滅ぼせる、正真正銘の支配者様なんで」
ガストンさんはニュクスに対してわりと気安く接してくれてるけど、それでもそういう評価らしい。あくまでニュクスは支配者、ということ。どれだけ恩を感じていたとしても。
前をてくてくと歩くニュクスの背中が、ちょっとだけ寂しそうに見えてしまった。