次に向かったのは、広大な森。転移した先がもうすでに森の深い場所で、いわゆる原生林みたいな場所だった。周辺の木はとても太くて、木の根っこがあちこちから出てる。じめっとした森だ。
「ここにエルフがいるの?」
「そう」
『森に住む種族!』
『解釈一致!』
『めちゃくちゃ楽しみ』
エルフ。定番の種族。私も楽しみ、だね。
そうして、歩き出そうとしたところで。私の足下に矢が突き立った。
「うわ……!?」
びっくりした! めちゃくちゃびっくりした!
「貴様ら! どこから来た!」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。反響しているような声で、どこにいるのかちょっと分からない。そして、怖い。
「今すぐに立ち去れ! さもなくば……」
とても怖い。何がって、ニュクスが。額に青筋を浮かべてそうなほどに怒りかけてるニュクスが。
「あわわわわわ」
『死んだわあいつ』
『これ、多分ニュクスを狙っていたら、気概のあるやつだって喜ばれてたんじゃないかな』
『よりにもよってアヤカを狙うとか……』
いきなり殺したりしないよね!? 大丈夫だよね!?
「貴様ら、聞いているの……ふぎゃ!?」
いきなり誰かが落ちてきた。明るい金髪のお姉さん。身軽そうな緑色の衣服に身を包んだ人で、背には矢筒を背負ってる。
「な、なにが……。急に引っ張られたような……。ひっ!?」
そんなお姉さんの目の前に、ニュクスが立った。なんか、殺気がすごい。
『カメラ越しでも怖いっぴ』
『殺気の寒気なのか、古すぎるネタの寒気なのか分からない』
『死んだんじゃないの~?』
いきなり殺したりはしないはず。多分。きっと。
「な、なんなのよ、お前!」
お姉さんが叫んで、ニュクスは静かに答えた。
「私はニュクス。支配者である」
「え」
「私に矢を向けたのなら、その勇気を称賛した。だが、あなたは私の協力者を狙った。不快である」
「あ、いえ……その……。ニュクス、様? あなたが……?」
みしりと、何かが歪む音が聞こえたような気がした。
「ねねねねねえ!? 今なんかみしって聞こえなかった!? なんか、こう……。空間が歪むとかそんな音みたいなの! いや聞いたことないんだけど!」
『聞こえた聞こえた!』
『マジで怖い!』
『あばばばば』
ニュクスがお姉さんの頭を掴んだ。お姉さんは顔が蒼白になってる。
「不快である。故に、し……」
やばい、と思ったら、ニュクスがちらりとこっちを向いた。これは……。
「ニュクス」
「…………。是」
やっぱり。ちゃんと私が言ったことを気にしてくれてるみたいだった。
「協力者が、許すと言っている。故に……今は見逃そう。次はない」
「は、はい! ありがとうございます!」
ニュクスが手を離すと、お姉さんはこっちに駆け寄ってきた。私にしがみついて、
「ありがどう……!」
「うわきたなっ!?」
涙と鼻水でべたべただ! 思わず突き飛ばしちゃった。
『おいwww』
『いや気持ちは分かるけどw』
『突き飛ばしてやるなよw』
いやだって……。うわ、鼻水べったりついてる……。あとでちゃんと洗おう……。
「セリア! 勝手に飛び出して何を……」
今度は男の人が出てきた。こちらも金髪だけど、髪は短く切り揃えてる。
その人は突き飛ばされたまま泣いてるセリアと呼ばれた人と、ニュクスと、私、三人を順番に見て、最後にもう一度ニュクスを見た。そして何が起こったのかなんとなく察したらしい。
「申し訳ございませんでしたあああああ!」
ジャンピング土下座なんて初めて見た、とだけ言っておく。
「このたびは、我が里の者がご迷惑をおかけして……。本当に、申し訳なく……!」
「…………」
私たちは木造の家屋の中で、族長さんに頭を下げられていた。
セリアさんとそのお父さんを名乗る人に案内されたのは、エルフの里。大きな木の上部分にたくさんの家があって、家と家をそのまま橋で繋げている、そんな里だった。エルフたちは基本的に木の上で暮らしているらしい。なんだかすごく……森の人だ。
そんな里の、一番大きな家に通された私たちは、待ち構えていた族長を名乗る人に土下座されていた。
「ニュクス様のお連れの方に手を出すなどと……! あってはならないことでした! よくよく、言い聞かせますので……! なにとぞ、なにとぞご容赦いただきたく……!」
それにしても……怯え方が尋常じゃない。今すぐ殺されると思っているような、そんな様子だ。
『必死過ぎてこっちが真顔になるレベル』
『いくらなんでもびびりすぎでは?』
『いや、思ったけど、エルフの族長ってことは長生きだろ?』
ああ……。そういうことか。私もなんとなく分かった。この人、五百年前に生きていたんだ。そしてニュクスが何をしたのか、見ていた人。
もちろん私は何をしたのか知らないけど……。多分、容赦がなかったんだと思う。
ニュクスは小さくため息をついて、口を開いた。
「協力者が許している。故に、私も許す。だが次はない」
「ありがとうございます……!」
その後はとんとん拍子というか……。ニュクスが言ったことを、族長さんは全て受け入れていくといった流れだった。
地球に来るのはセリアさんとそのご家族、そしてもう数名。セリアさんは責任を取らされた形だったけど、むしろ逆に保護の意味合いもあったかも。里の中で大人たちに怒られて、すごく申し訳なさそうにしていたから。
きっと、この里での立場は悪いものになる。だから地球で引き取ってしまおう。こんな流れだね。
引き取る側の偉い人には何も言ってないけどね! ニュクスが決めちゃったからがんばってください!
他にもいくつかの種族と交渉、という名の命令を終えて、私たちは地球に戻ることになった。