「疲れた……気疲れ的な意味で……」
「お疲れ様でした、先輩。行かなくて良かったと心の底から思いました」
「裏切り者ぉ……」
くすくすと、文ちゃんは楽しそうに笑ってる。機嫌が直ったようで一安心だ。言葉通りに行かなくて良かったと安心しただけかもしれないけど。
ちなみに配信は終了済み。自宅だからね! 自分の家で配信するようなバカはいないんだよ!
時間は、夕方。晩ご飯の用意をしないといけないわけだけど。
「お姉ちゃん」
「あ、うん。ニュクスもお疲れ。晩ご飯は……」
「何か忘れてない?」
「え?」
はて。何を忘れてるかな。ニュクスの期待の籠もった眼差しに、私の脳はフル稼働を始めて……。そして、思い至った。
「プリンアラモード!」
こくこくとニュクスが頷いてる。とても楽しみにしていたみたいで、わくわくしているのが見ていて分かる。うんうん。そうだね。約束だからね。
「買い物、行くか……」
さすがに買い置きはない。おやつ用の普通のプリンはあるけど、プリンアラモードは常備してない。コンビニに行けばあるかな? なければ、最悪私なりに作らないと。
「お買い物ですか? じゃあわたしも行きます!」
「はいはーい」
というわけで、みんなで行くことになった。
さて。コンビニですが。
「おお……。おお……!」
ニュクスが感動で震えてる。店内にたくさんある食べ物に興味津々だ!
「お姉ちゃん、お姉ちゃん! 選んでもいいの!?」
「いいよ」
「わあい!」
子供かな? 見た目は子供だったわ。
とてとて小走りで行ってしまうニュクスを、私と文ちゃんは微苦笑で見送った。
ちなみにニュクスには私の子供の頃の服を着てもらってる。あのローブは悪目立ちしそうだからね。落ち着いてお買い物をするためにも必要だと思った。
赤色のパーカーに黒いスカート、という服装。目立つ髪は帽子の中に隠して、後ろ側は服の中に入れてもらってる。これであまり目立たない……と、思いたい。
「文ちゃんは何を買うの?」
「プリンを。食べたくなっちゃうので」
「あはは。分かる」
とっても美味しそうに食べるからね。こっちまで食べたくなっちゃうよね。
二人で買うものをのんびり選んで、デザートコーナーで品定めするニュクスに合流。ニュクスの目はたくさんの種類のプリンに釘付けだった。
「プリンが……たくさん……。プリン……!」
「プリンアラモードはお礼だから別枠として、買うのは一個までです」
「一個……!? も、もう少し……! せめて三個!」
「わがまま言うなら買わない」
「うぐ……っ! じゃ、じゃあ……。この、クリームプリン!」
「はーい」
ニュクスが選んだクリームプリンと、残り一個になっていたプリンアラモードをカゴに入れる。あとはお会計だね。
「先輩、なんだかお母さんみたいですね」
「お姉ちゃんです」
「そうでした」
ちょっとはお姉ちゃんっぽくなっているのではないでしょうか!
そうして、レジに向かおうとしたところで。
「か、金を出せ!」
そんな怒鳴り声が聞こえてきた。
「え……」
ちょうどレジのある通路にいたから、それを見てしまった。黒い衣服の男が、店員さんに包丁を突き出しているのを。つまりは、強盗。
店員さんは恐怖に震えながらも、どうにか強盗をなだめようとしてる。
「お、落ち着いてください! おか、おかね……。二万円までしか出せなくて……」
「はあ!? ふざけんなもっと出せよ!」
「レジのシステムでできないんです……!」
そう店員さんが言うけど、強盗は納得していないらしい。包丁をさらに突きつけようとして。
「お会計したい。まだ?」
そんな空気の読めない声がしました。我らが侵略者ニュクス様です。
なあにやってるのかなあの子は!?
「ああ!? お、お前! この状況が分からないのか!?」
「……? 知らないけど、お買い物の邪魔。とりあえずどいて?」
そう言いながらニュクスはカゴをレジの横に置いた。いや待ってほしい。ニュクスはわざと煽ってるの? それとも天然なの? どっち?
「お姉ちゃん、おかねー」
あ、これ天然だ。変なところで常識が行方不明になるのはなんでかなあ!?
そして当然強盗は怒るわけで。
「てめえ! ガキが! 邪魔してんじゃねえぞ!」
カゴを勢いよく払い落とした。
「あ」
そして、当然のように、中に入っていた商品は床に落ちるわけで。中にはニュクスが楽しみにしてるプリンアラモードもあるわけでして。
ぐしゃりと。床にぶちまけられた。
「…………。え?」
ニュクスが視線を床に落とす。床に落ちた衝撃で中身がぶちまけられたプリンアラモードを。
店員さんが慌てたようにお金を出して、強盗がそのお金をひったくって……。
「あ?」
そして、音が消えた。
「ひっ……」
隣で文ちゃんが小さな悲鳴を漏らす。文ちゃんの右手をぎゅっと握ってあげた。大丈夫、この殺気は、私たちに向けられたものじゃないから。
店員さんも強盗も、息をのんで固まってしまってる。この今にも心臓が潰されそうな恐怖の発生源がどこかは、ちゃんと分かっているんだろう。ニュクスの方には絶対に視線をやらないようにしていた。
でも、まあ……。それで逃げられるわけがないんだけど。