侵略者系魔女の侵略ライフ   作:龍翠

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ダンジョン解放!

 

 ダンジョン解放当日。私はそのあまりの人の多さに、思わず頬を引きつらせていた。

 

「うわあ……」

 

 人。人。人。人の群れ。とんでもない人数が、ダンジョン都市に続く道に殺到してる。

 ダンジョン都市のある山、つまりニュクスが所有する山に繋がる道は一本だけ。最初は放置されていて荒れ放題だったその道も、いつの間にかニュクスがしっかりと整備していた。四車線の広い道になってる。

 そんな広い道に人が押し寄せていて、なんかもう、すごい。人がゴミのようだ、なんて。

 ちなみに私たちがいるのは、上空。ニュクスが用意してくれた空を飛ぶ絨毯に座ってる。落ちないように魔法がかけられているから安心だ。

 

「夢の魔法の絨毯ですよ、先輩。お茶どうぞ」

「ありがとう、文ちゃん。文ちゃんはなんだか余裕だね?」

「何も考えないようにしてます」

「あ、はい」

 

 余裕ではないってことだね。

 私たちの上を飛ぶのはいつものドローン。イヤホンからはもちろんコメントの音声が聞こえるけど、いつもより勢いが弱い気がする。コメントの量そのものが少ないのかも。

 

『大きなイベントの入場待ちみたいだ』

『あながち間違いではないと思う』

『これ、解放と同時に大混乱になるのでは?』

 

 なる気がする。ドミノ倒しみたいになって、たくさん怪我人が出るかも。

 

「ニュクス。何か対策とかしてる?」

 

 目の前でぷかぷか浮かんで楽しそうに見下ろすニュクスに聞いてみる。ニュクスのお顔はにこにこだ。とっても機嫌が良さそう。その顔を曇らせないためにも、何か対策をしておいた方がいいと思うんだけど。

 

「んー? 全員の体の自由を奪って、私が順番に案内するよ」

「あ、そう……」

 

 すっごい力業での解決でした。それかなり怖いと思うんだけど。格の違いを見せつけるっていう目的もあったりしない?

 昨日夕方に、翌日に解放するというお知らせを出したんだけど、あっという間にとんでもない人数が集まってしまった。時間を言ってなかったからか、みんなできるだけ急いで来たらしい。外国人もいるよ。すごい。

 私と文ちゃんはニュクスに誘われて、観光。アリのように蠢く民衆を眺めてます。ある意味で特等席だ。こんな特等席はいらなかったけど。

 

「そろそろいいかな」

 

 ニュクスはそう言うと、こほんと咳払いして口を開いた。

 

「私はニュクス。侵略者である」

 

 不思議とはっきりと聞こえるニュクスの声。それは集まってる人たちも同じだったみたいで、みんな一斉に静かになった。

 

「これより道を開く。だがあまりにも人数が多い。百人ずつ順番に都市に入れよう。その後は都市の管理官に任せるので、指示を守るように。違反者は追い出して永久追放だ」

「その永久追放って現世からって意味じゃないよね?」

「先輩、チョコあげるので黙っておきましょう」

「はーい」

 

『緩い』

『並んでる俺、かなりぴりぴりとした空気なのに、配信ではゆるゆるで温度差で風邪ひきそう』

『よし帰れ。俺が前に行く』

 

 私たちはもう見ていればいいだけだからね。ところで。

 

「管理官って誰?」

「フェアリーの族長」

「ああ……」

 

 フェアリー。エルフの後に会いに行った種族。拳大ぐらいの大きさの妖精だけど、ニュクスを絶対の神として崇めているちょっとやばい種族だ。

 今回の移住で半数ほどが引っ越してきて、ニュクスの代わりに都市やダンジョンの管理を行うらしい。

 悪いことをしないのかなとちょっと心配だけど、なんかニュクスと契約とやらを交わしたみたいでその心配はないとのこと。ニュクスに悪意を抱いた時点で、全身から血を噴き出して死にかけるのだとか。こわい。

 ともかく。そんなフェアリーなので、きっと良いようにするだろうとのことだった。

 

「おわり! あとはのんびり!」

「はーい」

 

 ニュクスが絨毯の上に戻ってくる。私たちは円になって座って、真ん中に買ってきたお菓子とかを広げた。そして絨毯の周りには、たくさんの四角形の枠。その枠には都市やダンジョンの様子が映し出されていた。ここからこれで観察できるらしい。

 

「人間さんたちがどうするのか、楽しみだね」

「あはは……」

 

『言ってる内容が邪悪そのもの』

『でもマジで文字通りの意味しかないだろうな』

 

 配信でも視聴者さんは好きな映像を見ることができるらしい。もちろん、変わらず私たちを見ることもできるのだとか。

 この子、いつの間にか配信そのものにもいろいろやってる気がする。仕組みが何も分からないけど、気にしても仕方ない、かな?

 その後はダンジョン都市に入っていく人、カインさんたちから戦い方を教わる人、都市を歩き回って見学する人、無謀にもいきなりダンジョンに入っていく人など、そんな人たちの様子を見学していた。

 本当にいろんな人がいて、いろんな動きがある。人間観察をしているみたいで楽しいかも。

 

「ダンジョン観光で森を探索してる……。キャンプ道具を持ってるね」

 

 ニュクスが映像の一つを見ながらそう言った。どれどれ。

 

「ほんとだ。テントに、椅子に、調理道具に……。本格的だ」

「観光でなら襲われることがないですし、安心だからですかね」

 

 熊とかに襲われる心配もないし、人同士で争うこともできないらしい。純粋にキャンプを楽しむには、この森のフロアは最適なのかも。まさか初日にやるとは思わなかったけど。

 普通のお魚とかはいないから川で釣りとかはできないけど……。それでも、こういうのも悪くないのかも。

 

「キャンプ……楽しそう……」

 

 ニュクスも興味を示したみたいだし。

 

「落ち着いたら私たちもやろっか」

「うん! でもまずは島のお家を作るね!」

「あ、うん……」

「そこは優先なんですねー……」

 

 ニュクスが作った、作ってしまった島。綺麗なビーチもある自然豊かな島で、ちょっと小高い丘に立派な家を建設中だ。誰がって? ドワーフが。しれっとダンジョンの外にガストンさんを連れ出して作らせてる。やりたい放題だね!

 でもまあ、楽しそうにやってるし、平和だからいいよね、と思う。他の無茶ぶりはきっとないだろうし。

 そう。無茶ぶりは、なかった。

 

「ん……」

 

 ニュクスがちらりと視線を横に向ける。そしておもむろに右手を顔の前に出して、突然すごい勢いで何かを握りしめた。無音で。どうなってるの。

 

「ニュクス?」

「ふうん……」

 

 ニュクスが開いた手の中の物を見て、文ちゃんがひっと短く悲鳴を上げた。

 

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