「あなたの記憶を全てもらう」
「な……!?」
「ちょっと待とうか!」
「いたい!」
ぺしりとニュクスの頭を叩くと、ニュクスが空いている片手で頭をおさえた。振り返ったニュクスは涙目だ。なんだこのかわいいいきもの。すき。
「何するのお姉ちゃん。殺さないよ?」
「記憶を奪うっていうのは、殺すのと変わらないとお姉ちゃんは思うわけです」
「……? 心臓も脳も本人のものだよ?」
「いや、こう、精神とか、心とかね……?」
「それも本人のものだよ?」
なるほど、これはあれだ。価値観そのものが違うやつだ。多分私の言葉でニュクスを納得させることは不可能だと思う。
男の人を見る。助けを求める目をしてる。そんな目を見たら体が勝手に動いてしまう……! なんて、私はヒーローじゃないけど、でも夢見は悪くなりそうだ。
「ともかく、だめ」
「んむぅ……。わかった。見るだけならいい?」
「記憶、消えない?」
「消えない」
「ならよし!」
ぐっとサムズアップすれば、ニュクスも嬉しそうに頷いた。かなり際どいと思うけど、消すよりはましだと思ってもらおう。
「ま、待ってほしい!」
でも、男の人が慌てたように止めてきた。
「た、頼む! 俺はどうなってもいい! でも家族は助けてくれ!」
「是。安心するといい。知りたいのは、あなたが所属している組織の命令系統。そして誰がいるか。それだけだ」
「そ、それを知って何をするつもりだ!?」
「仕返し」
「ですよね」
男の人もなんとなく察してたらしい。そりゃそうなるよなあ、と嘆息した。さっきの慌てようは何だったのかと言いたくなる。
「正直、俺も無茶だと思ったんだよ……。単機特攻とか、今時ほとんどの国には通用しないだろ。それなのに侵略者に対してやるとか……。バカだよな?」
「バカだねえ」
「それを言ったらこうして俺が送られたわけだけどな!」
「あっはっは! 笑えないよバカ!」
わりと腐ってるよこの人の組織! どうなってんのこれ!?
この人、どこかの国で軍に所属していただけの被害者なんじゃないかなと思えてきた。国を守るために軍に入ったけど、なぜか侵略者と戦うことになった人、そんな感じ。
これでニュクスが人類を抹殺しようとしてる侵略者ならそれも正しかったのかもしれないけど……。ニュクスは今のところ無害だからね。人命という意味では。
「ニュクスはわりと無害なのに何やってるんだろうね」
私がそう言うと……ニュクスは何も言わなかった。おや?
「ニュクス?」
「記憶を読み終えた。あなたとその家族をこの島で保護しよう。近くに小屋でも作る」
「マジか。助かる」
「いや、あの、ニュクス? ニュクスさん? 聞いてます?」
「で、では! ガストンに頼んでおく! あとはそっちに……」
「聞けこら」
「むぎゅ」
ニュクスを振り向かせてほっぺたを両手で挟む。じっとニュクスを見ると、なぜか必死に目を逸らそうとしてる。
うん……。これ、絶対に何かやってたってことだよね。
「ねえ、ニュクス。いつかの国会に行った時に、他の国に対して何かしたようなこと言ってたよね?」
「…………。是」
「何をしたの?」
「…………。黙秘」
「ニュクス?」
「…………。お、お姉ちゃんに、会う前のことだから……。それに、あっちが敵対してきたから……」
なるほど。これ、わりと結構なことをやっちゃってるのかもしれない。
「で、でも! 人は殺してない! 本当だよ!」
「ふむ」
「ただ、ちょっといろいろ兵器とか奪ったり基地を壊したりしただけ!」
「あ、うん……」
えっと……。まあ、はい、うん。その……。殺すよりはましだよね! きっと!
ガストンさんを呼んで、島の隅っこに家を建てるように頼んだ後、改めてニュクスと話し合いだ。場所はせっかくなので、あの豪邸の三階。お日様ぽかぽか温室で。そして文ちゃんも招待した。すごく嫌そうな顔をされたけど、家を見て感動していたので許してほしい。
二階には私たちの私室もあるらしいからね! なんと私たちの家の部屋と直接繋がってるらしいよ! いつの間に繋げたんだバカ!
ともかく。文ちゃんには改めて説明しておいた。頭を抱えてしまった。わかる。
「これ……どうするんですか……。向こうからすれば、殺せるなら殺したいって絶対に思ってますよ……」
「思ってるだろうね。だからこそ今まで狙撃とかされてたんだろうし」
「今もわたしたちって狙われてるんですよね?」
その文ちゃんの問いに、ニュクスは頷いて答えた。
「是。二人の親類には結界とか張ってあるから、大丈夫」
「でも……。きっと近いうちに、その結界の対象外を狙ってくるようになりますよね……。脅迫とか、そういうのを狙って」
「あー……」
それは……。あり得ると思う。きっと、そう遠くない未来で。
私は正直クラスメイトとかが狙われても、あまり何も思わないけど……。文ちゃんは違うと思う。きっと友だちも多いだろうから。文ちゃんは良い子だからね。
「ニュクス。そろそろどうにかならない?」
そう聞くと、ニュクスは笑顔で頷いた。
「わかった!」
「え、まって。なんでそんな、楽しそうに……」
「じゃあ、遊ぼう!」
「待って。なんか怖い。文ちゃん、どうしようこれ! なんか、怖い!」
「どうしてでしょう。とても、とっても、嫌な予感がします……!」
ニュクスはとってもうきうきしてる。嬉々とした様子で何かを準備し始めた。杖とかいろいろ取り出して……。
「私は、支配者だから。たまにはおもちゃで遊ぶよ」
あの、そのおもちゃって、人間では……?
聞きたかったけど、怖くて聞けませんでした。精神衛生上黙っておきます。私は何も悪くない!