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「今回も無防備だな……」
スコープで侵略者に狙いを付けながら、男が言った。支援者が用意したマンションの一室で、商店街を歩くニュクスに狙いを定める。
だが、別に今すぐ撃つことはない。命令があればすぐに行動に移せるように、常に準備をしているだけだ。
「デイビット。やつの様子はどうだ?」
デイビットと呼ばれた男は、侵略者から視線を外さずに声だけで答えた。
「いつも通りだ、ラディーシャ。あいつ、何度も撃たれているのに平気な顔して歩いてやがる」
「やっぱりか。むかつくやつだな」
「まったくだ」
何度も狙撃されているはずなのに、侵略者はとてつもなく恐ろしい手段で防いでいる。こちらに視線を向けていないにも関わらず、銃弾を素手で受け止める。正直デイビットは今すぐにこの件から手を引きたい気持ちだ。
「本部は?」
「作戦開始まで待てとのことだ。あと……五分二十秒」
「今度は強盗だったか? 作戦内容が適当になってきていないか?」
「俺もそう思う」
最初はややこしい作戦などがあったのに、今となっては単純なものばかりになりつつある。それだけ本部も手がなくなってきているということだろう。
けれどやめることはできない。多くの国家の威信に賭けて、我々はあの侵略者を討伐しなければならないのだ。
「そろそろだぞ」
ラディーシャの声に、デイビットは集中力を高めていく。商店街を出て、自宅へと帰っていく子供三人。一人はもちろん見た目通りの年齢ではないだろうが。
「来た」
強盗役の男が何気ない様子を装って近づいて行き、そして少女を一人、突然拘束した。ナイフを少女の首筋に当てる。
侵略者が何かを叫んでいるのが分かった。
「強盗に気を取られている隙に、だって? 賭けてもいい、絶対に通用しない」
そんなラディーシャの声に内心で同意しながら引き金を絞る。そして。
侵略者の頭を貫いて、血がアスファルトに飛び散った。
「は?」
「え?」
男二人が信じられないものを見たかのように間抜けな声を上げる。ラディーシャは双眼鏡を手に取って確認し始めた。
「あー……。ぴくりとも動かない。頭を貫いてる。あれは……死んでるはずだ」
「マジかよ……」
まさか、こんなあっさりと終わってしまったのか? ずっと、ずっとずっと悩まされていたのに。家を燃やしてやろうとした誰かも両手両足を折られて路上に放置される、なんてこともあったほどなのに。
こんなに、あっさりと? 本当に?
「うるせえなあ」
そんな声に顔を上げれば、ラディーシャが無線を片手に苦笑していた。
「本部か?」
「大喜びだぜ。うるせえのなんの……」
「まあ……。気持ちは分からないでもないがな」
だが。だがやはり、信じられない気持ちだ。こんな簡単に終わるわけがない。
「間違いなくあれは死んでるよ。現場の人間も確認してまた連絡してくるだろ。俺は祝杯の酒でももらってくるぜ」
「俺の分も頼む」
「あいよ」
ラディーシャがそう言って部屋を出て行く。確かに、現場ですぐに確認されるはずだ。それにあの状態で死んでいないわけがない。そう考えて、デイビットはゆっくりと息を吐いて。
「ん……?」
突然、部屋が暗くなった。慌ててデイビットが窓へと振り返って、そしてそれを見た。
血まみれの侵略者。穴の空いた頭からは今も血を流している。血はぼたぼたと部屋の中に落ちていた。
「ひっ……」
デイビットが短く悲鳴を上げるのと、侵略者がデイビットの頭を掴んだのは同時だった。
「血が……血が足りない……」
「な……な……な……!?」
「血を……よこせぇ……!」
侵略者がデイビットの首筋に牙を立て、そして血を吸い始めたのが分かった。
吸血鬼!? いつから地球はファンタジーになっちまったんだよ!
そう内心で叫ぶが、もはや体に力が入らない。体中の血液が吸い取られ、吸い尽くされ……。そんな感覚を覚えながら、デイビットは気を失った。
「デイビット!」
それを、戻ってきたラディーシャが見てしまった。すぐに拳銃を構えて発砲しようとしたところで、
「がっ!?」
瞬時に移動してきた侵略者に頭を掴まれ、そしてやはり首筋に牙を突き立てられた。
「か……かっ……」
体が干からびていく感覚。血も、水分も、何もかもが奪われる死の恐怖。ラディーシャは目に涙をためて、小さくつぶやいた。
「神よ……」
それが、ラディーシャが発した最後の言葉だった。
そうして、倒れた二人。いつも通りの侵略者は部屋の真ん中で首を傾げた。
「どんな幻を見れば、吸血鬼とかなんとか言うことになるの……?」
亜空間から取り出した木の枝でつついてみる。つんつんと。いたって健康的な、けれど悪夢にうなされている男二人を。つんつん。
「むう……。つまんない……」
そう口を尖らせたニュクスは、そうだ、と手を叩いた。魔法で別の場所から呼び出した物体を、男の顔に塗りたくる。汚いので魔法でごしごしと。手でやる気は起きない。臭いので。
「これでよし!」
とりあえず……うんちを顔に塗っておいた。満足。
仮にこれを彩花が見ていたら、子供か、と呆れることになるが……。残念ながらここにはニュクスしかいないので、止める者もいないのだ!
「次はどうしようかなあ」
そう呟きながら部屋を後にするニュクスを、政府が用意した配信用の新品のドローンが追いかけていった。
なお、コメントは草まみれだったことを記しておく。