お姉ちゃんと侵略者
全てが終わって、平穏が戻ってきた。ダンジョンは連日大賑わいだけど、ニュクスはフェアリーたちに任せきりでもうほとんど手を出していない。飽きちゃったのかも。
だから、ニュクスも今の生活に飽きて、旅立つことに……。
なんてなるはずもなく。
「えへへー」
「おもい……」
日曜日。ニュクスが作った家の私の部屋で、私はニュクスの重みに耐えていた。
この私の部屋は、なんというか……。とても豪華だ。大きなテーブルに椅子、ふかふかソファに絨毯、やわらかベッド……。ちょっとした豪邸の部屋だね。いや豪邸なんだけど。
私がベッドでごろごろしながら漫画を読んでいたら、ニュクスが上から覆いかぶさってきた。重い。
「おねえちゃーん」
「はいはい……。何か遊びたいの?」
「んー? べつにー」
「あらそう」
今でもニュクスはたまにいろいろやらかすけど……。最近はちょっと落ち着いてきた気がする。あの討伐隊の事件から一ヶ月経ったからね。世間もニュクスを受け入れ始めた。いや、何を言っても無駄だと理解しただけだろうけど。
ちなみに最近のニュクスのやらかしと言えば。
討伐隊から奪った飛行機を魔法で飛ばして、街中で超低空飛行をやってみたり。
空中戦艦だー、なんて言いながら、空母を空に浮かしてみたり。
討伐隊の一件で辞職した大統領の選挙に乱入してみたり。
まあ、一時を思えばかわいらしいものだね。
いやかわいらしいかなこれ。私の感覚も麻痺してきたかも。
でも……。ちょっと大人しくなってきた、というのは間違いないと思う。だから地球に飽きてきたのかな、なんて思っていたけど……。ニュクスはまだまだ地球を出るつもりはないみたいだ。
最近はなんだか私にべったりしてる。こうしてよくくっついてくる。かわいいからいいけどね。
「ほれほれ」
「うぬぅ」
ニュクスの喉元をくすぐってあげると、気持ち良さそうに目を細めた。猫かな? 猫よりかわいい。異論は認める。
でも……。最近はちょっと、どうしても気になってしまう。ニュクスはいろんな星に行ってるらしいから、またどこかに行くんじゃないかと。
「ねえ、ニュクス」
「なあに?」
「地球からはいつ出るの?」
「え……」
ショックを受けたような顔をしてる! 理由もすぐに分かった。今のは私が悪いよね。
「出ていってほしい、みたいな話じゃないよ。むしろずっといればいいと思ってるから」
「んむ……」
「ただ……。いつか、いなくなるんじゃないかって不安なの」
この生活に飽きたら、ふらっといなくなる。そんな気がする。
でも、ニュクスはきょとんと不思議そうな顔をした後、おかしそうに小さく笑った。
「私はどこにも行かないよ。お姉ちゃんと一緒にいる」
「そう?」
「うん。お姉ちゃんが死ぬまでは、ね。それとも、邪魔かな?」
「邪魔じゃないよ!」
「わぷ」
バカなことを言うニュクスをぎゅっと抱きしめてなでなでする。まったく、変なことを考えちゃうんだから。かわいいなあ!
でも……。どうしてこの子は、そんなに私に固執するんだろう。お姉ちゃんとしては嬉しいけど、ちょっと不思議。
だから……。
「ねえ、ニュクス。聞いてもいい?」
「なあに?」
「どうして私に……えっと……。気にかけてくれるというかなんというか……」
あれ? これちょっと聞きづらいぞ? どうして私に固執するの、とか聞くの? それは……それはちょっと、恥ずかしい気がする……!
私が言葉に悩んでいたら、ニュクスはまじまじと私を見つめて、小さく笑った。
「お姉ちゃんって、たまにかわいいよね」
「ニュクスにかわいいって言ってもらえた……これはもしかして、両想い?」
「聞いて?」
「聞いてるよ?」
「あ、あれ? おかしい……。日本語は間違ってないはず……」
間違ってない間違ってない。だから次に進もうね。
「んと……。まあ、うん。お姉ちゃんなら、話してもいいかな。そんなに難しい話でも、長い話でもないよ。お昼ご飯を食べながらでも十分なぐらい」
「ふむ……。じゃあ、お昼ご飯を食べながら聞きましょう」
これはニュクスのお昼ご飯の催促だと理解した。そろそろお昼だからね。ご飯の時間だ。お話ししながらになるし、サンドイッチでも作ろうかな?
「ピザトーストがいい」
「あははー。じゃあ、それで」
幸い、キッチンにいつの間にか置かれていた冷蔵庫に材料とかはちゃんと入ってるからね。いつでも作れるのだ。ニュクスと一緒に作ろう。
そうしてニュクスと一緒にピザトーストを盛りつけて、トースターで焼いて……。できあがり。チーズたっぷりのピザトーストだ。それをテーブルの上に置いて、二人で食べる。
ちなみにこのキッチンもとても広い。キッチン台とかは三人で並んで使ってもまだ余裕があるし、コンロとかは最新型……どころか、ニュクス謹製の魔道具だ。
レンジとかトースターとかも、よく見るやつをニュクスが魔法で動くようにしてくれてる。とてもすごい。
そんなキッチンのテーブルで私とニュクスは向かい合って座ってる。ピザトーストをかじりながら、ニュクスがのんびりと話し始めた。