ずっとずっと昔、ニュクスはある日、突然自我を持った。人間みたいに誰かから生まれたというわけではなく、自我を持ったその瞬間から、今のニュクスだった。
真っ暗な闇の中で自我を持ったニュクスは、数千年の間、闇の中をさまよっていた。どこからも光が届かない闇の中、どこに行けばいいのか分からないまま、ただひたすらにさまよう。地獄のような時間だった。
そうして闇の中をさまよい続けて、やがてニュクスは光を見つけた。
銀河。そして恒星。初めて光を見つけたニュクスは、すぐにそちらに向かった。
そこからは驚きの連続だった。全てを呑み込むブラックホール。ブラックホールの周囲を巡る光り輝く星々。そんな星々の周りには、様々な惑星。
そして、生命体。
自分のように考えて動く存在を見つけたニュクスの感情はどのようなものだっただろうか。それは誰にも想像すらできない。
そんな生命体を見つけたニュクスは、早速接触を試みた。どんな存在なんだろう、そんな興味を抱いて。
そして、ニュクスは失望した。
ほとんどの生命体が意思疎通を困難としていたから。
それでもニュクスは宇宙を巡り、新たな生命体を見つけていく。何度も落胆して、けれど希望を捨てられずに巡り巡って……。
そして、考えて動く、意思疎通のできる生命体を見つけた。
嬉々としてニュクスは彼らに話しかけ……。困惑した。
誰もがニュクスを恐れたから。
誰もがニュクスと出会った瞬間に理解した。させられていた。明らかに自分たちと根本的に違う存在だと。いつでも自分たちを滅ぼすことができる存在だと。
ニュクスの孤独は、誰も癒やせなかった。
何千年、それこそ一億年以上も旅を続けて、ニュクスは対等に話せる相手を探し続けた。
生命体のいる星を見つけては、その惑星を管理する存在を探し出し、屈服させ、支配する。そうしてゆっくりと同等の相手を探して、見つからなければまた別の惑星へ。そんな旅を続けたらしい。
もちろん、旅の間に対等の存在がいなかったわけではない。だが、そんな存在は、例外なく星の管理をしていた。そして、ニュクスがともにいることを良しとはしなかった。管理に支障が出るからと。
だから、ニュクスは気兼ねなく話ができる対等な生命体をずっと探し続けた。何度も諦めかけたが、それでも、ずっと憧れていたから。
仲良く遊ぶ幼い生命体たち。そんな関係に憧れた。
互いに遠慮のない、気の置けない仲間。羨ましかった。
どうしても、どうしても欲しかった。そんな相手が。
星の管理を任されない程度の力で、なおかつ自分に遠慮がない生命体。自分でも無茶を言っているとは分かっている。だが、それでも、それでも欲しかった。
一緒に遊んで、笑い合って、生きていける。そんな誰かが。
ずっとずっと、気の遠くなるような時間を探し続けて。
そして。
「ふざけないで!」
とても弱いのに、自分に向けられる強い言葉。それを聞いたニュクスは、心の底から歓喜した。
ようやく。ようやく、孤独が埋められると。
「それがお姉ちゃん」
「ええ……」
なんだか……それはちょっと違うと思うなあ! 咄嗟に出た言葉でとんでもない評価をされてる気がする!
「あ、あのね、ニュクス。私、そこまで強い人間じゃないからね? たまにニュクスにびびったりしてるからね?」
幻滅されるかもしれない。でもはっきりと言っておかないといけない。そう思った。でもそれを聞いたニュクスは、なんだか楽しそうに笑ってる。
「知ってるー」
「知ってるんだ……」
「でも……。お姉ちゃん、お説教とか、するよね?」
「…………」
まあ、するね。ニュクスが悪いことをしたら、お説教するよ。お姉ちゃんとして当然だと思いますので。
ニュクスは、そういうところだよととっても嬉しそうだ。
「強い相手に何かを言うって、怖いことだって私も知ってるから」
「知ってるの?」
「うん。宇宙はとっても広いから。格上って、いるんだよ?」
いろいろと規格外なニュクスから見ても格上の存在。正直、考えたくもないけど……。嘘をつくとは思えないから、いるんだろうね。なにそれこわい。
ともかく。そんな存在と出会った経験があるからこそ、ニュクスは格上に物を言う勇気を知っている、とのことだった。
「お姉ちゃんは、私にちょっと怯えたりもするけど……。でも、はっきりとだめなことはだめって言ってくれる。こうして甘えても怯えたりしないし」
「ニュクスがかわいいからね! こちょこちょー!」
「わきゃー!」
ニュクスを捕まえてお腹をこちょこちょする。ニュクスは慌てて逃げようとするけど……。むりやり振り解いたりしてこない。ちゃんと、人の力に抑えてくれる。だから私も、ニュクスを信頼できる。
「正直私はニュクスを怖がる必要なんてないと思うけどねえ」
よいしょ、とニュクスを膝の上にのせる。そうして頭を撫でてあげると、ニュクスは嬉しそうにすり寄ってきた。かわいい。
「そう?」
「うん。だって、子犬と子猫に負けるぐらいだから」
「うぐ……」
私は今も、あの時のことは忘れてないよ。ニュクスと初めて直接出会った日。子犬と子猫にぺふぺふ肉球パンチされていたあの時のことを……。
「だって……。無理矢理引きはがしたら、あの子たちが怪我しちゃいそうだったから……」
「あはは。やっぱりニュクスは優しいよ」
ニュクスをたっぷり撫でてあげる。ニュクスは不思議そうにしていたけど、気持ち良さそうに微笑んだ。
誰がなんと言おうと、私はニュクスがとっても優しいいい子だと思ってる。だから……。ニュクスが飽きるまでは、一緒に遊んでいきたいね。
「それじゃあ、お姉ちゃん」
「はいはい」
「次の遊び!」
「お、おう……」
まあ、でも……。遊び、と聞くたびに、ちょっと怖いのも本当だけどね……。