これって、やっぱり転移ってやつかな。いや、すごい。本当に。
私が感心していたら、私の服の袖をニュクスが引いてきた。くいくい、と。控えめに。
「え? あ、なに?」
「プリン……」
「ああ……」
そんな期待のこもった目で見なくても。ちゃんとあげるよ、もちろん。
キッチンに向かって、冷蔵庫へ。ニュクスが後ろからちょこちょこついてきた。なんだろう、さっきまで超越者みたいで怖かったのに、今は親鳥を追いかける雛みたいになってる。かわいい。
冷蔵庫から取り出したのは、市販品のプリンだ。多分日本で一番有名なプリンだと思う。白いお皿に容器をひっくり返して、底のでっぱりをぱきっと折れば簡単に取り出せるようになってる。
そうして、黄色くててっぺんがカラメル色のプリンがお皿の上にぷるんと取り出された。
「わあ……」
おお……。ニュクスが瞳をきらきらさせてる。なにこの子とってもかわいいんだけど!
「さて、ニュクス」
「はい! お姉ちゃん!」
「わんと鳴……」
「わん!」
「食い気味だね!?」
冗談のつもりだったんだけどマジで鳴くとは思わなかったよ!
スプーンと一緒に渡してあげれば、ニュクスは早速食べ始めた。お行儀が悪いからちゃんと座って食べてほしいけど……。まあ、いっか。すっごい笑顔で食べてるから、邪魔をするのは悪い。
「ぷるぷるしてる……! 甘い、美味しい!」
「うんうん。プリンは甘くてぷるぷるで美味しいよね」
やっぱりプリンは子供に大人気だね。ニュクスも実年齢はともかく、見た目は子供だからね!
「おかわり!」
「だめです」
「なんで!?」
「あのね、ニュクス。この世界の真理を一つ教えてあげよう」
私がそう言うと、ニュクスは面白そうに目を細めた。へえ、と小さな声が漏れてくる。なんだろう、ちょっと圧を感じる。
「驚きだね……。定命の人間が私に真理を説くなんて……」
あれ。そう言われるとちょっと怖いぞ?
「さあ、言ってみて? ほらほら」
「で、では……。こほん。いいかな、ニュクス。どれだけ美味しいものでも! 好きなものでも! たくさん食べると飽きて美味しくなくなって、やがては嫌いになっちゃうんだよ!」
「そうなの!?」
わあ。通じてしまったぞ? この子、やっぱり精神は子供そのものじゃないのかな?
「し、知らなかった……! 本当なの、それ?」
「本当だよ。私はね、昔、ポテトチップスっていうお菓子が好きだったんだ。でも、毎日たくさん食べてたら三日で飽きて……。あまり食べなくなっちゃった」
「そ、そんな……!」
ごくり、とニュクスが喉を鳴らす。迫真の様子なところ申し訳ないけど、そこまでの反応はさすがに予想外だ。
「一日一個なら……。大丈夫?」
「人によるけど、多分大丈夫じゃないかな。そこまで大きいお菓子でもないし」
「それなら……。うん。我慢する」
素直か。素直で良い子だったわ。
「ニュクスはかわいいなあ!」
「むぎゅう」
抱きしめてなでくりなでくり。私の妹がとってもかわいいです。えへへ……。
一日一回夕方のおやつ。ニュクスのプリンはそうして決められましたとさ。
なんだかとっても大げさだけど、ただのおやつ、なんだよね。さっきまで人を殺しそうになっていた子とは思えないよ。
「でもまあ、他のお菓子ならいいかな。ポテチ食べる? 美味しいよ?」
「食べる!」
ポテトチップスを持ってきて、開封してからニュクスに渡してあげる。ニュクスは早速とばかりにポテチに手を伸ばして口に入れた。パリッと軽い音が聞こえてくる。
ニュクスは目を丸くしていた。
「楽しい食感……。ちょっと塩辛いけど、美味しい……」
「うんうん」
「美味しい!」
「だよね!」
さすがポテチ。侵略者さんにも伝わった!
パリパリ楽しそうに食べるニュクスを見てると、ちょっと微笑ましくなってしまう。頬がにやけるのを我慢しながら、テレビの電源をつけた。ニュクスがお菓子を食べ終えるまでは何もしないだろうから、ちょっと暇つぶしに。
電源が入って映像を映し出したテレビに、ニュクスがびくっとして振り返った。猫かな?
「わ……。動画だ……」
「うん。テレビ。分かる?」
「分かるよ。似たような道具が他の星にもあるから」
「へえ……。プリンはないのにテレビはあるんだ。優先順位おかしいね!」
「私もそう思う! ちょっとあの世界にプリンを作るように命令してくる!」
おお……? つまりこれ、侵略者がいなくなる感じになったり……。
「百年後ぐらいに」
しませんでした。時間の感覚が私たちとは根本的に違いそう。
ニュクスはポテチをパリポリ食べながらテレビを見る。私もちょっとポテチを分けてもらいながら、テレビに視線をやって。
おお……。ニュクスのことがニュース番組で取り上げられていた。