ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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Soul8. 友達の友達、助けます!

俺、歩藤誠二は悪魔で、生霊だ。

今日は実体が不安定だったために療養していたが、それもようやく安定してきた。

しかしそんな矢先、俺の同期の悪魔である兵藤一誠が俺達の拠点

オカルト研究部の部室に駆け込んできたのだ。

 

「部長! 俺はアーシアを助けに行きます! 教会に行かせてください!」

「ダメなものはダメよ。教会は奴ら堕天使の領域、無闇に攻め入ったらそれこそ戦争よ!」

 

開口一番、これである。そういえば近頃イッセーと部長はアルジェントさん絡みで揉めていたが

ここに来てそれが表面化したか。しかしイッセーも部長に尻尾振ってるだけの

駄犬と少し思っていたが……言うじゃないか。駄犬は撤回しておこう。

うでなくとも仮にも同期に対しては不適切だ。

 

「アーシアは、アーシアは俺を悪魔だと分かっても受け入れてくれた!

 それにアーシアは友達です! だから……」

 

何? 今なんつった? 悪魔だと分かっても……って、バレたのか!? なんてこった。

遅かれ早かれとは思ってたが、まさか昨日の今日でバレるなんて……恐らくは攫いに来た奴が

イッセーの事をバラしたんだろう。堕天使ってのは悪趣味だな……くそっ。

 

「何度も言わせないで頂戴! 今度行けばあなたは確実に死ぬわ!

 今度は生き返る術もないのよ!」

 

「それでも、俺は行きます! 今日、奴らは儀式でアーシアを殺すかもしれないんです!

 今行かないと、アーシアは死んでしまいます!

 どうしてもダメだというなら、俺を眷属から外してください!」

 

なんと。あれほど部長の眷属になれたことを喜んでいたイッセーがそこまで言うとは。

こりゃ、相当だな。

 

とにかく、当事者が落ち着かないことには状況も把握できん。いいからイッセー、落ち着け。

 

「お、おいイッセー!? お前何言ってるのかわかってるのか!?

 と、とにかく顛末を話してくれ……そうでなければ話がまったく見えん!」

「せ、セージか。実はな……」

 

しかも、アルジェントさんを攫ったのはイッセーを殺した張本人にして

俺にも何らかの因縁があるあの天野夕麻。つまり――

 

――レ、イ、ナー、レ……か。くっ、くくっ、これは……そうか、そういう事かよ。

こうなりゃ、俺も腹を決めるか。こっちも遅かれ早かれだ。

それに、この堕天使の連中。どこまでも他人を愚弄してくれる。

アルジェントさんも結局は道具扱いか。それで駒王町に呼び寄せたんだろう。

全くもって気に入らねぇ……!

 

ドライグ。正直言って今の俺には鱗じゃ足りない。

お前の爪、いや腕の一本分の力を貸してくれ。

 

「イッセー、眷属から外したらあなたははぐれ悪魔になるのよ!?

 そんな事出来るわけないでしょう!? れにあなたの悪魔の駒は――」

 

兵士(ポーン)でしょう、わかってますよ! でもいくら部長の頼みでも、これだけは譲れません!

 止めないでください、俺は行きます! はぐれにでもなんでもしてください!」

 

しかしまぁ、お前も変なところで頑固だな。友達のためにそこまでやるってその心意気。

俺は嫌いじゃない。だがお前のことだ。どうせ後先考えてないだろうが。

 

そこまでやれたら一人前なんだろうが……ま、そりゃハードルが高いか。

そうでなくとも、今俺がとるべき行動は一つしかないよな、やっぱ。

 

「……見上げた根性だよイッセー。いいぜ、俺も付き合おう。

 何てったって俺はお前に憑いた生霊だからな。

 部長。イッセーが眷属から外れるって言うのなら、俺も外れます。

 元々俺はこいつに憑いてた生霊に過ぎませんし」

 

「あらあら、セージくんまで。それより部長」

 

完全に部長は頭を抱えていた。まあそうなるわな。

まさかの新人二名離反、ブラック企業もかくやと言わんばかりだ。

 

――いや、この場合ブラック新人か。

 

「……はぁ。わかったわ。もう止めないわ。でも最後にこれだけは言わせてちょうだい。

 イッセー、セージ。兵士(ポーン)は最弱の駒ではないのよ。

 敵陣最深部まで行けば昇格(プロモーション)して(キング)以外の全ての駒に変化することができるわ。

 けれど、今のあなた達では女王(クイーン)は無理ね。戦車(ルーク)騎士(ナイト)、どちらかを選びなさい。

 そして、神器(セイクリッド・ギア)は思いの力に応じて力を発揮するわ。この二つだけは、忘れないで」

 

……ん? 何でこのタイミングでそれを言うんだ?

どうやら部長は、最後まで俺らをはぐれにするつもりは無いのだろうか。

それならそれで話は変わる。俺らが生きてアルジェントさんを助け出せばいい。それで十分だ。

元々、イッセーはともかく俺は死ぬつもりはなかったし。

 

「それとセージ。あなたはイッセーに憑いて行動なさい。まだ、あなたの実体は不完全。

 つまり、その神器(セイクリッド・ギア)も満足に使える状態じゃないはずよ。

 でも、あなたの力とイッセーの力を合わせれば……後はわかるわね?

 それじゃ、私と朱乃は出かけるわ……死ぬことは許さないわよ、二人とも」

 

「ご忠告痛み入ります。

 ならば我々は二人で一人の立派なグレモリーの兵士(ポーン)として、華々しく戦いましょう」

 

そのまま、部長は姫島先輩を引き連れて部室を後にする。

後に残ったのはやけに気合を入れた俺達兵士組と

一部始終を見ていた木場と塔城さんだけだ。

 

「……いくら君たちでも、教会の戦力全てを相手にすれば、間違いなく殺される。

 そうなればその友達は絶対に助けられない。それでも行くのかい?」

「当たり前だ! 行くぞセージ!」

「ああ。病み上がりだが、それはお互い様だ。お前のアシストくらい立派に努めてみせるさ」

 

俺も目を閉じ、イッセーへの憑依を終えたと同時に、信じられない言葉を耳にする。

 

「だから、僕も行くよ」

「……私も行きます。二人――いえ、三人よりも四人なら確実ですから」

 

木場と塔城さんが同行を申し出る。いいのか?

これ一歩間違えたら主への反逆にならないの?

 

「部長も仰っていたけど、教会は僕たちにとって敵陣最深部の最たる例。

 つまりそこに君が行けば――」

 

そうだ。昇格(プロモーション)が発動する。そうなれば、ただの兵士(ポーン)ではない。

だが、その件に関しては不安が付き纏っていた。

俺は、その状態での能力強化は試していない。どうなる?

 

……出たとこ勝負か。非常に分が悪いが。

 

「それにね。僕は僕で堕天使や神父って気に入らないんだ――殺したいほどにね」

「……仲間がいなくなるのは、嫌です」

 

なんと。あれだけ辛辣なツッコミをイッセーに入れている塔城さんが

イッセーを「仲間」として見ていたとは。それを聞いたイッセーは木場のことなどお構いなしに

感激のあまり塔城さんに抱きついては投げられていた。

 

おいイッセー。今回復持っているの俺なんだが。無駄なダメージ受けてるんじゃないよ。

つーか、憑依して五感共有してるとダメージも共有されるんだから痛いからやめてってば。

 

『イッセー。感動してるところ悪いんだが、さっさと行くべきだと思うんだが。なぁ二人共』

「……真っ当な意見です」

「ごもっともだね。こんなことしてて間に合いませんでしたじゃ

 部長にもその子にも申し訳ないんじゃない?」

 

話は決まった。俺達は教会へ向け、脇目もふらずに駆け出す。

 

――――

 

夜の教会。俺達悪魔にとっては昼間も恐ろしい場所なのだが

夜の教会はそれとは違った恐ろしさを感じる。

 

場所は、ここで間違いないだろう。木場は図面を取り出し

俺もレーダーのカードを使い、敵情を調べている。

しかし、立ち入ることさえ出来ないオーラは全く感じられない。

使われていない教会だからだろうか。

 

『その図面と照らし合わせると、聖堂にあたる位置に多数反応がある。

 ここが本命と見て間違いないな』

 

「やっぱり。今まで聖なる場所として敬ってきた場所で

 背徳的な行為に及ぶことで神を汚し、それに酔いしれる。

 堕天使やはぐれ悪魔祓いがやりそうなことだよ。となると……地下かな。

 どこかに隠し階段とかがあるはずだよ」

 

「でも行くしかねぇ! 行くぜみんな!」

 

塔城さんが扉を蹴破り、思い切って中に入る。

わーお、モロバレ。まあ、まさか向こうも邪魔が入らないとは

思ってないだろうし、これくらいでちょうどいいのかもしれないが。

聖堂の中。レーダーの反応と周囲の気配が全く合わない。これは地下で間違いなさそうだ。

 

だが、こいつだけは地上にいたみたいだ。

――俺達に重傷を負わせたクソ神父、フリード・セルゼン。

 

「いよーぅ。いい再会だねぇ、感動的だねぇ。だが無意味だよクソ悪魔ども」

『昨日ぶりだなクソ神父。腹の調子はどうだい?』

 

相変わらずサイコパス丸出しの張り付いた笑顔だ。

いや、昨日ぶりだから相変わらずもなにもないんだが。

 

「お? クソ悪霊くんがいないと思ったらそこのザコ悪魔くんに憑いてるわけね。

 ええおかげさまでとっても痛くて俺様トイレの神父様になるところだったよこんちきしょう。

 ザコ悪魔くんごとたたっ斬ってやるからそこんとこシクヨロ」

「ザコ悪魔って俺のことかよ!? それよりアーシアはどこだ!?」

 

イッセー。ああいうタイプが素直に白状するわけが――

 

「んー、ここの祭壇の下に祭儀場へ行ける隠し階段がございますぞ。

 でもお前らが行けるわけ無いわけでしてな。俺様悪魔はサーチアンドデストロイ。

 見敵必殺でしたのよ。それが昨日のてめぇらのせいで記録ストップ。

 そんなわけでここで死んでちょうだいクソ悪魔ども!!」

 

喋った。逆の方のパターンだったか。とにかく、今はこいつに構ってる暇はない!

以前は俺とイッセーだけだったが、今は三人だ。

俺が実体化できなくとも、戦い方はいくらでもある!

 

『イッセー、武器は使うか?』

「いや、下手に慣れない武器を使うよりかは、手で殴ったほうが早いさ。

 セイクリッド・ギア!」

 

なるほど。それもまた一つの選択肢。

木場は剣を抜き、塔城さんは右腕をブンブン振り回している。

ならば俺は――ここは様子を見るか。正直、まだ身体が重い。

カードの無駄打ちはしないほうがいいだろう。

 

それに本命は、ここじゃない。

 

「……潰れて」

 

塔城さんが長椅子をぶん投げている。もう何でもアリだな。

当たればでかいが、そうそう当たらないか。

だが、その死角を縫って木場の剣が唸った。なるほど。それもありか。

 

だが、それもフリードに一撃を与えるには至らない。

鍔迫り合いから、フリードは木場から距離を取り、懐から――あれは!

 

『気をつけろみんな、あいつは光剣の他に祓魔銃を持っている。

 当たればただでは済まないぞ!』

「だから、俺様の手の内を晒すんじゃねぇよクソ悪霊!」

 

いや、だって今回俺これくらいしか出番ないし。主にお前のせいで。

フリードは俺のヤジにお構いなしに銃を連射して木場の足を止めている。くっ、何か手は!?

 

だが、フリードの注意が木場に向ききっていたおかげで

塔城さんの次の一手までは読みきれなかったようだ。

塔城さんと木場の同時攻撃、これならば!

 

「……ふん」

「おわっととと。横槍ですかい? けどやっぱり所詮は戦車(ルーク)

 騎士(ナイト)のそっちのクソイケメンとは違ってバレバレなんですよぉぉぉぉぉ!!」

「――僕がどうかしたかい?」

 

二人がかりでもダメか! ええい、俺のカードはイッセーにしか効果がないし

塔城さんや木場を強化することはできない。

 

せめて、実体化さえ出来れば……ッ!

一か八かの実体化を考えたとき、木場もまた切り札を出そうとしていた。

木場の目つきと声色が変わったのだ。何かある!

 

「それじゃ、僕も少し本気を出さないといけないね。時間もかけられないし――喰らえ」

 

木場の剣が黒く輝く。いや、黒いオーラを帯びている。あれは――闇か。

木場の剣の闇は、フリードの光剣の光を霧散させる。

それはフリードにとっても未知の攻撃だったのだろう。奴はうろたえている。

 

光喰剣(ホーリー・イレイザー)。光を喰らう闇の剣さ」

「チッ、てめぇも神器持ちかよ!?」

 

あの剣、ただの剣じゃなかったのか。少し驚いた。今までただの剣だと思っていたものだから

おそらく俺が実体化させる剣に、あの効力は無いだろう。

 

MEMORIZE!!

 

あれ? 記録された? 違う武器として認識されたか、効果が上書きされたか。

確認できないのが痛いところだな。隙を見て調べよう。

 

そして、フリードは武器を失っている。

イッセー、お前も同じこと考えているとは思うが――今だ!

 

BOOST!!

 

イッセーの左手から力を感じる。俺の右手も微かに呼応しているのがわかる。

いいぞ、そのまま突っ込め。

 

しかし、フリードは銃口をこちらに向けている。くっ、まだ弾が残っていたのか!?

 

昇格(プロモーション)戦車(ルーク)!!」

 

なるほど。ここで使うか。戦車(ルーク)の特性は攻撃力と防御力。

それは俺のカードにも含まれている。

フリードの奴は面食らっている。散々ザコ悪魔と罵倒してきたやつに、お前は今から殴られる!

 

――加速もつけてな!

 

『イッセー、今から加速する。行けるな?』

「ああ、このクソ神父は一度ぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!!」

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

「――ッ!?」

 

顔面に炸裂。強大なパワーを、ドライグの籠手の力で倍加させ、それをさらに俺が加速させた。

案の定、クソ神父は壁を突き破って派手に吹っ飛び、もう見えない。

だがまだ生きてそうな気がするのは、気のせいだろうか。

ああいうタイプって、しつこいのが相場だったりするが。

 

MEMORIZE!!

 

昇格(プロモーション)まで記録するのか。また手札が増えたな。

 

さて、ところで何故俺がこのカードを引いたか。

答えは単純、カードマニュアルにあった。「EFFECTカードの効果や特性は重複しない」と。

まあ、戦車の特性と合わさるかどうかまでは博打だったが

2分の1の確率で超強化されるのと、どっちに転んでも効果が変わらないのは……ねぇ?

これは、相当強力なコンボを手に入れたかもしれないぞ、イッセー。

 

「部長は確かに君たち二人の力を合わせれば、って仰ってたけど、まさか文字通りとはね」

「……暴れたりない気もしますが、スカッとしました。次は――」

 

ひとまずの勝利。だが、俺たちの目的はこれじゃないはずだ。

塔城さんが祭壇を放り投げた先には下り階段があった。

 

そうだ。俺達はこの先に用がある。儀式の阻止。アルジェントさんの救出。

この先は間違いなく、総本山だ。となれば、いるのはアルジェントさんと――

 

「――セージ。ここから先は悪いが俺ひとりでやらせてくれ」

『なに? お前、何言っているのかわかっているのか?』

 

イッセーの喋った内容に思わず耳を疑った。

二人がかりであのクソ神父を倒すのがやっとだったじゃないか。

この先にいるのは多分それ以上だぞ? お前一人でどうするんだよ。

 

「いいから聞いてくれ。最初に俺達がオカ研であった時、夕麻ちゃんの写真を見ただろ?

 何ていうか、あの時のお前――異常だったからさ。

 多分、この先にいると思う。そうなったら――」

 

『――大丈夫だ。状況は踏まえているつもりだ。あの時のようにはならないさ。

 俺はアシスト役だ。アシスト役が冷静さを欠いたら、それこそ終いだ。

 それより、お前こそ気をつけろよ……もう、情けは無用だ。

 ただアルジェントさんを助けて、生きて帰ることだけ考えよう』

 

イッセー。お前なぁ……今から戦う相手は元カノだってのに俺の心配か、このバカが。

だが、俺は正直、本物の奴と対峙した時に理性を保てるかどうか、自信はない。

写真を見ただけであれだ。本物を見たとき、俺はどうなるか。

 

いや、今はそんな事より大事なことがある!

 

「……もし何かあったら、私が止めます。力には自信がありますから」

「そうだね。みんなで生きて部室に帰るまでが、お仕事だよ?」

「木場、遠足じゃないんだからよ……」

『全くだ。けど、それくらいの心構えの方が気楽でいいのかもな』

 

木場と塔城さんの暖かい言葉のおかげで、俺はまだ自我を保てている。ありがとう。

俺は心の底からそう思う。正直、まだ部長は信用できないが、ここの面子は信頼できる。

とにかく急ごう。俺達はただ、地下道をひた走る。目指すは――地下祭儀場!

 

目的地までの通路には神父や堕天使は配置されていなかった。

あのクソ神父で足止めは事足りると思ったのだろうか。

だがこちらにとってはありがたい話だ。必要以上に戦闘を強いられずに済む。

そして――いよいよ俺たちが、地下祭儀場の扉の前に来たとき、扉はひとりでに開いた。

まるで俺たちを迎え入れるかのように。

 

「アーシア!!」

 

そこには、多数の神父と、十字架に磔にされたアルジェントさん。その傍らには……

 

――やはり、お前だったか!

 

天野夕麻。レイナーレ。イッセーの元カノにして、イッセーを殺し

アルジェントさんにイッセーが悪魔だとバラし。

そして今、アルジェントさんを利用し何かを企んでいる堕天使。

 

さらに言えば――俺の怒り、憎しみ、恐怖。この3つの感情の大元。

 

「……イッセー、さん?」

「ああ、助けに来たぞ、アーシア!!」

 

弱々しくイッセーの呼びかけに応えるアルジェントさん。儀式とやらは終わったのか?

とにかく、この連中を突破して助け出す、そして撤収。

さて、時間がない。木場と塔城さんもそれを理解してか、

即座に飛び出している。俺もイチバチだが――仕掛ける!

 

『イッセー、左手をかざせ! 木場と塔城さんは散開して!』

「え? あ、ああ!」

 

EFFECT-THUNDER MAGIC!!

 

「へぇ。ナイスアシスト、歩藤くん」

「……敵の動きが鈍ってます。兵藤先輩、急いでください」

 

神父の集団の元に稲妻が落ちる。姫島先輩のよりかは弱い上

全く当たってないが稲光と雷鳴は健在。相手の撹乱には効くはずだ。

 

しかしこのカードは以前使おうとしてコスト不足で失敗したカード。

多分、今のは相当負荷がかかったな。つまり――非常に、だるい。

 

『い、今だイッセー、走れ……っ!』

「お、おう!」

 

俺たちは十字架に向かって走る。途中、稲妻が効かなかった神父が足止めしようと狙ってくる。

そいつらは木場と塔城さんが蹴散らしている。頼りになる露払い。感謝する。

 

「アーシアァァァァァ!!」

「――言わなかったかしら? しつこい男は嫌われるわよ、イッセーくん?」

 

まずい! 進路上にレイナーレが待ち構えている! 光の槍を持っている……投げつけるつもりか!

だが奴の今の言葉、しかと聞いた! まだ間に合う! イッセー、急げ!

くそっ、さっきのクソ神父で加速のカードは使ってしまった! 切り札を切るのが早すぎたか!

 

いや待て、光を防ぐ防具はないが、武器なら――

 

SOLID-CORROSION SWORD!!

 

「――これは、さっきの木場の!?」

『そ、それさえあれば光の槍にも対処できる、はず、だ。

 悪い、かなり疲れた……これ以上のアシストは無理、だ――』

 

カードを使うということは、魔力を使うということ。さっきの姫島先輩のが効いたらしい。

左手の神器はさっきからコストオーバーの警告を鳴らしている。

俺ももう精神世界の中だというのに体が動かない。

 

これじゃ、カードをもう一度使おうにも再起動やリロードもできやしない。

遠くに声が聞こえる。イッセーが光の槍を切り払い

アルジェントさんに手を伸ばそうとしているところまではわかる。

 

体は動かないが、まだ五感は生きている。これはこれで歯噛みする思いだな。

しかし、俺の心配をよそにイッセーの手はアルジェントさんの手を掴んだ。

やった! これであとは――

 

「アーシア! 助けに来た、一緒に帰ろう、な!?」

「イッセーさん……」

 

後ろで木場と塔城さんも安堵の表情を浮かべているのが見える。よかったな、イッセー。

俺もここまで疲れた甲斐があるってもんだ。あとはアルジェントさんを連れ出して帰るだけだ。

イッセー、俺たちでもやれるってことを部長に思い知らせてやろうぜ。

 

だが、聞こえてはいけない笑い声が聞こえてしまった。

レイナーレの笑い声。なんだ、何がおかしい?

 

「せっかくのご対面のところ悪いのだけど、時間切れ。

 たった今、その子から神器を摘出する儀式は終わったわ。

 そう、本当にたった今。つまり、この部屋に入った時点でもう間に合わなかったのよ?」

「えっ――」

 

は? なんだって? 神器を摘出? それってどう言う――

 

「あぁ……いやああああああっ!!」

「アーシア!?」

 

突然、アルジェントさんの胸から緑色の光が飛び出してくる。

それをひったくるように奪ったのはレイナーレ。

こ、これは一体……!? 奴はその光を、己の体内に取り込まんとする。

 

あれが、アルジェントさんの神器――つまり、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)

本当に、初めからアルジェントさんの神器目当てで駒王町に呼んだのか!

 

「これよ、これ! 私が長年欲していた力! この神器(セイクリッド・ギア)さえあれば私は愛をいただけるの!」

 

光がレイナーレの体の中に吸い込まれていくうちに、祭儀場は眩い光に包まれる。

その光が止んだとき、緑色の光を放つレイナーレがそこにいた。

反対に、アルジェントさんの方はみるみる生気を失っていく。

 

「ふふふ……アハハハハハッ!! ついに手に入れた至高の力!

 これで、これで私をバカにしてきた者たちを見返すことができるわ!

 イッセーくんからも彼女にお礼とお別れを言ってあげて?」

 

レイナーレの方は力の余韻に浸っている。

イッセーはアルジェントさんを抱え上げ、地上へと下ろす。

マズい、どんどん顔色が悪くなっているぞ! はやく病院へ連れて行くんだ、イッセー!

 

「アーシア、アーシアしっかりしろ!」

「――無駄よ。神器を抜かれたものは死ぬしかないわ。その子、死ぬわよ」

 

なに? お前、知っててやったのか? 死ぬってわかっていて、神器を抜き取ったのか!?

 

「――っ、なら神器を返せ!」

「返すわけないじゃない。これのために私は上を騙してまでこの計画を進めたのよ?

 あなたたちも殺して、証拠は残さないわ」

 

……どこまで、どこまで腐ってやがる。

ただ己の欲望を満たすために一人の男子高校生の人生は歪められ

神を信じた敬虔なシスターの少女が今こうして死のうとしている。

堕ちたとは言え天の使いがやることか、これが!?

 

「……くそっ、夕麻ちゃんの姿なのが憎いぜ」

「ふふふ、それなりに楽しかったわよ、あなたとの付き合いは」

「……初めての彼女だったんだ」

「えぇ、見ていてとても初々しかったわ。女を知らない男の子はからかい甲斐があったもの」

「……大事にしようと思ったんだ」

「うふふ、大事にしてくれたわね。私が困ったことになったら即座にフォローしてくれた。

 でも、あれ全部私がそういうふうにしてたのよ?

 だって、慌てふためくあなたの顔がおかしいんですもの」

「……初デート、ダチと一緒に念入りにプランを考えたよ。

 とってもいいデートにしようと思ったから」

 

『……っ!?』

 

「アハハハハ! そうね! ショッピングモールって言う、とても王道で安いデートだったわ!

 おかげでとてもつまらなかったわ! そのお友達も残念だったわねぇ?

 もしかして、あの時の? いつも無駄死にだったわねぇ、だってあなた結局死んだんですもの。

 ふふふ、やはりバカの友達はバカね!」

 

――ああそうだ。俺も一緒に考えて、そこは俺が提案した……えっ!?

おい、何で俺がイッセーの初デートのプランを!?

俺がイッセーに憑いているのを認識したのはオカ研で、こいつが悪魔になった後だ!

だとしたらこれは俺の――だけど、いや、まさか!? それに、奴が言っていることが本当なら

俺もあいつに殺されたことになる! 何故俺がこうなったかはわからないが、そうだとしたら

少なくとも俺の感情の説明はつく! 俺を殺した相手が、目の前にいるんだから!

 

その時、俺の感情を代弁するかのように、イッセーが怒号を上げた。

 

「そうだよ、夕麻ちゃん……いや、レイナーレェェェェェェ!!」

「アハハハハハッ、腐ったクソガキが私の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!」

『――イッセー。他人のことは言えないが落ち着け。今は、アルジェントさんを……』

 

俺自身、できるならこいつを殴り飛ばしたい――いや、殴り飛ばすでは足りないかもしれない。

だが、そもそも俺たちの目的はそこじゃない。これはついでに手に入れた情報だ。

俺の記憶の断片と言う、俺にとっては吉報も吉報だが

それだけのために俺たちの目的を蔑ろにはできない。

 

「歩藤くんの言うとおりだ。兵藤くん、彼女を庇いながらでは形勢が不利だ。

 ここは僕たちが引き受ける。君たちは一度上に上がってくれ!」

「……早く行ってください」

 

レイナーレの前に、木場と塔城さんが躍り出る。

この二人なら、俺達が逃げる時間稼ぎは絶対にやってくれるはずだ。

寧ろ俺たちの方が、足手纏いになりかねない。

 

『イッセー。時間が惜しい。行くぞ』

「セージ……わかった! 木場、小猫ちゃん! 帰ったら、絶対俺のことはイッセーって呼べよ!

 絶対だぞ! 俺たち、仲間だからな!」

 

イッセーはレイナーレを一睨みし、アルジェントさんを抱えたまま

一目散に上の聖堂へと駆け上がる。だがその道中、見るからにアルジェントさんは衰弱している。

どうすればいい、どうすれば!?

 

俺のカード……はダメだ、イッセーか俺にしか効果がない!

それに、もうカードを使うだけのコストがない!

救急車を呼ぶか!? これもダメだ、応急処置すらできないんじゃ、来るまで間に合わない!

 

聖堂へ飛び出した俺達は、適当な長椅子にアルジェントさんを横たえる。

イッセーも狼狽しているのがわかる。

 

……憑依している俺のせい、かもしれないが。

 

『見るからに衰弱してる。このままじゃ……』

「バカなことを言うなよセージ! アーシアはこれからなんだぜ!?

 やっと、やっとこれから自由になれるんだ! うしたら……

 そうだアーシア、この写真! また撮りに行こうぜ!」

「……イッセーさん、私、少しの間だけでも……友達が出来て……幸せでした……」

 

弱々しくイッセーに語りかけるアルジェントさん。声に覇気がない。これは……

 

ふと見ると、アルジェントさんの霊魂が抜けかかっているのが見える。

漫画とかでは押し戻せば戻るように描かれるがそんな単純なものじゃない。

しかも、霊魂そのものが弱っている。神器を抜くってのは、そういうことなのかよ!?

 

「……もし、生まれ変わったら……また友達になってくれますか……?

 また一緒に、遊んでくれますか……?」

 

「な、何言ってるんだよ……そんなこと言うなよ……

 ほら、カラオケとか、ゲーセンとか、ボウリングとか色々行くところはいっぱいあるんだぜ。

 他にもそうだ、アレだよ、アレ……」

 

――分かってしまった。こういうことを言う時は。

もう、ダメなのだろう。霊魂はどんどん衰弱している。

なまじ霊魂だから見えてしまう、その魂。

アルジェントさんも、イッセーも、泣いていた。そして多分、俺も。

 

「俺ら……俺らずっとダチだよ! 松田や元浜、それからセージにも紹介するよ!

 松田や元浜はバカでスケベだけどいいやつだし、セージは今入院してるけど

 きっとアーシアも気に入ってくれるさ! でワイワイ騒いでさ……! だから……!」

 

「……取り込み中すまない。昨日ぶりだね、アルジェントさん。

 いや敢えてアーシアさんと呼ばせてもらおうか」

 

「あな、たは……あの時の、悪魔、さん……?」

 

自分でも何をしたかわかってなかった。

もう実体化できるかどうか怪しい程度の魔力しかないのに。

けれど、ずっとイッセーの中にいるよりも、こうして面と向かって話をしたかった。

あの時は、一芝居を打っていたからな。

 

「ああ……まず嘘をついていたことを謝りたくてね。

 イッセーが悪魔だと知られたくなかったんだ。君には。

 それと、最期の立会が悪魔二人になってしまって、シスターのあなたには申し訳なく思う。

 けれど、こちらからも礼を言いたい。

 

 彼が悪魔でも、友達になってくれて、ありがとう……!」

 

「……よかった、私のために、泣いて、くれて……

 セージ、さんも……生まれ、変わったら、私の……」

 

それが、その言葉を最期に、アルジェントさん、いやアーシアさんは事切れた。




というわけでオリ主セージの正体ほぼ確定&一巻部分の山場です。

当初からほぼバレバレだったので
あまり引っ張ってもつまらないと思いましたので。


フリードは断末魔すら上げられずにフェードアウトしましたが
たぶん生きてるんじゃないんですかねぇ(棒


一巻部分は残り三話+番外編一話の予定をしております。
投稿開始からほぼ一月が経ちましたが今後ともよろしくお願いします。


※02/06 19:20 タイトルが抜けてました、失礼しました。
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