その代わり教会組の出番が多めですが。
いよいよセージの事情がある人に伝わる事となります。
それが果たしてどう作用するのか。
曲津組が拠点としていたアジトの跡地。
ここは最早、爆撃でも受けたかのように周辺にクレーターが出来上がっていた。
リアスら悪魔の魔力による結界と、アーリィの聖典による結界を合わせてもこのザマなのだ。
その間に慧介とゼノヴィアが周辺住民の避難を呼びかけたが、間に合わなかった人もいる。
人間の世界は、超常の力に耐え得るほど頑丈には出来ていないのだ。
否、これを齎したのは二天龍の片割れ、
冥界や天界と言えども、無事では済まないだろう。
悪魔の結界や、天界由来の力による結界でさえも気休め程度にしか
効果を発揮していないのだから。
アジトのあった地点では、
見境もなくその力を揮い、それを
「兵藤! 人をやめ、悪魔もやめてなりたかったものがこれか!
どれだけ親不孝すれば気が済むんだ、お前と言う奴は!!」
「お前の事情なんざ俺にとってはどうでもいいんだ。だが……だがこれが!
こんなものが! 俺が求めた戦いであっていいものか!
赤龍帝! まずは正気に戻ってもらうぞ!」
思う所は違えども、紫紅帝龍――フリッケンと手を組んだセージと
白龍皇――アルビオンを宿したヴァーリは
赤龍帝――ドライグの力に振り回されるイッセーを止めようとしている。
しかし、力で抑えつけるしか手段が無いためか
その余波は周囲に飛び火しているのだった。
「く……っ! これがイッセーの、赤龍帝の力だって言うの……!?」
「リアス、これは私たちだけでは抑えきれませんわ! 魔王様を……」
朱乃の提言に、リアスは首を横に振る。それはかつてのプライドだけではなく
冥界の、兄の現状を顧みての答えであった。
尤もそれは、既に手遅れであるのかもしれないが。
「無理よ……お兄様には監視がつけられているし
他の魔王様も今呼べば人間界との関係は間違いなく拗れるわ……」
「じゃ、じゃあどうすればいいんですかぁ……」
まるでリアスの弱音に呼応するかのようにギャスパーが弱音を吐く。
その弱音は結界にも影響を及ぼしているのか、地表への被害が大きくなりだしたのだ。
「ぐうっ……サボってないで結界の維持に集中しなさいよ!
その胸に蓄えてるの使えばちったぁ絞れるでしょ!?」
「姉様……部長のアレは多分魔力タンクじゃないです」
弱音を吐くリアスに黒歌が檄を飛ばすが、その額には冷や汗が流れており
彼女も相当必死のようだ。ツッコミを入れている白音も、以前セージを救う際などに見せた
白い着物に普段の彼女よりも成長した姿をしており、彼女なりの本気である事が伺える。
この場にいる全員の力をもってしても、三つの龍――フリッケンは厳密には龍ではないが――の
戦いの余波を防ぎきることは出来なかったのだ。
――――
にも拘らず、現実を受け入れられず茫然としている者もいた。
紫藤イリナ。信じていた神の不在を知り、その組織の元締めともいえる天使に裏切られた
――少なくとも、イリナはそう感じている――彼女にとっては
この世界の全てが最早どうでもいい事だったのだ。
そう、想いを寄せていた少年やその両親は悪魔どころか得体のしれない怪物へと変貌し
もう彼女の知っているものは何処にもいなくなってしまったのだ。
「もう……なによこれ……わけわかんない……
そうよ……もう何もかも壊れちゃえばいいんだ……
イッセー君もあんなになっちゃったし、おじさんおばさんも……
私、どうしたらいいのよ……誰か何とか言ってよ……」
イッセーを刺した事さえ忘却の彼方に行ってしまうほど、彼女の思考は混乱していたのだ。
しかし、そんな彼女を元に戻そうとこんな状況でも必死に呼びかけるものはいた。ゼノヴィアだ。
「イリナ! 目を覚ましてくれ! 今はこれ以上の被害を出さないことが大事だ!
もう戦いたくないなら、剣を捨てて逃げるんだ! けれどもし、もし戦うなら……」
「……?」
焦点のあってない目で、イリナはゼノヴィアを見つめる。
その瞳には何も映っていない、かつて教会の戦士として、天使の教えの下悪魔を祓ってきた
彼女の姿はそこにはなかった。
もし彼女の瞳に何かが映っていたとしたならば、それは崩れ落ちた世界なのかもしれない。
「もう……神もいない。天使は私達を欺いた。
悪魔と堕天使は憎むべき敵。人間は信用できない。ドラゴンはこの世界を破壊する。
だったら……みんな……」
へたり込んでいたイリナが、アスカロンを手にゆらりと立ち上がる。
まるでゾンビのように生気は感じられない。
しかし次の瞬間、ゼノヴィア目掛けて一直線に飛び掛かって来たのだ。
「まずはお前から死ねばいいんだっ!!」
「!?」
突如の事に、ゼノヴィアも反応できなかった。
デュランダルならば、アスカロンに対抗できたかもしれないが
ゼノヴィアの反応速度よりも速くイリナは突っ込んできたのだ。
しかし、結論から言えばゼノヴィアは無事であった。
あわや、と言うところでイリナの加速の勢いを殺すものがあったからだ。
アスカロンを弾き飛ばしイリナの攻撃は失敗に終わったのだ。
「俺の弟子は、家族はやらせない。紫藤イリナ。その命、神に返しなさい」
未知への迎撃者を構え、イリナと対峙するのは
彼にとって今やゼノヴィアは家族も同然。
その家族を守るために、力を揮うのは当然の事であった。
「ま、待ってくれ慧介! イリナは……イリナは……!」
「ああ、わかっている……俺に任せなさい」
ゼノヴィアの制止に対し、力強く答える慧介。
その一方でイリナはアスカロンを弾き飛ばされた現実を把握したのか
標的をゼノヴィアから慧介に変え、アスカロンを再び手に
慧介目掛けて突っ込んだのだ。
一介の
曰くつきの聖剣でもあるアスカロンを相手取るには少々分が悪かった。
未知への迎撃者を剣へと戻し、アスカロンと鍔迫り合うが、徐々に慧介が押され始める。
「くっ……だがこれなら!」
プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ
慧介は左手にプラズマフィストを握り直し、イリナに電撃を浴びせる。
加護を受けた防具を纏っていたならば、話は違ったかもしれない。
それに匹敵する科学力で生み出された防具でも、防げたかもしれない。
それらのない、悪魔でも、天使でもないただの人間のイリナに直に浴びせるには
プラズマフィストの電撃の威力は絶大だったのだ。
「イリナ!?」
「電気ショックで仮死状態にした。電圧は抑えているが、早く治療を施した方がいいだろう。
駒王総合病院へ連れて行く。あそこはまだ病院としての機能が生きているはずだ」
病院へと運ぶ。この工程さえあればイリナは再び目を覚ますだろう。
奇しくも、そこはセージの肉体が眠っている病院でもあった。
しかし、そこに行く手段が無い。と言うところで慧介に呼びかける人物がいた。
「あの……地図はありますか?」
「あるが……君は誰だ? さっきも助けてもらったが」
「あっ、アーリィ・カデンツァと言います。アーシアやゼノヴィアさんとは……
ちょっとした知り合い、でして……私なら、場所さえわかれば
病院へ皆さんを送る事が出来るかと思います」
ちょっとした知り合い、と言った瞬間にアーリィの表情が少し寂しそうになったが
実際、こちらの世界ではアーリィとアーシア、ゼノヴィアの接点はない。
しかし、目の前の男性は二人が世話になっている人物。
ある意味では、この世界におけるアーリィの役割を担っているのかもしれない。
関係性は、大きく異なっているが。
「その恰好、君は教会の関係者か。ならちょっとした知り合いと言うのも頷けるか。
そして、さっき俺達を外に出したその力。嘘偽りはないな。
……いいだろう、君を信じよう」
「ありがとうございます!」
「病院なら、私が場所を知ってます。私も連れて行ってください」
そして、アーシアの申し出。セージとの面会は叶わなかったものの
セージが肉体を取り戻そうと行動した際に病院に行ったことがあるため
アーシアは病院の場所を知っている。そうなれば、アーリィの聖書移動も精度が増すと言う物。
アーリィにとっても、アーシアを守る手間が省けるため願ったり叶ったりであった。
ただ一つ、結界の維持が弱くなるという問題はあったが……
「だがアーリィ、我々がこぞってここを離れては結界が……」
「それには心配及びません。微力ながら、ここは私達が協力いたします。
いえ……協力させてください」
魔法陣で現れたのは、ソーナ・シトリーと眷属達。
まだ所々痛々しい部分を残しながらも、負傷をおしてこの場に駆け付けたのだ。
目的はただ一つ、駒王町の防衛。
「生徒会の皆さん! 怪我は大丈夫なんですか!?
待っててください、今治療を……」
「君達は……なるほど。今の結界を維持している主力は悪魔。
同じ悪魔同士でやれば、力が相殺されることも無いというわけか。しかし……」
「見るからに本調子ではなさそうだな。大丈夫なのか?」
その様子は、慧介とゼノヴィアをして本調子では無いと見抜かれていた。
実際、ソーナ達は聖槍騎士団との戦いで負ったダメージが完治したわけではない。
ここに来たのだって、姉であり四大魔王の一人である
セラフォルーの意向を完全に無視している形だ。
怪我の問題はアーシアのお陰でクリアできていたが、セラフォルーに無断で来たことが
後で大きな問題になりはしないかと言う懸念はあった。
もっとも、公言して来たところでそれはそれで大きな問題を招きかねない事は
リアスが懸念していた「人間界と悪魔の関係の悪化」と言う結果を招きかねないのだが
現時点よりさらに悪くなるとなれば、とても想像がつかない。
「私達は、駒王町と言う町の人々にとって、いえ人間の世界にとって
許されないことをしたかもしれません。
その罪滅ぼしと言うわけではありませんが、どうかこの町を守ることに協力させてください」
「…………」
ソーナの言葉に、アーリィは沈黙を守り続ける。
そもそも、悪魔とはアーリィにとっては存在そのものが許されないものであるのだ。
暫し一考し、アーリィは一つの決断を下し、ヴェールに覆われた口を開く。
「……当たり前です。この町を守るだけでその罪が贖われるだなんて
思い上がりもいいところです。本気で罪を贖うつもりがあるのでしたら
この町だけでなく人間の世界に対して責任を果たしてください。
責任も果たさずに自分の世界に引きこもろうなんて虫のいい話、あると思わないでください」
アーリィの一言に、ソーナの後ろに控えていた匙が食って掛かろうとしたが
ソーナによって制止される。実際、アーリィはいつでも聖書を出せる準備をしていたし
これがナイトファウルだったりした日には
折角治療を終えた匙が再び病院送りにされてしまう事だろう。
「……肝に銘じておきます」
「結構です。ではここの守護は頼みましたよ」
ソーナとの話も一段落し、イリナを運ぼうとアーリィが聖書のページを開こうとしたとき
アーシアに緑色の触手が絡みつく。
半身が既にアインストと化しているディオドラの仕業であった。
「そうはさせない……アーシアは僕のものだ……
僕の許可なく勝手な場所に行くことは許されない……
それは僕らの静寂なる世界を乱す事だ……お前も僕のものになれ……!
静寂なる……世界の……ために……!」
「アーシア! くっ、アーシアから離れろ!」
ディオドラの巻きつけた触手を斬り捨てようとゼノヴィアと慧介が挑みかかるが
それを妨害するかのようにアインストが現出する。
しかも、そのアインストはかつてイッセーの両親だったものだ。
「…………」
元に戻す術はない。そう分かっていても、相手が元人間である限り
攻撃の手は無意識に緩められてしまう。
その隙を突いて、本命のアインスト軍団が押し寄せてきたのだ。
アインストアイゼンに、アインストリッター。
ヴァーリでさえも苦戦した一対のアインスト軍団。
彼らの知らないさる世界においては、二体のアインストの基になったロボットによる
連携は数多の戦場を駆け抜け、人類に勝利をもたらしていたのだ。
それがこの世界では、人類に対して牙を剥く凶器となり果てているのは何の因果だろうか。
「ククッ……言ったはずだ……アーシアは……渡さない……
静寂なる……世界……アーシア……」
アインストの思惑と、ディオドラ本人の思惑が混じり合った不安定な状態になりながらも
ディオドラはアーシアを離そうとはしない。
その一方では、アインスト軍団と人間達による大混戦が繰り広げられていた。
「皆さん!」
「あなた達は結界の維持をしてください! イリナの事もあります、早く蹴りを付けないと!」
「ああ、だがこの数は……ッ!!」
ヴァーリをも苦しめたアインストアイゼンとアインストリッターの連携技。
――ランページ・ネクロム。
その標的にならないように立ち回っているお陰か、ゼノヴィア達はディオドラに対し
中々攻勢に出られずにいた。
唯一、アインストに対し特効のある武器――ナイトファウルを持っているアーリィだけが
アインストと互角以上に渡り合えているが、数の問題は如何ともし難かった。
「くっ……そこをどきなさい!」
「慧介!」
状況を打開しようと、慧介が未知への迎撃者とプラズマフィストを握りしめ
アインスト軍団の一角に切り込む。
プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ
プラズマフィストの放電を受け、アインストの動きが鈍る。
その瞬間に、未知への迎撃者の一閃が決まり、一瞬の隙が出来たのだ。
その隙を突き、デュランダルがアーシアを捕らえていた触手を切り裂く。
「今だ! 行きなさい!」
「しかし、慧介……」
「俺を誰だと思っている、俺は伊草慧介だぞ! 俺が負けることは無い!」
ゼノヴィア達にイリナを連れ病院へ行くよう促す慧介。
その意図をくんだのか、アーリィは聖書を開き始め、ワープの準備に入った。
「ま、待ってくれアーリィ! 慧介が……!」
「……ごめんなさい、ゼノヴィアさん。今ここで彼まで転送させると
病院にアインストを運んでしまう事になりかねません。それだけは避けたいのです。
それはきっと彼も同じ考えでしょう。
……アーシア、目的地をイメージして。そうすれば病院に飛べるわ」
「慧介さん……絶対帰ってきますから、待っててください!」
アーシアの力強い言葉とともに、気を失ったイリナを伴いアーリィの転移が開始される。
逃すまいと触手を伸ばすディオドラだったが、その触手は慧介によって斬り落とされる。
「ああ……任せなさい。ゼノヴィア君、彼女の説得は君がやりなさい」
「……わ、わかった! だから慧介、慧介も無事でいてくれ!」
転移が終わる寸前、慧介はゼノヴィア達に向けて笑いかけた。
それは慧介が持つ絶対の自信。生き延びるという強い意志が、そこにはあった。
しかし、それはディオドラにとっては忌々しいものでもあった。
たかが人間ごときが、自分に逆らっている。自分の邪魔をしている。
そもそもディオドラにシスターでもなんでもない慧介を生かす理由などない。
男は殺し、女は犯し。そんな貴族にあるまじき下卑た思考の持ち主でもあった彼にとって
慧介はただの狩猟対象。その狩猟対象が、牙を剥いて歯向かっているのだ。
「……どこまでも僕の邪魔をしてくれるんだ。そんな貴様は
徹底的に痛めつけて殺してやらないと気が済まないなぁ……
騒々しい……人間がぁぁぁぁぁぁ!!」
「騒々しいのはお前の方だ。
ディオドラ・アスタロト……その命、神に返しなさい!」
未知への迎撃者と、ディオドラの触手がぶつかり合う。
周囲を取り囲むアインストアイゼンやアインストリッターの攻撃を利用しつつ
慧介はうまく立ち回っている。
彼の教会の戦士としての実力は本物である。ただ、性格に難があっただけで。
そしてその身体能力も並の人間とは一線を画している。
そんな彼だからこそ、こんな芸当が出来ているのだ。
結界の維持のために、戦いを見ていることしか出来ないソーナ達は歯痒い思いをしていた。
特に悪魔に転生したことで無意識に人間蔑視の感情が芽生えていた匙は
目の前のただの人間である慧介の戦いっぷりに目を丸くしていた。
「あれが人間かよ……信じられないぜ……」
「サジ、無駄口を叩いている暇はありませんよ。結界の維持は、彼の援護にもなるんですから」
しかし、そんな余裕があるはずがない。
少しでも気を抜けば、遠くで行われている赤龍帝と白龍皇、そして紫紅帝龍の戦いの余波は
すぐに飛んでくるのだ。その影響を及ぼさないために自分達はここに来ているのだ。
ソーナの叱咤を受け、結界の維持に意識を集中し直す。
これもまた、町を守るための戦いではあるのだが……
(クソッ、俺にもっと力があれば……!!
イッセーを止めて、あのアインストを倒せるだけの力があれば……!!
そうすれば俺は会長に相応しい男になれるはずなんだ……!!)
匙の中には、イッセーが抱えていたのに近い雑念が渦巻いているのだった……
――――
――駒王総合病院前。
転移に成功したアーリィ達は、すぐさま院内へと入って行った。
院内はテロの影響で負傷した人々でごった返していたが、機能そのものは失われていなかった。
まるで、何者かに守られていたかのように。
しかし、人手が足りないのは変わらないようで、即座にアーシアが片っ端から治療を施している。
「アーシア、無闇に神器を使っては……」
「そんな事言ってる場合じゃありません! 怪我の酷い人から優先的に治療します!
目の前で苦しんでいる人が居るのに、助けないわけにはいきません!
……ゼノヴィアさん、イリナさんはお願いします」
「分かったわアーシア。あなたの決めた事なら、私は何も言わないわ。
……この辺りは私の知っているアーシアと変わりないようね。
ゼノヴィアさん、私達はイリナを運びましょう」
治療のために残ったアーシアと別れ、アーリィとゼノヴィアはイリナを連れて
集中治療室のある方角へと向かった。
その間、アーシアは怪我人の治療を行っていたが、神器を使うという性質上
かのフューラーの演説の影響もあって、訝しむ人も少なくはなかった。
「おい……あの子のやってる事って……」
「あの恰好からすると、天使の仲間かもしれないぞ……」
「人間を人間とも思わない連中の仲間だって事だよな……?」
「天使と悪魔って、対立してるイメージだったのに
それって出来レースだったのよね……じゃあ……」
治療に励むアーシアをよそに、ひそひそと誹謗を行う声が聞こえ始める。
実際アーシアは悪魔なのだが、それでもなお人間のために尽力している。
コカビエルの騒動の時には避難誘導も行うほど、人間に親身になっている方なのだが
そんな事はアーシアを訝しむ人々にとっては知る由もなかった。
だが、次第に大きくなっていく声は、アーシアの耳にも届いてしまう。
(……やはり、私は……)
「あっ! あの時助けてくれたお姉ちゃんだ!」
声をかけてきたのは、かつてアーシアが悪魔になる前、公園で助けた男の子。
その子が、アーシアに声をかけてきたのだ。
母親の側はアーシアを遠巻きに見るばかりだが、男の子はアーシアにお礼を言っているのだ。
「あの時はありがとう! お姉ちゃんも病院に来てたんだね!」
「えっ……う、うん……」
あの時との違いは、男の子の言葉がはっきりとわかる事位だが
それだけでもアーシアにとっては大きかった。
その点だけは、悪魔になった事を感謝していた。
ふと、その男の子の頭を撫でる学ラン姿の少年がいた。
「今は天使だの悪魔だの言ってる場合じゃないだろ!
この子の言う通り、彼女には怪我を治す力がある!
そこでぶつくさ言ってる暇があったら、彼女の手伝いでもしろってんだ!」
アーシアが少年の方を見ると、仲間と思しき同じ学ランやセーラー服の少年少女達が
怪我人の誘導を行っていた。そんな彼らに毒気を抜かれたのか
陰口をたたいていた人々は散り散りになって行く。
「あの、あなたは……?」
「俺か? 俺は
だから、俺は俺のやる事をやるだけだってな。俺は神でも悪魔でも無いからよ。
そういう力に憧れはするが、そりゃ漫画の話だ。俺は人間として、人間の平和を守りたい。
……って、俺のダチの受け売りだけどよ。それじゃ『兜甲次郎とゆかいな……」
「その名前はボツだって言っただろ? あ、あたしは如月皆美。
今は1人でも多く協力することが大事だと思うんだ。
そういうわけだからあたしらはあんたに協力する。
あんたは1人でも多くの人のけがを治してやってくれよ」
アーシアは知る由もなかったことだが、彼らこそセージの中学時代の友人たちであり
大那美高校の番長軍団として平和を守るために活動している人々であった。
彼らの協力もあり、アーシアの治療行為は捗っていたと言えよう。
「…………あん?」
「どうしたんだい、甲次郎?」
「いや、何でもねぇ。セージの病室に、何か感じた気がしたんだがよ……気のせいだろ」
――――
一方、イリナの治療のために集中治療室へと向かっていったアーリィとゼノヴィア。
……しかし、そこには先客がいた。
「……は、成二は無事なんですか!?」
「手は尽くしましたが、これ以上は……」
そこには、医師らしき人物が佇み、恰幅のいい中年女性が泣き崩れていた。
二人が知る由もないが、彼女こそ歩藤――いや宮本誠二の母親である。
「あの……どうかなさいましたか? 私も神に仕える身、お悩み事などあれば……」
「アーリィ、そっちも大事だが私達も……」
しかし、成二の母にしてみれば目の前にやって来たのは
ヴェールで顔を覆ったシスターらしき人物に、白いローブを纏った
自分の息子と同い年位の少女。一体どういう取り合わせなのだと疑問に思う事だろう。
それすら思わないほどに、気が動転している状態でもあったが。
「……君たちのお連れさんも大変な状態のようだね、治療を施すから少し待っていなさい」
「あ……私は付き添っていいか? その、彼女はこうなる前気が動転している状態だったんだ。
目が覚めた時に何か起きるといけない、そのためにも……」
「ふむ、そう言う事なら付き添いを認めよう。さあ、こっちに運んで」
ゼノヴィアはイリナを担架に寝かせ、成二とは別の病室へと向かっていった。
残されたのは、アーリィと成二の母の二人のみ。
「……ここには、私の息子がいるんです。今年の春、進級してすぐに事故に遭ってしまって……
たった一人の息子なんです、もしもの事があれば私……!!」
「落ち着いてください、お母様。私には治療は出来ませんが
息子さんの無事をお祈りすることは出来ます。
あの、息子さんのお名前は……?」
「成二……宮本誠二です」
ここに来て、アーリィの中で一つの疑問が繋がってしまった。
自分に協力してくれた、自分の知らない少年。
身体を持たないというその少年の身体は、ここにあるのだと。
目と鼻の先にありながらも取りに来ないというのは、そうできない事情があるのだと言う事も。
そして、今の医者の言葉や母親の様子では、もう長くないと言う事も。
そしてそれはつまり、かの少年が長くない命を以て、激戦に身を投じていると言う事。
その事実に、アーリィは衝撃を受けたのだった。
成二の母も、まさか自分の息子が悪魔にさせられて、超常的な力を身に着け
超常的な存在と関わり、戦っているなどと夢にも思っていなかった。
そんな彼女たちの思いをよそに、セージの枕元には一人の悪魔が佇んでいた。
その悪魔こそ、蝙蝠の翼のような頭を持ち、青白い肌をした悪魔。
――アモン。
アーリィと同様、彼もまた囚われている次元の狭間から
クロスゲートを通じてやって来ていたのだ。
魂を失ったセージの枕元に立つ彼の思惑は、一体何なのであろうか。
自らを封印した現魔王に対する復讐なのか。あるいは……
地獄の門は、ここにも新たな騒動の種を蒔いていたのだ――
名護……伊草さんは最高です!
最近では某ゲームマスターのインパクトが強すぎますが。
そしてアーリィさん、セージの事情を知るの巻でした。
今まで(殆ど霊体だけど)普通に振る舞っていたセージですが
母親視点で見ると全然そんな事無いわけで……
バカの相手なんかしてる場合じゃない、割とマジで。
>悪魔組
力でおさえる選択肢しかないため、もう結界で被害を食い止めるしか
出来ることがありません。原作ではレーティングゲーム会場だったのに
拙作では人間界で覇龍やってるものですから猶更。
身動き取れなくて当然かと。
>イリナ
プラズマフィストで失神。防御の脆さが響いた結果です。
人外の攻撃力に何の防備もなく晒されればこうもなりましょう。
一応教会スーツにそれなりの防御力はあると見ていますが
肉体はその限りじゃないでしょうと、そこに最大5億ボルト流せる
放電装置喰らわせてるわけですから……
やはり伊草さんは最高です(白目
……果たしてゼノヴィアの説得に耳を傾けてくれるのかどうか。
>大那美高校組
名前だけ出ていたセージの旧友がここで登場。
彼らも今回の騒動の被害に遭ってますからね。
それにしても人間にスポットを当てると本当に……
ずっと甲次郎の台詞を書いているときに赤羽根氏でなく石丸氏の声が
頭の中で響いていたのは内緒。
マジンガーなネタは色々入れられるけどキューティーハニーネタは
残念ながら入れられなかったどうでもいい裏話。
甲次郎がアモンに反応したのもそう言うわけ。
>アモン
まさにダイナミック脱獄。
クロスゲートが幽閉されている次元の狭間で開いたので
これ幸いにとばかりに脱獄。
現魔王に裏切り者呼ばわりされている彼ですが
その真意は一体如何なるものか。