今回、あるキャラが「ちょっとくすぐったい」あるいは
「痛みは一瞬」な目に遭います。
イッセーらが駒王学園に戻る少し前。
木場の古い友人、海道尚巳ととうとう木場を連れて会う事になった
セージのお話から始まります。
正しいのかもしれないが、俺は知っている。
ここには、まだ虹川の名を持った少女達がいることを。
だから、彼女らがい続ける限りは俺もここを旧虹川邸とは呼ばない。
「掃除はしておいた。掛けて待っていてくれ」
「そういえば、ここに来るのは初めてだね。
……凄く、にぎやかだね」
俺は今日、オカ研に所属している木場祐斗をつれてここに来ている。
通常、ここには俺にしか見えない相手しかいないから俺以外の相手を連れてくることは無い。
それがこの家の主にとっても珍しかったのか、さっきから存在を訴えるように
楽器が空を舞っている。風には木場には見えているのだろう。
実際は虹川さんらが楽器を振り回して(!)いるんだが。
「セージセージ、これなんのサービス? ねぇねぇ、うちにイケメンが来るなんて!」
「折角来てくれたんだから、とっておきのライブ披露しようか!」
「うん、私の歌、いっぱい聴いてもらうんだ!」
……ま、そりゃそうなるわな。美的感覚は駒王学園の女子生徒とそう大差ない。
そこにイケメンで通っている木場がくれば、虹川姉妹とて盛り上がる。
そうでなくとも、ここに俺以外の客が来ること自体が物珍しい。テンションも上がるのだろう。
ただ、もう一人普段と変わらない人がいた。長女の
「ダメよ。今日はあの人に会うためにやって来る人がいるんだから」
「あー、
「うんうん、何度も何度も断ってるのにやってくるところとかさ」
そう。俺は今日、海道さんとの待ち合わせのためにここを指定したのだ。
一連の事件がおおよそ片付いたため、腰をすえて対話が出来ると思ったからだ。
……違う意味でゆっくり対話できなさそうだが。
待っている間の予習にと、俺はおもむろに一冊の冊子を木場の前に出した。
そこには、俺が
そしてもう一枚。それは……
「これは?」
「例の依頼人についてのデータだ。プロフィールが手書きなのは察してくれ。
最後の方は、ある曲の楽譜だ。彼が生前得意としていた曲、らしい。
俺はまだ楽譜を読むのに慣れてなくてね。
瑠奈、完全再現でなくてもいいから、弾いて貰って良いか?」
「わかったわ」
木場には、バイオリンがギターに変わりひとりでに演奏しているように見えているようだ。
俺にはきちんと瑠奈がギターを弾いている姿が見えるのだが。
やはり、霊体である海道さんの姿は見えないと見て間違い無さそうだ。
そして演奏が始まると、木場が何かを思い出したような顔をしていた。
「こ、この曲は……!
賛美歌が基本だった僕らの音楽の間で、一人ギターを趣味にしている人がいたんだ。
その彼が、将来はギタリストになりたいって言って、練習していた曲だ……!」
やはり。海道さんも、聖剣計画で処分された一人。木場も聖剣計画には大きく携わっている。
俺の推測は間違っていなかった。海道さんと木場には、接点があった。
「セージ君、けれどこの曲をどうして?」
「……この曲の作曲者が、俺の依頼人って訳だ。
彼は聖剣計画で己の夢を失い、成仏できずにいたところ偶然お前を見かけた。
しかし、言葉を伝える術を持たず、幽霊でありながら音楽の演奏が出来る
虹川姉妹のところにやって来た。後は彼女らのマネージャーもやっている俺と接触。
……現在に至るって訳さ」
と、説明をし終えたところで突然瑠奈の演奏が止む。どうしたんだ?
「……ごめんなさい。実は、この楽譜は完全じゃないの。
ここで終わってしまっている。残りの楽譜は、彼に聞かないと分からないわ」
「そうか……楽譜が無いんじゃ、仕方ないね」
木場は残念そうに肩を落としている。懐かしの曲が聴けると思ったら
その曲を演奏するために必要な楽譜が揃っていないのでは。
かく言う俺も、不完全燃焼であると言える。
「なんと……しかし、それにしても海道さんも遅いな?
確かに急に約束を取り付けたとは言え、もう30分以上経っているが……」
そう。待てど暮らせど海道さんが来ないのだ。
たしかにちゃらんぽらんな雰囲気は漂わせていたが、今までこういう事はなかった。
幽霊だから、悪魔の類に目視されることは……
と、思い返して今嫌なことを思い出した。
一度だけ、霊体の状態の俺が見つかった事がある。
グレイフィアさんだ。魔王の眷属である彼女には、俺が霊体になっていても見えるらしく
あっさりと目の前に現れざるを得ない状況を造られた事があった。
そして、今は堕天使の幹部クラスが動いている。もし、そいつに見つかれば……
そんな可能性が頭をもたげる頃、後ろで虹川の三女、
何かが入り込んできた音も聞こえた、何事だ!?
木場は剣を抜き、俺も記録再生大図鑑の準備を済ませ身構えている。
「何が起きているんだい、セージ君?」
「俺にもわからん。おい、芽留! 里莉!
俺の呼びかけに三人が応える。どうやら無事みたいだ。
瑠奈は俺の近くにいたので、問題は無い。
「私達は大丈夫だよ!」
「で、でもこの人が……」
「この人、あの幽霊のお兄さん……」
そこにいたのは、息も絶え絶えに駆け込んできた海道さんだった。
木場に構えを解かない様に伝えた後、俺は海道さんの元に駆け寄る。
「海道さん! 一体何が……」
「悪ぃ、遅れちまった……っちゅーか、いたんだよ、あいつが!
バルパーが! 今駒王学園っちゅーところで、エクスカリバーを集めて何かしてやがった!
他にも、堕天使だと思う……黒い羽根の奴とか、でっかい怪物とか……」
「バルパーだって!? それは本当かい!?」
バルパー・ガリレイ。あの時はついぞ見つからなかったが、もう動いていたのか。
しかし、もう既に虎の子のエクスカリバーは押収されているはずだが。
……ってちょっと待て。エクスカリバーを集めて、ってどういうことだ?
それにでかい怪物って……
事態は、俺が思っているよりもまずいことになっているかもしれない。
「木場、まずいことになっているかもしれない。学校に戻ろう。
幸い、ここには部室に転移できる魔法陣を敷いてある。すぐにいけるはずだ」
「……そうだね。今の声も、聞き覚えのあるものだけど……。
今はそれよりも大事な事がある! バルパーを……バルパーを討つんだ!」
……しまった。バルパーの名前が出たことで木場の変なスイッチが入ったか。
だがここで木場を置いていくと言う選択も出来ない。本人が納得しないだろう。
抜かったな、と思っていたらさらにとんでもない提案が来た。
「待てよ。バルパーに言いたい事があるのは、お前だけじゃないんだぜ?
ちゅーか、お前は無理しすぎなんだって。手を引け、とは言わないけどよ」
「セージさん。今回は、私達も応援に同席させてください」
「……は? すまない、よく聞き取れなかった」
……俺の聞き間違いじゃなかったら、虹川さんらも応援に来るって言っているように聞こえたんだが。
いやいやまさかね。これから戦う相手は、多分フェニックスよりもやばい相手なんだと思うが。
戦力計算なんてまだやっていない。データも無いんだ。つまり危険も危険、大危険。
「だ・か・ら! 私達も応援に行くって言ってるの!
セージも知ってるでしょ、私のトランペットの効果!」
「そこに私のバイオリンを加えて」
「私がチューニングっ!」
「そこに、私が応援のエールを乗せるから!」
「おおっ! 虹川楽団のサプライズライブか!
ちゅーか、これは俺としても参加しないわけにはいかないでしょ!」
え? あの、もしもし? 事の重大さ、わかってますよね?
それに、戦闘力を持った奴の参加ならいざ知らず彼女ら普通の幽霊の参加なんて
危なっかしくて認められるか! 消滅したらどうするつもりなんだ!
だから、俺は待機命令を出す。持ってて良かった、マネージャー権限。
「待て。君達は待機。これはマネージャー権限。今から行く場所は、とても危険だ。
君達を守って戦う自信なんて、とてもじゃないが無い。万が一が起きてからじゃ遅いんだ。
ライブが二度と出来ないなんて事態になったら、ファンの皆にも君達にも申し訳が立たない」
「……けち」
「横暴! 職権乱用!」
「朴念仁!」
「……だめなんですか?」
「散々に言われてるね、セージ君」
木場が呆れたような目でこっちを見ている。おい、何でこうなるんだ。
それから里莉。朴念仁ってこういう場面での罵倒の言葉として適切なのか?
そして瑠奈。君、意外と言うね……。
などと思っていたら、なんと魔法陣の上に海道さんが陣取ってしまった。
「あー、悪ぃ。ちゅーか、なんかこうしろって空気だったからよ。
歩藤、お前の負けだわ。俺も音楽家を志した者として彼女らの気持ち、分からんでもないんよ。
俺はイザイヤに未完成のまま終わっちまったあの曲を、完成させて贈りたいと思ってる。
彼女らは、多分日頃から世話になってる歩藤に曲をプレゼントしたいんだろ」
「……へぇ。セージ君、イッセー君が聞いたら羨ましがりそうだね」
木場よ。何故そういう話の流れになる。
まぁ見える俺に言わせて貰えば、確かにこの子らは実際可愛いっちゃ可愛いが……。
俺はそういうつもりで接しているつもりは無いんだがな。
ましてアイドル色も若干だが含んでるガールズバンド。そういうのがご法度なのが分からないほど
俺だってガキのつもりは無いんだがな。
「……あのなぁ。ま、それについては後で弁明させてもらうとして……。
いいのか? 俺ははっきり言って、最近はまともに顔を出してないぞ?
バンド運営だって、有志にまかせっきりだ。とても君達に貢献してるとは思えないんだが。
それなのに生曲を受け取るのは、俺には過ぎたプレゼントだと思うんだが」
「初めは悪魔の契約だったかもしれない。でも、今はあなたを信頼してる」
「それにセージがいなかったら、私達バンド組んでなかったのよ?」
「会員ナンバーゼロ番、伊達じゃないんでしょ?」
「だから、私達の歌……受け取ってください」
もう一度、俺は虹川姉妹の眼を見る。ステージを前にしたときと同じ目つきだ。
これは……もう、ステージを決めたんだな。
だったら、ステージに上げないのはマネージャー失格か。
……そうか、だったら俺も覚悟を決めよう。彼女達の歌に、応えよう。
「分かった。だったら俺達と一緒に魔法陣に入ってくれ。
そこにステージを用意する。ただしそこからは出ないでほしい、本当に危ないから。
……それと曲なんだけど、ロックテイストでお願いできるかな。こんな感じのを」
「……わかったわ」
「任せて!」
「セージもいいPV、期待してるわよ!」
「が、頑張ります!」
「……ロックか。歩藤、良い音楽のセンスしてるじゃない。
じゃ、歌詞は俺が即興でよければ作ってやるよ」
徐々に盛り上がっていく虹川邸。海道さんももう元気になったようだ。
ロックと言うのは単純にノリの問題だ。今から戦いに赴くのにアイドルソングも無いだろう。
今からの俺達に必要なのは、きっと戦士の唄。
彼女達に渡したのは、俺が宮本だった頃に聞いていた面ドライバーシリーズの歌。
謳いやすいように女性ボーカルで盛り上がるのをチョイスしたつもりだ。
決意を新たに、俺達は魔法陣の中央に立つ。
全員が入ったのを確認した後、俺は魔法陣を作動させ、オカ研の部室に転移した。
――――
部室に転移したとき、事態は既に動いていた。
校庭では巨大な三つ首の獣が徘徊しており、オカ研の部員が対応している。
そこから少し離れた場所で、二人の男がなにやら儀式を行っている。
あれがバルパーと……
COMMON-LIBRARY!!
コカビエル。神を見張る者の幹部堕天使。先の三大勢力の戦争の結末に納得がいかず
戦争を再び起こさんと試み、様々な暗躍を繰り返してきた。
堕天使の幹部らしく、強大な光の力を行使する――か。
逆に言えば、それにさえ注意すれば何とか対応できるかもしれないってことか。
フェニックスみたいに変な特殊能力も無さそうだし。
ただ……戦争経験者とガチでやりあうのは恐ろしく不利な気がするけどな。
俺が記録再生大図鑑のデータを確認すると、木場が剣を携え飛び出そうとしている。
それを慌てて制止するが、時間が無いのも分かっているつもりだ。だが迂闊に出るのもマズい。
「焦るな。まずは彼女たちとの約束を果たさせてくれ……モーフィングっ!!」
瞬く間に、オカ研の部室がライブ会場になる。グレモリー部長がこの場にいたら卒倒しそうだ。
まぁ、知ったこっちゃ無いが。
「わぁ……!」
「すごいすごい! セージ、本当に何でも出来るのね!」
「これなら、私達も気合入れて演奏できるって物よ!」
「ありがとう、セージさん!」
「これを維持できるのは短い時間だ。後は君達の力で何とかしてくれ。
騒霊ライブの真価、期待している。
……戦争を止めるのは、何時だって歌だ!!」
俺の号令にあわせ、虹川楽団と海道さんが勝鬨の声を上げる。
海道さんが玲に歌詞カードを渡し、姉三人は音合わせをしている。
そんな中、外の戦いは激しさを増している。
「セージ君。そろそろ出ないと……」
「言いたいことは分かるが、俺はもう少し待つ。こんな時にと思われるかもしれないが
今回は虹川さんの歌に乗せて戦いたい。
それにな、今外を徘徊している奴。あいつはかなりの大物だ。
有効な得物になりそうなものを見繕いたい。まぁ、目星はつけているんだが」
痺れを切らしているであろう木場に、海道さんが話を振る。
そこには、軽いノリの海道さんはいなかった。
喋り方は、そう変わらないみたいだがなんとなく、そう思えた。
「なぁイザイヤ。俺達はよ、確かにお前を残して死んじまった。
けどな、今のお前見てると俺達よりも死人っぽく見えるんだよ」
「君は……そこにいるのかい? そうさ。僕の命は、あの時……」
「違うんだよ、そうじゃねぇんだよ。
お前は、今ここにいるだろうが。
どんな事情があっても、お前はこうして生きてるだろうが!」
「そうじゃないんだ、聞いてくれ。人間としてのイザイヤは、確かにもう死んだ。
今ここにいるのは、リアス・グレモリーの『
しかしそれさえも、今の僕には分からないんだ。
……歩藤誠二。彼が、僕の中のリアス・グレモリーという絶対の存在に皹を入れたんだ。
今までどおり部長の言うことに従うべきなのか、それとも……。
今の僕は、正直言って何をすべきなのか分からないんだ……」
……そう、か。俺にとってはアホで詰めが甘くて主の器に相応しくない
まるでダメなお姉さん略してマダ……いや、いくらなんでも女性にこの略称はアレか。
まぁ、まるでダメな悪魔ではあるが。
木場よ、お前にとってグレモリー部長はかけがえの無い存在なんだな。
そのことを思えば少々態度がきつすぎたかも、と思ったのと同時にリアス・グレモリーに対する
どうしようもない遣る瀬無さがこみ上げて来た。
何故、彼女は自分を慕い信頼する眷族の気持ちに応えないのだ?
何故、彼女は兵藤一誠ばかりを特別視するのだ?
何故、彼女は自分の理想ばかりを眷属に押し付けるのだ? ……いや、これはある意味では俺もか。
そう思えば、木場が不憫に思えてきた。
報われぬ騎士、悲しい響きだな……。
俺はこのまま、木場祐斗の中のリアス・グレモリーと言う楔を打ち砕くべきなのか
それとも修繕し、あるべき主と騎士の関係を修復すべきなのか。
存在に皹を入れてしまった以上、責任は取らねばなるまい。
具体案は全く浮かばなかったが、その代わりに海道さんの一言が木場に贈られた。
「……それでいいんじゃねぇか?」
「えっ?」
「こういう言葉を聴いた事があるぜ。『夢が無くても、夢を守ることは出来る』ってさ。
夢を持ってりゃいいってわけでもねぇし。俺様みたいなのもいるし?
何のために生きてるかなんて、今決めることじゃないだろ。
ちゅーか、今決まってて凝り固まってたらそれはそれで怖ぇよ。
俺にはもう将来はねぇ。死んじまったからな。けど、どんな形でもお前には将来がある。
それを決めるのは誰でもない、お前なんだからな」
「僕の……将来……」
「そのリアスなんたらってのは俺は知らねぇが、イザイヤの人生はイザイヤのもんだ。
他の誰のものでもねぇ。人生、っちゅーか命は一つだけのものだから……大事にしろよ」
なるほど。確かに海道さんとは悪魔契約を交わしていない。
契約を交わした相手には、一応俺の直属の上司と言える
リアス・グレモリーに関する説明も不可欠だ。
だが、今回海道さんには必要の無い情報と言うことで伝えていない。
これが、こういう形で結実するなんて。
しかし、既に死んだ人に人生について語られると重いな……。
言葉尻に乗っかる形ではあるが、俺からも木場にエールを贈る事にした。
絶対の存在に皹を入れた張本人が、と思われるかもしれないが。
「木場……いや、それともイザイヤと呼んだ方が良いか?」
「イザイヤはもう死んださ。セージ君の好きに呼べば良いよ」
「そうか。なら木場……いや祐斗。
今更だがお前の崇拝するものを汚してしまったこと、申し訳なく思う。
詫びたところで、お前の迷いが断ち切れるわけでもないが……。
だが、これだけは言わせてくれ。海道さんの言葉には、俺は全面的に同意する。
祐斗の道は、祐斗の道だ。それは俺も、イッセーも、グレモリー部長も阻むことは許されない。
だが、もし道が交わったときは……俺に協力させて欲しい」
「もちろんさ。けれど、立ちはだかる者はたとえセージ君でも斬るよ?
君はどうも部長に対して反抗的過ぎる。僕も内心ひやひやしてるよ。
それから……やっと名前で呼んでくれたね、セージ君」
「……それでいい。俺もそのつもりだから。
グレモリー部長のつけた名前を呼びつつ、暗に反目を促すのもどうかと思うけどな。
……って、歩藤誠二もグレモリー部長がつけた名前だったっけか。
あ、下の名前は違うからな。字はともかく、読みは俺のじいちゃんが着けてくれた」
「そうだよ。フフッ、本当にセージ君は怖いもの知らずだね。
その様子なら、何故だかコカビエルが相手でも恐怖を感じないよ」
「己の主たる紅髪の滅殺姫を前に、己の意見をああも貫き通しているんだ。
堕天使の幹部など、何するものぞと言ったところだな。ククッ」
互いに笑い飛ばした後、俺と祐斗の握り拳がぶつかり合い、そのまま握手を交わす。
一連のやり取りは、いつの間にかギャラリーになっていた
虹川姉妹を沸かせるには十分だった。あれ?
「それとセージ君。僕は確かに騎士として部長に仕えているけど
崇拝、ないし恋愛対象として見たことは一度も無いよ?
騎士として、主を守る役目は果たすけど、それだけさ。
イッセー君と恋の鞘当をするつもりも無いしね」
「そうなのか? じゃあイッセーのアレはただのイケメンへのやっかみか。
全く、あいつはハーレムを志す割に器が小さい」
イッセーよ。ライバルが一人減ったぞ。よかったな。
いや、或いは既に気付いて……るわけないか。アーシアさんの気持ちにも気付いてない阿呆だ。
浮かれるのは結構だが、足元をすくわれないようにしてほしいものだ。
ま、そもそも他人の色恋沙汰なぞどうでも良いのだがな。
「それじゃ、そこにいる……セージ君に倣って海道と呼ぶよ」
「おう、なんだ?」
俺の目には海道さんは見えているんだが、祐斗の目には見えていないのだろう。
だから、少々話しづらいものはあるのかもしれない。けれど、そんなそぶりを全く見せずに
祐斗と海道さんは会話をしていた。
「後で、君の曲を聞かせて欲しい。それと、僕の聖剣に対する怨念と、イザイヤの名前。
この二つは君に持っていってほしいんだ」
「イザイヤの名前はともかく、聖剣の怨念なんか俺だって手に余るぜ?
ちゅーか、そのままポイしちまうけどいいのか?」
「ああ。もういなくなったとかつての仲間とこんな形とは言え話すことも出来た。
僕の勝手な思い込みで、仲間を貶める真似はできないよ」
「そっか。実はなイザ……木場か。とにかく、俺はお前に一つ謝らなきゃならねぇ。
俺な……幽霊になってから、ギター、弾けなくなっちまったんだ。
さっきの演奏は虹川の嬢ちゃんだ。折角俺様に期待してくれてるってのに、すまねぇな……」
そうだった。流れでここまで来てしまったが
まだ海道さんのギターの問題は解決していなかった。
困ったな……けれど、今はコカビエルを止めた方がいいような気がするのも事実だ。
その決断を促すように、里莉から準備完了の報せが届く。
「セージ、準備できたわよ!」
「ああ! 祐斗、隣から武器を持ってくるからちょっと待っててくれ」
「わかったよ……ってセージ君待ってくれ! そっちの部屋は……」
「もう行っちゃったよ?」
――――
部室の隣の部屋。ここは開かずの間になっており、鍵やら封印の術式が厳重に掛けられていたが
術式はともかく、鍵は俺には効果が無い。術式の方も、除霊の術式ではないために
ある程度ちょちょいとやれば解く事が出来る。
いつぞや、グレモリー部長の別荘を炙り出したのと同じ要領だ。
実は暇なとき、パズルゲームをやる感覚で術式解きをこっそりやっていたりもする。
出来れば、病院への侵入が出来るように除霊結界の術式解きをマスターしたかったんだが……
……まぁいいか。これは解くのも大変だが、元に戻すのも大変だ。まぁ、そんなもんだが。
ともかく。何故俺がここに来たのか。それは――
――ここに何故か鎮座している棺桶。
この女の子の部屋と見紛う可愛らしい内装に全く似つかわしくない
厳かな雰囲気の棺桶。ゴシック調と言うべきなのか。
罰当たりかもしれないが、これを質量兵器として扱えないかと思ったのだ。
遠くに見えた標的は巨大な相手。今の手持ちの武器では、些か力不足かもしれない。
そう考え、俺はこの棺桶を使えないかと思ったのだ。
いくらオカ研と言えども、まさか本物の死体の入った棺桶を安置するはずが無かろう。
生きた人間は尚更入ってはいまい。これを寝袋にするなど悪趣味が過ぎる。
それにもし本物の死体が入っていたら、死体遺棄でまたまた柳さんか氷上さんの出番だ。
つまり、これはただのレプリカであると俺は判断した。
そして、レプリカならば――
俺はモーフィングを発動させようと棺桶に触れるが、何か話し声が聞こえる気がする。
棺桶の中から聞こえる気がするが……気のせいだろう。
モノがモノだから、そういう風に感じ取れるだけだろう。
逆に迂闊に棺桶を開けるほうが危険だ。
「モーフィング! 『棺桶』を『ハンマー』にするっ!!」
――!?
MORFING!!
EFFECT-STRENGTH!!
一瞬、中性的な声が聞こえた気がしたが……気のせいだろう。
さっきからやたら幽霊を見る気がするから、彼らの声が混じったのかもしれない。
幽霊が漂っていると言うことは、ここで誰かが死んだと言う証左でもある。
……やはり、まずいことになっている。これ以上のんびりは出来ないな。
そうして出来上がったハンマーを片手に、力を増加させながら俺は出撃の準備を整えた。
ライブ会場になった部室に戻ると、なにやら妙な目が俺に向けられている。何故だ?
「……セージさん、それは……」
「……うん、独特でいいと思うんだけどさー……」
「せ、セージさんには……」
「ちゅーか、もっとマシなデザインはなかったのかよ?」
「無いわー、セージの体格でそのデザインは無いわー」
ふと、担いできたハンマーを見ると異様にフリフリなデザインであった。
ハンマーは結構無骨なデザインのものが多いのだが
これはそんなものとは真逆の方向性に位置している。
な、何故だ!? こんな風に意識してモーフィングしたつもりは無いんだが?
それとも、あの部屋の雰囲気に中てられたか?
「お、俺が知りたい! 俺だってこんなデザインになるとは……」
「セージ君、隣の部屋って今言ったよね……?
い、いや、まさかね……」
祐斗。何なんだその思わせぶりな態度は。
まるで俺はまずい物をモーフィングさせたみたいじゃないか。もしかしてそうなのか?
まあ、いずれにせよこれが見た目どおりの性能なのかそうでないのか。
使ってみないことにはわからん。使い方は頭の中に入ってくるんだが。
MEMORISE!!
えっ? 何で記録したんだ? モーフィングした装備も記録できるのか?
以前フェニックス戦で使ったときには、そんな機能は無かったと思うが……
確かに今もやろうと思えば校庭の砂を磁石にするのは出来るが
カードでそれをやるのは出来ない。
「武器の記録が出来た? ……ギャスパニッシャー、か。
まぁ名前はともかくとして、何故だ?」
『単純な話だ。知っての通り
それだけの事だ。強くなることは、今の段階では悪いことではないと思うぞ?』
俺の側のドライグからも指摘があるとおり、強化自体は悪いことではないはずだ。
まして、今から規格外の相手と渡り合うのならば。
しかし正直、際限の無い強化は恐ろしくもある。何処に行くのかが分からないから。
その力は、果たして己の身を滅ぼす毒とならないだろうか。
進化の果てに自滅した生物もあると聞く。
ただただ強ければいいってモノじゃない、とも思うが。
まぁ、それは今考えることではないよな。
それよりさっきから祐斗が脂汗をかいているような気がするんだが。
武者震いなら分からんでもないが、脂汗とは穏やかじゃないな。どうしたんだ?
「……祐斗、気分が優れないのか?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……
せ、セージ君……実はだね――」
「さぁさ、そろそろゲリラライブ始めるよ!」
祐斗の言葉を遮るように、芽留の声が響く。
準備が出来たみたいだ。いよいよ、か。
祐斗、大した話じゃないなら後にしてくれないか? これ以上のんびりは出来ないと思うんだ。
体調が悪い様子でも無さそうだ。それならそれで良いんだが。
「……何故かは知らないけど、ここにはいっぱい幽霊がいる。
セージさん、彼らのためにも演奏していいですか?」
「……ああ、勿論だ。最高のライブを期待するよ。
行くぞ祐斗、その間は俺達でPVの演出と行こうか!」
「そ、そうだね。番長と王子の風変わりなセッションだ。悪くないんじゃないかな?」
「……義経と弁慶でいいんじゃないのか?」
「じゃ、和風ロックテイストだね! 私達にまっかせなさい!」
まぁ、俺が弁慶だろう。本家本元の弁慶ほど俺は偉大ではないと思うが。
虹川姉妹の楽器の演奏が始まると共に、俺達はそれぞれ剣とハンマーを手に窓から飛び出す。
目指すは怪物の足元。まずはこいつらを始末しないことには始まらない。
「……木場、死ぬんじゃねぇぞ。折角助かった命を無碍に扱うなんざ
リアスなんたらが許しても、俺様が許しゃしねぇ。ちゅーか俺達の所に来るには早ぇからな?
これは他の連中も同じこと考えてると思うぜ。歩藤、木場の事頼むわ」
「……微力を尽くさせてもらいましょう」
「……もちろんさ。もう僕は死ぬつもりなんてないからね。
君達の分も、この剣に賭けて生きるよ。じゃあセージ君、行こうか」
――ああ。皆が安心して眠れる世界。大それたことかもしれないけど、今ここで戦うことで
それを守れるのなら。戦わない選択肢などある訳が無い。生きている者も、死んだ者も。
今このときは、皆の魂のために俺は戦いたい。
だから虹川さん、海道さん、祐斗。力を貸してくれ。
今このときは、俺の身体の事は置いておこう。それより大事な事があるんだ。
その大事な事のために、俺の、俺達の力を見せてやろうじゃないか。
セージはギャスパーの存在を知りません。
そのためギャスパニッシャーがどういう性能かは次回のお楽しみと言うことで。
ネーミングモチーフ的にはメイスなんですが、棺桶と言う形状でハンマーです。
ネーミングモチーフも「ファイトオブハンマー」って歌ってるし!
ギャー君は犠牲になったのだ……
ファイナルフォームライド、その犠牲にな……
話の展開的には木場がファイナルフォームライドしそうだったのですが
彼はこの後大事な展開があるのでファイナルフォームライドさせるわけには
行かないですし、今回のファイナルフォームライドは事故みたいなものですので。
セージはギャスパーの存在を知りません(大事な事なので
セージが虹川姉妹にリクエストした楽曲は
仮面ライダーGIRLSの「E-X-A」「時の華」あたりをイメージしてもらえれば。
彼女らの原作楽曲も悪くないんですが、この場面では少々、だったので……。
海道さんの「夢が無くても、夢を守れる」発言はお察しの通り
たっくんの「俺には夢がねぇ。けどな、夢を守ることは出来る」からです。
4号での設定、泉氏の鬼籍等で555が前よりも重く感じるようになったのは
私だけでしょうか。
今に始まったことではありませんが、ハイスクールD×Dネタよりも
ライダーネタの比重の方が大きくなっている気はします。
これは可能な限り修正したいとは思っていますが
いかんせんHSDD原作のエロやらおっぱいをかなり取り除いているため……。
私自身は別にそういうのは嫌いではないのですが
原作みたいに真面目な場面でやられると非常に萎えてしまうので
結果としてこういうちと堅苦しい話になってます。
そしてこの傾向は今後も続きます。
イッセーはともかく、セージにヒロインいませんしね!
いつか機会があればもう少しHSDD原作寄りの二次を書ければとは思ってます
(やるとは言ってない、これ重要)