俺、歩藤誠二は生霊で、悪魔である。嘘みたいだが一応そういうことになっている。らしい。
らしいというのは、俺は俺自身のことがよくわからない。
記憶喪失とかそういうものかどうかは、イマイチわからない。
この歩藤誠二という名前すら偽名に近い。セージという呼び方自体はあっているのだが
それ以外はさっぱりだ。その名付け元になったのが俺の霊魂としての憑依先、兵藤一誠。
こいつも色々あって普通の男子高校生のくせに悪魔をやっている。
そんな俺達が今何をしているのかというと――公園で黄昏ていた。
まだ日が高いこの時間、俺は外に出ても自分の実体が無い。
霊魂なんだからある意味当然っちゃ当然だが。
その為、俺はイッセーの精神の中から外の様子を見ている。
『イッセー。いつまで黄昏てるんだ。話を聞く限りじゃ森沢さんもミルたんもいい人じゃないか。
それに、お前俺以外の霊魂見えないだろ。だから木場んところのお客さんはともかく
虹川さんをお前に紹介するのはどう考えても無理だぞ。それともあれか? 妄想で補うか?
ライブ会場は幽霊屋敷だったりお墓だったりでとてもそんな気になれないと思うがな』
と言うか、俺の沽券にも関わるから俺のお得意先に手を出すな、と付け加えておく。
やれやれ。女と見るやすぐこれだ。先日、幽霊四姉妹の所で念願の契約をとってきたのだが
イッセーに逆恨みされている。余程濃い面子に出くわしたんだな……特にミルたん。
正直、俺はその件については素直に感心してるんだが。
俺が行った日には多分ショックで除霊されてるかもしれないぞ?
だが濃さでは負けてないつもりだ。あれからそれぞれのパートを聞くことになったんだが
あれは……うん。合奏にしないとダメなタイプだ。纏まらなくなる。
向上を図るなら、ソロライブが当面の目的になるかもしれない。
『まー、なんだ。そも俺らは悪魔で、お客さんの希望がなきゃ行けない。
こっちの都合でお客さん選べないだろ。これは昨日も部長が話してたと思うんだが』
「それはそうだけどよ、けど納得いかねぇんだよ。木場んところは美人のお姉さまで
お前んところは美少女四姉妹だろ。こちとら男に漢だぜ?」
わかった、わかった。何度目だよその話。そんなにミルたんがショックだったのかよ。
あと表歩いてる時に俺と喋るときは気をつけろ、一人で喋ってる怪しい人に思われるぞ?
一応俺の声は外に届くみたいだが、声の主がそもそも視認できない。
新手の腹話術状態、って奴だ。
とりあえず、俺はいい加減イッセーに移動するよう促す。マジで暇なんだよ、日中は。
いいからどこか行こうぜ、と声をかけようと思った矢先、後ろで誰かが転んだようだ。
声からして女の子か……イッセー、変な気起こさないでくれよ?
あの転び方は顔面から行ったな。顔に傷とか付いてなきゃいいんだが。
とりあえず、俺――と言うかイッセーが転んだ少女に声をかける。
……ん? この服、コスプレじゃなきゃ教会関係者の服だよな? もしかしてシスターさん?
マズいなぁ。俺ら悪魔だしなぁ。いきなり退治とかされるのはご勘弁願いたいんだがなぁ。
そうは見えないけど。
そう考えてた矢先、イッセーの様子が少しおかしい。
ちっ、変な気起こすなと思った矢先からこれかよ。
けどまぁ、セクハラかます様子じゃないみたいだし、しばらく様子見でいいか。
……そういや、俺の
ちょっと起動してみるか。
BOOT!!
イッセーの頭の中にも音声が響いているが問題はない。
何せこの神器、単体では殺傷力ゼロと認定されている。いきなり神器を起動させたって
訝しまれる事は無いって事だ。使ったことはまだ片手で数えられる程度だが
すんなりと俺は展開した神器からカードを引き、かざしてみる。
ここで俺はイッセーとの五感共有を切る。
表示データをイッセーにまで開示するのは、ちとマズい。要らん混乱や誤解を招きかねない。
COMMON-LIBRARY!!
ふむふむ、なるほど。アーシア・アルジェント。教会内部では聖女と崇められ……
ん、これ以上はプライベートか。流石にロックがかかってるな。
調べりゃ出るのだろうけど、別に他人のプライベートをあれこれ詮索する趣味は無い。
名前と、教会のシスターってことがわかればいいか。
――ってちょっと待て!
ここはロックがかかってなかったから読めたが、悪魔さえも治療する能力の部分!
これって
これについては……ってこれ以上もロックがかかってるか。
ま、ロックがかかってるんなら詮索するのも野暮だし大体、察しがつく。いや、ついちまう。
大方「異端の者を治癒するコイツは悪魔の手先だ!」的なことを言われたのだろう。
神器持ちは因果な奴が多いなぁ。俺然り、イッセー然り。
言葉の壁については悪魔の能力ですんなり解決している。なんてご都合主義だ。
いざとなればまた
あ、これもご都合主義か。
『ざっと調べたが、悪人の類じゃない。とりあえずは信用に値すると俺は評価するよ。
よかったなイッセー。念願の女の子の知り合いだぞ?』
「ばっ、そりゃ確かに嬉しいけどよ、俺はあくまで人助けの一環でだな……!」
イッセーによると、アルジェントさんは教会の場所がわからなくて困ってたらしい。
そこを場所を知っているイッセーが案内することになったんだが……
お前、教会行って大丈夫なのか? ちなみに俺はダメだ。
実体化するどころか、冗談抜きで除霊される。
が、ここで思わぬ事態が発生したのだった。
「あの、誰と話してたんですか?」
「『えっ?』」
やべ。さっき俺が忠告したことをすっかりお互い忘れてた。イッセーは
「あはは、俺って独り言多くってさ」
と誤魔化してる。そんなんで誤魔化せるものか。かなり今普通に話しかけて、応対してただろ。
ところが、アルジェントさんはそれをそのまんますんなりと信じてしまっていた。
よく言えば素直、悪く言えば世間知らず過ぎる。
イッセー、アルジェントさんの中でのお前の評価が
「独り言の多い男」になってしまった事は俺の責任だ。だが俺は謝らない。
どの道お前の評価はさらに下降すると危惧してるからだ。
そんなこんなで公園を通りかかった際、転んだのか膝をすりむいて泣いている子供がいる。
そんな子を、アルジェントさんは
なるほど。伊達にシスターさんはやってないってことか。
しかし、そんな様子を隣にいた母親は頭を下げつつも
アルジェントさんをまるで化物を見るような目で見ていた。
……ちっ。今日は色々な意味でイライラする事の多い日だな。
仮にも母親なら子供の傷が治ったことを喜べよ。礼は確かに言ってたけど
そのあとの態度、それ何なんだよ。親はなくとも子は育つ、どうか健やかに育ってくれ少年よ。
イッセーも同意見らしく、今度あのクソ親に会ったらドラゴン波をぶちかますとまで言っている。
そこまでやらなくてもいいって。俺のビッグバン砲もつけてやるからさ。
だが、子供の方はきちんと理解していたらしく、お礼を言っていた。
それをイッセーが翻訳している。
俺達は翻訳機いらずだが、アルジェントさんにはそれが無いからな。
そう考えると、やっぱキツいな……そんなキツい中に、あの子供のお礼の言葉は
アルジェントさんにとっての清涼剤となったようだ。よかった。
イッセーは件の神器について気になっているようだ。
これは伏せておいて正解だったかどうかまでは――何とも言えんな。
まあ、アホみたいにドライグの左手を見せびらかしてない分、正解だったと思うべきか。
MEMORIZE!!
――え? 俺の思案を遮るように俺の左手から流れた電子音声。あらら、やっぱり発動したか。
俺の左手のもうひとつの能力――見た力を記録する力。俺の左手。もう少し空気読んでくれ。
イッセーでさえ空気読んでるってのに。ともあれこれで、俺の手札はひとつ増えた。
まあ、状況が状況だから素直に喜べないんだが。
それにしても……現地の協力者はいないのか?
普通、こういうのは現地の協力者がいるものだと思うんだが。
さっきからイッセーも言葉少なになっているので、空気を打開しようと
イッセー越しに聞こうとも思ったが、やめた。これで墓穴掘ったらえらいことになるかもしれん。
例えばそう、集合場所を間違えて迷子になってただけとか。
しかし結局、イッセーが教会まで送り届けるまで教会側の協力者は一度たりとも現れなかった。
教会に近づくに連れ、俺達にはどうも不快感が強くなる。こればかりは仕方ない。
ペンギンが空を飛べないように、悪魔が教会に近寄ればこうなるのは自明の理だ。
俺もイッセーも、さっさとこの場を退散したかった。
イッセーの方は案の定、名残惜しそうにしてるが。
お互いに名乗り、再会を願いながら互いの帰路に着く。
俺は……そっか。こういう時、名乗れないな。
最近幽霊相手の仕事が多いから気にしてなかったが、俺は日中「存在しない」んだった。
……ま、今考えることじゃないな。今度は、イッセーにとっていい出会いであるといいんだが。
『アーシア・アルジェントさんか。いい子だったな、イッセー』
「ああ。けど、俺達は悪魔で、向こうはシスター……
なあセージ。悪魔って、人間と同じくらいに辛いよな」
……ああ。それにしても今日はよく意見が合うな。
これくらいスケベ根性抑えてくれればお前はいいやつなんだよ。
だがイッセー。そろそろいつものお前に戻ってくれ。調子が狂う。
そんな狂った調子でその夜、俺達は部長の前に立たされ、お説教をくらっていた。
それでも、お説教が終わる頃にはいつものイッセーに戻っていた。
本当、お前は部長には甘いな。
だが俺は正直、部長――リアス・グレモリーを心の底から信用できない。
眷属なんだから選択肢はゼロなのだが、それでも……得体の知れない不信感を感じるのだ。
まるで、俺のことを付属品か何かとしか見ていないような、そんな――
――む。今日の俺はやけにセンチメンタルだな。やはりさっきの件が響いているのかもしれない。
そのせいで、俺は追加のお説教を喰らうことになったのだが。俺、そこまで上の空だったか?
まあとにかく、仕事をしっかりこなしている以上は、イッセーの付属品扱いはさせないつもりだ。
そんなことを考えていた矢先、姫島先輩が後ろから現れる。気配殺してましたよね今?
彼女が現れた理由。それは、はぐれ悪魔の討伐指令だった。
ワイズマンペディアのチート能力の片鱗が見えました。
ラーニングとかそういう能力です。
しかも敵味方問わず見るだけで可能というFF6仕様。
影薄いけどあのじいさんチートだと思うの、青魔的に。
あと、ちょっとセージがリアスに対して辛辣な点について。
この作品は基本セージ視点なので描写し切れていませんが
リアスから見たら「神器の持ち主転生させたら特典ついてきたラッキー」
って感覚が少なからずあると思うんです。
で、ウエイトをイッセーに置くとどうしてもセージが軽くなる。
3巻以降はともかく、1巻時点でも結構イッセーに
ベタベタしてた風に見えましたので。>リアス
セージはモロにそのあおりを受けちゃった感じです。
最も原作じゃイッセーは唯一無二の存在だったが故にベタベタだっただけとも
取れますが。それでも基本原作に倣う形の本作ではセージが割り食ってます。