ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回はセージ視点から一旦離れます。
三大勢力の和平会談に向かって事態が動いている頃
人間界の生活も影から変化がいよいよ大きく現れ始めます。


……それに伴い、結構えげつない描写があったりします。
また、固有名詞以外ハイスクールD×D要素が全くありませんが
そこは気にしたら負け、で。

和平会談前の駒王町の様子という、原作にない場面でもありますし。


Tragedy of juvenile crime

その日、超特捜課(ちょうとくそうか)はある事件のヤマを追っていた。

ここ数日に急増した駒王町内における、少年犯罪だ。

その内容は一昔前の恐喝やひったくりも含まれるが、中でも目を引くのは

ドラッグ――つまり、薬物絡みの犯罪だ。

 

薬物犯罪の低年齢化はここに限った話でもないが、それは見過ごす理由には全くならない。

捜査を進めていくうち、それらは駒王町を拠点とする

二つの学校の生徒が大きく関与している事が分かった。

 

一つは、学生の間でも悪名高い出素戸炉井高校。

そしてもう一つは、幼稚園から大学までの一貫であり優秀な人材を多数輩出している

名門校・金座(かねざ)学園。

この正反対の二つの学園の生徒が、昨今の駒王町の少年犯罪の主翼を担っているのだ。

 

時刻は夕方を間もなく迎えようという頃。駒王町にあるショッピングモールには

学校帰りの学生がたむろしており、先に挙げた二つの学校の生徒も例外ではない。

となれば、警察の目が向くのも至極当然の事。

 

「フン。やっぱアイスは棒に限るな」

 

安玖(あんく)巡査。一応職務中なんですが」

 

警らに当たっているのは駒王警察署超特捜課の氷上(ひかみ)巡査と

フードコートのアイス屋で買ったアイスを頬張りながら歩く同じく超特捜課の安玖巡査。

制服で巡回を行っては目立ってしまうため、私服巡回を行っているのだが――

 

「それにその格好はまずいんじゃないですか。制服も目立ちますが

 その私服だって、悪目立ちしすぎると思いますが」

 

「おい。俺がダメだったら(やなぎ)の奴のジャケットだってアウトだろうが。

 あっちがよくてこっちがいいなんてダブルスタンダードは、ガキどもにも舐められるぞ」

 

安玖の服装は、派手めのシャツに赤系のロングレザーパンツと、おおよそ警官らしからぬ格好だ。

普通の黒系のスーツで固めている氷上とは、浮いてしまうほどに差がありすぎる。

しかし安玖の言うとおり、上司である超特捜課の課長・テリー柳の私服である

赤いレザージャケットもまた、悪目立ちしてしまう服装だ。

氷上の指摘は、彼の不器用な性格同様から回りしてしまう事となってしまった。

 

そもそもそれ以前の問題として、何故彼らがここにいるのか。

勿論、通常業務である町内警らの一環でもあるのだが、昨今の少年犯罪増加の報せを受け

青少年の多く集まる時間帯・場所である今このときに、こうして警らを行っているのだ。

 

では何故、通常の少年犯罪課ではなく彼らなのか。

彼ら超特捜課は、通常の人間による犯罪ではなく、悪魔や堕天使と言った超常的な存在による

犯罪を食い止めるべく結成された部署である。

そんな彼らが動くと言う事は、即ち一連の事件の裏にそうした存在が確認されたと言う事である。

 

「しっかし……何で俺らがガキどもの見張りをしなきゃならないんだ?

 こういうのは少年犯罪課か生活安全課の仕事だろうが」

 

「そうもいきませんよ。曲津組(まがつぐみ)と悪魔、曲津組と学生。これらに繋がりがあるって事が

 今までの調査で判明してるんですから。前回の強盗事件の時のように

 悪魔が出てきてもいいように我々が動いているんですから」

 

数日前、指定暴力団組織である曲津組の組員を自称する者による銀行強盗事件が起きた。

その際、彼らは悪魔を召喚し、自分達のボディガードに当たらせたのだ。

最も、その悪魔は市井の神器(セイクリッド・ギア)持ちの男性によって撃退され

自称組員はお縄につくこととなったが。

 

その事件を受け、曲津組が悪魔を使役する事が明るみに出たこともあって

警視庁はかねてから計画していた、超特捜課への曲津組対策の協力要請を実行に移したのだ。

その一環でやって来たのが、安玖巡査というわけだ。

 

「んなこたぁ知ってるんだよ。そのお陰で俺がこっちに来たんだろうが。

 しっかし……本当にこの町は悪魔が大手を振って歩いてやがるな。

 ほら、あの広場でチラシ配ってる奴。アイツも悪魔だ。

 ……ま、今回の件には関係なさそうだがな。聞き込みしたって無駄だろう」

 

安玖巡査の右腕に装備された腕輪型の神器「欲望掴む王の右手(メダル・オブ・グリード)」のお陰か

悪魔とそうで無い者の見分けは容易い。

元々は欲望に対し反応する神器なのだが、人と悪魔とでは欲望の種類が若干、異なる。

その大元は同じなのだが、欲望の発展の仕方が少し異なるのだ。

本人曰く「欲望の色が少し違う」との事らしいのだが。

 

ショッピングモールの広場の一角でチラシ配りをしている女性を指し示し

安玖巡査は彼女が悪魔であると語る。

実際、彼女はリアス・グレモリーの使い魔であり悪魔に連なるものに変わりはなく

また、安玖巡査の指摘通り、彼らが追っている事件とは全くの無関係だ。

 

「生活安全課に言うべきでしょうか?」

 

「やめとけ。相手は悪魔だ、催眠術やら何やらで言い逃れされるのがおちだ。

 俺たちが行けば取り締まれもするだろうが、今それ躍起になることか?」

 

安玖巡査の言い分はこうだ。生活安全課と超特捜課は別段不仲では無いものの

超特捜課が命令もないのに生活安全課の仕事をするべきでもない。

まして、超特捜課は現在組織犯罪対策本部より曲津組摘発の協力要請を受けている。

そちらを優先するのが筋と言うものだろう。

 

「それもそうですね……安玖巡査、あれを!」

 

「あん? ……ああ、ありゃあ間違いないな」

 

二人の刑事が目を向けた先は何の変哲もないCDショップ。

そこの陳列棚の前で、不審な動きをしながら通り過ぎる、駒王学園の制服を着た学生。

直後、陳列棚にあったCDの数枚が、学生の持っているかばんの中に入り込んでいった。

万引きである。その一部始終は完全に二人の刑事に見られていたのだ。

 

「安玖巡査。あれは見逃せないですよね……あのまま外に出ればですが」

 

「たりめぇだ。ったく、せめて裏で曲津組と絡んでて欲しいもんだな」

 

これには安玖巡査も前言を翻さなければならない。

まさか、現行犯を見てみぬ振りも出来ないからだ。

せめて、そのまま彼がレジに向かえばまだよかったのだが。

かばんに入れておいてそんな事をするはずもなく、学生は店の外に出てしまおうとする。

当然、そうなる前に二人の警官が学生の足を止める。

 

「なっ……なんですか」

 

「駒王警察署の氷上涼(ひかみりょう)巡査だ。

 すまないけど、店の人も交えた上できちんとお話がしたい。

 ついて来てもらえるかな」

 

しどろもどろな対応を見せる学生だが、氷上が見せた桜の大紋に事態を飲み込んだのか

観念して二人の刑事に従う事となった。

 

――――

 

店の裏。学生の言い分はこうだ。

自分は、他の学校の生徒に脅されて仕方なくやった。

前々から、その学校の生徒は何かに付けて駒王学園の生徒を目の敵にしている。

その学校がどこかは言えない、言ったら殺される。

 

あまりの出来事に動転している部分もあるのかもしれないが

話の内容としては筋が通っており、納得のできるものだった。

 

「よく話してくれた。確かに、万引き――泥棒は立派な犯罪だけど

 犯罪の幇助も当然、犯罪だ。後は自分達が何とかする。

 店の人も、未然に防げて事もあって今回は君のことを訴えないって言っているから

 今後はこんな事をする前に、学校か自分達に話して欲しい」

 

「学校は……ダメです。今の学校は、何か得体の知れないモノに支配されていて……。

 信じられないかもしれませんけど、駒王学園には幽霊や怪物が出るんです!

 最近では白昼のポルターガイストとか、右手のない幽霊とかまで出るようになって……。

 でも、折角入った学校をやめるなんて事も出来ないですし……」

 

「怪物ねぇ。氷上、俺達にはうってつけの案件じゃねぇのか?

 っつーかな。学校やめたくないんだったら犯罪に手染めんじゃねぇよ」

 

たちの悪い怪談話のような学生の証言だが、氷上も安玖もそれを一笑に付すこともなく

しっかりと耳を傾けていた。それは話した学生自身も驚きの事だったが

そもそも超特捜課は悪魔や幽霊など超常的なものを相手にする部署だ。

今回は偶々万引きの現場に彼らが居合わせたため、警官としての職務を果たしたに過ぎない。

 

……最も、彼の言う怪物はともかく、幽霊はいずれも基本害を為さない存在だが。

今でこそ幽閉されている件の幽霊は、人間の味方であろうと願っている事を

この生徒は知る由もない。

 

「よかったな坊主。俺たちはな、警官は警官でも

 『怪物とだって戦える』警官なんだ。怪物にびびってるんなら、心配はいらねぇ。

 だからさっさと話せ。お前に万引きを指示したやつらが、どこの奴か。

 それとも……やっぱり全部お前が考えてやったのか?」

 

「ち、違います! だ、だったら……お願いがあります!

 その怪物をやっつけてください!

 丁度これから、そいつらと会う手筈になってるんです……

 僕が相手の学校の事を言えないのも、その怪物が後ろにいるからなんです……」

 

学生が言うには、万引きさせたものを受け取るために

これから万引きを指示したグループと落ち合う手筈になっているとの事。

そこに、氷上と安玖が乗り込み全員逮捕、と言うわけである。

 

しかし、学生はこうも言っていた。

グループのバックにはとても怖い奴がいて、下手に逆らおうものなら怖い目に遭う、と。

そのため、彼も中々学校や警察に言えずにいたのだ。

その怖い奴こそ、怪物だと言うのだが――

 

その話を聞いて、氷上も安玖も合点がいった。

――間違いなく、その怖い奴は悪魔ないし超常的な存在であり。

それは、曲津組がバックにいるか、少年犯罪グループが悪魔と契約しているか、のどちらかだ。

 

「念のため、柳さんに報告もしておきました。

 後は、我々が彼に同行してグループを取り締まるだけですね」

 

「向こうもこいつが捕まった事を知ってるかもしれねぇ。

 準備はしておいたほうがいいかもなぁ?」

 

相手がただの学生グループならまだしも、暴力団関係者、果ては悪魔だったりしたら

事はかなり大きくなってしまう。かと言って、何の準備もなしに乗り込んで

悪魔に出てこられたら、いかに超特捜課と言えども返り討ちだ。

匙加減の難しい話だが、それが人間と悪魔の関係でもあり

人間社会に悪魔が入り込む事の意味する事でもある。

 

――――

 

学生に案内され、ショッピングモールの地下駐車場にやって来た氷上と安玖。

人通りは少なく、監視カメラも死角が多いために密会にはうってつけの場所ともいえる。

また、地下特有の鬱屈とした空気が怪異の存在を呼び込みかねない空気を生み出している。

かつて、セージがはぐれ悪魔を単独で撃退したのも

丁度この地下駐車場から出てすぐのところだった。

 

車が何台か止まっているスペースの一角に、学ランとブレザーの一団がいる。

学ランが出素戸炉井、ブレザーが金座高校の生徒だ。

彼らの前に、恐る恐る万引きをさせられた駒王学園の生徒が現れる。

氷上と安玖は、柱の影からその一部始終を見守っている。

 

「よう。約束の品は持ってきたか?」

 

ブレザーの生徒に促され、駒王学園の生徒は恐る恐るCDケースを渡す。

これは店に陳列しているサンプルであり、本物ではない。

事情を聞いた店側が用意したのだ。

 

「……ちっ。こいつはサンプルじゃないか。使えねぇな。

 おい、もう一辺行って来いよ」

 

「ねぇ、まだなのぉ? あたしぃ、早くこの曲聴きたいんだけどぉ」

 

悪びれる様子もなく、ブレザーの女子生徒が早く行けとばかりに

駒王学園の生徒を急かす。

動く事を渋っていると、今度は学ランの生徒に胸倉をつかまれる。

 

「ま……またですか? や、やったら見逃してくれるって言ったじゃないですか……」

 

「あぁ!? いいから早くしろっつってんだよ!」

 

学ランの生徒の蹴りが駒王学園の生徒の尻に入り、倒れこむ。

その様子を眺め爆笑するグループ。

まるで出来の悪いバラエティ番組か何かだと思っているのだろうか。

勿論、やらせでやっているそれとは全く異なるのだが。

 

「おっ、今の蹴りいいじゃ~ん? なぁ、今度こいつがどじったら

 みんなでいっぺんずつ蹴り入れるってのはどうよ?」

 

ブレザーの生徒の提案に、グループ全員の賛同の声が上がる。

再び生徒を万引きに行かせようとしたその時。

サイレンを鳴らさずにパトカーが入り込み、少年グループを包囲。

ヘッドライトでグループを照らしつける。

 

「そこまでだ! 今までの行動は、全て録画録音しておいたぞ!」

 

「揃いもそろってしけた欲望だな。罪状を読み上げてやろうか?

 恐喝・暴行・犯罪幇助。少年だからって言い訳は今はきかねぇぞ?」

 

氷上と安玖が駒王学園の生徒をかばう形で躍り出て

出素戸炉井と金座の生徒に罪状を突きつける。

しかし、彼らの応対は全く物怖じしないものであった。

それは、若さゆえの無鉄砲ではなく、権力を笠にきた薄汚いものだった。

 

「警察!? チョー受けるんですけど!

 こんなところにやってくるなんて、随分暇なんすね刑事さん!」

 

「だってぇ、アタシら金座だしぃ?

 金座ならぁ、警察だろうとなんだろうと怖くないってセンパイ言ってたしぃ」

 

「けっ、そんな事だろうと思ったぜ!

 警察が怖くてやってやれるかってんだ!」

 

「そうよ! 手出しできるもんなら出してみなさいよ!

 警察官に暴行を受けたって訴えてやるわ!」

 

「なぁ刑事さんよ。俺たちはこの町を牛耳る、いや牛耳ってるお方の庇護を受けてるんだ。

 そんな俺らに手出ししちゃっていいのか? お偉いさんが黙ってないと思うぜ?

 それとも……さっきのアレ、真に受けてたりするわけ?

 だとしたらチョー受けるんですけど! あんなん遊びだよア・ソ・ビ!」

 

彼らの言いたいことは歪んでいるものの、要約すればこうだ。

自分達は善良な一般市民、それも少年である。

警察はそんな自分達を不当に取り締まろうとしている。

もしそうなるのであれば、然るべき場所に訴える、と。

 

しかも、さっきの自分達の行いは遊びである。

それを真に受けて、取締りなどされてはたまったものではない、と。

 

「……嘘ならもっとマシな嘘をつくんだな。

 実際に被害届が出てんだよ。このショッピングモールのCDショップ、アクセサリー屋。

 それから他にも色々とな。店員の証言もしっかり出てるんだ。

 防犯カメラの映像を見たっていい。つまり、何が言いたいのかって言うとだな……

 

 ……大人なめんな、ガキ」

 

「舐めてるのはそっちのほうっすよ刑事さん?

 俺たちはねぇ……悪魔。悪魔なんだからよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

安玖の凄みにも物怖じしないどころか、逆に凄み返す始末。

だが、実際に悪魔と戦える実力を持つ安玖を前にしては、まさしく児戯と言えよう。

その凄みは氷上にも向けられていたが、当然こちらにも効果はない。

 

「言いたいことはそれだけか。後は署でゆっくりと聞く。

 さあ、早くパトカーに乗るんだ」

 

「……っ! 氷上、後ろだ!!」

 

彼らの凄みを無視して氷上がグループをパトカーに乗せようとするその時だった。

 

――背後からの奇襲。そこには、駒王学園の生徒がいたはずである。

だが、そこにいたのは灰色の甲虫のようなはぐれ悪魔。

ドラゴンアップルの害虫とも呼ばれるタイプである。

左胸部分についた駒王学園の校章が、それがさっきまで氷上や安玖と会話していた

生徒その人であることを物語っていた。

 

「ゥォォォォォォォン……」

 

「な……っ!? 悪魔化したというのか!?」

 

「え……こ、こいつって一体どうなってんのよ!?」

 

思わず身構える氷上だが、はぐれ悪魔はさっきまで駒王学園の生徒を苛めていたグループに対し

敵意を向けている。まるで、今までの復讐であると言わんばかりに。

次の瞬間、はぐれ悪魔の爪が出素戸炉井の生徒に突き刺さる。

その傷口からは人間界では見慣れない植物が芽吹く。

まるで、傷口から命を吸い尽くすかのように。

 

「ぐああああっ!? な、なんだよこれ……なんだよこれぇぇぇぇぇっ!?」

 

「や、やばいって……」

 

「に、逃げるぞ!」

 

出素戸炉井の生徒を見捨て、金座の生徒は我先にと逃げ出そうと試みるが

はぐれ悪魔は背中から羽を生やし、背後から金座の女子生徒を突き刺す。

傷口からはやはり同じように、植物が芽吹きだしていた。

痛みと非現実的な現象に、混乱をきたしてさえいた。

 

「い、痛い……イタイ……たす……けてぇぇぇ」

 

「ひっ……く、くるな……くるんじゃねぇぇぇ!!

 あ、あっち……あっちいけぇぇぇぇ!!」

 

リーダー格の生徒の言葉を引き金にしたかのように

女子生徒もまた、甲虫型のはぐれ悪魔に変異する。

怒りとも悲しみともつかぬまま、リーダー格の生徒を爪で滅多刺しにして。

 

「ひどイ……カノジョだっテ……いっダのニィィィィィィ!!」

 

そこからは、残ったグループの生徒も我先にと逃亡を試みるが

統率の取れていないその行動が仇となり、却って危険に晒される事となってしまった。

その突然の出来事に反応が遅れてしまったが、氷上と柳も制止のために動き始める。

 

「安玖巡査!」

 

「チッ、神器使うのだってタダじゃねぇんだぞ!」

 

安玖の持つ神器「欲望掴む右手」は持ち主の持つ何らかの財産を糧に発動する。

物的なものに限らず精神的な財産でも発動するが、動作が不安定になるため

専ら物的財産を糧に発動させている。そのせいで安玖は生活に困窮しているとかいないとか。

その分、性能は折り紙つきといえる。

 

昔、冥界の協力を得て人間が欲望を糧に動くホムンクルスを製造しようとした事があった。

この神器は、その製造過程で生まれたものだ。つまり、代償を支払い

ホムンクルスの持っていた力を再現する事ができると言うのである。

それから時は流れ、神器のシステムも不安定となり、メンテナンスをするものもいない。

まして製造年代は気の遠くなるほど昔。

安玖でさえ、その性能を完全に発揮しているわけではない。

火球を放ったり、空を飛べたりするのは十分すぎるほどの高性能だが。

 

……しかし、場所が悪すぎる。

地下駐車場の、限られた一角においては火球発射能力もそうだが

飛行能力などあまり役には立たない。

 

氷上も無線連絡後、神経断裂弾入りの銃やプラズマフィストの準備を進めている。

相手が純粋に怪物であれば、容赦なくこれらの武器を叩き込めたのだろうが

今回は、さっきまで普通に人間だった相手である。

そんな彼らに武器を向けることに、氷上は躊躇うも発砲する。

 

「おい氷上! 狭いがここでなんとかするしかねぇな!」

 

「そうですね、外に出たら大騒ぎだ!」

 

変化してしまったものを救う手立てはない。例えあったとしても、氷上も安玖も知らない。

被害を増やさぬためにも、倒すしかないのだ。

どういう経緯で駒王学園の生徒がはぐれ悪魔になってしまったのか。

それは今は、分からない。分かるのはただ一つ。

目の前にある明確な脅威として既に存在している事。ただそれだけである。

討つ事に抵抗がないわけではない。だが、討たねばならないのだ。

 

「ゥゥゥォォォォォォ……」

 

その悲しげな声を辞世の句に、かつて駒王学園の生徒だったはぐれ悪魔は

神経断裂弾を頭部の顔部分に受け、そのまま地に伏した……。

 

それを皮切りに、次々とはぐれ悪魔は撃退されていく。

被害は最小限で済んだが、悪魔化した少年達が元の姿に戻ることは

終ぞ、なかった……。

 

――――

 

現場検証が行われたのは、その後すぐの事だった。

報告を受けた超特捜課課長、テリー柳と外部協力者の技術顧問、薮田直人(やぶたなおと)も顔を出している。

 

「……事情は分かった。災難だったな氷上、安玖。

 少年犯罪課への報告は俺からやっておく。お前たちは休んでいろ」

 

「そうさせてもらうぜ。さ、帰ってアイス食って寝るか」

 

普段と変わらぬ態度を示す安玖に対し、氷上の表情は優れない。

無理もない。いくら人に害を成すはぐれ悪魔と言えど、さっきまで普通の少年だった者を

銃で射撃したのだから。

 

「……柳さん、薮田さん。俺は、俺は悪魔を生み出す奴が許せません。

 殺してやりたいほど憎いです! 何で、何で普通の少年までも……っ!!

 しかも駒王学園と言えば、この町を統括する悪魔がいるところじゃないですか!!」

 

「……報告は聞いている。俺がお前の立場でも、きっと同じ事を思っただろう。

 だが氷上。今こんな事を言うべきではないかもしれないが……

 

 ……憎しみは確かに人を強くする。だが憎しみで人は守れない。

 俺たちの役目はなんだ? 人を守る事だろう? 誰かを殺める力じゃない……」

 

(……うっせーんだよ氷上。俺だってわかってんだよ。

 悪魔のバカどものせいで、こんな事態が起きてるってことはな……)

 

氷上の悲痛な叫びに、柳も薮田も同調する。後ろで聞いていた安玖も内心ではそう思っていた。

被害にあうのは、いつだって弱いものだ。

彼らばかりが苦しむ現状は、誰しも善しとはしていない。

 

「柳君の言うとおりです。氷上君、被害者が駒王学園の生徒と言う事で

 私からも心中察するに余りありますが、元凶の命を絶つ事は警察官の仕事ではありませんよ。

 私の研究は、守るためのものであり、破壊のためのものではありません。

 そのためにも研究のため遺体の解剖は私が進める……といいたいところですが

 私も多忙を極めておりまして……。

 後任にギルバート・マキ博士が近々来られる予定ですので。

 少々性格に難はありますが、腕のほうは信頼できます。

 今後このような事態が起きないためにも、彼に後任を依頼し

 既に本郷警視総監にも話は通してあります」

 

薮田もまた、氷上の叫びを真摯に受け止め、諭していた。

また、そんな彼の速い仕事っぷりに柳は舌を巻いていた。

なにせ、外部協力者である自分の後任を用意するばかりか

既に警視総監にまで話を進めているというのだ。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のバグの再現実験とも思いましたが

 アジュカがあの程度のバグ取りをするとも考えにくいですね。

 となると、ドラゴンアップルの生育域拡大が目的でしょうか。

 しかし、生育者のタンニーンとて曲がりなりにも龍王の一角。

 邪龍の如き所業に手を染めるとも考えにくいですが……

 赤龍帝と同じ価値観であれば、危ういですね。

 最後の可能性は……悪魔の駒ではなく、既に発生しているあのタイプのはぐれ悪魔から

 採取した毒を何らかの方法で直接投与したか。これが一番可能性としては高そうですね……。

 そうなると、その動機が鍵になってきますが……

 それは柳君達に調べてもらわないといけませんね)

 

一方で、薮田は薮田で原因の究明を試みていた。

薮田にしか知り得ない知識。どこで仕入れたのか全く分からない

謎の知識を総動員し、こうなるに至った原因を突き止めようとしていたのだ。

薮田は、外部協力者であり超特捜課の誰よりも人外組織について明るい。

中には、何故それを知っているのだと言いたくなるものもある。

 

「柳課長! やはりこの一味は、曲津組と接触があったようです。

 この辺りで曲津組が使っている車を見たと言う複数の証言もありました」

 

「曲津組か……一度、徹底的に洗ってみる必要がありそうだな。

 生徒の悪魔化も、ドラッグによるものだと考えればある種、説明がつく。

 人間界に出回っているドラッグに、正気を失わせるものはあっても

 外見も怪物にするものはなかったはずだ。

 

 ――令状を取ってくれ。曲津組の事務所にガサを入れる」

 

柳も聞き込みを行っていた警官から仕入れた情報をまとめていた。

曰く、はぐれ悪魔化した女子生徒に殺されたリーダー格の生徒は

よくない連中――曲津組との接点が間違いなくあったということ。

兼ねてから疑われていた曲津組による少年犯罪への関与は、ここに来て決定的なものとなった。

悪魔との接点も疑われている彼らとの繋がりは、悪魔化にも何らかの関係性があるのではないか。

柳は、そう睨んでいた。




サブタイ訳は「少年犯罪の悲劇」。

今回の話の裏モチーフは「仮面ライダーW」の
バードメモリのエピソード。
あちらは尻……霧彦さんのお陰で事なきを得ましたが
こちらは「仮面ライダー鎧武」よろしく悲惨な結末になってます。
超特捜課は人外に対応できますが、人外化した存在を直せるわけじゃありません。
人間が人間をやめるってのは、つまるところそういうことであると思うんです。
余談ですがセージ人間化ルートはこっちの道でも閉ざされました。

尚今回時系列的には薮田先生がセージの面会に現れる前の話になります。

それでは今回の解説。

>安玖の神器
これの由来はそのまま「仮面ライダーOOO」におけるグリードの出生と
グリード態アンクの能力から。発動条件が凄く現金ですが
こういう神器もありじゃね? と。
結果、オーズというよりバースに近いギミックになってしまいましたが。
ちなみにセイクリッド・ギア・キャンセラーを食らうと財産の減らし損。

>氷上がはぐれ悪魔と正規悪魔の区別がついていない件について
悪魔の側にしてみれば、明確に区別される二種ですが
事情を知らない人間側にすればどっちにしたって同じです。
悪魔の恩恵にあやかれるのは実際に契約をしたもののみ。
それ以外ははぐれ悪魔の餌。
悪魔に対し人間の悪感情が生まれるのも時間の問題ですと言うか
生まれないほうがおかしいでしょう、これ。

>ギルバート・マキ博士
警視庁における薮田先生の後任。
この辺りでも薮田先生が和平会談に向けて準備している事が伺えます。
名前の由来は「人造人間キカイダー」のプロフェッサー・ギルと
「仮面ライダーOOO」の真木清人とギルこと恐竜グリード。
ドクター真木と恐竜グリードはある種、同一人物ですけどね。
ギルバートと言う名前は「キカイダーREBOOT」より。
役者さんはどこぞの理事長ですけど。

>本郷警視総監
元ネタは劇場版「仮面ライダーアギト」の警視総監。
今は敢えて元ネタ以外の説明はしません。
元ネタは上記の通りですが、下の名前は猛ではありませんとだけ。
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