戦姫絶唱シンフォギア Rising   作:川井 アザト

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1話

俺は、家族を裏切った。

 

最愛の、まだ10歳にも満たない妹のことを。

 

そんな、愛していたはずの者を、俺は手放した。

 

翼「お兄様ッ!!行かないで!!私を一人にしないでください!!」

 

俺の妹、風鳴翼は、俺の手を引き、一生懸命に引き止めようとする。

 

「翼。ごめん。俺はもうここにはいられないんだ。」

 

翼「どうしてですか!?お兄様は、家のために一生懸命頑張ってきたのに!」

 

事の発端は、俺が、風鳴家の当主である、訃堂が話していることを聞いてしまったからである。

 

話の内容は、俺を、アメリカのfisという研究機関に、実験体として送るという内容だった。

 

どうして俺が、実験体になることになっているのかはわからないが、俺はその話を聞いて恐ろしくなってしまった。

 

その恐怖は、愛する者を差し置いてしまうほどに。

 

俺は荷物を纏め、訃堂も父の八紘もいない時を見計らって、家を出ようとした。

 

だが、その矢先に、妹に見つかってしまった。

 

涙を流し、俺を引き止める理由を探すように、言葉を紡いでいる妹のことを見て、俺は胸が締め付けられた。

 

だが、その想いをこらえ、俺は、妹の肩へと手を置き、そっとしゃがんだ。

 

「翼。お前とはもう一緒にいられないかもしれない。だけど、これだけは忘れないでほしい。」

 

俺は、妹の瞳を見ながら答えた。

 

「どんな時も、お前らしくいてくれ。お前の歌で、世界を繋いでくれ。どんな絆も、お前は手放すな。」

 

翼「お兄様・・・・」

 

「・・・・・・・すまない、翼。」

 

俺は、妹をしばらくのあいだ抱きしめた。

 

今までの、そしてこれから過ごすはずだった時間の分まで。

 

「・・・・・・・さよなら、俺の自慢の、大好きな翼。」

 

俺は、妹から離れ、風鳴家の門を駆けるように、出た。

 

翼「お兄様ッッ!!お兄様ーーーーッッッッ!!!」

 

俺の後ろからは、俺のことを呼ぶ妹の声がいつまでも響いていた。

 

俺は、それに振り返らず、ただ遠くを目指して、走っていた。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

風鳴の家から出たはずの俺は、ある組織に、結局捕まってしまった。

 

抵抗することももちろんできた。

 

だが、そうしなかったのは、事態を大きくしないことと、風鳴の家族に迷惑をかけないためだった。

 

結局は、自分の祖父の手の中だったということだ。

 

捕まった俺は拘束され、輸送機に乗せられて、そこから12時間ほど、機内で揺られていた。

 

その後、輸送機が着陸し、俺は拘束されたまま、空港に来ていた装甲車両の中へと押し込まれた。

 

そこからまた3時間ほど、目隠しをされて車に揺られ、ある施設へとたどり着いた。

 

施設の中に、俺は運び込まれ、施設内のとある部屋に着いたかと思うと、目隠しを外され、別の拘束用の椅子に座らされた。

 

その椅子に座らされた後、また、2時間ほど退屈な時間を過ごすことになった。

 

拘束されっぱなしの1日に、俺は辟易しながらも、退屈な時間を過ごし、人が来るのを待った。

 

2時間後、しばらくして、白い防護服を着た、研究者のような集団が部屋に入ってきた。

 

彼らの手には、青い液体の入った注射器が載せられた容器があった。

 

「人を待たせといてさっそく実験か・・・・」

 

俺は目の前の研究者たちに愚痴をこぼした。

 

研究者たちは、それに反応せず、容器から注射器を取り出し、俺の腕へと青色の何かを注射した。

 

「うっ・・・ぐぁ・・・アアアアッッッッ!!!」

 

体内に注射された途端、全身に凄まじい激痛が走った。

 

全身に電撃が走り、血が沸騰するような感覚。

 

耐え難い痛みと苦しみが、俺を襲う。

 

(くっ・・・うっ・・・つ、ばさ・・・)

 

愛する家族の名を、頭に思い浮かべながら、俺の意識は、暗闇へと落ちていった。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

耐え難い苦しみを味わった実験の後、俺はある部屋で、意識を取り戻した。

 

目の前には、見慣れない天井と、部屋の景色がある。

 

俺はそれらを見回し、静かな部屋の中のベッドに座っていた。

 

人が来ない間、手を握ったり、開いたりしてみた。

 

手足にいつも通り力は入るし、変な痛みもない。

 

意識もはっきりし、むしろ空気が澄んだような心地だった。

 

「・・・・・・俺、何されたんだろうな・・・」

 

事の流れは、大体理解できる。

 

要するに俺は、祖父の話にあった、FISの実験施設で、実験体になったということだ。

 

「結局、俺はあのジジイの手の中か・・・逃げるくらいなら、翼の元に、もっと居てやるべきだったかな・・・」

 

家に残してきた、妹の顔が浮かぶ。

 

俺は少し後悔の念を抱きながら、部屋のベッドの上にいた。 

 

「意識が戻ったようですね。」

 

部屋の入り口から声がした。

 

そこを見ると、一人の女性が、白衣を着て、右手にタブレットを持ってこっちに向かってきていた。

 

その人は、俺の前まで来ると、簡単に自己紹介をした。

 

「初めまして。私の名は、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。この施設で、聖遺物の研究をしている者です。」

 

彼女は、ナスターシャと名乗る人物だった。

 

彼女の専門は、先史文明期の遺産である聖遺物といわれる、強力な物質の研究だった。

 

ナスターシャ博士が、ここに来た理由は、俺のメディカルチェックのためだった。

 

彼女は、タブレットで、俺の体を、スキャンし、診察をし、隣りにあった椅子に座った。

 

ナスターシャ「経過は良好のようですね。副作用も軽く抑えられていたようです。一先ずは安心してもいいでしょう。」

 

「安心、ですか。俺は納得しかねていますがね。」

 

俺は、例の青色の液体の正体を考えていた。  

 

ただの液体ではないことはわかるが、あの激痛のあとに、ここまで体がスッキリすることに違和感を覚えた。

 

ナスターシャ「あなたは、冷静な人間のようですね。普通なら、もっと取り乱すでしょうに。」

 

「俺のモットーは、いつもクールダウンに です。アツくなって取り乱しても、事態は変わりませんから。」

 

体内に注射された液体のことも気になるが、まずは状況の整理に努めた。

 

俺が運び込まれた施設は、やはり、FISの研究施設で間違いないようだった。

 

ナスターシャ博士のネームにも、FISのロゴが入っているし、彼女自身も、俺の冷静さに当てられてか、色々と話してくれた。

 

俺以外にも、世界中の国々から、実験体として運び込まれた人間がいること。

 

FISが、聖遺物を主にした実験をしていることなど、ナスターシャ博士が答えられる限りのことを、彼女は話してくれた。

 

「要するに、俺もまた、聖遺物の適合実験の被検体の一人ということですね。」

 

ナスターシャ「そういうことです。話が早くて助かりますが、ここまであなたが冷静だと、かえってあなたが不気味に思えます。」

 

「そこは、ご了承ください。ナスターシャ博士。」

 

ひとまずの状況は、頭の中で整理がついた。

 

俺に液体を投与した実験も、聖遺物適合実験の前段階なのだろう。

 

それに耐えれたということは、俺にも聖遺物の適合の可能性があるということにも繋がる。

 

ならば、それを利用する手は、他に無いと判断した。

 

この施設で、聖遺物の力を身に着け、いずれここを出るにしても、仲間も作らなければならない。

 

それを行う場として、ここは、申し分ない場所だった。

 

祖父の思惑を逆手に取り、また、最愛の妹の翼に出会うために、俺は、それらのことを決心した。

 

ナスターシャ「では、診察の最後に、最終確認を取らせていただきます。あなたの名前を、お答えください。」

 

俺は、ナスターシャ博士に、自分の紹介を促された。

 

ナスターシャ博士は、しばらく付き合いのありそうな人物だ。

 

自分の名前を覚えてもらっておいて損はない。

 

家族を手放し、最愛の妹を裏切ったその男の名は。

 

風鳴 丈(たける)。

 

 

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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