俺は、家族を裏切った。
最愛の、まだ10歳にも満たない妹のことを。
そんな、愛していたはずの者を、俺は手放した。
翼「お兄様ッ!!行かないで!!私を一人にしないでください!!」
俺の妹、風鳴翼は、俺の手を引き、一生懸命に引き止めようとする。
「翼。ごめん。俺はもうここにはいられないんだ。」
翼「どうしてですか!?お兄様は、家のために一生懸命頑張ってきたのに!」
事の発端は、俺が、風鳴家の当主である、訃堂が話していることを聞いてしまったからである。
話の内容は、俺を、アメリカのfisという研究機関に、実験体として送るという内容だった。
どうして俺が、実験体になることになっているのかはわからないが、俺はその話を聞いて恐ろしくなってしまった。
その恐怖は、愛する者を差し置いてしまうほどに。
俺は荷物を纏め、訃堂も父の八紘もいない時を見計らって、家を出ようとした。
だが、その矢先に、妹に見つかってしまった。
涙を流し、俺を引き止める理由を探すように、言葉を紡いでいる妹のことを見て、俺は胸が締め付けられた。
だが、その想いをこらえ、俺は、妹の肩へと手を置き、そっとしゃがんだ。
「翼。お前とはもう一緒にいられないかもしれない。だけど、これだけは忘れないでほしい。」
俺は、妹の瞳を見ながら答えた。
「どんな時も、お前らしくいてくれ。お前の歌で、世界を繋いでくれ。どんな絆も、お前は手放すな。」
翼「お兄様・・・・」
「・・・・・・・すまない、翼。」
俺は、妹をしばらくのあいだ抱きしめた。
今までの、そしてこれから過ごすはずだった時間の分まで。
「・・・・・・・さよなら、俺の自慢の、大好きな翼。」
俺は、妹から離れ、風鳴家の門を駆けるように、出た。
翼「お兄様ッッ!!お兄様ーーーーッッッッ!!!」
俺の後ろからは、俺のことを呼ぶ妹の声がいつまでも響いていた。
俺は、それに振り返らず、ただ遠くを目指して、走っていた。
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風鳴の家から出たはずの俺は、ある組織に、結局捕まってしまった。
抵抗することももちろんできた。
だが、そうしなかったのは、事態を大きくしないことと、風鳴の家族に迷惑をかけないためだった。
結局は、自分の祖父の手の中だったということだ。
捕まった俺は拘束され、輸送機に乗せられて、そこから12時間ほど、機内で揺られていた。
その後、輸送機が着陸し、俺は拘束されたまま、空港に来ていた装甲車両の中へと押し込まれた。
そこからまた3時間ほど、目隠しをされて車に揺られ、ある施設へとたどり着いた。
施設の中に、俺は運び込まれ、施設内のとある部屋に着いたかと思うと、目隠しを外され、別の拘束用の椅子に座らされた。
その椅子に座らされた後、また、2時間ほど退屈な時間を過ごすことになった。
拘束されっぱなしの1日に、俺は辟易しながらも、退屈な時間を過ごし、人が来るのを待った。
2時間後、しばらくして、白い防護服を着た、研究者のような集団が部屋に入ってきた。
彼らの手には、青い液体の入った注射器が載せられた容器があった。
「人を待たせといてさっそく実験か・・・・」
俺は目の前の研究者たちに愚痴をこぼした。
研究者たちは、それに反応せず、容器から注射器を取り出し、俺の腕へと青色の何かを注射した。
「うっ・・・ぐぁ・・・アアアアッッッッ!!!」
体内に注射された途端、全身に凄まじい激痛が走った。
全身に電撃が走り、血が沸騰するような感覚。
耐え難い痛みと苦しみが、俺を襲う。
(くっ・・・うっ・・・つ、ばさ・・・)
愛する家族の名を、頭に思い浮かべながら、俺の意識は、暗闇へと落ちていった。
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耐え難い苦しみを味わった実験の後、俺はある部屋で、意識を取り戻した。
目の前には、見慣れない天井と、部屋の景色がある。
俺はそれらを見回し、静かな部屋の中のベッドに座っていた。
人が来ない間、手を握ったり、開いたりしてみた。
手足にいつも通り力は入るし、変な痛みもない。
意識もはっきりし、むしろ空気が澄んだような心地だった。
「・・・・・・俺、何されたんだろうな・・・」
事の流れは、大体理解できる。
要するに俺は、祖父の話にあった、FISの実験施設で、実験体になったということだ。
「結局、俺はあのジジイの手の中か・・・逃げるくらいなら、翼の元に、もっと居てやるべきだったかな・・・」
家に残してきた、妹の顔が浮かぶ。
俺は少し後悔の念を抱きながら、部屋のベッドの上にいた。
「意識が戻ったようですね。」
部屋の入り口から声がした。
そこを見ると、一人の女性が、白衣を着て、右手にタブレットを持ってこっちに向かってきていた。
その人は、俺の前まで来ると、簡単に自己紹介をした。
「初めまして。私の名は、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。この施設で、聖遺物の研究をしている者です。」
彼女は、ナスターシャと名乗る人物だった。
彼女の専門は、先史文明期の遺産である聖遺物といわれる、強力な物質の研究だった。
ナスターシャ博士が、ここに来た理由は、俺のメディカルチェックのためだった。
彼女は、タブレットで、俺の体を、スキャンし、診察をし、隣りにあった椅子に座った。
ナスターシャ「経過は良好のようですね。副作用も軽く抑えられていたようです。一先ずは安心してもいいでしょう。」
「安心、ですか。俺は納得しかねていますがね。」
俺は、例の青色の液体の正体を考えていた。
ただの液体ではないことはわかるが、あの激痛のあとに、ここまで体がスッキリすることに違和感を覚えた。
ナスターシャ「あなたは、冷静な人間のようですね。普通なら、もっと取り乱すでしょうに。」
「俺のモットーは、いつもクールダウンに です。アツくなって取り乱しても、事態は変わりませんから。」
体内に注射された液体のことも気になるが、まずは状況の整理に努めた。
俺が運び込まれた施設は、やはり、FISの研究施設で間違いないようだった。
ナスターシャ博士のネームにも、FISのロゴが入っているし、彼女自身も、俺の冷静さに当てられてか、色々と話してくれた。
俺以外にも、世界中の国々から、実験体として運び込まれた人間がいること。
FISが、聖遺物を主にした実験をしていることなど、ナスターシャ博士が答えられる限りのことを、彼女は話してくれた。
「要するに、俺もまた、聖遺物の適合実験の被検体の一人ということですね。」
ナスターシャ「そういうことです。話が早くて助かりますが、ここまであなたが冷静だと、かえってあなたが不気味に思えます。」
「そこは、ご了承ください。ナスターシャ博士。」
ひとまずの状況は、頭の中で整理がついた。
俺に液体を投与した実験も、聖遺物適合実験の前段階なのだろう。
それに耐えれたということは、俺にも聖遺物の適合の可能性があるということにも繋がる。
ならば、それを利用する手は、他に無いと判断した。
この施設で、聖遺物の力を身に着け、いずれここを出るにしても、仲間も作らなければならない。
それを行う場として、ここは、申し分ない場所だった。
祖父の思惑を逆手に取り、また、最愛の妹の翼に出会うために、俺は、それらのことを決心した。
ナスターシャ「では、診察の最後に、最終確認を取らせていただきます。あなたの名前を、お答えください。」
俺は、ナスターシャ博士に、自分の紹介を促された。
ナスターシャ博士は、しばらく付き合いのありそうな人物だ。
自分の名前を覚えてもらっておいて損はない。
家族を手放し、最愛の妹を裏切ったその男の名は。
風鳴 丈(たける)。
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