切歌「丈〜!行くデスよ〜!」
丈「いいよ〜切歌〜」
FISの研究施設に来て、3ヶ月になるころ。
俺は、ある人たちと、研究施設の庭で、ちょっとした遊びに付き合っていた。
調「切ちゃん。ボール取りすぎ・・・・」
切歌「わわ!ごめんなさいデス!調!」
遊びというのは、サッカーのことだ。
ボールを蹴り、相手のゴールに入れたら点が入る、至極単純で楽しいスポーツ。
俺は時たまこういう時間を作り、サッカーや色々なことを、とある少女たちとともに過ごしている。
ボールを取って、ゴールを守る俺に向かってくるのは、金髪にバッテン印のヘアピンと語尾が特徴の、暁 切歌。
その切歌を追いかけている、いつも冷静沈着で、桃色の瞳が輝く少女、月読調。
そして
マリア「切歌〜!調〜!丈〜!そろそろ休憩時間、終わりになるわよ〜!」
セレナ「3人とも戻ってきて〜!マムが呼んでるよ〜!」
俺達を呼ぶ2人の声。
艶めく桃色の髪がなびく、美しい顔立ちの少女。マリア・カデンツァヴナ・イヴと、同じく姉に似て、美麗な見た目に、柔和な雰囲気を持った妹のセレナ。
その2人が、試合終了のホイッスルを鳴らすが如く、こっちに声をかけている。
切歌「げげっ!もう終わりデスか!?早すぎるデスよ〜!」
調「仕方ないよ。切ちゃん。」
丈「名残惜しいけど、戻ろっか。」
俺は、サッカーボールを持ち、マリアとセレナの元へと向かおうとする。
調「丈君。ちょっといい?」
その時、そばにいた調ちゃんが、俺を呼び止めた。
丈「どうしたの?調ちゃん。」
調「実はね、丈君にどうしても伝えたいことがあって・・・」
丈「伝えたいこと?」
いつも冷静な調ちゃんが、少し心配そうな面持ちで、俺を見ている。
調「丈君。お薬打たれてるよね?青色の液体の。」
丈「うん、そうだけど。それがどうかした?」
俺はここに来てからの3ヶ月間、毎日のように、あの青色の液体を注入され続けていた。
最初にあった激痛は、2回目からは全くなく、平然と俺は、その液体を受け入れていた。
調「私聞いちゃったの。大人たちの丈君の話を。」
調ちゃんは、少し俯き、暗い顔で俺に伝えようとした。
調「あのお薬。本当は・・・・・」
調ちゃんが、話を切り出そうとしたときだった。
ナスターシャ「二人とも何をしているのですか?」
俺達の、となりに、いつの間にか、ナスターシャ博士が来ていた。
調「マム・・・!」
ナスターシャ「時間はとっくに過ぎていますよ?早く戻りなさい。」
ナスターシャ博士は、俺たちに戻るように、促した。
丈「わかりました。博士。調ちゃん。またお話、聞かせてね。」
調「うん・・・・わかった・・・・」
調ちゃんは、少し残念そうな顔で、その場所を後にしていった。
ナスターシャ「丈。少し話があります。このあと、私の部屋に来てください。」
丈「了解です。」
俺はナスターシャ博士からの呼び出しを了承し、彼女と共に博士の私室へと向かった。
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研究施設に来てから4カ月目のこと。
俺は、ナスターシャ博士とともに、ある実験の場に、顔を出していた。
事の始まりは、一ヶ月前、ナスターシャ博士に呼ばれた時のことだ。
博士の用事に付き合い、彼女の私室へと足を運び、ある話を、彼女から持ちかけられた。
それは、近日に起動実験を予定している完全聖遺物、ネフィリムのことだった。
完全聖遺物とは、先史文明期の遺産、聖遺物が、何の損害もなく完全な状態で発掘された状態のものを差している。
完全聖遺物は、完璧な状態からの、内包された高いエネルギーにより、一部では封印を余儀なくされている状態だ。
完全聖遺物の起動実験は、何が起こるか想像がつかない。
今回、起動させるのは、生物型の完全聖遺物。
様々なリスクが想定されることは明白だった。
ナスターシャ博士は、この実験に反対気味だったが、上層部の強引な決定により、この計画は実現した。
博士は、せめてものストッパーとして、聖遺物適合者である、俺を選んだ。
俺自身も、この3ヶ月間、様々な聖遺物の適合実験に付き合ってきた。
俺はそれらを乗り越え、聖遺物の力を身に着けてきた。
数々の聖遺物を適合させた俺の実績から、ナスターシャ博士は、俺をストッパーとして選び、今回の実験に参加させた。
いよいよ始まるネフィリムの起動実験。
そばには、ナスターシャ博士以外にも、マリアとセレナがついていた。
聖遺物の起動には、特殊な波長とエネルギーの質量が必要だ。
今回は1度目に、高質量のエネルギーを照射し、ネフィリムの起動を目論んでいるが、それでも起動できなかった場合、聖遺物適合者であるセレナの「歌」の力で、起動を試みるというものだった。
セレナに与えられた聖遺物の「歌」の力。
それは、シンフォギアシステムという異端技術のものだった。
FISに元々いた櫻井了子という博士が提唱した「櫻井理論」によって作り上げられたシンフォギアシステム。
それは、聖遺物を元にしたプロテクターを起動させる「聖詠」を適合者が唱え、それを身に纏った者の「歌」によって、ポテンシャルを無限に増幅させるといった代物だった。
そのシンフォギアを纏う者の一人として、セレナは選ばれた。
丈「そろそろか・・・・」
沈黙状態のネフィリムに対し、高質量のエネルギーが照射される。
照射されたエネルギーは、ネフィリムへと当てられ続けている。
しばらくして、その時が訪れる。
ついに、研究者たちが、待ち望んだ瞬間だ。
ネフィリムが起動し、その巨体を唸らせながら起き上がる。
成功の歓喜に、実験室は包まれる。
だが、ナスターシャ博士が危惧していたことが、起こってしまった。
ネフィリムが、暴走を始めたのだった。
やはり、歌を介していない完全聖遺物の起動は、不完全なものだったのだ。
ネフィリムは、実験室のシェルターを破壊しようと暴れまわる。
もはや手に負える人間は、限られていた。
ナスターシャ「やはりこうなってしまいましたか・・・・丈、お願いできますか?」
丈「約束ですからね。了解です。」
俺は、暴れているネフィリムの元へと向かっていく。
マリア「無茶よ!!戻ってきて!!丈ッ!!」
セレナ「嫌だよ!!丈君ばっかり!!なんで辛い目に遭わなきゃならないの!?」
マリアとセレナは、俺を引き止めようとする。
あの日の、妹の翼のように。
丈「大丈夫。無理のないようにするだけさ。今は俺以外に、リスクを負わずに収束できる人間はいない。それだけのことだ。」
マリア「簡単に言うんじゃないわよ!!」
セレナ「戻ってきてよ!!お願いだから!!丈君!!」
丈「・・・・・・・・じゃあ、行ってくるよ。」
俺は、2人の制止を聞かず、ネフィリムの元へと駆けていく。
このときの、マリアとセレナの顔と声が、俺の心に刻まれて離れなかった。
また、家族を裏切ったような気がして。
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ネフィリムの起動実験から1週間後のことだった。
俺は、ナスターシャ博士に呼ばれ、彼女の私室へ通されていた。
ナスターシャ「丈。先週のことは、ご苦労さまでした。」
丈「いいってことですよ。博士。」
ネフィリムの暴走は、何とか食い止められた。
俺は、暴走するネフィリムの動きを、聖遺物で封じ、あらかじめ渡されていた、対ネフィリム用の鎮静剤「アンチリンカー」を投与した。
投与されたネフィリムは、徐々に動きが緩慢になっていき、そのまま、蛹型の休眠状態へと落ち着いた。
こうして、ひとまずのトラブルは、回避することができたのだった。
ナスターシャ「あなたがいなければ、どうなっていたことか・・・なによりの感謝を、あなたに・・・」
丈「そんなにかしこまらないでくださいよ。それで、今回の要件は?」
ナスターシャ「そうでしたね・・・・」
ナスターシャ博士は、引き出しから、ひとつの、書類を出した。
丈「これは?」
ナスターシャ「あなたの解雇通知のようなものです。あなたは、今日限りで、FISの監視下から外れることになりました。」
突然のことに、頭が揺らいだ。
目標としていた、FISからの脱出が、いともたやすく成し遂げられたのだ。
丈「・・・・・・えらく、突然ですね。」
ナスターシャ「上層部の決定です。あなたは、もう必要ないとのお達しでした。」
ナスターシャ博士は、少し暗い顔で、そう伝えた。
丈「なんで博士の顔がそんなに曇るんです?被検体が減ることがそんなに嫌ですか?」
ナスターシャ「そうではありません。断じて。」
博士の声色は、真剣そのものだった。
冗談交じりで切り出した自分が、恥ずかしくなる。
ナスターシャ「・・・・・あなたが、この実験施設の苦しみから解放されることが嬉しい反面、家族のように慕っていた、マリアやセレナ、切歌に調が不憫でなりません。」
丈「そう、ですね・・・・」
家族のような存在が、この施設でもできていた俺にとって、博士のその言葉は、俺の胸を締め付けた。
丈「博士・・・俺はまだここに・・・」
ナスターシャ「いけません。」
博士は、俺の言おうとしたことを遮るようにそう言った。
ナスターシャ「いけません、丈。あなたがここに留まることは、私が許しません。」
丈「博士・・・・・」
博士は、俺をまっすぐに見つめながらそう言った。
丈「・・・・・・・わかりました。博士。今までお世話になりました。今後、またどこかで会えたなら幸いです。」
ナスターシャ「ええ・・・私もそう思います・・・マリアたちには、私から伝えておきます。ご安心を。」
丈「了解です・・・・」
俺はそう言うと、ナスターシャ博士に対し深々と頭を下げた。
今までのお世話になった分を、全部ぶつけるように。
博士もそれに応え、お辞儀を返してくれた。
丈「本当に・・・・お世話になりました・・・・」
俺は一言そう言うと、ナスターシャ博士の私室を後にした。
その空間には、俺と博士の、やりきれない思いばかりが、積もっていた。
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