35歳社畜、女子高生に吸血鬼だと宣告される〜みなし残業で覚醒能力を使い潰していた俺、現代異能バトルの世界では最強候補らしいです〜 作:パラレル・ゲーマー
八咫烏のセンターで『ヤタッピ講習』を受けた数日後の夜。
久我陽介は、いつものように自分の部屋のベッドに深々と倒れ込んでいた。
今日も一日、普通に会社へ行き、普通に業務をこなし、普通に定時で退社して、普通に冷蔵庫の血液パックを飲んで帰宅した。
深夜の学校警備のシフトも、今日は非番だ。
ただ、ヤタッピの陽気な声で叩き込まれた『ティアー・システム』の概念が、どうにも頭の片隅にこびりついて離れなかった。
(……課長の無茶振りは、確実にTier 4『潜在的脅威』のポテンシャルを秘めてるな。佐藤の見積もりミスはTier 4未満だが、放置すれば確実に小規模な現場災害を引き起こす。そう考えると、高橋さんの残業阻止能力は、完全にTier 2『特殊作戦級』のスペシャリストの域だ……)
そんなくだらない会社員的思考で脳内を整理しながら、久我は目を閉じた。
(今日は普通に寝る。頼むから、夢の中に変な吸血鬼とか、厨二病みたいなオカルト展開とか出ないでくれよ……)
切実な願いと共に、久我の意識は深い眠りの底へと沈んでいった。
*
目を開けると、そこは会社のオフィスでも自室のベッドでもなかった。
真っ黒な水面のような、底なしの床。
見上げれば、空には血のように赤い巨大な月が浮かび、遠くには古い城のシルエットが銀色の霧の向こうに霞んでいる。
足元の水面には、まるで脈打つ血管のように赤い光の線が幾重にも走っていた。
数週間前、吸血鬼としての『魔眼』が強制的に開眼させられた時に見た、あの悪夢の空間だ。
「……出たな、労働基準法の適用外空間」
久我がため息を吐くと、足元の水面に静かな波紋が広がった。
波紋の中心から、一人の少女――あるいは古代の女王のような存在が、音もなく姿を現した。
白銀に輝く長い髪。
吸い込まれるような真紅の瞳。
幾重にもフリルが重ねられた漆黒のゴシックドレス。
以前ここへ来た時よりも、その輪郭は不気味なほどにはっきりと、生々しい質量を持ってそこに存在していた。
「久しいのう、我が欠片を宿す者よ」
少女は、愛らしい唇に酷薄な笑みを浮かべて言った。
「その呼び方、会社で後輩や上司に聞かれたら一発で休職案件にぶち込まれるので、やめてもらえますか」
「では、久我陽介」
「フルネームで呼ばれるのも、それはそれで圧が強くて嫌ですね」
「注文の多い器じゃのう」
少女――化身は、どこか楽しそうにクスクスと喉を鳴らした。
「どうじゃ。吸血鬼としての夜の生活には慣れたか?」
突然の近況確認に、久我は少し首を傾げた。
「慣れた、と言っていいのかは分かりませんが。まあ、何とか回ってはいますよ。冷蔵庫には血液パックがあって、協力病院のサポートがあって、八咫烏の行政手続きがあって。会社では総務の高橋さんが残業を止めてくれて、夜は学校で走って怪異を狩って、休日はダンジョンで小遣いを稼いで、合間にヤタッピの講習を受けてます」
「ほう」
「吸血鬼化してから、睡眠時間を多少削っても身体が動くようになったので、会社員としての昼の生活と、夜の活動をギリギリのラインで両立できています。そこは正直、助かってますね」
「魔眼はどうじゃ?」
「便利ですよ。怪異の核が見えたり、人間の血流や心拍から嘘や動揺の気配が見えたり、仕事の資料の数字の違和感に一瞬で気づいたり」
「……仕事?」
化身の真紅の瞳が、一瞬だけ胡乱なものを見るように細められた。
「はい。会社の見積もり書のチェックとか、会議での取引先の空気読みとかですね。あれがないと今の俺の定時退社は成立しません」
「……我が古き権能の端を、エクセルの見積もりと会議の空気を読むために使っておるのか、お主は」
「生活がかかってますから」
「……うむ。まあ、生存戦略としては間違っておらぬ」
化身は少しだけ呆れたようにため息をついた。
「あと、魔眼は便利ですが、見えすぎて疲れます。こないだ『鳥カゴ』っていう能力者の訓練施設で、普通のおじさんにボコボコにされました」
「普通のおじさんに?」
「身体能力強化三倍で、総合格闘技、MMAの熟練者のおじさんです」
「それは最早、普通とは言わぬのではないか?」
「俺もそう思います」
ひとしきり近況報告を終えたところで、久我は表情を引き締めた。
「……で。ずっと聞きたかったんですけど」
「なんじゃ」
「あなたは、一体何なんですか?」
静寂が落ちた。
夢空間の赤い月が、水面に揺れる。
化身はしばらく久我をじっと見つめ、やがて口角を深く吊り上げて、にやりと笑った。
「ようやく、その核心を聞く気になったか」
「聞かない方が平和に生きられる気もしてました。でも、自分の内側にいるよく分からないものを放置したまま、会社と怪異狩りを続けるのも限界があるので」
「よかろう」
化身は、自身の胸元に白銀の指先をそっと当てた。
「私は、吸血神の『力の欠片』じゃ」
「吸血神」
「いかにも」
「何ですか、それ」
「字の通りじゃ。吸血鬼どもの神。血を啜り、夜を支配し、不死と飢えと変質を司った、古き神格よ」
「……神」
その単語を聞いた瞬間、久我の脳裏に、数日前に見たヤタッピの宇宙空間の映像がフラッシュバックした。
『Tier 0。規格外。世界のルールブックを自分で勝手に書き換えられちゃう人たちだッピ!』
「それって……八咫烏の講習で言ってた、Tier 0みたいなやつですか?」
化身は腹を抱えるようにして笑った。
「くくっ、ほれ、勉強したばかりじゃろう。Tier 0。世界の物理法則や因果律を書き換える、神に近い者ども」
「はい」
「吸血神はな。そのTier 0より、さらに上位の存在じゃった」
「……はい?」
「Tier 0とは、あくまでこの『世界の内側』における規格外じゃ。だが吸血神は、かつて世界そのものの『外縁』に牙を立て、世界という箱そのものを食い破ろうとした」
「ちょっと待って。急に俺の理解の外側に話を飛ばさないでください」
久我の制止を無視し、化身はひどく軽い口調で、とんでもないことを口にした。
「まあ、少々暴れすぎてな」
「……少々?」
「世界を五十回ほど壊した」
「少々の定義が完全にぶっ壊れてるんですが!?」
瞬間、久我の脳裏に、凄まじい情報量の断片的なビジョンが叩き込まれた。
真っ二つに割れる赤い月。
血の海と化し、悲鳴すら吸い込まれる大地。
黒く染まり、光を失っていく太陽。
永遠の夜に沈みゆく、巨大な古代都市。
そして――圧倒的な光の柱に囲まれ、無数の黄金の鎖で縛り上げられる、巨大な吸血神のシルエット。
何重にも封印を施された柩。
最後に残ったのは、絶対的な『滅殺』の光。
「そのたびに世界は巻き戻され、補修され、あるいは継ぎ接ぎされた。最後には、他の上位存在どもに寄ってたかって袋叩きにされてのう」
化身はどこか懐かしむように空を見上げた。
「存在ごと、滅殺封印された」
「……滅殺と封印って、両立するんですか?」
「神格相手にはする。完全に殺しても概念として残るから封じる。完全に封じても力が滲み出るから、さらに殺す」
「説明がサイコパスすぎて怖いんですけど」
「だが安心せい。吸血神そのものは、すでに完全に死んでおる。復活などできぬ」
その言葉に、久我は少しだけ安堵の息を吐きかけた。
「ただし」
化身の真紅の瞳が、久我の目を真っ直ぐに射抜いた。
「その力の『残響』が、お主の魂にへばりついていた」
「安心を返してください」
久我は頭を抱えた。
「なんで俺なんですか?」
「知らぬ」
「知らないのかよ!」
「残響に過ぎぬからな。かつての全ての記憶が残っているわけではない。お主の魂が、たまたまその欠片と相性の良い形をしていたのか。前世か祖先か因果の巡り合わせか、何かの拍子に欠片を拾ってしまったのか。あるいは……上位存在どもが世界を補修した時に、捨て損なった破片が誤って混入したのかもしれん」
「俺の魂、産廃の不法投棄先みたいに言われてるんですが」
「言い得て妙じゃな」
「褒めてませんよ」
化身はクスリと笑い、久我の周囲をゆっくりと歩き回り始めた。
「ともかく、その欠片は普段は深く眠っていた。お主が『ただの人間』として生きている限り、それは魂の奥底の、ただの染みのようなものでしかなかったはずじゃ。……だが、お主が何らかの理由で『吸血鬼化した』ことで、その残響が血の匂いに反応して目覚めてしまった」
「その結果が」
「うむ。私がこうして、お主の夢に形を持って現れているというわけじゃ」
「つまり、俺は……ただの普通の新規覚醒吸血鬼じゃないってことですね」
「少なくとも、ただの吸血鬼ではないな」
久我は完全に固まった。
「……なんかこれ、ヤバい邪神案件じゃないですか」
「邪神とは失礼な。吸血神じゃ」
「世界を五十回も壊した神は、世間一般の認識では完全に邪神のカテゴリーに入ります」
「ふん、否定はせぬ」
「そこは否定してほしかったです」
久我は大きなため息を吐き、両手で顔を覆った。
「俺にそんな世界のバグみたいな力があるって、かなりヤバいのでは?」
「ヤバいのう」
「相変わらず軽いな……」
「もし、世界の管理側や、Tier 0級の観測者、あるいはかつて吸血神を滅ぼした連中の残党にこの力の気配を見つかれば――」
「見つかれば?」
「お主は、その存在ごと消されるかもしれん」
「人生終わった……!!」
真っ黒な夢空間に、三十五歳会社員の絶望の叫びが響き渡る。
「俺、つい数日前に、ようやく『普通の日常』を大事にしようとか、吸血鬼として人間と共生して頑張ろうとか、ヤタッピ講習で『Tier 6の一般市民の生活を守ろう』とか、めちゃくちゃ前向きに決意したばっかりだったのに! なんでこのタイミングで、『Tier 0より上の邪神の残響が魂にへばりついてます、バレたら存在ごと消されます』みたいな、最悪の人生終了追加情報がぶっこまれるんですか!」
頭を抱えてしゃがみ込む久我を見て、化身は楽しそうにケラケラと笑った。
「まあ、そう慌てるな。落ち着け」
「落ち着ける情報量じゃないんですよ!」
「何、簡単なことじゃ。力を取り戻せばよい」
「……はい?」
「吸血鬼として成長し、血で器を満たし、魔眼を磨き、かつての権能を少しずつ取り戻せ。そして、いずれお主を消しに来る連中を、全員返り討ちにしてやればよかろう」
「発想が完全に邪神側なんですよ」
「吸血神側じゃ」
「言い換えても問題の根本は解決してません!」
久我は立ち上がり、真顔で化身に向き直った。
「ちなみに、この話を完全に聞かなかったことにして、今まで通り会社員として定時で帰りつつ、夜は学校の警備を続けるルートは残されてますか?」
「あるぞ」
「あるんだ」
「ただし、いつか必ず気配を悟られ、下手をすればお主に関わった者ごと理不尽に殺される」
「……じゃあ、一応覚えておきます」
「賢い器じゃ」
「嫌な賢さの褒められ方だな」
落ち込む久我を見かねてか、化身は少しだけ真面目な顔になり、すっと距離を詰めてきた。
「そう落ち込むな。お主の生存確率を上げるためじゃ。せめてもの手土産に、魔眼へ『新たな力』を渡してやろう」
「手土産の前に、まずこの巻き込まれ事故に対する誠意ある謝罪がほしいんですが」
「謝ってどうにかなるスケールの話でもあるまい?」
「それは、まあ、そうですね」
化身が久我の顔のすぐ目の前まで近づく。
真紅の瞳が、久我の魔眼と重なり合う。
「『時間』に干渉する術式じゃ」
「時間」
「正確には、お主の『内在時間』と、観測対象の『外在時間』に、ほんのわずかだけ触れる力じゃ」
「ヤタッピ講習のTier 0の事例で聞いた中でも、かなり上の方のヤバいやつじゃないですか」
「案ずるな。本物の時間停止や過去改変ではない。今の未熟なお主にそんな神の力をそのまま渡せば、魂がその場で裂け飛ぶわ」
「でしょうね」
「これは、あくまで初歩中の初歩じゃ」
化身が、その能力の詳細を簡潔に語る。
一つ目は『内在時間操作』。
自分の主観的な時間感覚、思考速度、および魔眼の情報処理速度を、一時的に爆発的に引き上げる。
実際に外界の時間が止まるわけではない。
だが、久我の目には一瞬だけ、周囲のすべてがスローモーションのように遅く見える。
「相手の動き出しの初動が見える。回避の判断が間に合う。魔眼の過剰な情報から、必要なものだけを冷静に選別できる。……会社の会議でも使えるが、ひどく疲れるぞ」
制限としては、持続時間は数秒未満。
発動には体内の『血液』を消費し、集中が切れると反動で激しい頭痛が襲う。
使いすぎれば飢餓感が強まり、理性が飛ぶ危険がある。
二つ目は『外在時間干渉』。
対象の「時間そのもの」を完全に止めるのではなく、魔眼で正確に捉えた対象の『動き』に対して、ほんのわずかな『遅延』、すなわちラグを与える。
「飛んでくる物体の軌道を読みやすくする。相手の一歩目を鈍らせる。怪異の核の脈動を、一瞬だけ遅く見せる。……ただし、あの剣持とやらのような格上の能力者には、今の出力では抵抗されてほぼ通らぬ。人間相手に使うのは危険じゃから、十分に訓練してからにしろ」
制限は、視界内の一点のみ。
効果時間は一秒未満。
強い相手には弾かれ、対象が複数だと効果が散る。
そして、使ったことを他の魔眼持ちや高位の能力者に『異変』として察知される可能性がある。
「今のお主に許されるのは、その程度の力じゃ」
「『その程度』の基準がだいぶおかしい気もしますが」
「だが、これでただの身体能力一辺倒の戦いからは抜け出せる。お主は、力任せに殴り合うより、見て、考えて、遅らせて、避ける戦い方の方が向いておるからな」
「……社畜の仕事の回し方みたいな評価ですね」
「実際、そういう魂の形をしておる」
久我は、半ば現実逃避するように言った。
「俺としては、ファイアーボールとか、手から雷を出すとか、そういうもっと分かりやすい攻撃魔法が欲しかったんですが」
「できなくはないぞ」
「できるんだ」
「血を燃やし、影を媒介にし、熱量として吐き出せばよい。……だが、今のお主の容量でそれをやれば、火球が出る前に血煙と焦げた匂いが出て、お主自身が干からびて終わる」
「しょぼい上に自爆技だ」
「派手な破壊の力など後でよい。今はその魔眼で我慢しろ」
「はい」
「それに、お主の今の仕事は、怪異の核を見ること、仲間と連携して場を回すこと、そして『死なないこと』じゃ。火の玉で学校の校舎を燃やすことではないじゃろ」
「……ぐうの音も出ない正論ですね」
化身が、すっと白銀の指先を久我の額に当てた。
夢空間の空に浮かぶ赤い月が、一瞬だけ、巨大な『時計の文字盤』のように変質した。
水面に無数の歯車の影が浮かび上がり、血管のような赤い光の線が、秒針のように規則正しく脈打つ。
痛みは全くなかった。
ただ、久我の右目の奥に、赤い時計の針のような微かな紋様が浮かび上がった。
世界の流れが、一瞬だけ薄く、透過して見えるような奇妙な感覚。
「見よ」
化身の声と同時に、夢空間の空から一滴の赤い水滴が落ちてきた。
久我が魔眼を意識した瞬間。
水滴の落下が、ほんの少しだけ遅く、スローモーションのように見えた。
水滴が水面に触れ、王冠のように割れる寸前の形までが克明に視覚化される。
次に、化身が指を鳴らす。
背後の闇から、影でできた鳥のようなものが、久我の顔面めがけて弾丸のような速度で飛んできた。
久我は驚いたが、『内在時間』が引き伸ばされたことで、影の鳥が羽ばたく軌道と空気の乱れがはっきりと見えた。
ギリギリのタイミングで、首を横に逸らして回避する。
「……今、見えたぞ」
「それが、内在時間の操作の初歩じゃ」
化身が再び指を鳴らす。
二羽目の影の鳥が飛んでくる。
久我が魔眼でその鳥の一点を強く睨みつけると、鳥の翼が空中で重い泥に沈んだように一瞬だけ鈍った。
その隙に、久我は楽々とその軌道を避けた。
「それが、外在時間への干渉の端じゃ。……完全に止めたのではない。遅く見たのでもない。お主の魔眼の視線が、対象の動きの因果に、ほんのわずかな『引っかかり』を作ったのだ」
「説明が怖すぎる」
「使いすぎるな。目立つぞ」
久我は息を整え、一つだけ重要な確認をした。
「これ、皇さんには言った方がいいんですか?」
「吸血神云々の由来は絶対に言うな。消されるぞ」
「ですよね」
「魔眼の新しい感覚については、現場の訓練中に少しずつ相談してもよい。だが、『時間に干渉している』と断言するのは避けろ」
「じゃあ、どう説明すれば?」
「『前よりも動きが早く読めるようになった』、あるいは『動体視力が上がった』程度に誤魔化しておけ」
「……また隠し事が増えた」
「生き延びるための、必要な秘匿じゃ」
「八咫烏の情報秘匿ルールが、こんなところで急に実用化されるとは」
「よかったのう。講習が役に立って」
「まだその講習は受けてませんけど、重要性だけは先取りで理解しましたよ。役に立ち方が最悪のベクトルです」
化身は満足そうに笑い、その姿が銀色の霧の中へとゆっくりと溶けていった。
「せいぜい、その力がバレないように上手く立ち回ることじゃな、我が器よ」
*
パチリと目を開ける。
部屋は朝方だった。
スマホのアラームはまだ鳴っていない。
カーテンの隙間から、薄い青い光が差し込んでいる。
右目の奥が、少しだけ熱を帯びている。
洗面所へ行き、鏡を覗き込む。
瞳の奥に、赤い時計の針のような光の紋様が一瞬だけ浮かび上がり、すぐにスッと消えた。
「……夢じゃないやつだ」
ズキリと、軽い頭痛が走る。
喉がひどく渇いていた。
冷蔵庫を開け、血液パックを取り出して少しだけ飲む。
いつもよりも血の吸収が早く、細胞がそれを激しく欲しているのが分かった。
(……内在時間。外在時間。吸血神の力の欠片。Tier 0より上位の存在。見つかったら存在ごと消されるかも)
久我は冷蔵庫の前でへたり込み、頭を抱えた。
「人生終わった……」
しかし、数分後。
久我はゆっくりと立ち上がり、洗面台で顔を洗った。
「いや、今日は普通に会社がある。……人生終了案件を魂に抱えていても、日本の月曜の朝は容赦なく来るんだ」
スーツに着替え、ネクタイを締める。
八咫烏支給の遮光グラスを鞄に入れ、緊急用の血液パックを保冷バッグに収める。
鏡の前で、自分自身に強く言い聞かせた。
「吸血神云々は、絶対に秘密。魔眼の強化は、動体視力が上がったというテイで慎重に。時間干渉という言葉は口が裂けても言わない。……そして、今日も絶対に定時で帰る」
こうして久我陽介は、魔眼に新たな『時間干渉』の力を宿し、吸血神という人生終了級の秘密を抱え込んだまま、それでもいつも通りスーツを着て、普通の会社へと向かうのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!