35歳社畜、女子高生に吸血鬼だと宣告される〜みなし残業で覚醒能力を使い潰していた俺、現代異能バトルの世界では最強候補らしいです〜   作:パラレル・ゲーマー

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第24話 吸血鬼、京都の名家から逃げた少女を捕まえることになる

 御子柴翔太の捕縛任務から数日が経過した、ある夜。

 

 御影坂高校の体育館にある、夜間警備班の控室。

 

 パイプ椅子に腰を下ろした久我陽介は、いつものようにブリーフィングの開始を待っていた。

 

 長机の前に立った皇かれんが、タブレットの画面を操作しながら淡々と口を開く。

 

「本日の夜間警備前の連絡事項として、先日の野良吸血鬼三名による強盗事件の続報をお伝えします」

 

 久我と澪、そして壁に寄りかかっていた剣持が視線を向けた。

 

「あの三人ですが、剣持さんに斬首された二人の頭部接合と、三人全員への再生抑制処置が終わりまして。ようやく三人揃っての事情聴取が可能になったとのことです」

 

「……首が繋がったので、ようやく本格的な事情聴取が始まったんですね」

 

 久我が眉間を揉みながら言う。

 

 剣持が鼻で笑った。

 

「口がなきゃ、まともに喋れねえからな」

 

「その説明、何度聞いても慣れません……」

 

 澪が身をすくめて、ジャージの袖をぎゅっと握りしめる。

 

 吸血鬼の再生力という事実には慣れてきたが、物理的な首の着脱という猟奇的な現象は、女子高生の感性にはまだ刺激が強すぎるらしい。

 

 かれんによれば、三人は当初の推測どおり、国内で八咫烏へ正式に登録され、日本吸血鬼協会の支援を受けていた者たちではなかった。

 

 しかし、単純な国際的犯罪組織の構成員というわけでもないらしい。

 

「正式な業務上の分類は、『未登録越境吸血鬼』『在留資格未取得』『海外吸血鬼街からの集団追放歴あり』、そして『日本国内での窃盗・恐喝・血液製剤強奪』となります」

 

「文字どおり、いろんなところから弾き出された『野良吸血鬼』だったわけですね」

 

「はい。現場で使われている俗称としては、実態に即しています」

 

 ただし、未登録であることと、日本で犯罪を犯したこと、そして彼女たちの背景は、それぞれ分けて考える必要があるのだという。

 

 三人が日本へ密入国してきた経緯には、一定の保護を要する事情も存在していた。

 

       *

 

 三人は、海外にある特定の吸血鬼街の出身だった。

 

 国名やその街の正式名称については、今後の外交問題や保護審査の観点から、久我たちには伏せられている。

 

 彼女たちが暮らしていたのは、吸血鬼街の中心部――古き良き貴族的な風習や富が集中する区域ではなく、配給も仕事も枯渇した周縁部のスラム地区だった。

 

 行政の管理が届かないその場所では、非正規の血液売買、身元不明者の流入、配給票の偽造、人間社会との違法な裏取引、そして古い吸血鬼の一族による暴力的な支配が常態化していたという。

 

「ある大規模な事件を契機に、その吸血鬼街の自治組織は、スラム地区全体を治安上の危険区域として認定しました。そして、住民一人一人の素行を審査することなく、その区域の住民をまとめて街から追放したのです」

 

「……街区ごと、まとめて追放ですか」

 

 久我が絶句する。

 

「海外の吸血鬼街が、すべて日本と同程度の法制度や、きめ細かい保護制度を敷いているわけではありませんから」

 

「住んでいる場所がそこだったというだけで、危険人物扱いされた?」

 

「実質的には、そうなります」

 

 三人は当時まだ若く、安定した血液供給経路もまともな仕事もないまま、吸血鬼街の外――人間の世界へと放り出された。

 

 その後は都市の地下道や廃墟、違法な夜間宿泊施設などを転々とし、正規の身分証も配給資格も持たない、本当の意味での野良生活を強いられた。

 

 最初は病院から不法投棄される血液や、動物の血をすすって生き延びていたらしい。

 

 しかし、次第に飢えから窃盗や恐喝へと手を染めるようになり、やがて現地の『吸血鬼ハンター』の監視網に引っかかった。

 

 ハンター側から見れば、彼女たちは管理組織に属さず、身分証もなく、犯罪歴があり、いつ人間を襲うか分からない危険な怪物だ。

 

 保護や裁判の対象ではなく、見つけ次第問答無用で狩るべき『排除対象』とされた。

 

「それで、日本へ逃げてきたと」

 

「はい。吸血鬼の地下社会でも、日本は吸血鬼ハンターがほぼ活動しておらず、万が一逮捕されても、即座に殺されず裁判を受けられる国として知られていますから」

 

 剣持が腕を組んで頷く。

 

「悪いことして捕まっても、その場で心臓に銀の杭を打たれたり、朝日がカンカンに当たる広場に縛り付けられたりはしねえからな」

 

「比較対象が物騒すぎて怖いです……」

 

 澪が震え声で言う。

 

「でも、島国である日本に、未登録の吸血鬼がどうやって入国したんですか? 空港や港なら、それなりの検査があるでしょうし」

 

 久我の疑問に、かれんは事もなげに答えた。

 

「違法な越境を専門にする密航グループの、『長距離空間移動能力者』の手引きです」

 

「……空間移動」

 

「正規の空間転移設備や、八咫烏が管理するゲートではありません。出発地点に一時的な空間の穴を開き、移動先へ設置された小型のマーカーと接続して、数人を遠距離へ飛ばす能力です」

 

 ただし、その安全性は極めて低いという。

 

 座標のずれ。

 

 持ち込んだ荷物の欠損。

 

 術者の体調による移動距離の変動。

 

 移動中の意識喪失。

 

 着地点の環境が安全かどうかも、事前には確認できない。

 

 移動後に数日間の激しい嘔吐や体調不良に襲われることもあり、最悪の場合、能力者が裏切って別の危険地帯へ放り出す危険すらある。

 

 三人はその密航グループへ、なけなしの金品と、日本での違法労働に従事する約束を対価として提供し、東京近郊にある倉庫跡へと転送された。

 

 そこから数年間、身分を隠し、闇に紛れて日本で暮らしていたのだ。

 

「現代の入国管理って、異能力の存在を前提にするとザルになりませんか?」

 

「ですから、八咫烏と出入国在留管理庁が共同で、水際対策と空間探知の網を張っています。正規の空間移動能力者はすべて登録され、移動先や利用者の記録が義務付けられています」

 

 無許可の転移は当然、重罪だ。

 

 しかし、一度も捕捉されていない能力者や、一回限りで痕跡が消える違法な転移経路を完全にゼロにすることは難しいのが現実だった。

 

       *

 

 さらに、かれんは三人が危険性の高い空間移動を選ばざるを得なかった、もう一つの理由を挙げた。

 

「吸血鬼は、種類や系統によっては『海を渡ることができない』からです」

 

「……海を渡れない?」

 

 剣持が補足する。

 

「昔話とか映画でよくあるだろ。流れる水を自力で越えられないとか、海を越えるには故郷の土を詰めた棺桶に入らなきゃいけないとか」

 

 吸血鬼の中には、能力の制約として、

 

『流水を越えられない』

 

『海上では大幅に弱体化し、灰になる』

 

『船の持ち主に招かれなければ乗船できない』

 

『日没後しか海上を移動できない』

 

『一定以上の塩水に触れると超再生が停止する』

 

 といった、特定の地理的・概念的な縛りを持つ種類が存在する。

 

 三人のうちの一人も、外洋上に出ると極端に弱体化し、肉体が崩壊し始める性質を持っていた。

 

 そのため、通常の密航船の底に隠れて海を渡るという選択肢が取れなかったのだ。

 

「それは……だいぶ不便ですね」

 

「その代わり、陸上では非常に高い身体能力と、桁違いの再生能力を誇る種類でもあります」

 

 かれんが言う。

 

「海を渡れない代わりに、陸では強い?」

 

「はい。因果律改変能力において、そうした『制約』が性能の底上げを支えている事例は多々あります」

 

 ただし、現代には『飛行機』というものがある。

 

 古い時代なら、海を渡れないことは大陸間に封じ込められる重大な制約だった。

 

 しかし、

 

『海面に直接触れていない』

 

『船ではなく空の乗り物である』

 

『短時間で大陸間を移動できる』

 

 という飛行機の特性が、吸血鬼の概念的な弱点を事実上踏み倒してしまったのだ。

 

「昔なら『海を越えられない代わりに凄く強い』という均衡で成立していたのに、今は飛行機で普通に空を飛んで移動できるようになった?」

 

「制約の定義が『海上を自力で移動できない』『海水に触れられない』という物理的な種類なら、飛行機は利用できます」

 

 剣持が笑う。

 

「昔の吸血鬼からすりゃあ、飛行機を作った人間が、勝手に自分たちの弱点を消してくれたようなもんだな」

 

「ライト兄弟たちも、まさか吸血鬼の能力バランスを破壊するつもりで空を飛んだわけじゃないでしょうけどね」

 

 一方で、『地理的な海洋境界を越えること自体が禁じられている』という概念的制約を持つ吸血鬼は、飛行機に乗っても激痛に襲われたり、能力が失われたりする。

 

 そうした吸血鬼が海を越えるには、今回のような空間移動や、異空間を経由する経路に頼るしかない。

 

       *

 

「で、結局その三人はどうなるんです?」

 

 久我が尋ねる。

 

 三人が日本で犯罪を行ったことは、紛れもない事実だ。

 

 保護事情があるからといって、久我から血液製剤を強奪し、継続的な恐喝を要求した罪が消えるわけではない。

 

 ただし、国外追放された過去や、吸血鬼ハンターによる迫害歴、正式な血液供給へアクセスできなかった困窮事情は、今後の処分や保護判断において、情状として考慮される。

 

 現在の三人は、『日本吸血鬼保護委員会』の厳重な管理下に置かれているという。

 

 これは日本吸血鬼協会だけの組織ではなく、八咫烏、出入国在留管理庁の特殊部門、医療関係者、専門の弁護士、そして必要に応じて警察や検察が参加する、未登録・越境吸血鬼の処遇を専門に審査する合同委員会だ。

 

 彼女たちの身柄は、委員会が管理する再生抑制設備付きの保護区画にある。

 

 今後は、

 

『日本国内での刑事手続き』

 

『難民・保護申請に相当する審査』

 

『元の吸血鬼街へ送還可能かどうか』

 

『送還した場合、不当な処刑や迫害を受ける危険性はないか』

 

『日本国内で安全に血液供給を受けられる体制が作れるか』

 

『再犯防止教育と就労・居住支援』

 

 などが、多角的に検討される。

 

 澪がほっとしたように息を吐く。

 

「犯罪をしたからって、すぐに問答無用で国外追放というわけではないんですね」

 

「送り返した先で、ハンターや自治組織に即座に殺される可能性が高いなら、単純な強制送還は国際法上の問題も絡んできますから」

 

 剣持が壁から背中を離す。

 

「だからって、やったことが帳消しになるわけでもねえ。保護する理由と、処罰する理由は、別々にきっちり考えるってことだ」

 

「それはそうですね。社会のルールですから」

 

 久我は、少し迷った末に、ずっと気になっていたことを尋ねた。

 

「あの……三人は、俺について何か言っていましたか?」

 

 かれんがタブレットから視線を上げ、久我を見る。

 

「久我さんについて、ですか?」

 

「はい。戦った時のこととか、何か変わった気配を感じたとか」

 

「事情聴取記録上は、特には」

 

 三人が話したのは、久我を新米の吸血鬼だと思って狙ったこと、血液パックを奪ったこと、定期的な上納を要求したこと、久我が予想以上に抵抗したこと、剣持が到着して制圧されたこと。

 

 それだけだった。

 

 久我の血の異常性や、魔力、古い吸血鬼のような気配については、一切記録されていない。

 

「何か、証言されると困ることでもありますか?」

 

 かれんの静かな問いに、久我は努めて平静を装った。

 

「いえ。特にはありません」

 

(黙っていてくれたのか?)

 

(それとも、あの時に感じた気配自体が曖昧すぎて、事情聴取で話すほどの確信がなかっただけか)

 

 どちらにせよ、今のところは『吸血神の残響』が露見する事態は避けられている。

 

 三人は日本吸血鬼保護委員会の管理下にいる。

 

 今後の処遇次第では、いつか再び顔を合わせる可能性もあるかもしれない。

 

 だが、自分から面会を申し込めば、それはそれで不自然だ。

 

「本当に、何もありませんか?」

 

「ありませんよ。ただ、恨まれてないかなと少し気になっただけで」

 

「そうですか」

 

 かれんはそれ以上追及せず、タブレットへ視線を戻した。

 

       *

 

 三人が空間移動を使ったことや、吸血鬼の海洋制約の話から、話題は自然と能力全般へ移っていった。

 

「ちょうどよい機会ですので、因果律改変能力における『制約』と『出力』の基礎について説明しておきましょう」

 

「また勉強ですか」

 

「能力者と戦うたびに、頭の中の仕様書が増えていくんだ。諦めろ」

 

 剣持が笑いながら言う。

 

 因果律改変能力には、しばしば明確な利点と欠点が存在する。

 

 ただし、これは宇宙共通の厳密な等価交換の法則ではない。

 

 能力者本人の認識、血統、契約相手、その土地の性質、使う道具、種族の特性などによって生じる『制限』が、結果として能力の形と出力を安定させているのだ。

 

 吸血鬼の場合、

 

『血液を定期的に摂取する必要がある』

 

『日光に弱い場合がある』

 

『種類によって流水、海、招待、故郷の土などの制限がある』

 

『飢餓状態で理性を失う危険がある』

 

 といった不利益を背負う。

 

 その代わり、

 

『高い身体能力』

 

『超再生力』

 

『夜間視力』

 

『長寿』

 

『一部の魔眼・変身・霧化能力』

 

 など、複数の強力な基本性能が安定して与えられる。

 

「血液という外部の資源を継続的に必要とする代償として、基本性能が最初から高く保証されている。これが、吸血鬼が『最も安定して強力な能力系統』と呼ばれることがある理由の一つです」

 

「能力ガチャで言えば、最低保証の線がかなり高く設定されているようなものですか」

 

「そんな感じだな。新米でも、とりあえず普通の人間よりは強くて、傷がすぐ治って、夜目が利く」

 

 一般の能力者は、非常に強い能力へ覚醒することもあれば、日常生活でスプーンを曲げられる程度の、少し便利なだけの能力に落ち着くこともある。

 

 しかし吸血鬼は、吸血鬼になった時点で一定以上の戦闘能力と生存能力を得る。

 

 魔術師や術者にも、独自の制約がある。

 

『呪文を唱える』

 

『手印を結ぶ』

 

『魔法陣を描く』

 

『特定の道具を持つ』

 

『対象の本名を知る』

 

『決められた時間帯に行う』

 

『事前の儀式を必要とする』

 

『その土地の力を借りる』

 

「呪文が必要な代わりに、強力な威力を出せる?」

 

「その傾向があります。発動までの時間、手順、道具などを制約として自分に課すことで、発生する現象の規模や精度を極限まで高めているのです」

 

「でも、長い呪文を唱え終わるまで、黙って待ってやる必要はねえけどな」

 

 剣持が身も蓋もないことを言う。

 

「実戦なら、当然途中で止めますよね」

 

「詠唱が始まったと分かった時点で、口を塞ぐか殴れ」

 

「剣持さんの説明は乱暴で極端ですが、現場の戦術としては完全に正しいです」

 

 かれんも真顔で肯定した。

 

 その他にも、

 

『特定の山では極端に強いが、山から一歩出ると弱くなる』

 

『自分の家の敷地内でのみ、未来を見通せる』

 

『契約した神社の周辺でしか式神を呼べない』

 

『雨の日だけ能力が強化される』

 

『一日に三回しか使えない』

 

『左手でしか発動できない』

 

『自分が信じる正義に反する行動では使えない』

 

 など、極端な条件を持つ能力者も存在する。

 

「ある土地の中ではほぼ無敵なのに、一歩出るとただの普通の人になる能力者もいるんですか?」

 

「います。非常に局地的な防衛には向いていますが、汎用性には欠けますね」

 

「吸血鬼なら、故郷の土を入れた棺桶が必要な種類も、その仲間ですか?」

 

「そうですね。故郷の土や棺を、能力の基盤と接続する固定点とする系統です」

 

       *

 

 久我は、自分が能力を使った後に襲われる頭痛や空腹を思い出し、ふと疑問を口にした。

 

「魔法使いなら、『魔力切れ』という概念がありますよね?」

 

「あります」

 

「じゃあ、結局はすべての能力者を動かす、共通の燃料タンクみたいなものがあるんですか?」

 

 かれんは一拍置いて、首を振った。

 

「学術的には、すべての因果律改変者に共通する『魔力タンク』のような物理的・霊的な器官は、存在しないとされています」

 

「されています?」

 

「はい。少なくとも、現在の八咫烏や研究機関の観測では、統一されたエネルギーは確認されていません」

 

 能力者が『魔力』と呼んで消費しているものは、必ずしも同一ではない。

 

 身体のカロリーや疲労。

 

 脳の情報処理能力の限界。

 

 精神力。

 

 血液。

 

 自身の寿命。

 

 儀式用の物資。

 

 神への信仰心。

 

 契約相手からの霊力供給。

 

 一日の使用回数制限。

 

 あるいは本人が『魔力だ』と強固に認識している架空の数値。

 

 これらを、本人がまとめて『魔力』と呼んでいるだけなのだ。

 

「『魔力が切れたから能力が使えない』のではなく、『魔力切れという制限や限界を持つことで、能力がこの世界で成立している』と考える理論が有力です」

 

「使える回数や燃料に制限を設けているからこそ、その分だけ一回当たりの威力を上げられる?」

 

「概ね、その理解で構いません」

 

「でも、本人には本当に魔力が減って、空っぽになっていく感覚があるんですよね?」

 

「あります。能力者本人の世界観や認識の中では、それが揺るぎない事実だからです」

 

 久我は頭を抱えた。

 

「ややこしいな……」

 

「現場じゃ、相手が『もう魔力がない』って言ったら、とりあえず今は撃てないんだなと思っときゃいいんだよ」

 

「学術的な説明を、全部台無しにするくらい簡単にまとめましたね」

 

「では、強い能力者ほど、その制限が厳しくなるんですか?」

 

「必ずしも、そうではありません」

 

 かれんが訂正する。

 

 能力者が成長し、世界に対する解像度や格が上がると、

 

『必要な呪文が短縮される』

 

『一日の使用回数が増える』

 

『道具なしでも発動できる』

 

『土地から離れても性能を維持できる』

 

『能力使用後の疲労が激減する』

 

 といった現象が起きる。

 

 そして、Tier 0に近づくほど、外部から観測可能な分かりやすい制限は減っていく傾向にある。

 

「Tier 0級の存在は、通常の能力者が必要とする燃料、回数、詠唱時間、距離などの制約から、ほぼ無縁である場合があります」

 

「ほぼ、ですか」

 

「完全に無制限なのか、それとも私たちにはその制限を観測・理解できないだけなのかは、判断がつきませんから」

 

「世界を作ったり、時間を巻き戻したりするような奴の燃料切れなんて、こっちから確認しようがねえからな」

 

 剣持が肩をすくめる。

 

 久我は黙った。

 

(俺の中に残っているという吸血神の力も、その領域に近いのか?)

 

(血液を使っているようには見えるが、本当に血が燃料なのか。それとも、今はそういう形で無理やり力を抑え込んでいるだけなのか)

 

 だが、その疑問は深く追求せず、胸の奥にしまい込んだ。

 

       *

 

 能力の制約に関する基礎説明を終えたかれんが、タブレットの画面を切り替えた。

 

「さて。では本題である、次の捕獲任務について説明します」

 

「待ってください。今の長い説明、全部次の任務の前振りだったんですか?」

 

「必要な基礎知識です」

 

「また捕獲任務なんですね」

 

「はい。ただし、御子柴翔太さんのような窃盗犯の件とは、性質が大きく異なります」

 

 表示された案件名を見て、久我は目を丸くした。

 

【継承型因果律改変者・保護確保任務】

 

対象者:鏡宮千鶴《かがみや・ちづる》

 

年齢:十七歳

 

出身:京都府

 

犯罪歴:なし

 

逮捕状:なし

 

危険度:暫定評価中

 

対応方針:対話および本人同意による保護を最優先

 

「十七歳の女の子?」

 

「はい」

 

「犯罪歴なし、逮捕状もなし。それで捕獲任務なんですか?」

 

「業務上の書類分類では『保護確保』となります」

 

 剣持が分かりやすく翻訳する。

 

「平たく言えば、家出した能力者のガキを見つけて保護する仕事だな」

 

「犯罪者じゃないなら、『捕まえる』という物騒な言い方はやめた方がいいのでは?」

 

「対象者が非常に強力な能力を保持しており、不用意に接触すればこちらが負傷する可能性があるため、安全を考慮して捕獲任務用の厳重な手続きが適用されています」

 

「書類上の都合なんですね」

 

「はい」

 

 そして、今回の依頼は通常の警察経路や、八咫烏の地方支部から回ってきたものではないという。

 

 かれんが淡々と言う。

 

「この依頼は、私の『家』を経由して、八咫烏へ持ち込まれました」

 

「皇さんの家?」

 

 剣持は特に驚いた様子はないが、久我は少し気になった。

 

(皇さんの家って、京都の異能名家から直接相談を受けるような、特別な立場なのか?)

 

 だが、かれん本人が自分の家系について詳しく説明する気配はない。

 

「私の家は、京都の一部の旧家と、異能案件に関する連絡経路を持っています。今回も、窓口として仲介を依頼されただけです」

 

「依頼主は、京都の名家ですか?」

 

「鏡宮家です」

 

       *

 

 鏡宮家は、京都に古くから存在する異能の家系だ。

 

 公的には、古い神社や文化財の管理に関わる由緒正しい旧家として知られている。

 

 しかし裏では、京都という土地に集まる呪詛、悪意、怪異、侵入型の術式、そして外部から向けられた破壊的な因果律改変を、特別な『鏡の力』によって反射、分散、封印し続けてきた防衛の要でもある。

 

 鏡宮家が管理する複数の鏡は、京都の異能防衛網の一部として機能している。

 

 その中心にあるのが、家宝《真澄鏡》。

 

 鏡宮家の当主は、代々この《真澄鏡》と接続し、継承型能力《神鏡返し》を受け継ぐ。

 

「鏡宮家の能力は、血統、祭具、土地、儀式の四つを非常に強い『制約』とすることで、途方もなく高い出力を維持しています」

 

「さっき説明していた、制約が強い代わりに強力な能力の典型例ですね」

 

「はい」

 

 鏡宮家の当主は強い。

 

 だが、その代償として、京都という土地と《真澄鏡》から長期間離れることが難しい。

 

 能力を継承した者は、一族の役割と結界の維持から自由になれないのだ。

 

 タブレットに千鶴の写真が表示される。

 

 長い黒髪。

 

 整った顔立ち。

 

 京都の古い日本家屋の縁側で撮影された、セーラー服姿の少女。

 

 ただし、その表情は硬く、まったく笑っていない。

 

 鏡宮千鶴、十七歳。

 

 鏡宮家の現当主候補。

 

 幼い頃から、次期継承者として厳しく育てられてきた。

 

 しかし、本来であれば、彼女の祖母がまだ数年間は当主を務め、千鶴は時間をかけて儀式の準備を進める予定だった。

 

 だが数週間前、祖母が急死。

 

《神鏡返し》という巨大な能力が、準備期間も不十分なまま、千鶴へ強制的に継承されてしまった。

 

 継承直後から、千鶴の身の回りでは異常な現象が頻発した。

 

『鏡に、自分の知らない古い風景が映る』

 

『周囲の人間の悪意や敵意が、本人の意思と無関係に反射される』

 

『睡眠中、歴代継承者の記憶が夢に流れ込み、精神を削られる』

 

『ガラスや水面を通して、意図せず別の場所へ移動してしまう』

 

『自分へ向けられた術式や因果を、無差別に周囲へ跳ね返す』

 

 鏡宮家は、暴走する能力を安定させるために、当主交代の総仕上げである《鎮鏡の儀》を急遽行おうとした。

 

 しかし儀式の前夜、千鶴は家宝の一部である小型の『分鏡』を持ち出し、京都から逃亡した。

 

 現在は、東京方面へ身を隠していると推測されている。

 

       *

 

「その、継承能力《神鏡返し》というのは、具体的にどんな能力なんですか?」

 

 かれんが正式分類を読み上げる。

 

「血統祭具連結型・鏡面概念干渉門・反射因果逆流系・継承者限定複合異能。固有名称《神鏡返し》です」

 

「相変わらず正式名称が長いですね」

 

「今回は、古い家系が独自の固有名称を持っているので、現場では《神鏡返し》で構いません」

 

 確認されている主な能力は三つ。

 

 一、《返照》。

 

 千鶴へ向けられた攻撃、呪詛、拘束、あるいは強い敵意を、発生源へと文字どおり『反射』する。

 

 千鶴を殴ろうとした者は、自分の打撃を自分自身で受ける。

 

 捕縛術を使った者は、自分の術式で自分が縛られる。

 

 捕縛ネットを撃てば、ネットが撃った側へ跳ね返る。

 

 強く腕を掴もうとすれば、掴んだ者の腕に同じ圧力が返ってくる。

 

 本人が意識的に使う場合もあるが、現在は能力が不安定なため、恐怖や敵意へ反応して半自動的に発動する状態だ。

 

 強い殺意や害意ほど、より強力に反射される。

 

「力ずくで捕まえようとすると、自分がやったことをそのままそっくり返される?」

 

「はい」

 

「殴った奴が、自分の拳で自分を殴るようなもんだな」

 

「捕獲対象として、最悪の能力特性では?」

 

 二、《鏡写し》。

 

 千鶴へ強い敵意や戦意を向けた者を、鏡像として一時的に複製し、実体化させる。

 

 鏡像は、対象者の外見、身体能力、戦闘技術、表層的な能力を一定範囲で再現し、千鶴を守るために戦う。

 

 ただし、本物と完全に同等ではない。

 

 血液、魂、深層記憶、他人に隠している秘密の能力までは完全に複製できない。

 

「俺が剣を抜いて襲いかかったら?」

 

「剣持さんの剣技を模倣する鏡像が出現する可能性があります」

 

「俺と同じ剣技の相手か。面倒だな」

 

「ですから、剣持さんは今回の接触班から外します」

 

「判断が早いな」

 

「俺の場合はどうなります?」

 

「吸血鬼としての高い身体能力や、表に出している魔眼の一部を再現する可能性があります」

 

「俺みたいな吸血鬼が、もう一人増える?」

 

「ただし、鏡像には本物の血流や心拍が存在しません。久我さんの魔眼ならば、本体の千鶴さんと鏡像、あるいは本物の人間と鏡像を、一目で区別できるでしょう」

 

「そのために、俺が選ばれたんですね」

 

 三、《鏡渡り》。

 

 鏡、窓、水面、磨かれた金属など、自分の姿を映す『反射面』を経由して空間を移動する。

 

 鏡から別の鏡へ移る。

 

 店舗の窓から車のミラーへ移る。

 

 水たまりを出口として利用する。

 

 ただし、制限もある。

 

 一度使った反射面は一定時間曇って使えなくなる。

 

 遠距離の移動には、彼女が持ち出した『分鏡』を固定点にする必要がある。

 

 移動先の反射面を、何らかの形で認識していなければならない。

 

 そして、精神状態が不安定だと、着地点が大きくずれる。

 

「透明人間の次は、鏡の中を瞬間移動する家出少女ですか」

 

「最近、逃げる能力者と縁があるな」

 

「俺が追跡専門のスタッフみたいになってきてません?」

 

       *

 

「なぜ千鶴さんは、急に逃げ出したんですか?」

 

 鏡宮家の公式な説明では、『千鶴は突然の能力継承によって精神的に混乱している。《鎮鏡の儀》を受ければ能力は安定する。放置すれば本人も周囲も危険であり、京都の防衛網にも影響が出るため、至急連れ戻す必要がある』ということになっている。

 

 一方、千鶴は逃亡前、信頼していた使用人へ短い書き置きを残していた。

 

『あれは、能力を安定させる儀式ではありません』

 

『私を鏡に縛り付けて、一生家から出られなくする儀式です』

 

『お母様のようになりたくありません』

 

『私は、私のままでいたいです』

 

「……お母様に、何かあったんですか?」

 

「千鶴さんの母親も、かつて継承候補として儀式の一部を受けています。現在は鏡宮家の療養区画で生活していますが、外部との接触はほとんどありません」

 

「儀式の影響で、おかしくなった?」

 

「鏡宮家は否定しています」

 

「本人の記憶や人格が壊れる可能性は?」

 

「不明です」

 

 鏡宮家の主張にも一理ある。

 

《鎮鏡の儀》を行わなければ、能力が暴走し、京都の結界が不安定になる。

 

 千鶴が歴代当主の膨大な記憶に呑まれ、自我を失う。

 

 周囲の敵意を無差別に反射して、人を傷つける。

 

 最悪の場合、鏡の内部の異空間へ取り込まれて戻れなくなる危険があるという。

 

 ただし、儀式の詳細は鏡宮家の秘伝として非公開であり、八咫烏にも全資料は提出されていない。

 

「鏡宮家の説明がすべて虚偽とは限りません。千鶴さんの能力が極めて危険な状態にあることは事実です」

 

「でも、だからといって家へ戻せば安全とも限らない」

 

「はい」

 

 かれんが、今回の任務の線引きを明確にする。

 

「今回の対象者は、犯罪者ではありません」

 

 逮捕しない。

 

 手錠をかけない。

 

 鏡宮家へ即時引き渡さない。

 

 まず本人の事情を確認する。

 

 八咫烏の中立な保護施設へ移動させる。

 

 鏡宮家との面会は、本人の安全を確保し、同意を得た上で行う。

 

「鏡宮家からは、京都へ連れ戻してほしいと頼まれているんですよね?」

 

「はい」

 

「その依頼を無視していいんですか?」

 

「八咫烏は鏡宮家の私兵でも、名家の家出人回収業者でもありません」

 

 かれんは淡々と言う。

 

「未成年の因果律改変者が、家族や継承儀式から逃げている。強制、虐待、能力の不当利用の可能性があります。本人の安全と意思を第一に確認するまでは、決して引き渡しません」

 

「皇さんの家経由で来た依頼でも?」

 

「関係ありません」

 

「そこは本当にドライですね」

 

「行政機関ですから」

 

       *

 

「それで、どうして今回も俺が選ばれたんです?」

 

 かれんが、久我を選んだ理由を列挙する。

 

 一、鏡像と本体を識別できる。

 

 鏡像には、本物の心拍や血液循環が存在しない。

 

 久我の魔眼なら、千鶴が複数の鏡像を出して攪乱してきても、一目で本体を特定できる。

 

 二、反射を受けても致命傷になりにくい。

 

 久我は吸血鬼だ。

 

 万が一、打撃や切創を反射されて自分が損傷しても、一般人より遥かに早く回復できる。

 

「やっぱり、反射されてもすぐ治る便利な壁役だから選ばれてません?」

 

「理由の一部です」

 

「否定しないんですね」

 

 三、過剰攻撃を行わない。

 

 野良吸血鬼戦や御子柴の捕縛任務で、久我は必要以上の攻撃を避け、対話と観測を優先した。

 

 相手を傷つけない立ち回りができる。

 

 四、京都の異能名家と利害関係がない。

 

 久我は鏡宮家にも皇の家にも属していない。

 

 千鶴から見て、しがらみのない比較的中立な大人として映る。

 

 五、過剰な役割を押しつけられる苦しさを理解できる。

 

「久我さんは、会社で能力と仕事を都合よく使い潰されていた経験があります」

 

「ええ、まあ」

 

「家のために能力を使うことを当然とされ、個人の意思を無視されている千鶴さんの気持ちを、完全ではなくても、理解して寄り添える可能性があります」

 

 剣持が吹き出す。

 

「三十五歳の社畜経験が、名家の家出娘を説得する技能として評価されるとはな」

 

「そんな形で職歴を評価されたくありませんよ」

 

 今回の接触担当は、皇かれんと久我陽介の二人。

 

 剣持は現場近くで待機する。

 

 剣持が最初から剣を持って近づけば、千鶴が恐怖し、《返照》が発動するか、剣持の鏡像が出現して剣士が二人になる可能性が高いからだ。

 

「俺みたいなのが、もう一人増えるんだろ?」

 

「非常に迷惑です」

 

「本人を前にして言うことか?」

 

「ですから、呼ばれるまで絶対に近づかないでください」

 

 杖原や源も今回は同行しない。

 

 人数が多いほど、千鶴が『家からの追っ手』と誤認する可能性が高まる。

 

 最初は少人数で、武器を見せず、逃げ道を塞がずに、対話の姿勢で接触する。

 

 かれんが久我へ、接触時の厳重な注意事項を伝える。

 

 一、急に触らない。

 

 腕を掴むだけでも、《返照》によって同じ拘束が返り、自分の腕が動かなくなる可能性がある。

 

 二、逃げ道を完全に塞がない。

 

 追い詰められたと感じると、混乱して《鏡渡り》が暴発する。

 

 三、攻撃を考えない。

 

 実際に攻撃しなくても、明確な敵意や拘束の意思を向けただけで、能力に反応される可能性がある。

 

「攻撃するつもりを、能力に読まれる?」

 

「はい。行動ではなく、向けられた因果や意思そのものを反射する能力です」

 

 四、家へ帰るよう説得しない。

 

 八咫烏の目的は、家への帰還ではなく安全確保。

 

 鏡宮家の主張を代弁してはいけない。

 

 五、本人の言葉を否定しない。

 

 儀式への恐怖が事実か誤解かは、まだ分からない。

 

 最初から『家族はあなたを心配している』と安易に言えば、交渉が破綻する可能性が高い。

 

「家出した子に『ご両親も心配してますよ』と言う、よくある説得の常套句は駄目なんですね」

 

「今回は、最悪の言葉の一つです」

 

       *

 

 千鶴の現在位置は、ある程度絞り込めているという。

 

 鏡宮家が所有する本体の鏡と、千鶴が持ち出した小型の分鏡の間には、微弱な共鳴がある。

 

 鏡宮家はその共鳴を追い、千鶴が東京西部にいるところまで特定していた。

 

 ただし、千鶴が《鏡渡り》を繰り返しているため、正確な位置は頻繁に変わる。

 

 八咫烏の調査では、最近、ある古い商店街で奇妙な現象が連続して確認されていた。

 

『閉店後の写真館の鏡に、見知らぬ少女が映る』

 

『誰もいないのに、ショーウィンドウが内側から曇る』

 

『水たまりから人が這い出てきたような目撃証言』

 

『コンビニで食料を買う制服姿の少女の映像が、防犯カメラから突然消える』

 

 千鶴は、廃業した古い写真館を一時的な隠れ場所にしている可能性が高い。

 

 写真館には、姿見、撮影用の鏡、ガラス板、額縁のガラス、暗室の水、古いカメラのレンズなど、反射面が大量に存在する。

 

「鏡の能力者が隠れる場所としては、最悪の立地ですね」

 

「千鶴さん本人にとっては、非常に逃げやすく、防衛に適した場所です」

 

 出発前、かれんはタブレットを閉じて念を押した。

 

「私たちの目的は、鏡宮千鶴さんを倒すことではありません」

 

「はい」

 

「鏡宮家へ連れ戻すことでもありません」

 

「はい」

 

「まず接触し、彼女の話を聞きます。そして、本人の同意を得て八咫烏の保護施設へ移動してもらいます」

 

「同意してもらえなかった場合は?」

 

「能力が安定しており、自傷や第三者への危険がないなら、無理に拘束はできません」

 

「危険がある場合は?」

 

 かれんが僅かに間を置いた。

 

「保護のために、強制確保へ切り替えます」

 

「攻撃を反射して、自分の鏡像まで作る相手を?」

 

「はい」

 

「……穏便に終わることを祈りましょう」

 

 剣持が肩をすくめる。

 

「そういう時に限って、だいたい穏便には終わらねえけどな」

 

「不吉なことを言わないでください」

 

 かれんが、千鶴の最新画像を久我へ見せた。

 

 商店街の防犯カメラに映った少女。

 

 黒いパーカーを制服の上から羽織り、胸元には古い銀色の手鏡を大事そうに抱えている。

 

 顔色は悪い。

 

 周囲を何度も振り返り、明らかに何かを恐れ、怯えている。

 

 犯罪者の顔ではない。

 

 追われ、眠れず、誰も信じられなくなった少女の顔だ。

 

「本当に、ただ家から逃げてきた子に見えますね」

 

「だからこそ、最初に家の人間ではない私たちが接触し、手を差し伸べる必要があります」

 

「分かりました」

 

 久我は任務資料を受け取った。

 

 御子柴の時とは違う。

 

 逮捕状もない。

 

 警察もいない。

 

 相手は窃盗犯ではなく、京都の名家から、自分自身を守るために逃げてきた十七歳の少女。

 

 それでも、正面から捕まえようとすれば、自分の攻撃を反射され、自分自身の鏡像と戦うことになる。

 

「では、鏡宮千鶴さんを捕まえに行きます」

 

「最後だけ、ずいぶん物騒な言い方に戻りましたね」

 

「業務分類上は、捕獲任務ですから」

 

 次の捕獲対象は、犯罪者ではない。

 

 今回、久我たちに求められているのは、相手を倒す力ではない。

 

 攻撃すればするほど自分へ返ってくる少女へ、敵意を持たずに手を差し伸べることだった。

 




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