35歳社畜、女子高生に吸血鬼だと宣告される〜みなし残業で覚醒能力を使い潰していた俺、現代異能バトルの世界では最強候補らしいです〜   作:パラレル・ゲーマー

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第27話 吸血鬼、天井を走る泥棒を追いかける

 深夜の御影坂高校、夜間警備班の控室。

 

 使い込まれた長机とパイプ椅子が並ぶ無機質な空間で、久我陽介は手元のスマートフォンの画面を眺めながら、ぽつりとこぼした。

 

「せっかくなので、何か吸血鬼として必要な物を買おうかと思ってるんですけど」

 

 先日振り込まれた、八咫烏からの協力報酬。

 

 実費補償を除いて二十数万円という金額は、命懸けの現場協力に対する対価としては決して破格ではないが、予定外の臨時収入としては十分にまとまった額だった。

 

 壁に背中を預けていた剣持が、腕を組んだまま答える。

 

「普通の能力者なら、まず買うのは『呪殺守護札』だな」

 

「呪殺守護札?」

 

「寝室の壁や扉に貼るやつだ。起きてる時なら、変な呪いの気配に気づいて逃げたり、八咫烏へ通報したりできるだろ。けど寝てる時は、普通の人間はどうしたって無防備になる。そういう隙を狙う呪術から身を守るための、防犯用品みたいなもんだ」

 

 剣持の口から語られる呪殺の種類は、現代日本で生きてきた久我の想像を遥かに超えていた。

 

 対象者の髪や爪を媒介にする古典的なもの。

 

 本名や写真を指定して、夢へ侵入するもの。

 

 睡眠中に少しずつ生命力を削り取るもの。

 

 枕元や寝室の鏡を経由して実体化するもの。

 

 毎夜少しずつ術式を積み重ね、数日かけて完成させる遅効性のもの。

 

 方法も効果も、多岐にわたるらしい。

 

「普通の神社でもらえる札でも、低級の呪いなら多少の時間稼ぎにはなる。けど、八咫烏の協力者として現場に出て、怪異や野良の能力者と関わるなら、専門の術者がきっちり作った札を買った方がいい」

 

「協力者になると、寝室のオカルト的な防犯対策まで自費でやらなきゃいけないんですね……」

 

「お前を恨んだ野良の能力者が、常に正面から律儀に殴り込みに来てくれるとは限らねえからな」

 

 久我は、路地裏で絞め落とした野良吸血鬼や、透明人間の顔を思い浮かべた。

 

 確かに、あの手の連中が呪術という手段を持っていたなら、寝首を掻かれる危険は常にある。

 

 しかし、剣持は久我の顔を見て少し考え込んだ後、ふと肩をすくめた。

 

「……でも、お前は吸血鬼か。なら、そこらの安い呪殺じゃ、簡単には死なねえな」

 

「買わなくていいんですか?」

 

「まったく効かねえわけじゃないし、上位の術者が本気で呪ってきたら普通に危ねえ。けど、今の段階で優先して大金を出すほどじゃねえな。多少呪いで体調が崩れても、血を飲んで寝てりゃ、高い再生力で自力回復できる可能性が高い」

 

 剣持はさらに、久我の腰へ提げられた八咫烏認可済みの軍用ナイフへ視線を移す。

 

「武器も、今の軍用ナイフから高い魔剣なんかへ買い替える必要はねえ。お前は前衛で斬り合う剣士じゃないし、ナイフへ何十万もかけたところで、急に強くなるわけじゃねえからな」

 

「なるほど。人間の協力者なら呪殺守護札が安牌だけど、俺の場合は防御札や武器より、別の生活用品にお金を回した方がいいと」

 

「そういうことだ。お前はまず、吸血鬼としての基礎的な生活環境を整えろ」

 

 久我はスマートフォンを操作し、大手通販サイトを開いた。

 

「じゃあ、血液パック専用の小型冷蔵庫でも買おうかな……」

 

「普通の冷蔵庫じゃ駄目なんですか?」

 

 横でスポーツドリンクを飲んでいた澪が、不思議そうに首を傾げる。

 

「駄目ではないんだけどね」

 

 久我の自宅にある冷蔵庫には現在、卵や牛乳、週末に作り置きした惣菜、麦茶のボトルといった一般食品と、八咫烏経由で支給された深紅の血液パックが、同じチルド室に混在している。

 

 一人暮らしなので、本人が気にしなければ衛生面や運用上の問題はない。

 

 しかし、仕事から帰ってきて扉を開けるたび、マヨネーズの隣に血液がずらりと並んでいる光景を見るのは、精神的な摩耗が激しかった。

 

「冷蔵庫を開けるたびに、自分の普通の生活が少しずつ非日常へズレていってる感じがして、ちょっと嫌なんだよ」

 

「今さらだろ」

 

 剣持が身も蓋もない突っ込みを入れる。

 

「それに、万が一急な来客があった時に、説明が難しいですからね」

 

 佐藤や総務の高橋が自宅を訪ねてくる可能性は極めて低いが、絶対にないとは言い切れない。

 

 水漏れや火災警報器の点検などで、業者が入ることもある。

 

 血液パック専用の小型冷蔵庫を寝室や鍵のかかる部屋に置いておけば、一般食品と完全に分けて管理でき、露見する危険を減らせる。

 

 長机でタブレットを操作していたかれんが、顔を上げて久我の意見を肯定した。

 

「よいと思います。血液製剤の厳密な温度管理もしやすくなりますから」

 

「やっぱり、専用の保管場所は必要ですよね」

 

「はい。それから、遮光カーテンも予備を含めて、より質のよい物へ交換した方がよいでしょう。久我さんは日光へ極端に弱い系統ではありませんが、睡眠中の光刺激を減らすことは、疲労回復に直結します」

 

「確かに。休日の朝なんか、少しでも朝日が漏れてくると妙に目が覚めて、体力を削られる感覚があるんですよね」

 

「加えて、鍵付きの堅牢な収納箱も必要です。血液パックのストック、緊急用医薬品、八咫烏から支給された装備類、そして提出用の報告書類などを、一般の生活用品と一緒に無造作に保管することは推奨できません」

 

 久我は脳内で出費を計算し始めた。

 

 小型の静音冷蔵庫。

 

 一級遮光のオーダーカーテン。

 

 鍵付きのスチール製収納箱。

 

 停電時を見越した保冷用品。

 

 血液パック用の温度計。

 

 まとまった報酬が入ったとはいえ、吸血鬼として安全な生活環境を整えようとすれば、それなりに綺麗に消えていく金額だった。

 

「うーん。そうなると、今後も依頼を受けて少し稼いだ方がいいのかな……」

 

 久我がぼそりとこぼしたその時、かれんが手元のタブレットを素早く操作し、モニターへ接続した。

 

「ちょうどよかったです」

 

「嫌な繋がり方をしましたね。俺、今完全にフラグを踏みました?」

 

 ため息をつく久我をよそに、澪が少し不思議そうな顔で口を開いた。

 

「あの、私は吸血鬼になった時に八咫烏の人が、血液パック用の専用クーラーボックスを支給してくれましたけど……あれって、特別支給品だったんですね」

 

「俺は普通に、自分で持ってた保冷バッグを使って病院から持ち帰ってたよ」

 

 久我が答えると、かれんが補足する。

 

「未成年の吸血鬼には、初期生活支援品として優先的に支給される決まりになっています」

 

 未成年が吸血鬼として覚醒した場合、家族へ即座にすべてを知らせられるとは限らない。

 

 親族が吸血鬼という存在を恐れて混乱したり、本人を怪しい宗教施設へ連れていこうとしたり、迷信を信じて無理に日光へ当てようとしたりする例があるという。

 

 血液の摂取を禁止して飢餓暴走を引き起こしたり、親族や学校へ勝手に言いふらしたり、本人を自宅へ閉じ込めてしまったりする問題へ発展することも少なくない。

 

 そのため、八咫烏側で本人の安全確認と家族関係の慎重な調査が終わるまでは、血液パックの保管・運搬用品などを直接支給して支援するのだ。

 

「未成年吸血鬼の覚醒を、十分な準備や理解なしに親族へ通知すると、かえって本人の命に関わる場合があります。ですから、初期の生活を維持するための必需品については、ご家族を通さず本人へ直接渡すことがあります」

 

「普通にもらったので、吸血鬼なら大人の人も全員もらえる物だと思ってました」

 

「大人は自分の甲斐性で用意しろ、という行政の冷たいメッセージだね」

 

 久我が自虐的に笑うと、剣持が鼻で笑った。

 

「報酬も入ったんだろ。大人しく自腹で買え」

 

       *

 

 かれんがタブレットの画面を大型モニターへ映し出す。

 

「では、次の捕獲任務について説明します。今回は、久我さんと七瀬さんの二人に現場協力をお願いします」

 

 澪がぴんと姿勢を正した。

 

「分かりました。頑張ります!」

 

 その直後、澪は少し不安そうに周囲を見回した。

 

「あれ? 剣持さんや、源さんは出ないんですか?」

 

「俺たちは待機だ」

 

 剣持が短く答える。

 

「対応できないわけではありません。しかし、高Tierの能力者を低Tier案件へ常に派遣し続けることは、適材適所と戦力管理の観点から推奨されません」

 

「強い人を送れば、早く確実に現場対応が終わるのでは?」

 

 久我が会社員らしい効率論を口にすると、かれんは静かに首を振った。

 

「その一件だけを考えれば、おっしゃるとおりです。しかし、八咫烏が同時に対応している案件は、この地域だけでも多数存在します」

 

 信頼できる高Tier能力者は、東京全域の大規模結界の維持、広域怪異災害への緊急待機、異空間の崩壊阻止、高危険度非人間の監視、Tier 1級以上の能力者事件への対応、海外組織からの防衛など、より深刻な事案へ優先的に配置されている。

 

 源や剣持も、毎晩この学校の警備だけをしているわけではない。

 

 別の場所で突発的な緊急要請があった場合に備え、一定の戦力を余力として残しておく必要があるのだ。

 

「低Tier案件へ常に高Tier能力者を投入してしまえば、同時刻に発生した重大事件へ対応できなくなります。それに、比較的危険度の低い案件は、経験の浅い協力者が、管理された条件下で実戦経験を積むための機会でもあります」

 

「俺が刀を持って行ったら、逃げる泥棒を斬るか斬らねえかの物騒な話になるからな。今回は、足回りと観測に優れたお前らの方が向いてる」

 

「低Tierだからといって、安全という意味ではないんですよね」

 

 久我の念押しに、かれんは冷静に頷いた。

 

「もちろんです。能力の階位が低くても、使用方法と環境次第では、容易に人を殺せますから」

 

       *

 

 モニターへ、一人の青年の顔写真と防犯カメラの映像が映し出された。

 

『【対象者】

 

 戸倉岳《とくら・がく》。

 

 二十歳。男性。無職。未登録能力者。

 

 逮捕状あり。

 

 主な容疑:建造物侵入、窃盗、器物損壊、傷害、公務執行妨害』

 

 戸倉は、およそ一年ほど前に能力へ覚醒したと推測されている。

 

 最初は、閉店後の店舗の二階窓へ外壁から侵入し、現金や電子機器を盗む程度の窃盗だった。

 

 しかし、能力を使った異常な経路からの侵入が成功するたび、彼の手口は大胆になっていった。

 

 防犯カメラの死角を突いて天井を移動する。

 

 高層マンションの外壁を伝ってベランダへ侵入する。

 

 大型商業施設の吹き抜けを空中のように横断する。

 

 屋上から天井裏へ入り込む。

 

 壁面を走って警備員を振り切る。

 

 そして最近では、逃走中に追跡してきた警備員へ高所から蹴りを浴びせ、階段から転落させている。

 

 被害者は右腕を骨折し、肋骨にもひびが入る重傷を負った。

 

 明確な殺意が確認されたわけではない。

 

 しかし能力犯罪を繰り返し、追跡者に対して積極的な暴力を使い始めている。

 

「……もう、未登録だからといって、見逃せる段階ではないですね」

 

「はい。一般市民への被害拡大を防ぎ、本人の安全を確保するためにも、早急な捕縛が必要です」

 

 かれんが、戸倉の能力の正式分類を読み上げる。

 

「自己対象型・局所重力方向認識改変系因果律能力。現場での呼称は《落下方向指定》です」

 

 自分にとっての下という概念を、一時的に任意の方向へ変更する能力だという。

 

 壁を下として認識すれば、戸倉の身体は壁へ向かって落下していく。

 

 壁へ到達した後は、その壁を通常の床のように二本足で走ることができる。

 

 天井を下に指定すれば、天井へ向かって逆さまに落ち、そのまま天井を走る。

 

 向かいの建物を指定すれば、空中を横方向へ落下して渡ることも可能だ。

 

「確認されている制約は、以下のとおりです」

 

 かれんが一覧を表示する。

 

『能力の対象は戸倉本人と、着衣および身体へ密着させた携行品のみ。他人を能力の対象へ含めることはできない』

 

『能力を発動するには、移動先となる面を視認する必要がある。視界を完全に遮られると、二秒前後で効果が崩れる』

 

『一度方向を指定すると、約四秒間は別方向へ変更できない』

 

『落下時の速度と慣性は消せない。無制限に空中で停止することはできない』

 

『方向変更を繰り返すと平衡感覚が激しく乱れ、長時間使用すると眼振、吐き気、判断力低下が起きる』

 

『意識を失えば能力は解除され、通常の重力へ戻る』

 

 澪が、少し不思議そうに手を挙げた。

 

「空を自由に飛んでいるのとは違うんですか?」

 

「本人は空を飛んでいるのではありません。常に、自分が指定した方向の面へ向かって落ちているのです」

 

「落下先を変え続けて、結果的に飛んでいるように見せているだけってことか」

 

「その理解で構いません」

 

「だから壁や天井は走れるが、何もない空中で鳥みたいにぴたりと止まることはできねえんだよ」

 

 剣持の補足に、久我は顎へ手を当てた。

 

「能力としては分かりやすいですが、追いかける側からすると厄介極まりないですね」

 

 今回の現場は、翌月の改装再開へ向けて作業が進められている大型商業施設。

 

 広い吹き抜け構造を持ち、壁、天井、巨大な柱、ガラス面、吊り下げられた広告板、連絡通路など、戸倉が能力を使える落下先の面が無数に存在する。

 

 通常の警察官が平面を走って追えば、上下左右の三次元へ逃げられ、簡単に振り切られる。

 

 高所を移動している最中に無理に撃ち落とせば、戸倉本人が墜落死する可能性もある。

 

「だからこそ、久我さんと七瀬さんの出番です。久我さんには、戸倉の視線、筋肉の緊張、重心移動、能力発動時の微細な痕跡を魔眼で観測してもらいます」

 

 戸倉が次にどの面を下へ指定するかは、動く直前の身体に必ず兆候が出る。

 

 どの面を見ているか。

 

 どちらの脚で踏み切るか。

 

 着地へ備えて肩を固めているか。

 

 首を守るため、顎を引いているか。

 

 久我の魔眼と内在時間の加速があれば、それを確認できる。

 

 しかし久我自身は、立体的に落下し続ける戸倉へ追いつくほどの純粋な瞬発力を持っていない。

 

 そこで、澪の出番だ。

 

 澪は吸血鬼として、瞬間的な加速、高い跳躍力、壁や柱を蹴る運動能力、空中での姿勢制御、そして高所からの落下への耐久力が、久我よりも遥かに優れている。

 

「久我さんが逃走方向を予測し、七瀬さんが先回りして捕縛してください」

 

「久我さんの言うことを聞いて、そのとおりに動けばいいんですね」

 

「はい。現地では、久我さんの指示に従ってください」

 

 久我は、急に胃のあたりが重くなるのを感じた。

 

「……俺が、現場指揮ですか?」

 

「二人の中では、久我さんの方が現場での情報処理と実戦の経験がありますから」

 

 つい最近まで会社でみなし残業に追われていただけの三十五歳の社畜が、突然女子高生吸血鬼の命と安全を預かる現場指揮役になる。

 

 八咫烏の人材起用は、相変わらず容赦がない。

 

「無理に一人で捕まえようとしないでください。危険だと判断した場合は、すぐに警察の防衛線まで後退し、増援を要請してください」

 

「分かりました。頑張ります!」

 

 気合十分の澪へ、かれんは念を押した。

 

「七瀬さん。現場では、必ず久我さんの指示を聞くこと」

 

「はいっ!」

 

「では、警察と合流して任務へ向かってください」

 

 剣持が、腕を組んだまま笑う。

 

「ずいぶん軽く送り出すな」

 

「必要な情報と装備は渡しましたから」

 

       *

 

 深夜の大型商業施設。

 

 翌月の改装オープンへ向け、一部のテナントではすでに商品や高価な備品の搬入が始まっていた。

 

 戸倉は、こうした改装中の施設を好んで狙う傾向がある。

 

 警備員が手薄であり、店舗配置が変わっているため防犯カメラの死角ができやすい。

 

 高価な電子機器が一時保管されていることも多い。

 

 加えて、足場や工事用通路があるため、能力を使った三次元的な逃走経路を確保しやすい。

 

 警察は、盗品の売却記録と過去の侵入経路から、戸倉が今夜この施設を狙うと予測していた。

 

 現場には、透明人間の捕縛事件で一緒になった榊原警部補と宮下巡査部長の姿があった。

 

「またお願いすることになりましたね、久我さん」

 

「最近、役所の事務作業より、捕まえる側の実働仕事が増えてきました」

 

 榊原が、隣の澪を見る。

 

「こちらが、今回実動を担う七瀬さんですか」

 

「はい。七瀬澪です。よろしくお願いします!」

 

 警察側の装備は、対能力者用の非致死性装備で固められていた。

 

 捕縛ネット射出器。

 

 床面へ展開する衝撃吸収マット。

 

 視界遮断用の黒い捕獲フード。

 

 高所作業用の安全索。

 

 催涙剤ではない視界阻害用の粉末。

 

 能力者用の全身固定拘束具。

 

 今回の最大の対策は、視界遮断だった。

 

 戸倉は移動先を視認できなければ、新しい落下方向を指定できない。

 

 既存の効果も、完全に視界を失えば約二秒で解除される。

 

「ただし、天井から落ちている途中で能力を解除すれば、今度は通常の重力に従って、普通に床へ真っ逆さまに落下します」

 

 宮下が険しい顔で補足する。

 

「見えなくすれば終わりというわけではなく、落下先へマットを敷いて安全を確保する必要があるんですね」

 

「ええ。彼を殺すことが目的ではありませんから」

 

       *

 

 午前零時四十七分。

 

 屋上の警報センサーが、一度だけ僅かに反応した。

 

 しかし、防犯カメラには侵入者の姿がまったく映らない。

 

 数分後、三階の仮設倉庫で、扉の電子錠が物理的に破壊されたという無線の報告が入った。

 

 警察が静かに、だが確実に包囲の網を狭めていく。

 

 久我と澪は、一階中央にある広大な吹き抜けの陰で待機していた。

 

 久我が遮光グラスの奥で、魔眼を起動する。

 

 暗い施設の中で、工事用照明の放つ熱、配置についた警察官たちの血流、配電設備に流れる電流、そして空間に残留する微かな能力の痕跡を分けて視覚化していく。

 

 そして、天井近く。

 

 三階の吹き抜け上部。

 

 普通なら人間が存在するはずのない位置に、逆さまになった温かい血流が動いているのを見つけた。

 

「……いました」

 

「どこですか?」

 

 久我が天井を指差す。

 

 澪がそちらを見上げる。

 

 黒い服を着た青年が、背中に大きなリュックを背負ったまま、三階吹き抜けの天井を、まるでそこが床であるかのように走っていた。

 

「本当に、天井を走ってますね……」

 

「資料で読むのと、実際に見るのとでは、やっぱり印象が違うな」

 

       *

 

「戸倉岳! 警察だ! その場から動かず、投降しなさい!」

 

 三階の通路に現れた警察官が声を上げた。

 

 天井を走っていた戸倉は、一瞬だけ下を見た。

 

 次の瞬間、彼にとっての下が、天井から右側の巨大な壁へ切り替わった。

 

 戸倉の身体が、吹き抜けの空間を横切るように右の壁へ向かって猛速度で落下する。

 

 数メートルの空間を一気に移動し、垂直の壁へ足から着地する。

 

 そのまま、壁を床のように走り始めた。

 

「澪さん、追って!」

 

「はい!」

 

 澪が床を強く蹴り、二階の連絡通路の手すりへ飛び上がる。

 

 しかし戸倉は四秒後、今度は向かい側の太い柱を下に指定した。

 

 横方向へ再び落下し、柱へ着地して逃げる。

 

 澪は吸血鬼の脚力で壁を蹴り、本人を追おうとするが、戸倉が縦横無尽に方向を変えるたび、空中で振り回されてしまう。

 

「澪さん! 本人を追わないで!」

 

「でも、逃げちゃいます!」

 

「今いる場所を追うな。次に落ちる場所を取って!」

 

 久我は内在時間を短く起動し、壁を走る戸倉の視線と筋肉の動きを解析した。

 

 右斜め上にある、吊り下げられた大型広告板。

 

 踏み切る脚の筋肉の収縮。

 

 着地へ備えて固くなる左肩。

 

「右上の広告板! 四秒後!」

 

 澪は戸倉本人ではなく、広告板の下へ向かって壁を蹴って走った。

 

 戸倉が能力を変更する。

 

 予測どおり、戸倉の身体が広告板へ向かって横方向に落ちる。

 

 澪がさらに壁を蹴り、到着地点へ先回りして着地した。

 

 ここで初めて、澪が戸倉の進行方向を完全に塞いだ。

 

       *

 

 戸倉は空中で澪の姿を見て舌打ちし、無理やり身体を捻った。

 

 広告板の端を蹴り、強引に着地点をずらす。

 

 澪の手が伸び、戸倉の上着を僅かに掴む。

 

 しかし布が破れ、完全には捕まえきれなかった。

 

 戸倉は二階の通路へ着地し、すぐに一階の久我を睨みつけた。

 

 あのアクロバティックな少女が先回りできた理由が、下から的確に指示を出しているスーツ姿の男だと理解したのだ。

 

「お前か……!」

 

 戸倉は通常の床を下へ戻した。

 

 二階の通路から一階へ飛び降り、その落下速度と重力を利用して、久我の顔面へ強烈な飛び蹴りを放ってきた。

 

 久我は魔眼で戸倉の筋肉の動きを読み、再び一瞬だけ内在時間を加速させる。

 

 世界が僅かに遅くなる。

 

 戸倉の靴底が顔へ届く直前、久我は半歩だけ横へ身体を逸らした。

 

 戸倉の蹴りが空を切り、床に置かれていた金属製の案内板へ突き刺さってひしゃげさせる。

 

「久我さん!」

 

 二階から飛び降りてきた澪が、久我と戸倉の間へ割って入る。

 

 戸倉は澪の体当たりを間一髪で避け、すぐ横の柱を下に指定して、再び壁面へ逃れた。

 

「大丈夫。追って!」

 

「はい!」

 

       *

 

 戸倉は、久我が自分の視線を読んでいることに気づいた。

 

 次の移動で、意図的に右側の壁を長く睨みつける。

 

「右壁!」

 

 久我の指示で、澪が右へ走る。

 

 しかし戸倉は、能力発動の直前に首を激しく左へ振り、左側の柱を指定した。

 

 逆方向へ落下し、澪を完全に振り切る。

 

「騙された!」

 

「俺もです」

 

 だが久我は、戸倉の身体の動きに強い違和感を覚えていた。

 

 視線は確かに右だった。

 

 しかし、踏み切る直前の足首の角度、腰の捻り、そして肩の筋肉は、明らかに左方向への衝撃へ備えていた。

 

 落下方向を変える瞬間、戸倉には無意識の癖がある。

 

 顎を引く。

 

 首を固定する。

 

 着地する側の肩を不自然に上げる。

 

 踏み切る脚の踵を僅かに浮かせる。

 

 視線はいくらでも偽装できる。

 

 だが、身体が衝撃へ備えるための防御動作は、完全には隠せない。

 

 久我が無線を通して澪へ伝える。

 

「目だけを見ないで。奴は発動直前に顎を引く。そして、着地する側の肩が上がる」

 

「分かりました!」

 

「俺の指示が間に合わない時は、そこを見て自分で判断して動いて」

 

 澪は単なる久我の指示どおりに動く手足ではなく、自分自身の目で対象を読み解く実動役へ変わり始めていた。

 

       *

 

 戸倉は、三階の吹き抜け空間の最上部へ逃げ込む。

 

 中央には、天井から吊られた巨大な宣伝用の広告幕、ガラス張りのシースルーエレベーター、各階を繋ぐ空中連絡橋、工事用の鉄パイプの足場、そして天井近くに張り巡らされた整備通路がある。

 

 警察が床面と通常の非常口を完全に封鎖した。

 

 しかし戸倉にとって、出口は床にある必要はない。

 

 戸倉は左壁を走り、そこから天井へ方向を変更した。

 

 警察の特殊ネットが壁へ放たれるが、その直前に天井へ落下して回避する。

 

「天井、中央!」

 

 澪が連絡橋の手すりへ飛び乗り、そこから強靭な脚力で天井へ向かって跳躍する。

 

 戸倉は迫る澪を避けるため、正面のガラスエレベーターを下に指定し、横方向へ落下しようとした。

 

 その瞬間、澪が戸倉の顎と肩の動きを見た。

 

 久我が下から指示を出すより早く、叫ぶ。

 

「ガラスじゃない! 上!」

 

 戸倉は直前に偽装を解き、天井の整備通路へ方向を変えていた。

 

 澪もまた、床ではなく、空中に吊り下げられた広告幕の太い支柱を蹴り、強引に軌道を上方へ変える。

 

 二人が天井近くの空中で激突した。

 

 澪の手が、戸倉の背負っていたリュックの肩紐をがっちりと掴む。

 

「離せ!」

 

 戸倉はポケットから小型の工具用ナイフを取り出し、自分のリュックの肩紐を切り裂いた。

 

 身体から離れた瞬間、リュックは戸倉の能力対象から外れ、通常の重力に従って一階へ落下し始める。

 

 中から盗品の小型端末や高級腕時計が、ばらばらと床へ向かって落ちていく。

 

 警察官が素早く退避する。

 

 商品はいくつか壊れたが、人的被害は出なかった。

 

 戸倉は重い荷物を捨てて身軽になり、そのまま整備通路へ転がり込んで逃げた。

 

       *

 

 澪が整備通路へ着地し、少し荒い呼吸を整える。

 

「低Tierって聞いてたのに、全然捕まらないです……!」

 

「能力の出力が低くても、逃げる場所が相手の能力に合いすぎてるんだ」

 

 戸倉の能力は、大規模な破壊はできない。

 

 他人を直接操作することもできない。

 

 防御力が上がるわけでも、遠距離から攻撃できるわけでもない。

 

 その意味では、確かに低Tierだ。

 

 しかし、この改装中の商業施設という複雑な立体環境では、通常の追跡者が使えない移動経路を一方的に利用できる。

 

「階位が低いから弱いんじゃない。できることが限定されているだけなんだ」

 

「じゃあ、その限定されているところを使わせなければいいんですね?」

 

「そういうこと」

 

 久我は、戸倉の能力の制約を改めて澪へ伝えた。

 

 方向変更後、四秒は変更できない。

 

 見えている面しか指定できない。

 

 視界を塞げば能力が解除される。

 

 そして何より、戸倉はすでに平衡感覚が崩れ始めている。

 

 久我の魔眼には、天井近くにいる戸倉の眼球が細かく震え、眼振を起こしていることがはっきりと見えた。

 

 血流も乱れ、脈拍が異常なほど上がっている。

 

 あと数回方向を変えれば、脳が上下の感覚を処理しきれなくなり、正常に着地できなくなる。

 

       *

 

 戸倉は天井近くの整備通路から、屋上へ繋がるガラス張りの天窓を見つけた。

 

 天窓の向こうは、暗い夜空だ。

 

 ここを破れば、屋上の設備を伝って隣の建物へ逃げられる。

 

 戸倉は床を蹴った。

 

 天窓を下に指定する。

 

 身体が上方向へ向かって落下し始める。

 

 久我は、戸倉の眼振と足の激しい震えを見た。

 

 この状態では、天窓の枠へ正確に着地することは難しい。

 

 頭や肩から硬いガラスへ衝突すれば、能力者であっても致命傷になり得る。

 

「戸倉! もう方向感覚が残ってない! そのまま行ったら、天窓のガラスへ頭から突っ込むぞ!」

 

「うるせえ! 捕まるくらいなら――!」

 

 戸倉は止まらない。

 

 天窓へ向かって、危険な加速を続ける。

 

「澪さん! 捕獲フード!」

 

 久我の指示を受け、澪が警察から渡されていた黒い視界遮断用の布製フードを取り出した。

 

 澪は整備通路の手すりへ足をかける。

 

 戸倉はすでに、数メートル上方へ落ちている。

 

 通常の人間には届かない距離だ。

 

 澪は、吸血鬼としての脚力を一気に解放した。

 

 金属製の手すりが大きく軋み、ひしゃげる音を立てる。

 

 澪の身体が、天窓へ向かって弾丸のように跳び上がった。

 

 戸倉は上へ向かって落ちている。

 

 澪は跳躍によって上へ向かっている。

 

 空中で、二人の距離が一気に縮まる。

 

 澪が手を伸ばし、戸倉の腰へ片腕をしっかりと回した。

 

 戸倉の能力は、他人を対象に含めることができない。

 

 戸倉だけを上へ引く異常な重力と、澪の身体を下へ引く通常の重力がぶつかり、戸倉の上昇速度が急激に鈍った。

 

「久我さん!」

 

「顔を塞いで!」

 

 澪が、もう片方の手に持っていた黒いフードを、戸倉の頭へすっぽりと被せた。

 

「なっ……見えねえ!」

 

 戸倉は新しい落下方向を指定できなくなった。

 

 二秒。

 

 能力の維持効果が崩れる。

 

 戸倉にかかっていた異常な重力が消え、通常の下向きの重力へ戻った。

 

 二人まとめて、十数メートル下の一階へ向かって落下を始める。

 

       *

 

 久我は、澪が跳躍した時点で、すでに警察へ落下位置を伝えていた。

 

「榊原さん、中央へ落ちます!」

 

「ネット展開!」

 

 吹き抜けの一階部分へ、大型の衝撃吸収ネットが素早く展開される。

 

 久我が魔眼で二人の落下軌道を確認し、微調整の指示を飛ばす。

 

「少し左です!」

 

 警察官たちが連携して、ネットの端を動かす。

 

 澪と戸倉が、吊り下げられた広告幕の端を擦りながら、展開されたネットの中央へ落下した。

 

 ネットが深く沈み込み、凄まじい衝撃を吸収する。

 

 澪は着地した直後、休む間もなく動いた。

 

 自分の身体の痛みを確認する前に、戸倉の右腕を背中へ回し、肩と腰を体重で押さえ込む。

 

 戸倉は混乱し、フードを外そうと暴れるが、視界が戻らないため思うように動けない。

 

「動かないでください!」

 

「離せ!」

 

「今暴れたら、ネットから落ちて本当に怪我しますよ!」

 

 澪の叫びに、戸倉の動きが一瞬だけ止まった。

 

 その隙を逃さず、警察官たちがネットの端から入り込み、視界遮断用ゴーグル、両手の拘束具、足首の固定具、そして能力使用時の暴れを防ぐための身体保護ベルトを装着していく。

 

 視界を完全に塞がれた戸倉は、もはや落下方向を指定できない。

 

 榊原が、乱れた息を整えながら逮捕を告げた。

 

「建造物侵入および窃盗の容疑で逮捕する」

 

       *

 

 捕獲後。

 

 戸倉は激しい吐き気とめまいを訴え、その場にうずくまっていた。

 

 医療班がすぐに確認へ入ったが、重大な外傷は見当たらない。

 

 能力の過剰使用による、重度の乗り物酔いに近い状態だった。

 

 澪もネットへ落ちた衝撃で腕と背中を強く打っていたが、吸血鬼の再生力によって、痛みは急速に引いている。

 

 久我が魔眼を起動し、澪の骨格と血流に異常がないかを確認する。

 

「久我さん、魔眼、使ってます?」

 

「今は怪我の確認だから、皇さんの許可範囲だよ」

 

「骨、折れてませんか?」

 

「大丈夫。ただの打撲だ。すぐ治るよ」

 

 フードとゴーグルをつけられたままの戸倉が、荒い息を吐きながら声を上げた。

 

「なんで……俺が動く方向が分かったんだよ。視線でフェイントも入れたのに……」

 

 澪が、少し誇らしげに答える。

 

「久我さんが、あなたの動きの癖を全部見てましたから」

 

「最後の方向は、澪さんが俺より先に読みましたよ」

 

 久我が補足すると、戸倉は悔しそうに顔を歪めた。

 

「途中から、顎を引くのが分かるようになりました」

 

「いい判断だったよ。あの場面で俺の指示を待っていたら、間に合わなかった」

 

 澪にとって、これは初めて誰かの指示だけではなく、自分の判断で捕獲任務へ貢献した、確かな実感となった。

 

 今回の被害状況が確認される。

 

 仮設広告板が二枚破損。

 

 吊り下げ広告幕が一部破損。

 

 落下した盗品の一部が破損。

 

 整備通路の手すりに、澪が蹴った際の僅かな変形。

 

 人的被害はなし。

 

 戸倉本人も無事に生存確保。

 

 警察官と協力者にも重傷者は出なかった。

 

「これ、美島さんが修復に呼ばれそうですね」

 

「また派手に壊しましたなぁ。今度は天井まで走ったんですか、って言われそうです」

 

「走ったのは犯人です」

 

「私は跳びました」

 

「余計にややこしい説明になるから、やめておこう」

 

       *

 

 翌日の夜。

 

 御影坂高校の夜間警備班控室で、かれんが任務結果の報告書を確認していた。

 

「対象者は無事逮捕。一般人への被害なし。非常に良い結果です」

 

「久我さんの指示どおりに動きました!」

 

「最後は自分で読んだんだろ?」

 

 剣持が口を挟む。

 

「はい。発動する時に、顎を引く癖がありました」

 

「なら次からは、久我の声だけを待つな。現場じゃ、指示を出す奴が不意打ちで殴られて、喋れなくなることだってある」

 

「縁起でもないことを言わないでください」

 

「でも、それは一人で勝手に動けって意味じゃないからな。勝手な判断と、状況を見て自分で考えることは別だ。そこを間違えるなよ」

 

 かれんも、剣持の言葉を補足するように評価を下す。

 

「久我さんの指示を基準にしながら、自分でも対象者を観察し、必要な場面で判断を上書きした。適切です」

 

「次も頑張ります!」

 

「次がもう決まっているような言い方はやめようか」

 

 久我がため息をつきながら、かれんへ質問を投げかけた。

 

「今回の戸倉は、事前の分類では低Tier案件でしたよね」

 

「はい」

 

「でも環境次第では、普通に俺たちを振り切れた。下手をすれば、高所から誰かが落ちて大惨事になっていたかもしれない」

 

「階位は、事件の難易度を完全に表すものではありません」

 

 Tierは、能力の最大出力や因果への影響力の大まかな分類に過ぎない。

 

 実際の現場における危険性は、能力と地形の相性、対象者の経験、使用目的、周囲の一般人の数、武器の有無、そして対応する能力者との相性によって大きく変わる。

 

「だからこそ、低Tier案件にも適切な人員を配置するのです。今回は、久我さんと七瀬さんの組み合わせが適切でした」

 

「俺を送れば、壁ごと丸ごと斬り落とす話になるからな」

 

「それは解決策として適切ではないですね」

 

       *

 

 説明が終わりかけた頃、久我のスマートフォンへ八咫烏アプリから通知が届いた。

 

『【現場協力記録】

 

 対能力者捕縛支援

 

 対象者の生存確保

 

 人的被害なし

 

 協力謝金審査中』

 

 澪が、久我の画面を横から覗き込む。

 

「これで、血液パック用の小型冷蔵庫が買えますね!」

 

「……冷蔵庫代を稼ぐために、必死に泥棒を捕まえたみたいに言うのはやめてくれないか」

 

「でも、生活用品をそろえるために依頼を受けて稼いだ方がいいって、自分で言ってましたよね?」

 

「言った直後に、絶妙なタイミングで任務を出してきた皇さんが悪い」

 

「私は、適性のある協力者へ、必要な案件を依頼しただけです」

 

 かれんは涼しい顔でタブレットを閉じた。

 

 剣持が、にやにやと笑いながら付け加える。

 

「次は、一級の遮光カーテン代を稼がなきゃな」

 

「生活用品を一つそろえるたびに、命懸けの捕獲任務が必要になる生活は、どう考えてもおかしいですよ」

 

 久我のぼやきが、深夜の控室へ虚しく響いた。

 

 壁を走り、天井を駆け、上下左右の三次元へ逃げ回る泥棒を、久我一人の力では捕まえられなかった。

 

 澪一人の瞬発力だけでも、相手の変則的な逃走先を読み切ることはできなかっただろう。

 

 だが、久我が次に落ちる場所を見極め、澪がそこへ迷わず飛び込むのなら、話は別だった。

 

 吸血鬼二人による初めての本格的な捕獲任務は、観測する者と追いつく者の役割分担によって、無事に成功を収めた。

 

 そして久我陽介の、血液パック専用小型冷蔵庫の購入資金は、また少しだけ確実に増えたのだった。

 




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