35歳社畜、女子高生に吸血鬼だと宣告される〜みなし残業で覚醒能力を使い潰していた俺、現代異能バトルの世界では最強候補らしいです〜   作:パラレル・ゲーマー

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第6話 吸血鬼、夜の学校に誘われる

 洗面所の白々しい照明の下で、久我陽介は自身のスマートフォンを強く握りしめていた。

 

 画面には、皇かれんから届いたたった二行のテキスト。

 

『今日は絶対に会社に行かないでください』

 

『絶対に、生身の人間の目を見ないこと。いいね?』

 

 鏡を見上げる。

 

 そこにいるのは、いつもの少しくたびれた三十五歳の会社員。だが、その両目の中心だけが、まるで鮮血をそのまま滴らせたような禍々しい真紅に染まっていた。

 

「……また欠勤かよ」

 

 久我は乾いた声でぼやき、こめかみを抑えた。

 

 ちょうど一週間前、吸血鬼として覚醒した翌日に「過労による体調不良」で休んだばかりだ。ブラック気味の弊社において、二週連続の突発休がどれほどのリスキームーヴか。課長の舌打ちと、案件が滞る胃の痛みがリアルに想像できてしまう。

 

 だが、かれんの文面はいつになく切迫していた。

 

 冗談で流せる空気ではない。

 

 久我は洗面台の鏡越しに、もう一度自身の目を見つめた。

 

 まばたきをする。

 

 すると、さっきまで見えなかったはずの洗面台の奥の配管の継ぎ目や、壁を隔てた隣室の住人がキッチンで動く微かな熱の気配が、赤い輪郭を持って視界に像を結んだ。

 

(……なんだこれ。本当に、人間の目じゃなくなってる)

 

 見えすぎて気持ちが悪い。自身の知覚器官が、勝手に世界の裏側のパラメーターを読み取って出力している感覚。

 

 久我は慌てて目を閉じ、洗面所の戸棚をごそごそと漁った。

 

 数年前に夏のドライブ用に買ったワンコインの安物サングラスを見つけ出し、かけてみる。

 

 恐る恐る目を開けて鏡を覗いたが、薄いスモークレンズの奥で、真紅の瞳は相変わらず不気味な光を放っていた。これでは気休めにすらならない。

 

 ピンポーン、と。

 

 玄関のインターホンが鳴ったのは、それからわずか三十分後のことだった。

 

 モニターを確認すると、そこには皇かれんが立っていた。制服の上に薄手のグレーのパーカーを羽織っており、朝の登校前にそのまま駆けつけた様子が伺える。

 

 ドアの鍵を開け、そっと隙間を作る。

 

「おはよう、皇さ――」

 

「目を合わせないでください」

 

 開口一番、挨拶すら省いた冷徹な制止だった。

 

 久我は弾かれたように顔を横に向けてドアを開け放つ。

 

「っ、あ、す、すみません……」

 

「謝る必要はありません。今は安全確認が最優先です」

 

 廊下に踏み込んできたかれんは、自身のカバンから黒いハードケースを取り出し、中から一本の眼鏡を差し出した。

 

「これをかけてください。八咫烏支給の遮光グラスです。通常のサングラスよりも透過率が極端に低く、レンズの内側に視線の媒介を遮断する特殊フィルムが貼られています」

 

 言われるがまま受け取り、顔に装着する。

 

 視界が一気に真っ暗になった。だが、不思議なことに、吸血鬼化して過敏になっている久我の網膜には、その暗闇の中でもリビングの家具の配置や、かれんの立ち位置が十分に識別できた。

 

「視線を遮断って……俺、今そんなに危険な状態なんですか?」

 

「魔眼は、種類によっては相手と視線が合ったその瞬間、自動的に精神干渉や呪詛が発動します。現時点で貴方の能力詳細が定義されていない以上、最悪のケースを想定して動くのが基本です」

 

 かれんはグラス越しに、久我の顔をじっと観察した。

 

「……赤色はかなり強いですね。スマホの写真で見るよりも発光がはっきりしています」

 

「観察評価しないでください。おっさん本人は今、自分の厨二病すぎる変化にかなりメンタルを削られてるんで」

 

 部屋を出る前に、久我はどうしても片付けておかなければならない実務があった。

 

 スマートフォンを取り出し、会社のビジネスチャットを開く。送信先は総務部の高橋だ。

 

『久我:高橋さん、おはようございます。大変申し訳ないのですが、今朝また急激なめまいと視覚異常が出まして……本日、急ぎ専門の病院を受診するためお休みさせてください』

 

 送信ボタンを押す指が重い。

 

 だが、通知は一分もしないうちに返ってきた。

 

『高橋:久我さん! やっぱり無理をされていたんですね! 今日は絶対に仕事を気にしないでください。課長のタスクの件は私から完全にシャットアウトしておきますから! 病院が終わったら、無理のない範囲で一言だけ状況を教えてくださいね』

 

 久我はスマートフォンを額に当て、天を仰いだ。

 

「……神かよ。高橋さんがいなかったら、俺の社会人生活は今日で完全に詰んでたぞ」

 

 玄関で靴を履きながら、かれんが淡々と言った。

 

「良い職場の方ですね」

 

「職場はブラック気味です。高橋さんという個人が奇跡的に良い人なだけです」

 

       *

 

 アパートの下には、すでにタクシーが待機していた。

 

 通勤ラッシュの電車を避けるための判断だ。車内に入ると、かれんは久我の隣には座らず、助手席に身を沈めた。バックミラー越しにも視線が交差しないよう、徹底して角度を計算している。

 

「本当に、目を合わせないんですね」

 

「念のためです」

 

「……俺のこと、怖いですか」

 

 後部座席からぽつりと尋ねると、助手席のかれんは少しだけ間を置いて答えた。

 

「怖いというより、未定義の現象はエージェントとして警戒します。それだけです」

 

 化け物として怯えられているわけではない。ただシステム上のリスクとして処理されている。その事実が、今の久我には奇妙な救いだった。

 

「ちなみにこのタクシー代って……」

 

「緊急再検査の要請枠ですので、全額センターの公費負担です」

 

「吸血鬼になってから、やけに交通費精算の概念にお世話になるな……」

 

 到着したのは、一週間前に訪れたあの地味な五階建ての雑居ビルだった。

 

『特殊体質者生活支援センター 中央相談窓口』

 

 エントランスを抜け、カウンターへ直行する。

 

 かれんがスマートフォンのデジタル証を提示しながら告げた。

 

「登録番号確認済み。吸血鬼型、仮登録者。……『魔眼疑い』で緊急再検査を要請します」

 

 その単語が出た瞬間、カウンターの奥でキーボードを叩いていた女性職員の手が完全に止まった。

 

「……魔眼疑い、ですか」

 

「はい。今朝の起床時に両目の赤眼化、及び透視・知覚拡張様の初期症状を確認しました」

 

 久我は後ろで小さく縮こまった。

 

「……なんか俺の人生、役所の窓口でかけられる『疑い』のジャンルが、どんどんダークファンタジーな方向にシフトしてないか」

 

 渡された番号札は、『V―再検査―眼』という禍々しいコードだった。

 

 通されたのは、前回の普通の相談室ではなかった。

 

 地下にある、窓のない真っ白な部屋。

 

 壁の一面に巨大なマジックミラーがはめ込まれており、天井には数台の赤外線トラッキングカメラと調光式のLED。部屋の中央には簡素な椅子が一脚だけ置かれている。

 

「……相談窓口っていうか、完全にSF映画の人体実験ルームじゃないですか、これ」

 

 背後の重い防音ドアが開き、グレーのスーツを着た男性職員が入ってきた。前回の登録手続きを担当してくれた木村だ。

 

「久我様。……一週間ぶりですね」

 

「木村さん。どうも……。できれば、もう少し普通の市民相談でお会いしたかったです」

 

 木村は穏やかなほほえみを崩さないまま、手に持っていたバインダーを開いた。

 

「魔眼の発現は、普通の市民生活の範疇を超えていますからね。……さて、早速ですが確認を始めましょう」

 

「そもそも、その『魔眼』って正確には何なんですか?」

 

 検査の準備が進む中、椅子に座った久我が尋ねた。

 

「眼という感覚器官を外部インターフェースとして発動する、特殊因子の総称です」

 

 木村は機器のキャリブレーションを行いながら説明する。

 

「対象と視線が合うことで精神を支配するもの、記憶を混濁させるもの、あるいは対象の生体活動を強制的に停止させるもの。……一方で、単に術者自身の視覚情報を超高解像度に拡張したり、通常は見えないエネルギーの熱量や血流を可視化するパッシブ型のものもあります」

 

「……前半のやつ、凶悪すぎませんか」

 

「だからこそ、検査が必要なのです」

 

 マジックミラーの向こう側に移動したかれんの声が、部屋のスピーカーから響いた。

 

「久我さんの魔眼が『能動的な加害性』を持っているか否かを確定させない限り、貴方を人間社会に戻すことはできません」

 

 検査は厳格なステップで進められた。

 

 まずは、遮光グラスを外しての眼球の発光度測定。

 

「……素晴らしい。虹彩のルビー色素の定着率が完璧ですね。光量を落とすと自律発光が強まる。吸血鬼型の初期症状としては異例の出力です」

 

 次に、視覚の解像度テスト。

 

 部屋の照明が落とされ、マジックミラーの向こう側に微小な記号や数字がランダムに投影される。

 

「見えますか、久我様」

 

「……見えます。ミラーの反射層を透かして、その奥の壁に貼ってある型番のステッカーの文字まで、気持ち悪いくらいはっきり」

 

 続いて、生体反応の感知テスト。

 

 ミラーの向こう側に、木村が自身の腕だけを提示する。

 

「私の脈動がどう見えますか?」

 

「皮膚の下を走る赤いラインが見えます。頸動脈から手首にかけての血の流れ……あと、体温がそこだけ少し高いこと。……でも」

 

 久我は自身の胸に手を当てた。

 

「不思議と、あの日コンビニで店員の血を見た時みたいな『噛みつきたい衝動』は湧いてこないです。ただデータとして見えている感じ」

 

 そしてもっとも緊張感の走った、精神干渉のテスト。

 

 ミラー越しに、防護シールド越しの木村が久我の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。

 

「久我様。私に向けて、強く『動くな』『眠れ』と念じてみてください」

 

 久我は眉間を寄せ、木村を見据えて意識を集中させた。

 

 五秒。

 

 十秒。

 

 木村は涼しい顔でバインダーにチェックを入れた。

 

「……変化なし。脳波の強制同調、及び呪詛エネルギーの放出はゼロです」

 

 すべての測定が終わるまで、およそ一時間。

 

 地下室の防音ドアが再び開き、木村が戻ってきた。その表情は、先ほどまでの張り詰めた緊張から少しだけ緩和されていた。

 

「結論が出ました。久我陽介様。……貴方は間違いなく『魔眼』に開眼していらっしゃいます」

 

「やっぱりか……」

 

「ただし」

 

 木村は久我の目の前に立ち、はっきりと告げた。

 

「現時点において、貴方の魔眼には『外部に対する精神支配・魅了・阻害・呪詛』といった能動的な危険能力は一切発現していません」

 

 久我は拍子抜けして顔を上げた。

 

「……え。ないんですか?」

 

「厳密には、眼を介した他者への攻撃コマンドが存在しない状態です。現在発現しているのは、吸血鬼としての動体視力、暗視能力、熱源感知、及び血流・心拍分析といった『超高精度なパッシブ知覚能力』が、眼という器官に極端に集中して表出している状態ですね」

 

「じゃあ……ただ目が赤くて、遠くや暗闇がめちゃくちゃよく見えるだけのおっさん?」

 

「目が赤いだけではありません」

 

 木村は真顔で訂正した。

 

「人間の微細な表情筋の動きや、心拍の推移による『嘘や恐怖の兆候』を視覚情報として完全に捕捉できるレベルです。……危険な呪いではありませんが、凄まじい観測眼ですよ」

 

「ひとまず、即座に隔離拘束が必要なタイプの魔眼ではないようですね」

 

 後ろから歩み寄ってきたかれんが、ふっと小さく息を吐いた。

 

 その声音を聞いて、久我は彼女がさっきまでどれほど強い重圧を感じていたのかを察した。

 

「……皇さん。もしかして、かなりハラハラしてました?」

 

「魔眼の初期暴発は、案内人の目の前で起きることがもっとも多い事故ですから。……心配ではなく、最悪を警戒していただけです」

 

「はいはい」

 

 だが、木村は書類を閉じながら、再び表情を引き締めた。

 

「ただ、久我様。……手放しで安全というわけではありません」

 

「……嫌な予感がする接続詞ですね」

 

「新規の能力者が、覚醒からわずか一週間で魔眼の初期形成に至るケースは、我が国の観測史上でも極めて稀です」

 

 木村の視線が、久我の赤い瞳を射抜いた。

 

「貴方の因子は、現在進行形で凄まじい速度で進化しています。能動的な攻撃能力がないのは『現時点』の話であって、今後どう変質するかは未知数です。……自己流で放置すれば、いつどこでどう暴発するか予測がつきません」

 

 かれんが久我の方へ向き直った。

 

「木村さんの言う通りです。久我さんは、会社の業務に能力を応用しながら適応してしまう癖がある。……もし来週のクライアントとの会議中に、魔眼が進化して相手を魅了したり動きを止めたりしたらどうなりますか?」

 

 想像するだけで全身の血が凍った。

 

 取引先の役員を睨みつけて強制終了させるプレゼン。そんなものが発動したら、社会人としてのキャリアどころか、日本の警察と八咫烏に同時指名手配される。

 

「だから、決めました」

 

 かれんは真っ直ぐに久我を見上げた。

 

「いずれ誘おうと思っていましたが……予定を前倒しします。今夜、二十三時半に高校へ来てちょうだい」

 

「……はい?」

 

 久我の思考がフリーズした。

 

 魔眼。進化の危険性。能動能力の未発現。

 

 そこまでシリアスな異能のデータを並べ立てておいて、次の着地点が「深夜の高校」なのか。

 

「いや、ちょっと待って。三十五歳のサラリーマンが、夜中に女子高生に呼び出されて学校に行くの、法的にかなりアウトな絵面じゃないですか?」

 

「八咫烏の『正規警備協力員』としての立ち入り許可証を発行します。法的な問題はありません」

 

「問題がないのは役所の書類上だけでは?」

 

「夜の学校は、『怪異』が出没するポイントなんです」

 

 かれんは久我のツッコミを意に介さず、淡々と説明を続けた。

 

「怪異?」

 

「人間ではない現象の総称です。地縛的な霊体、異界からの迷い込み、あるいは都市伝説が実体化したエネルギー体。……学校という場所は、日中は人間の秩序によって強く固定されていますが、深夜になり人が消えると、世界の境界線が極端に緩んでそれらが吹き溜まるんです」

 

 久我は頭を抱えた。

 

「……吸血鬼と魔眼だけでもうお腹いっぱいなんだけどな……」

 

「この地区にあるいくつかの高校は、八咫烏が管轄する重点警備指定区域になっています」

 

 かれんはさらに言葉を重ねる。

 

「そこに、近隣の登録能力者たちがチームを組んで夜間のパトロールに入っている。学生もいれば、社会人もいる。……久我さん、貴方をそのチームに加入させます」

 

「……仲間、ってことですか」

 

「はい」

 

 かれんの瞳に、強い真摯さが宿った。

 

「私一人が、二十四時間いつでも貴方の変化を監視できるわけではありません。貴方の魔眼が次にどう変化するか分からない以上、夜の環境で『いざという時に貴方の変化を抑え込み、助けてくれる人間』が絶対に必要です」

 

 その言葉に、久我は胸を打たれた。

 

 この一週間、吸血鬼になった不安を誰にも言えず、テキストメッセージだけで彼女に頼ってきた。会社でも、アパートでも、自分は完全に孤独だった。

 

「……練習台、ってわけですね。俺の魔眼の」

 

「そうです。会社の会議室でサラリーマンを相手に実験するより、夜の学校で怪異を相手に視覚のフォーカスを試す方が、遥かに安全で理にかなっています」

 

 正論だった。ぐうの音も出ない。

 

 ふと、久我の社会人としての悲しい習性が、ひとつの確認事項を弾き出した。

 

「……あの。ちなみにその夜の警備活動って、完全なボランティアですか?」

 

 かれんは即答した。

 

「八咫烏から正規の協力報酬が支給されます。深夜手当と危険手当もつきます」

 

「……出るんですか」

 

「はい」

 

「源泉徴収は?」

 

「センターの会計窓口で自動的に処理されます。特殊自治体協力金という名目になるので、会社の住民税決定通知から副業として発覚することはありません。……ただし、年間の総額によってはご自身での確定申告が必要になります」

 

「吸血鬼のナイトパトロールにも確定申告があるのか……」

 

「現代日本ですから」

 

 もはやおなじみになりつつある決め台詞だった。だが、無給のみなし残業に夜の命を吸われていた日々を思えば、国から手当をもらって自身の能力制御を学ぶ方が、よほど健全な労働環境に思えてきた。

 

「場所は、『都立御影坂高校』です」

 

 かれんは手元の端末で何かの申請手続きを行いながら言った。

 

「今夜、二十三時半に裏門へ来てください。チームのメンバーに貴方を紹介します」

 

「……学校なんて、本当に久しぶりだな」

 

 久我はため息を吐き、遮光グラスの位置を直した。

 

 そんな久我の横顔を見て、かれんは思い出したように付け加えた。

 

「それと。……ちょうどその御影坂高校に、貴方と全く同じ『新規覚醒の吸血鬼』がいるの」

 

 久我は驚いて目を見開いた。

 

「えっ。吸血鬼って、このへんにそんなにポンポンいるものなんですか?」

 

「確率は極めて低いですが、ゼロではありません。その子もつい最近、覚醒したばかりの高校生です」

 

「高校生の、吸血鬼……」

 

「貴方は社会人の新米吸血鬼。その子は学生の新米吸血鬼。……立場は違いますが、基礎的な衝動制御の訓練は一緒にできます」

 

「……俺が、夜中の学校で、皇さんや高校生と一緒に能力訓練をする?」

 

「はい」

 

「三十五歳の社畜が?」

 

「はい」

 

 久我は天を仰ぎ、深く、長く息を吐き出した。

 

「……我が人生、本当にどこでどうバグるか予測がつかないな」

 

 雑居ビルの外へ出ると、夏の太陽はすでに高く、街はいつもの昼下がりの日常を続けていた。

 

 遮光グラスの奥で、久我の真紅の瞳が静かに細められる。

 

 夜。学校。怪異。能力者の仲間たち。そして、自分と同じ新米の吸血鬼。

 

「……おっさんの青春のやり直しとしては、少しばかりジャンルが迷子すぎる気がするけどな」

 

 かれんは涼しい顔で歩き出し、振り返った。

 

「遅刻しないでくださいね。二十三時半、御影坂高校です」

 

 こうして久我陽介は、三十五歳にして、深夜の高校へと通うことになった。

 




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