35歳社畜、女子高生に吸血鬼だと宣告される〜みなし残業で覚醒能力を使い潰していた俺、現代異能バトルの世界では最強候補らしいです〜 作:パラレル・ゲーマー
午前四時十二分。
都内にある所轄警察署の、夜間窓口。
深夜の静まり返った署内に、一人の男がフラフラと足を踏み入れた。
宮原悠斗。二十七歳。都内のWeb系企業でシステム運用を担当している、ごく普通の会社員だ。
しかし、その顔色は土気色を通り越して真っ青で、目の下には深い隈が刻まれていた。何日もまともに眠っていないことが、一目で分かる風貌だった。
彼は両手で重そうなリュックを抱え、さらにノートパソコン、スマートフォン、そして外付けのSSDドライブを、まるですがりつくように抱きかかえていた。
「……どうされました?」
不審に思った当直の警察官が、警戒しつつも事務的な声で尋ねた。
宮原は、数秒間、何かを堪えるように口をつぐんでいた。
やがて、掠れた声で言った。
「……出頭、したいんです」
警察官の表情が、一気に真面目なものへと引き締まった。
「何をされました?」
「サイトを……運営してました」
「サイト?」
「怪異の場所とか……危ない儀式の呼び出し方とか……そういうのを、ネットでまとめたWikiです」
警察官は、少し困惑した顔になった。
ネットのオカルトサイトを運営すること自体は、犯罪ではない。名誉毀損か、業務妨害か、あるいは詐欺の類いか。
しかし、宮原が次に口にしたそのサイトの『正式名称』が、空気を一変させた。
「《本物かもしれない怪異情報保管Wiki》の、管理人です」
担当の警察官の目が、僅かに見開かれた。
そのWikiの名前は、単なるネットの噂レベルではない。最近頻発している一連の深刻な怪異事案の『主要な情報拡散源』として、警察内部の一部部署にもすでに注意情報が回っていたからだ。
「……少し、お待ちください」
警察官は、宮原を待合の椅子に座らせると、足早に奥へと引っ込み、どこかへ電話をかけ始めた。
宮原は、自分の抱えたノートパソコンを見つめながら呟いた。
「逮捕、されますか」
警察官は、まだ答えない。
「されてもいいです。ここで捕まるなら、それでいいんです」
宮原は、懇願するように言った。
「だから……お願いです。誰か、俺を守ってください」
*
事態は、普通の警察署の窓口で処理されるレベルをとうに超えていた。
すぐに奥から上席の警察官が現れ、宮原の端末と、彼自身が管理者権限でログインしたWikiの管理画面を確認した。
本人しか知り得ない管理情報。
本物だ。
即座に、警察の超常案件窓口から、八咫烏へと緊急の照会が飛んだ。
宮原はその場で逮捕されるのではなく、事情聴取の対象であると同時に、安全確保が必要な保護対象として扱われることになった。
彼が法的に罪へ問われるかどうかは、後回しだ。
今は、彼が本気で怯えている『何かに狙われている可能性』の確認が最優先された。
宮原は、警察署の面談室で一時間も待たなかった。
すぐに八咫烏側の人間が到着し、表向きは『警察の特殊案件担当』として、宮原とすべての機材を引き取っていった。
*
翌日の夜。
御影坂高校ではなく、八咫烏が管理する都内の秘匿施設。
久我陽介は、皇かれんから呼び出しを受けていた。
「久我さん。少し、会っていただきたい方がいます」
「誰です?」
「《本物かもしれない怪異情報保管Wiki》の管理人です」
久我の足が、ピタリと止まった。
「……あのWikiの?」
「昨夜、自分から警察へ出頭しました」
久我は、複雑な顔をした。
あのWikiには、本当にろくな思い出がない。
ホテル月影、午前二時の公衆電話、存在しない終電、そして存在しない非常口。
あのWikiにまとめられた情報のせいで、どれだけの人間が危険に晒され、自分たちがその後始末に走り回されたことか。
「なんで俺が呼ばれたんです?」
「久我さんは、あのWikiが取り上げた複数の現場の最前線に、直接関わっています。管理人の証言と、現場で起きた実際の事象を、一番正確に照合できるからです」
面談室には、かれんのほかに八咫烏の情報分析担当の職員が一人待っていた。
人数を絞ったのは、疲弊している宮原を余計に緊張させないためだ。
*
面談室。
宮原は、入ってきた久我を見て少し戸惑ったような顔をした。
目の前にいるのは、ごく普通のスーツ姿をした、少し疲れたような三十五歳の会社員だ。
特殊部隊のような人間を想像していたのだろう。
「……八咫烏の、方ですか?」
「まあ、協力員みたいなものです」
久我は嘘はつかなかった。
「すみません」
宮原は、いきなり深々と頭を下げた。
「俺、まだ何も言ってませんよ」
「多分、俺のWikiのせいで……あなたたち、何度も面倒なことになってますよね。死にかけてますよね」
久我は、それを否定することはできなかった。
「最初から、順番にお願いします」
かれんは、彼を責め立てるようなことはせず、静かに聴取を始めた。
*
宮原がWikiを立ち上げた経緯。
最初は、完全に『面白半分』だった。
数ヶ月前、ネットのオカルト掲示板で、「五百円で本物の心霊スポットの入り方を売ってるサイトがある」という書き込みを見た。
そこにはスクリーンショットとURLが貼られており、記事はすぐに削除されていた。
オカルトや都市伝説のまとめが好きだった宮原は、面白がって自分でも一記事買ってみた。
「なんだこれ、変に凝ってるな」
最初の感想は、ただそれだけだった。
本当に怪異がいるなどとは、微塵も思っていなかった。
ネット上でよくあるARG、代替現実ゲームや、創作企画、あるいは悪趣味な有料怪談の類いだと思っていたのだ。
問題は、その有料サイトの記事が、掲載されても頻繁に『消える』ことだった。
購入者たちが掲示板で、「昨日の記事消えた」「スクショない?」「場所どこだっけ?」と騒ぎ始めた。
宮原は、そういう『ネット上から失われそうな情報を保存し、整理すること』が昔から好きだった。
最初は、自分用のただのメモ帳だった。
記事名、値段、掲載日時、ざっくりとした内容、削除確認日時、スクショの有無。
そこへ、数人の知人が情報を提供してくるようになった。
「せっかくだから、見やすいWiki形式にしよう」
軽いノリで一般公開し、名前も《本物かもしれない怪異情報保管Wiki》とつけた。
「……この時点では、本当にただの趣味でした」
宮原は、後悔を滲ませて言った。
*
第二段階。
人が集まり始めた。
有料記事の購入者、怪談好き、配信者、廃墟探索勢、掲示板の住民たちが、次々とWikiへ情報を持ち込んできた。
システム運用を本職とする宮原は、情報整理が得意だった。
バラバラだったページ形式を綺麗に統一し、項目を細かく分けた。
記事タイトル、掲載日時、価格、大まかな所在地、現地への経路、発生現象、発動条件、危険度、現地報告、帰還報告、注意事項。
アクセス数は跳ね上がり、編集者も増え、情報はまたたく間に膨れ上がった。
「都市伝説の巨大なデータベースを作ってるみたいで……その頃は、普通に楽しかったんです」
宮原は、正直に告白した。
*
だが、第三段階。
「これ、本当に本物なんじゃないか?」
最初の明確な違和感。
Wikiの掲示板に書き込まれる『現地報告』が、単なる冗談や肝試しでは説明できない深刻な内容に変わり始めた。
『ホテル月影』の事件。
購入者からの報告。
『一緒に行った三人が戻ってこない』
別の人間からは、
『警察がいっぱい来ている』
さらに別からは、
『建物そのものに入れなくなった』
その後、それらの投稿はプツリと途絶え、アカウントごと消滅した。
宮原は、ここで初めて笑えなくなった。
「閉じようとは、思いました」
「でも、閉じなかったんですね」
久我が静かに言うと、宮原は深く頷いた。
「……はい」
理由はあった。
すでに情報は、SNS、スクリーンショット、Discordなどの非公開コミュニティ、動画、掲示板など、ネットのあちこちへと完全に流出・拡散してしまっていた。
今さら自分のWikiを一つ消したところで、情報そのものはもう消えない。
むしろ、危険度や注意書きの部分だけが抜け落ちた、断片的な『入り方』だけが無責任に残り続ける。
「だったら、せめて一ヶ所にちゃんとまとめて。危ない場所は危ないって赤字で書いて。帰ってきた人の情報も残して、やっちゃいけない手順も分かるようにした方が、まだマシなんじゃないかって……」
久我は、それを完全に否定することはできなかった。
システム管理者としての彼の理屈そのものは、痛いほど理解できたからだ。
しかし。
「でも、あなたは『場所』も『手順』も残した」
「……はい」
警告を書くためには、何がどう危険なのかを正確に書かなければならない。
その結果、それを読んだ人間の中に、「自分も試してみたい」と思う者が必ず現れる。
「あなたのWikiを見て、実際に怪異の現場へ来た一般人を、俺たちは何度も見ています」
宮原が、ハッとして顔を上げた。
「少なくとも俺が関わった現場でも、放っておけば死んでいたかもしれない人がいました」
「……」
「警告を読んで引き返す人もいたと思います。でも、その場所の存在自体を知らなければ、そもそも行かなかった人もいた」
宮原は、完全に言葉を失った。
アクセス数ではない。
PVでもない。
画面の向こう側にいた、生身の人間の命の重さが、ここで初めて彼にとって具体的なものとして突きつけられた。
「……そう、ですか」
宮原は、震える手で顔を覆った。
*
第四段階。
それでも宮原は、更新を止めなかった。
ただし、以前のような『楽しさ』からではない。
ページを改善し、危険度を目立たせ、未確認情報を分離し、死亡や失踪の可能性があるものは赤文字で警告した。
現地へ行かないよう強く促し、露骨に煽るようなコメントは即座に削除・BANした。
「誰かが、ちゃんと管理しないと駄目だと思ったんです」
誰にも頼まれていない。
資格もない。
それでも、『自分だけがこの状況を整理できている』という、歪んだ全能感に近い感情。
「それが、途中から使命感みたいなものに変わっていったんですか?」
久我が尋ねると、宮原は少し考えてから頷いた。
「……たぶん」
かれんが、冷静に事実だけを告げた。
「結果として、あなたのWikiは、有料サイトの危険な情報の拡散を、最も効率的に大幅に補助していました」
「……分かっています」
宮原は、一切の言い訳をしなかった。
*
第五段階。
《存在しない終電》。
ここから、宮原自身が明確な『恐怖』を感じ始める。
終電が消えた直後、有料サイトの記事に、
『本日の最終電車は、運休しました』
という一文が追加された。
「あれを見て、初めて……サイトの向こう側にいる奴が、本当に現場の状況をリアルタイムで監視しているんじゃないかと思いました」
しかし、まだ自分には直接関係ないと思っていた。
第六段階。
《存在しない非常口》。
これが決定打だった。
購入者ごとに指定場所と識別番号が異なる。
Wikiの掲示板で、利用者が自発的に情報を照合し始めた。
宮原は夜通し、投稿を整理し、危険情報へ警告を出し、位置情報をまとめ、重複を削除し、荒らしに対応した。
その最中。
宮原が管理用に作っていた、非公開の『内部地図』があった。
一般公開用Wikiには、危険なので正確な座標を載せないページもある。
だが管理側では、投稿の重複確認などのため、報告された位置を地図上にピンで置いていた。
ホテル、駅、公衆電話、非常口。
地図データそのものもローカルへ保存できるようにしていた。
その地図へ。
見覚えのない、『黒い点』が現れた。
ピンのアイコンですらない。
ただの、黒い小さな丸。
ラベルもない。
「誰かが、管理者権限に侵入したのかと思いました」
ログを確認したが、該当する編集履歴はない。
データベースにも、そんな座標データは存在しない。
削除して画面を更新すると、消えた。
しかし翌日。
また、ある。
場所は、昨日とは違っていた。
宮原は本職の知識を活かし、ハッキングを疑った。
パスワード変更、二段階認証、管理者権限の見直し、不審なセッションの切断。
それでも、黒い点は消えなかった。
「さすがに気持ち悪くなって、サーバー環境を丸ごと引っ越しました」
古いサーバーを停止し、別環境へWikiを再構築した。
だが数時間後。
新しい環境の地図にも、あの黒い点がポツンと現れた。
「その時点で、黒点の位置はどこでしたか?」
かれんが尋ねる。
「最初は、都内の某所。何の怪異登録もない、ただの普通の場所でした。翌日は、俺の会社から数駅離れた場所。その次は……俺の会社の、すぐ近くでした」
「……近づいているように見えた?」
久我の背筋が少し寒くなる。
「……はい。でも、その時はまだ、偶然かもしれないって思おうとしてました」
*
第七段階。
付きまとわれる感覚。
この頃から、ネット上だけでなく、現実側の生活でもおかしくなり始めた。
仕事帰り。
駅の改札を出ると、後ろを『誰か』が歩いている気がする。
宮原が立ち止まると、後ろの足音もピタリと止まる。
振り向いても、人はいるが、誰が自分を追っているのか分からない。
深夜。
コンビニから出て、自動ドアが閉まる。
その直後、誰もいないのに再び自動ドアがウィーンと開く。
自宅マンション。
一人でエレベーターに乗り、七階で降りる。
ドアが閉まった数秒後、背後で、もう一度エレベーターの到着音が鳴る。
振り返る。
ドアが開いている。
誰も降りてこない。
そして。
帰宅してパソコンの管理地図を開くと。
黒い点は、宮原の自宅から約二百メートルの位置にまで接近していた。
この時にはもう、地図上の黒点と、自分に付きまとっている気配を、ただの偶然とは思えなくなっていた。
*
第八段階。
恐怖に耐えきれなくなった宮原は、ついにWikiを停止した。
公開ページをメンテナンス表示にし、新規編集もコメントも完全に停止。
管理者以外はアクセス不可にした。
「これで、終わると思いました」
終わらなかった。
黒点は、管理画面の地図に残り続けた。
サイトを完全に停止しているのに、黒点だけがじわじわと移動してくるのだ。
宮原は、Wikiのデータと使用している地図データを丸ごとノートパソコンへローカル保存した。
その上で、ネットワーク接続を物理的に切断し、無線機能も無効化した。
そして、完全なオフライン状態で管理地図を開いた。
黒点。
あった。
「ネット、切ってるんですよね?」
久我が確認する。
「はい」
「位置情報サービスは?」
「当然、切ってました」
宮原は震える声で言った。
「それでも……俺の家のすぐ近くにいたんです」
*
第九段階。
出頭の前夜。
午前三時過ぎ。
宮原は恐怖で一睡もできなかった。
机の上のノートPC。
黒点は、宮原の自宅マンションの建物の位置と、完全に重なっていた。
その瞬間。
ピンポーン。
玄関のインターホンが鳴った。
モニターを見る。
誰もいない。
もう一度。
ピンポーン。
宮原は息を殺して応答しなかった。
さらに。
パソコンのWiki管理画面。
『最近の変更』のログに、一件だけ追加があった。
編集者欄は、空白。
作成された新しいページ名。
《管理人》
震える手でそのページを開く。
中身は、空白。
何も書かれていない。
ただし。
作成日時は、『今』だった。
ここで、宮原の精神は完全に限界を迎えた。
Wikiのデータを閉じ、パソコンの電源を落とした。
そのノートパソコンとスマートフォン、外付けSSDをリュックへ押し込み、そのまま家を飛び出して最寄りの警察署へと駆け込んだのだ。
*
聴取が一段落した。
「あなたは、有料サイトの運営者と直接連絡を取ったことがありますか?」
かれんの質問に、宮原は首を振った。
「ありません。投稿者の正体も知りませんし、金銭の授受も一切ありません。向こうから削除要求が来たことも、一度もありません」
むしろ、ずっと無視されていると思っていた。
「……最近までは?」
久我の問いに、宮原は沈黙した。
「……最近は。ずっと、見られている気がします」
かれんは判断を下した。
「少なくとも安全が確認できるまで、当面の間、あなたを八咫烏側で保護します。帰宅は許可できません」
宮原は、心底安堵したように息を吐いた。
「……帰らなくて、いいんですね」
「はい」
「よかった……」
その一言に、彼がどれほどの恐怖に苛まれていたかが凝縮されていた。
「俺、捕まりますか?」
「あなたの行為の法的責任については、後日、警察側とも別途整理します」
かれんは即答しなかった。
「ただ、今ここで最優先するのは、それではありません」
まずは安全の確保。
証拠の保全。
そして、原因の究明だ。
久我も、彼をこれ以上責めようとは思わなかった。
Wikiの存在は問題だった。
危険な情報を広めた責任も、なくなったわけではない。
それでも宮原は、怖くなったからすべてを投げ捨てて逃げたのではなく、自分から警察へ行き、自分がやったことも含めて話し、すべてのデータを渡した。
その事実まで否定する必要はない。
宮原は、八咫烏職員に付き添われ、保護区画へと案内されていった。
*
面談室に残った久我、かれん、そして情報分析担当の職員。
「どう思います?」
「まだ何も」
かれんは、いつものように慎重だった。
「本人の恐怖による思い込みで説明できる部分もあります。足音、自動ドア、エレベーター。しかし……管理地図と、《管理人》のページ。これらは、デジタルフォレンジックで客観的に検証できます」
宮原の元端末は、すでにネットワークから物理的に切断され、無線機能も無効化されている。
分析担当の職員は、宮原から提出されたデータ一式を複製し、外部ネットワークから完全に隔離された解析専用機へ展開していた。
地図についても、宮原が使用していたローカル地図データをそのまま再現する。
「まず、黒点と呼ばれているものが、こちらの環境でも再現できるか確認します」
分析担当が、キーボードを叩く。
モニターに、東京の地図が表示される。
既存の怪異ポイントのピン。
黒点。
……なし。
「出ませんね」
「はい」
「しばらく、監視を続けてください」
かれんが指示を出す。
*
数分後。
画面に、ほんの一瞬だけ、ジジッというノイズが走った。
地図の中央。
小さな、ラベルのない『黒い点』が、ポツンと現れた。
分析担当の指が、ピタリと止まる。
「……これ?」
久我が画面を指差した。
宮原が言っていたものと、全く同じだ。
「この点を描画しているデータソースを確認します」
分析担当が、即座にデータベース、ログ、描画処理のコードを確認していく。
しばらくして。
「……ありません」
「何が?」
「システム上、この黒い点を画面に描画させるためのデータも、命令も、どこにも存在しません」
かれんの表情が、スッと冷たく変わった。
「黒点の位置は、どこです?」
地図を拡大する。
東京の、ある一点。
久我には見覚えのない座標だった。
分析担当が、別の端末に保存されている施設情報と照合する。
数秒後。
彼の顔色が、サッと変わった。
「どこです?」
久我が身を乗り出す。
「……ここ、です」
現在彼らがいる、この八咫烏の管理施設。
その敷地のすぐ外側だった。
*
そして。
画面上の黒点が、僅かに動いた。
敷地の外から。
敷地内へ。
解析端末は、完全にオフラインだ。
GPSも位置情報サービスも存在しない。
そもそも、宮原本人の端末ですらない。
それなのに。
黒点が、この場所へ近づいている。
「……これ」
久我は、言葉を失った。
かれんが、即座にインカムを起動した。
「宮原さんのいる保護区画を、完全封鎖してください」
施設内に、静かに、しかし最高レベルの警戒が走る。
「結界班を追加配置。保護区画へ通じる経路を確認してください。何者も通さないで」
モニターの解析画面。
黒い点が、一度だけピタリと止まった。
位置は、施設内部。
そして。
スッ、と。
もう一度、動いた。
保護区画のある建物へ向かって。
「……宮原さんの場所、知ってるんですか?」
久我が呟いた。
かれんは答えない。
答えられる材料が、まだない。
ただ一つだけ。
もう、否定できないことがあった。
何かが、宮原悠斗を追っている。
少なくとももう、彼一人の思い込みではなかった。
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