35歳社畜、女子高生に吸血鬼だと宣告される〜みなし残業で覚醒能力を使い潰していた俺、現代異能バトルの世界では最強候補らしいです〜   作:パラレル・ゲーマー

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第69話 吸血鬼、黒い点からWiki管理人を隠す

 八咫烏の秘匿施設、解析室。

 

 完全にオフライン化された解析端末のモニター上で、『黒い点』が施設内部の座標へ向かって動いた、まさにその直後だった。

 

 皇かれんの指示により、施設内の警戒レベルが即座に、しかし極めて静かに引き上げられた。

 

 大げさなサイレンは鳴らさない。代わりに、職員だけが共有する内部警戒コードが全域へ流れる。

 

 宮原悠斗が収容されている保護区画への物理的な通路が封鎖され、非戦闘職員の移動が制限された。外部からの出入りも一時停止。防犯カメラ、赤外線センサー、熱源探知機、さらには霊的検知器まで、あらゆる監視網が稼働する。

 

 急遽現場へ呼び出された杖原つかさが、結界用の呪具を展開した。

 

「保護区画の周囲を、二重の結界で閉じます。物理的な質量を持つものであれ、霊的な気配であれ、中からでも外からでも、何かが触れれば分かります」

 

 久我陽介も右目に《魔眼》を展開し、吸血鬼としての鋭い嗅覚と聴覚を研ぎ澄ませた。

 

 だが、誰もいない。

 

 血の匂いもない。死臭もない。異様な霊的気配もない。

 

 杖原の結界はピクリとも反応せず、監視カメラの映像には無機質なコンクリートの廊下が映っているだけだった。物理的な異常は、どこにも存在しない。

 

 それなのに。

 

 解析用端末の画面の中だけで、小さなラベルのない『黒い点』が、少しずつ宮原のいる保護棟へ向かって進んでいる。

 

「……そもそも、この黒点は『何』を表示しているんです?」

 

 張り詰めた沈黙を破り、久我が疑問を口にした。

 

「これ、本当に誰かが、あるいは何かが、歩いて近づいてきてるって言えるんですか?」

 

 情報分析担当の職員は、キーボードの上で手を止めた。

 

「画面の座標上では、確かに移動しています。しかし、現実の施設内には、それに対応する物理的・霊的な存在が全く検知されていません」

 

「前提を置かないでください」

 

 かれんが静かに制した。

 

「前提?」

 

「はい。この黒点が『何らかの追跡者の現在地を示している』というのは、宮原さんが自身の体験からそう解釈したものです。それを事実として扱うには、まだ根拠が不足しています」

 

 今まで、宮原も、そして久我たちでさえ、無意識のうちに『黒点=迫ってくる何かの現在地』だと思い込んでいた。

 

 だが、かれんはその仮説をいったん白紙へ戻す。

 

「何かが施設内を歩いている。怪異が侵入している。黒点そのものが敵である。それらは現状、すべて推測です。私たちが確認できている事実は、『宮原さんの周囲で奇妙な異常が発生し、同時期にWikiの地図上の黒点が彼へ近づくように移動している』。そこまでです」

 

       *

 

 保護室。

 

 宮原はパイプベッドに浅く腰掛けていたが、当然ながら眠れる状態ではなかった。目の下の隈はさらに濃くなっている。

 

 久我とかれんが部屋へ入り、現状を告げた。

 

「先ほど、あなたの端末ではない、こちらの解析環境の地図上でも黒点が確認されました」

 

 宮原の顔色が、一気に死人のように青ざめた。

 

「……ここにも、来たんですか?」

 

「そこは、まだ分かりません」

 

 久我が答えた。

 

「でも……」

 

「あなたのパソコンじゃない環境でも黒点が出た。そこまでは事実です。でも、それが『何かがここまで歩いてきた』という意味なのかどうかは、まだ分かりません」

 

「宮原さん」

 

 かれんが続ける。

 

「黒点があなたの移動に反応するのか確認するため、少しだけ協力していただきたいことがあります」

 

「協力?」

 

「施設内の別の保護棟へ移動していただきたいのです」

 

 宮原の表情が強張った。

 

「……俺が、囮になるってことですか?」

 

「そう見えるのは分かります」

 

 久我が真っ直ぐに答えた。

 

「でも、無理にとは言いません。今の部屋へ残る選択肢もあります。その場合は、俺たちが別の方法を考えます。嫌なら断ってください」

 

 宮原は強く唇を噛み、しばらく黙り込んだ。

 

 怖い。

 

 しかし、自分が持ち込んだWikiのために、この施設全体が警戒状態になっていることも理解している。

 

「……俺が動いたら、何か分かるんですよね?」

 

「黒点があなたの移動に追従するのかは確認できます」

 

「じゃあ、やります」

 

 宮原は、自分の意思で頷いた。

 

       *

 

 移送が開始された。

 

 宮原には何も持たせなかった。

 

 スマートフォンも、ノートパソコンも、外付けSSDも元の解析区画へ残す。財布や鍵などの私物も、八咫烏側で預かった。

 

 身につけているのは、着の身着のままの服だけだ。

 

 久我と杖原、そして八咫烏の武装職員二名の護衛のもと、宮原は現在の保護棟から、敷地の反対側に位置する別の保護棟へ移動する。

 

 その間も解析室では、かれんたちが地図上の黒点を監視していた。

 

 最初、黒点は宮原が元いた保護棟の近くで停止していた。

 

 久我たちが別棟へ入り、新しい保護室へ宮原を収容する。

 

 数分。

 

 何も起きない。

 

「……動きました」

 

 分析担当の職員が声を上げた。

 

 かれんが画面を覗き込む。

 

 黒点が、それまで進んでいた方向から曲がった。

 

 そして、宮原が移動した新しい保護棟の座標へ向かって、再びじわじわと進み始める。

 

 全員の空気が変わった。

 

 ただし、一度だけでは足りない。

 

 宮原へ再度説明し、今度はさらに離れた別の建物へ移動してもらう。

 

 数分後。

 

 黒点は再び進行方向を変えた。

 

 明らかに、宮原の新しい位置へ向かっている。

 

「……宮原さんの移動に反応してますね」

 

 久我がインカム越しに呟く。

 

「その可能性は極めて高まりました」

 

 かれんは、まだ断定しなかった。

 

       *

 

 宮原は何も持たずに移動した。

 

 それでも黒点は、元の解析室ではなく宮原がいる別棟へと向かった。

 

「これで少なくとも、宮原さんのPCやスマホそのものを追っている可能性はかなり低くなりましたね」

 

 久我の言葉に、分析担当が頷いた。

 

「念のため、データ自体も分離します」

 

 Wikiデータの完全なコピーを複数作成する。

 

 元の宮原のノートPC。

 

 八咫烏の解析専用機。

 

 完全に別の隔離端末。

 

 読み取り専用のバックアップ媒体。

 

 それぞれを、敷地内でも十分に距離の離れた別棟へ分散させた。

 

 しかし黒点は、データの存在する建物へは向かわなかった。

 

 引き続き、生身の宮原がいる保護棟へ向かっている。

 

       *

 

 解析室のホワイトボードへ、現在確認できている事実が整理されていく。

 

【可能性が低下したもの】

 

・宮原のノートPCやスマートフォンなどの物理端末

 

・特定のサーバーやIPアドレス

 

・GPSなどの一般的な位置情報データ

 

・Wikiデータそのもの

 

・元のWikiサーバー環境

 

【まだ残る可能性】

 

・宮原悠斗という人間そのもの

 

・宮原の何らかの認識

 

・管理者権限

 

・Wikiを管理したという行為

 

・《管理人》という謎のページ

 

・有料サイト側から何らかの対象指定を受けている可能性

 

「一つ、試してみたいことがあります」

 

 情報分析担当の職員が提案した。

 

「宮原さんが現在持っているWikiの管理者権限を外します。アカウントそのものは残し、まず権限だけを一般ユーザー相当まで落としてみます」

 

「やってください」

 

 かれんが許可した。

 

       *

 

 宮原のアカウントから、管理者権限が剥奪された。

 

 強制ログアウト。

 

 既存セッションの失効。

 

 APIキー等の管理用認証情報も無効化。

 

 管理ページへアクセスできない、通常の閲覧者と同程度のアカウントへ変更された。

 

 数分。

 

 地図上の黒点が、ピタリと止まった。

 

 五分。

 

 動かない。

 

 十分。

 

 動かない。

 

「……止まりましたね」

 

 久我がモニターを見る。

 

「偶然の可能性はまだあります」

 

 分析担当は慎重だった。

 

「それに、今はログアウトさせています。管理権限が条件なのか、ログイン状態そのものが条件なのか、まだ分離できていません」

 

「じゃあ、そこも試しましょう」

 

       *

 

 宮原へ再び説明する。

 

「今度は、管理者ではなく普通の利用者としてログインしてもらいます」

 

「管理画面には入れない?」

 

「入れません。普通にページを見るだけです」

 

 宮原は不安そうにしながらも了承した。

 

 隔離端末。

 

 ユーザー名。

 

 パスワード。

 

 ログイン。

 

 一般公開されていたページのコピーをいくつか開く。

 

 一分。

 

 三分。

 

 五分。

 

 黒点。

 

 動かない。

 

「ログインするだけでは、反応なし」

 

 分析担当が記録する。

 

「では次です。宮原さんは、そのまま何も操作しないでください」

 

 同じアカウント。

 

 同じログイン状態。

 

 八咫烏側から、宮原のアカウントへ管理者権限だけを再付与する。

 

 権限変更。

 

 管理者。

 

 適用。

 

 数秒後。

 

 止まっていた黒点が。

 

 ズルリと動いた。

 

「……っ!」

 

 宮原が息を呑む。

 

「権限を外してください!」

 

 分析担当が即座に管理者権限を剥奪した。

 

 数秒後。

 

 黒点も停止する。

 

 室内が静まり返った。

 

       *

 

「……ログインじゃない」

 

 久我が呟く。

 

「はい」

 

 分析担当が答える。

 

「少なくとも今回の検証では、一般ユーザーとしてログインしているだけでは黒点は動きませんでした。同じアカウントに管理者権限を付与した直後に移動を再開し、権限を外すと停止しています」

 

「じゃあ、宮原さん本人でもない?」

 

「そこまでは言えません」

 

 かれんが止めた。

 

「宮原さん本人と管理者権限、両方が条件である可能性もあります。別人へ管理者権限を与えた場合にどうなるかは、まだ検証していません」

 

「……それは、今やらない方がいいですね」

 

 久我も即座に理解した。

 

 誰か別の人間まで対象になる可能性がある。

 

 試すためだけに新しい被害者を作る意味はない。

 

 宮原自身が、真っ青な顔で呟いた。

 

「俺が……このWikiの『管理人』だから、ですか?」

 

 誰も答えなかった。

 

 システム上の管理者権限。

 

 それと、怪異的な意味での《管理人》。

 

 二つが同じものなのかどうかすら、まだ分からない。

 

       *

 

「念のため、あのページをもう一度確認します」

 

 分析担当が、《管理人》ページを開いた。

 

 宮原が警察へ出頭する決定打になった、謎のページ。

 

 『最近の変更』には、ページが作成された事実だけが残っている。

 

 編集者欄は空白。

 

 作成したユーザーも不明。

 

 本文データは空白。

 

 先ほど確認した時点では、それだけだった。

 

 ページが表示される。

 

 空白。

 

 ……ではない。

 

 真っ白な画面の中央。

 

 ただ一行だけ、黒い文字が表示されていた。

 

『宮原悠斗』

 

 誰も操作していない。

 

 新しい更新履歴も増えていない。

 

 データベースを直接確認しても、そんな文字列は本文に保存されていなかった。

 

 なのに、ブラウザ上では《管理人》の下に、確かに宮原の本名が表示されている。

 

「……消してください」

 

 宮原の声が震えた。

 

「データとして存在していません。本文データは空白のままです」

 

「でも、画面に俺の名前が出てるじゃないですか!」

 

「だから、通常の編集操作では消せないんです!」

 

 久我が、パニックになりかけた宮原の肩を掴んだ。

 

「宮原さん。落ち着いてください」

 

 宮原が荒い呼吸を繰り返す。

 

 久我は、「大丈夫です」とは言わなかった。

 

 そんな保証は、今の誰にもできない。

 

「俺たちは今ここにいます。少なくとも、あなた一人でこれに対処させることはありません」

 

 宮原は何度か深呼吸し、ようやく小さく頷いた。

 

       *

 

「宮原さんの管理権限を完全に破棄します」

 

 かれんが判断を下した。

 

 宮原本人も異論はなかった。

 

 旧アカウントから管理者権限を剥奪した上で、アカウント自体もシステムから削除する。

 

 管理者一覧から宮原の名前は消えた。

 

 残るのは、八咫烏が検証・保全用に作成したアカウント一つだけ。

 

 地図を見る。

 

 黒点は停止したままだ。

 

「これで……俺、もう管理人じゃないですよね?」

 

 宮原が縋るように尋ねた。

 

「システム上は、もう何の管理権限も持っていません」

 

 分析担当が答える。

 

「システム上は、ですか」

 

 久我がその言葉に引っかかった。

 

 かれんも、《管理人》ページを再読み込みする。

 

 画面中央。

 

『宮原悠斗』

 

 アカウントは消えた。

 

 管理権限もない。

 

 それでも、名前だけは残っている。

 

「……こっちのシステムで決める『管理人』と、このページが言ってる『管理人』は、別なんですかね」

 

 久我の推測に、かれんは慎重に答えた。

 

「まだ、この表示が何を基準に宮原さんを《管理人》と扱っているのか分かっていません」

 

 否定はしなかった。

 

       *

 

 宮原が、《管理人》という文字を見つめながらハッとした。

 

「……待ってください」

 

「何か思い出しました?」

 

「昔……まだ有料サイトの記事を面白半分で整理していた頃、保存した記事の中に《管理人》って単語を見た気がします」

 

 それがWiki管理人を指していたのか、有料サイト側の運営者を指していたのか、あるいは単なる怪談の中の言葉だったのか。

 

 そこまでは覚えていない。

 

「俺のPCの過去ログ、検索していいですか?」

 

 宮原が手を伸ばしかける。

 

「あなたは操作しないでください」

 

 かれんが止めた。

 

「こちらで検索します」

 

 分析担当が、隔離環境の過去データへ検索をかける。

 

 保存済みの有料記事。

 

 スクリーンショットから文字起こしされたデータ。

 

 過去の投稿ログ。

 

 削除済みページのキャッシュ。

 

 宮原の管理メモ。

 

 検索ワード。

 

《管理人》

 

 数件がヒットした。

 

『廃墟の管理人に見つかった』

 

『サイト管理人へ削除依頼を出した』

 

 ほとんどは、ごく普通の意味で使われているものだった。

 

 だが、一件だけ。

 

 有料サイトから保存された、かなり古い記事のスクリーンショット。

 

 画像の下端が一部だけ残っており、前後の文章は欠けている。

 

 そこに、小さな文字があった。

 

『記録された情報は、管理人へ引き継がれます』

 

 久我が画面を見る。

 

「これって……宮原さんのことだったんですか?」

 

「分かりません」

 

 宮原は首を振った。

 

「当時は、有料サイト側の管理人とか、そういう意味だと思ってました。正直、まともに気にもしてなかったです」

 

「現時点で、この一文と宮原さんを直接関連づける根拠は不足しています」

 

 かれんは冷静だった。

 

 有料サイトの運営者が黒点を送り込んだとも言えない。

 

 宮原が何らかの《管理人》へ選ばれたとも断定できない。

 

 ただ。

 

 今までなら何でもない文章として流していた一文が、急に別の意味を帯び始めていた。

 

       *

 

 一旦の処置が決定された。

 

 宮原のWiki管理権限は停止。

 

 本人によるWikiへのアクセスも禁止する。

 

 端末類はすべて八咫烏が保管。

 

 宮原は引き続き、施設内の保護区画へ滞在する。

 

 Wikiのコピーは隔離環境のみで解析を続行。

 

 黒点の位置、《管理人》ページの表示、そのほかの異常を常時記録する。

 

 モニター上の黒点は、完全に停止したままだ。

 

 宮原も、少しだけ安堵した表情を見せた。

 

「……じゃあ、止まったんですよね?」

 

「今は」

 

 久我が答えた。

 

「今は、ですか」

 

「このままずっと止まるかは、まだ分かりません」

 

「……そうですよね」

 

 宮原は力なく頷き、護衛の職員と共に保護区画へ戻っていった。

 

       *

 

 解析室に、久我、かれん、そして分析担当の三人が残された。

 

 全員が、ようやく深く息を吐く。

 

「今日は、もうこれで終わりですかね」

 

 久我が肩を回す。

 

「黒点の監視は継続します」

 

 かれんが指示を出した。

 

 久我が部屋を出ようとドアノブへ手をかけた、その時だった。

 

「……待ってください」

 

 分析担当の声が、不自然に上擦った。

 

 久我が振り返る。

 

「どうしました?」

 

 分析担当は、Wikiの『管理者一覧』を食い入るように見つめていた。

 

 先ほど、宮原のアカウントはシステムから削除した。

 

 現在の管理者は、八咫烏が検証・保全用に作成した一つだけのはずだった。

 

 しかし。

 

 画面上には、

 

『管理者数:2』

 

 と表示されている。

 

「……二人?」

 

 久我が駆け寄った。

 

 分析担当が一覧を開く。

 

 一件目。

 

 八咫烏の管理用アカウント。

 

 二件目。

 

 見覚えのないアカウント。

 

 ユーザー名。

 

『administrator_2』

 

 どこにでもありそうな、あまりにも無機質な名称。

 

 登録日時。

 

 ほんの数秒前。

 

 作成者。

 

 空欄。

 

 IPアドレス。

 

 空欄。

 

 認証方式。

 

 不明。

 

 そしてステータス。

 

『ONLINE』

 

       *

 

「私じゃありません」

 

 分析担当が即座に否定した。

 

「他に、この隔離環境の管理権限を持っている人間は?」

 

 かれんが鋭く尋ねる。

 

「いません。そもそもこの環境自体、外部ネットワークから物理的に隔離されています。外からログインできる構成ではありません」

 

「宮原さんは?」

 

「保護区画です。それに、彼のアカウントは削除済みです」

 

「じゃあ……誰がログインしてるんです?」

 

 久我の問いに、誰も答えられなかった。

 

 分析担当がさらにシステムを確認する。

 

 アクセス元。

 

 なし。

 

 接続ログ。

 

 なし。

 

 ログイン処理。

 

 なし。

 

 セッション生成処理。

 

 なし。

 

 すべてが『ない』。

 

 なのに。

 

 管理画面には間違いなく、

 

『administrator_2 ONLINE』

 

 と表示され続けている。

 

「……ログインしたという記録が、どこにもありません」

 

「でも、今は?」

 

「オンライン扱いです」

 

 久我は、ふとモニターの隅へ表示された地図を見た。

 

 黒点は、止まっている。

 

 宮原へ近づいてはいない。

 

 次に、《管理人》ページを見る。

 

『宮原悠斗』

 

 そして、管理者一覧。

 

『administrator_2 ONLINE』

 

「……これ。このWikiの管理人が、一人増えたってことですか?」

 

 久我の背筋を、冷たいものが走った。

 

 かれんは答えなかった。

 

「この解析環境を封鎖します。端末には触れないでください」

 

「すでに外部からは切れています」

 

「そういう意味ではありません」

 

 解析端末そのものを含む区画を、物理的に隔離する。

 

 不用意に電源を落とすことも、機器へ触れることも許可しない。

 

 解析室のモニター。

 

 黒点は、動かない。

 

 代わりに。

 

 管理者一覧の最下段。

 

『administrator_2』

 

 その横にある小さな表示だけが、静かに点灯し続けている。

 

『ONLINE』

 

 どこから接続したのか。

 

 誰が作ったのか。

 

 何者なのか。

 

 何一つ分からない。

 

 ただ一つ確かなのは。

 

《本物かもしれない怪異情報保管Wiki》に今この瞬間触れているのは、もう八咫烏だけではないということだった。




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