TS転生強化人間少女が全方位曇らせて死ぬ話   作:絡音1024K

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#3:Play a part-02

「ぐぐぐ…ナイン…ヘルプ…」

 

 

 隣の席でアシェルが悶えている。授業開始から20分後のことだった。

 

 最初の授業は教室を生物室に移動しての生物学だった。アシェルを含む宇宙暮らしの人々は天然の生物に疎い。地球の野生動物を見て、放し飼いにしていると思うくらいである。

 

 私は前世の記憶があるのですんなりと頭に入ってくるが、生物学──特に環境系はアシェルにはキツいようだ。

 

 

 

 授業は簡単だった。前世で高校範囲を修了していたこともあるが、何よりも強化された私の脳は暗記から理論までお手のものであった。

 

 ついでに言うと、私は編入前日に予習を済ませてきている。今日の授業のではなく、セントラル・アリシア学園高等部で学ぶ全範囲をだ。

 

 

 なぜそんなことをするのか?

 

 

 それは単純に、普通の学生が行う勉強に回す時間がないからである。

 

 今日は予定がないが、私の1週間はかなり過密なスケジュールに支配されている。

 

 つまり、任務だ。暗殺任務以外にも破壊工作や情報収集などの任務が常に発生し続けるのが、この組織のブラックさである。

 

 この組織、私以外にまともなエージェントはいないのだろうか?

 

 

 

 

 私の強化された頭脳をもってすれば、暗記科目は余裕。思考を必要とするものも、やり方を覚えてしまえば敵ではない。

 

 

 

「ここはこう。ここは──」

 

「たすかるわ〜」

 

 

 授業後、アシェルにさらさらと教えてやる。

 

 ……一応彼女もヴァージュのエージェントのはずだが、このくらいの予習はしなかったのだろうか?

 

 

 

 まあいい。

 

 とりあえず、座学は問題なさそうだ。あとは実技だが、私は自分に有利な科目──つまりMB操縦の選択講座を取っている。目標のダグラス・シュテンバーグはそこの講師としてセントラル・アリシアに来ているはずだ。

 

 講座は明後日。そこが初の顔合わせとなる。

 

 

 具体的にどう接近するかという指示は受けていないが、どうしたらいいのだろうか……色仕掛けをするような外見年齢ではないし、あくまでバレないように近づくという任務なので強行突破もできない。

 

 

 

「アシェル」

 

「ん?どした?」

 

 

 

 周囲に誰もいないことを確認して、アシェルに話しかける。どこに目があるか分からないので、端的に。今後の学園内での立ち回りについて尋ねた。

 

 

 

「うーん、急がなくてもいいんじゃない?『友達作り』は自然にできるようになるよ」

 

 

 

 もちろん、友達作りというのはダグラス・シュテンバーグへの接近を表しているのだろう。こういうところで頭が回るのは羨ましい。

 

 

「わかった、とりあえずやってみる」

 

 

「がんばー」

 

 

 ……どうしてアシェルはこうも気楽なのだろうか。そういうキャラ付けであることは納得しているが、関わったことのないタイプなのでどう接するのが正解なのか分からない。

 

 

 そんな小さな悩みを抱えつつも、編入初日は無事に過ぎていった。

 

 

 ──と、思いきや。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『こちらカーディナルストレーガ。D3部隊に合流する』

 

『D3部隊長“トゥワーク”了解。』

 

 

 

 

 

 最初の放課後は任務から始まった。本当にブラックな職場だ。

 

 

 心の中で毒づきながら、宙域を飛ぶ3機のMBにディマギアを近づける。D3部隊、ヴァージュ機関の暗殺部隊で、ほんの2年前に雇われた新顔の部隊。前任者は確か──カークスPMCだったか。5年前に任務にしくじり、消された組織だ。

 

 もっとも、消したのは私だが。

 

 

 D3部隊もヘマをすれば私が消すことになるのだろうか。そんなことを考えて、私はいつも仕事仲間とコミュニケーションをロクにとっていない。

 

 

 

 そもそも、私はヴァージュ機関の中でもかなり重用されている立場である。もちろん立場は元の実験体より上程度であるし、死の恐怖で組織に仕えているだけであるのだが、少なくとも使い捨ての駒よりは上の立場だ。

 

 

 

 それで、使い捨ての駒の解体作業は私に振られる。D3部隊という連中も、組織から見れば所詮は使い捨ての駒だろう。

 

 

 仕事仲間として愛着を持ってしまっては、殺す時に迷いが生じるかもしれない。

 

 迷った結果任務にしくじれば、今度切り捨てられるのは私だ。

 

 

 そんな保身のためにも、私はフルフェイスのヘルメットと音声のみの通信、そしてボイスチェンジャーで加工された通信音声で多重に正体を隠している。

 

 初見で話しかけづらい雰囲気を作っておけば、どんなに頭が世紀末な野郎も『ベテランのエージェント』という情報と併せて積極的なコミュニケーションは避けるはずだ。

 

 

 そんなこともあって、私の素性は組織内でも限られた数人しか知らない。特に隠せと命じられているわけでもないが、私が肉体年齢で10代後半程度の少女だと知っているのは組織内でも幹部クラスぐらいだろう。

 

 

 

 

 話を戻そう。

 

 

 私の最初の放課後は、予定外の任務で木星圏に戻るところから始まった。

 

 専用に調整されたMBのディマギアは個人用宇宙船に偽装状態で積まれている。

 MB(民間に流通している作業用のものはMotor Bouncerの略である)は次元航行トンネルと並ぶ大宇宙時代の重要な存在であるため、個人所有は特に咎められることはない。所有者が木星圏の大企業、ティタノ・インダストリーの秘蔵っ子(という名目)なら尚更だ。

 

 

 今回の任務は単純だが難易度の高い、敵対組織の重要人物暗殺だ。

 

 身内を切り捨てるだけなら基本的に手間はかからない。接近も容易だし、手の内は割れている。性能で勝るこちらが負ける方が珍しい。

 

 

 しかし、知らない相手となると話は別だ。

 

 相手の戦力はあらかじめ調査しておくが、それでも不確定要素が格段に多い。そして、大抵の場合地の利が相手にある。

 敵対組織──今回は大規模宇宙マフィア『ドルトンズ』の幹部が標的だ。

 

 幹部クラスともなると私兵の練度も高い。ポルコはD3部隊だけでは心許ないと判断して私を呼びつけた。

 

 

 

『カーディナルストレーガ、噂は聞いています。ポルコ・カイザーの懐刀──仲間殺しのウィザードと』

 

『“ロンド”私語は慎め』

 

 

 

 D3部隊の1人、ロンドが通信で呟く。

 

 マジか。私にそんな噂がついていたとは知らなかった。仲間殺しのウィザード……まあ、間違ってはいないか。実際殺した人間の大半は元仲間だ。

 

 

 そんなことをしているうちに、目標の宙域に入ったらしい。そこそこ大きなシャトルと護衛のMBが──7機。

 

 

 

『目標捕捉。ミッション開始』

 

 

 

 私の合図で戦闘は始まった。事前に共有された作戦の通りD3部隊が先行し、私は小惑星沿いに回り込む。

 

 

 相手は重装甲高機動のガランドI型“シナコグ”。金星の企業『ヴィーナスカテドラル』が売り出すガランドシリーズの傑作機で、機体重量故に継戦能力が低いことを除けば隙のない機体だ。

 

 対するD3部隊はティタノインダストリー産のディエガ、その偽装型ディテテーター。機動力と火力は同等だが、接近戦に持ち込まれた場合は若干不利、今回は数的不利もあるため奇襲による一時的有利を差し引いても、かなり分が悪い戦いだ。

 

 

 

「なるほど。私が呼ばれるわけだ」

 

 

 

 D3部隊も精鋭であるが、相手のシナコグもかなり動きがいい。さすがはマフィアの幹部、その護衛だ。

 

 

 

「セルヴス──放出」

 

 

 

 遠隔誘導兵器セルヴスをパージし、宇宙を漂流させる。

 そのまま戦闘の中に飛び込めば、やはり精鋭の護衛、即座にこちらを捕捉した相手の一斉射が始まった。

 

 

 

『新手が来る!!』

 

 

 

「3…2………1!!!」

 

 

 

 正確な着弾タイミングを予測し、ディマギアを動かす。

 

 

 私のディマギアは他のMBと根本的に違う。MBは基本的にレバーやコンソールによる操縦と思考操作が7:3程度の割合で織り交ぜられている。思考制御はフィルターなしでは余計な挙動を取りやすい。かといってフィルターをかけるとレスポンスが低下するというのがネックになり、通常は動作補助と入力の解釈に使用される程度だった。

 

 だが、私は違う。意識的に思考操縦システムに流す思考を選別しているため、フィルターなしでも挙動に無駄を出すことはない。私自身が高性能なフィルターになっているのだ。つまり、ディマギアの思考操作の割合は他のMBに比べて極端に高い。コンソール入力よりも速く、機体が私の判断で動く。

 

 

 

『避けただと!?』

 

 

 

「遅い!」

 

 

 

 だから、避けられる。全ての光弾をかわして、すれ違いざまに射撃。D3部隊も2機墜としたようで、これで残りは4機。戦力的には五分五分になったが──まだ私のターンは終わっていない。

 

 

 

『くそっ!速い!』

 

 

「セルヴス──来いっ!」

 

 

 

 すれ違った私を追撃するべく反転したシナコグ。これも予想通り。先ほどパージしたセルヴスを起動して彼らの背中に差し向ける。

 

 

 完全にこちらを追っていたのでは、セルヴスは捕捉できない。

 

 残った4機のシナコグの背面──装甲が比較的薄い部位にセルヴスが突き刺さる。

 致命傷ではないが、動きは止まる。後は──

 

 

 

「今だ。撃て」

 

『了解だ!』

 

 

 

 ──D3部隊の一斉射が動きの止まったシナコグを貫いた。

 

 

 

 

 

『クソっ!脱出装置が──』

 

『火が……うわっ──』

 

 

 

 断末魔の叫びが、聞こえてくる。未だに、これには慣れることができない。

 

 先ほどから当然のように相手の通信を聞いているが、相手がオープン回線を使うマヌケという訳では決してない。

 

 私の量子神経網が、部分的に周囲の通信回線を傍受して、勝手に脳内に響かせてくるのだ。相手の考えがある程度読めるというのは戦術的にはアドバンテージなのだが、撃墜した相手の死への恐怖から来る叫びが伝わってくるのはどうにもならない。

 慣れるしかないとは分かっている。しかし、私はどうしても割り切ることが──倫理観が狂った人殺しになることができなかった。いつも、殺した相手の叫びが私を正気に引き戻すのだ。

 

 

 

「……罰は受けるよ、地獄で……」

 

 

 

 回線を切り、自分を誤魔化すように呟く。私は死にたくない。でもきっといつかは死ぬ。その時は、今まで殺した人の苦しみの分だけ苦しむことになるのだろう。

 

 死んで楽になれるとは思わない。だからこそ、生きて殺し続けるのだ。いつか地獄に堕ちる日を想像しながら。

 

 

 

「……シャトルは」

 

 

 

 いた。護衛がいなくなった今、シャトルは少し離れた宙域を飛んでいるだけだ。D3部隊の弾が掠ったのか、その動きはおぼつかない。

 

 

 これを破壊して乗員を皆殺しにすれば任務は完了だ。私がライフルを構えて、シャトルに向けたその時──

 

 

 

 

 

『そこまでだ。全機武装を捨てて停止しろ』

 

 

 オープン回線で声が響く。ロックオン警報が出た。新手に捕捉されたということだ。

 

 攻撃をやめ、全機が咄嗟に小惑星の裏に移動して射線を切る。

 

 すぐに判断できるあたり、D3部隊もプロだ。

 

 

『オイオイ、マジかよ』

 

『ガランドF型──サマルカンド!』

 

 

 D3部隊が驚いた声を上げる。ガランドシリーズが星環圏全体に普及しているMBだとしても、製造元が納入先を絞っているタイプも存在する。

 ガランドF型“サマルカンド”は地球圏に輸出されるタイプで、地球圏中央政府の直属か、それに類する部隊、そしてもう一つの独立組織しか使わない。

 

 

 そして、薄青の識別色は星環圏のどこを探しても一つしかないものだ。

 

 

 

「……星環調和機構」

 

 

 

『こちらは星環調和機構所属、ダグラス・シュテンバーグ大佐だ。所属不明機体群に警告する──』

 

 

 

 私の近づくべきターゲット、ダグラス・シュテンバーグが、この宙域に現れていた。

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