BW素晴らしきイッシュ   作:もののふ教

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第12話 届きそうな場所ほど、手は伸びる

「次は、どなたが来ますか」

 

デントの静かな問いが落ちたあと、場に少しだけ間があいた。

 

ベルはまだミジュマルを抱えたまま、息を整えている。

 

悔しさは消えていない。

 

でも、さっきの負け方を引きずって、そのまま空気を沈めてしまうほどでもなかった。

 

その沈み切らなさが、逆に次の一歩を難しくしているようにも見えた。

 

「僕が行く」

 

答えたのはチェレンだった。

 

声は最初から整っていた。

 

シンはそちらを見る。

 

ベルの敗北を見た直後だというのに、チェレンの表情はほとんど変わっていない。

 

ただ、変わっていないからこそ分かるものもあった。

 

目だけが、少し鋭くなっている。

 

「チェレン……」

 

ベルが小さく名前を呼ぶ。

 

チェレンは振り返り、いつもの調子で言った。

 

「何も気にしなくていいよ」

 

「でも」

 

「負けたからって、君の戦いが次の誰かの邪魔になるわけじゃない」

 

言い方は淡々としていた。

 

慰めるために柔らかくした口調ではない。

 

でも、余計な気遣いを混ぜないぶん、かえって真っ直ぐだった。

 

ベルは少しだけ目を丸くしたあと、小さく頷いた。

 

「……うん」

 

トウヤがその横で笑う。

 

「チェレン、そういうとこたまにちゃんとしてるよな」

 

「たまに、は余計だよ」

 

「いつもだと照れるかなって」

 

「照れないよ」

 

そう返しながらも、チェレンはわずかに息を吐いた。

 

緊張していないように見えて、まったく何も感じていないわけではないのだろう。

 

シンは壁際にもたれたまま、その背中を見る。

 

ベルとは違う。

 

チェレンはたぶん、他人の勝ち方を真似しようとはしない。

 

その代わり、自分のやり方で届くかどうかを厳密に測ろうとする。

 

それが強さでもあり、たぶん限界にもなる。

 

コーンが一歩前へ出た。

 

「じゃあ、次は僕だね」

 

柔らかく笑っているが、軽いだけの空気ではない。

 

青い髪が照明に揺れる。

 

デントやポッドと似た顔立ちなのに、立ったときの空気はまた別だった。

 

静かで、するりと距離を取るような気配がある。

 

「僕はコーン。よろしく」

 

「チェレンです。よろしくお願いします」

 

礼は崩さない。

 

そういうところもチェレンらしかった。

 

ポッドが横から言う。

 

「チェレンの相棒はポカブかな?」

 

「そうだよ」

 

「なら、相手は僕じゃない」

 

コーンが穏やかに続ける。

 

「水は炎を見ますから」

 

その言葉と同時に、ベルが少しだけミジュマルを抱く腕に力を入れた。

 

タイプ相性。

 

最初のジムで、避けて通れない当たり前のもの。

 

チェレンももちろん分かっている顔だった。

 

動揺した様子はない。

 

「望むところです」

 

短く返す。

 

シンはその言い方に、ほんの少しだけ目を細めた。

 

強がりではない。

 

でも、少しだけ言い切りすぎている気もする。

 

コーンが対戦位置へ向かう。

 

「じゃあ、始めようか」

 

チェレンも歩き出した。

 

その足取りには迷いがない。

 

ベルのときのような揺れは見えない。

 

むしろ、揺れが見えないこと自体が、チェレンの戦い方なのだと分かる。

 

「チェレン」

 

ベルが小さく呼ぶ。

 

チェレンは振り返らないまま、足だけを止めた。

 

「……勝って」

 

ほんの少しだけ間があってから、チェレンは答える。

 

「もちろん、そのつもりだよ」

 

その返事に感情の熱はあまりなかった。

 

だが、雑でもなかった。

 

期待を背負うというより、自分の前提として受け取った声だった。

 

対戦位置に立つ。

 

コーンがボールを軽く弄ぶように指先で回した。

 

「君はたぶん、よく考えるタイプだね」

 

「考えずに来る人もいるの?」

 

「いるよ」

 

コーンは笑う。

 

「でも、考える子は見てて分かる」

 

チェレンは答えず、ポカブのボールを構えた。

 

いま必要なのは会話ではない。

 

そういう沈黙だった。

 

「では、始めましょう」

 

デントが進行役のように告げる。

 

次の瞬間、二つのボールが同時に放られた。

 

チェレンの前へ現れたのはポカブ。

 

小柄な身体を低くし、最初から前のめりな気配をまとっている。

 

対するコーンのポケモンはヒヤップだった。

 

青い毛並みを揺らし、こちらを軽く覗きこむような目つき。

 

ヤナップよりも少し柔らかく見える。

 

だが、その柔らかさがそのまま隙になるとは思えなかった。

 

「ポカブ、先に仕掛ける。ひのこ!」

 

開始直後、チェレンが動く。

 

判断が早い。

 

ベルのような迷いも、シンのような探りもない。

 

まずは取りにいく、という一直線さだった。

 

ポカブの口から散った火の粉が弾ける。

 

ヒヤップは横へ跳んだ。

 

完全には避け切れず、毛先をかすめる。

 

「いい入りだね」

 

コーンが言う。

 

「でも、水は熱を嫌がるだけじゃないよ。みずでっぽう」

 

細い水流が伸びる。

 

ポカブは前へ出かけた勢いのまま、まともには避けきれない。

 

肩に受ける。

 

鈍い音とともに身体が揺れた。

 

「そのまま止まるな、たいあたり!」

 

チェレンの指示は的確だった。

 

水を受けて下がるより、勢いを切らさない。

 

ポカブがそのまま突っこむ。

 

ヒヤップも受け切らず、半歩ぶん押し込まれた。

 

シンは腕を組んだまま、そのやり取りを見る。

 

うまい。

 

チェレンの戦い方は無駄が少ない。

 

相手が水なら火は通りにくい。

 

それでも、ひのこを牽制として使い、その後の接近へ繋げる。

 

理にかなっている。

 

「いいね」

 

トウヤが小さく呟く。

 

「ちゃんと形になってる」

 

「最初から崩れないのがチェレンだろ」

 

シンが返すと、トウヤは「まあね」と笑った。

 

場ではすでに次の交換が始まっていた。

 

「ヒヤップ、ひっかく」

 

「ポカブ、左へ」

 

チェレンの声が落ちる。

 

ポカブは爪をギリギリでかわし、その脇腹へ身体を押しつけるようにぶつかった。

 

体格差で押し切るほどではない。

 

だが、位置をずらすには十分だ。

 

「もう一度ひのこ!」

 

至近距離から放たれた火がヒヤップを包む。

 

今度はさっきより深く入った。

 

水タイプだからこそ致命打にはなりにくい。

 

それでも、連続で受ければ軽くはない。

 

ベルが目を見開く。

 

「すごい……押してる」

 

「相性不利でも、やりようはあるってことだよ」

 

トウヤが言う。

 

コーンはまだ焦った様子を見せていなかった。

 

それどころか、ヒヤップの動きをよく見ながら、あえて急がせていない。

 

「ヒヤップ、離れて」

 

短い指示で、ヒヤップが距離を取る。

 

ポカブが追う。

 

「追わせたいんだ」

 

チェレンが小さく呟いたのが、シンの位置からでも分かった。

 

そう、見えた。

 

ヒヤップは押されて離れたのではない。

 

次の距離へ誘っている。

 

「止まれ、ポカブ!」

 

すぐに修正が入る。

 

ポカブは床を踏ん張って止まった。

 

その瞬間に、ヒヤップの水が来る。

 

「みずでっぽう」

 

「よけろ!」

 

完全には間に合わない。

 

だが直撃も避けた。

 

肩口を掠める程度にずれて、ポカブは体勢を保つ。

 

チェレンの目が細くなる。

 

一度誘いを見抜いた。

 

その読みは正しい。

 

だが、コーンのほうもそこで終わらない。

 

「じゃあ、次はこっちから行こうか」

 

ヒヤップの動きが少し変わる。

 

さっきまでより細かく揺れるように距離を測り、チェレンの指示の速さをずらしにきている。

 

「ひっかく」

 

「ひのこで牽制!」

 

火が飛ぶ。

 

ヒヤップはその手前で引いた。

 

「みずでっぽう」

 

今度は牽制返しだった。

 

浅い水でも、ポカブにとっては鬱陶しい。

 

視界と足運びを切らされる。

 

「たいあたり!」

 

ポカブが突っこむ。

 

その瞬間、ヒヤップが斜めへ抜けた。

 

正面へ受けない。

 

「ひっかく」

 

横腹に爪が入る。

 

ポカブが苦しそうに声を漏らした。

 

チェレンは顔色を変えない。

 

だが、その無表情の奥で、計算の組み替えが早くなっているのが見て取れた。

 

相手のほうが、少し柔らかい。

 

ヤナップが蔓で距離を作るなら、ヒヤップは流れの切れ目をずらしてくる。

 

同じ相性不利でも、圧の種類が違う。

 

「ポカブ、ひのこを散らせ」

 

今度の指示は少し変わった。

 

一点へ撃つのではなく、前方へばら撒く。

 

シンはそこで少しだけ感心した。

 

追い込みの筋が見えなくても、相手の踏み場を減らす発想へ切り替えたのだ。

 

ヒヤップが一歩ぶん動きを鈍らせる。

 

そこへポカブが距離を詰めた。

 

「たいあたり!」

 

今度は深く入った。

 

ヒヤップがたたらを踏む。

 

ベルが思わず声を上げる。

 

「いける……!」

 

けれど、シンはそこでまだ何も言わなかった。

 

チェレンはたしかに強い。

 

崩れにくい。

 

形もある。

 

でも、押した場面で相手を決め切る“もうひと押し”が、まだ見えてこない。

 

その感覚は、たぶんトウヤも同じだったのだろう。

 

横で笑っていない。

 

ただ静かに見ていた。

 

「ヒヤップ、上を取ろう」

 

コーンの声が変わる。

 

ヒヤップが跳んだ。

 

高くではない。

 

けれど、ポカブの視線を一瞬上へ向けるには十分な高さだった。

 

「下がって――」

 

チェレンの指示より、着地のほうが少し早い。

 

「みずでっぽう」

 

落下の勢いを乗せた水がまともにポカブへぶつかった。

 

今度は深い。

 

ポカブの身体が後ろへ滑る。

 

床を削る音がした。

 

「ポカブ!」

 

チェレンの声が初めて少し強くなる。

 

ポカブは倒れない。

 

でも、息が荒い。

 

ひのこを撃つたび、たいあたりで詰めるたび、水を浴びている。

 

相性不利という現実が、じわじわ蓄積になって効いていた。

 

「まだ行ける」

 

チェレンは自分に言うみたいに呟いた。

 

ポカブも応えるように鳴く。

 

その声に熱がある。

 

チェレンの手持ちは、本人ほど冷たくない。

 

むしろ、本人の理屈を押し上げるための熱を持っている。

 

それがポカブという相棒の良さでもあるのだろう。

 

「ひのこ!」

 

「受けないで、回って」

 

火と水。

 

削り合いの中で、ヒヤップのほうがなお余裕を残している。

 

でも、チェレンの指示はまだ冴えていた。

 

正面に立たず、ひのこの散り方で逃げ道を狭め、ポカブの突進で角度を切る。

 

見ていて気持ちのいい戦い方ではある。

 

けれど、気持ちよさと勝ち切ることは同じじゃない。

 

「チェレン、いい感じだね」

 

ベルが祈るような声で言う。

 

「……ああ」

 

シンは短く返した。

 

でも、視線は外さない。

 

たぶんここからだ。

 

届くか、届かないかが分かれるのは。

 

「ポカブ、今だ。たいあたりから――」

 

チェレンの指示が飛ぶ。

 

ヒヤップがわずかに遅れた。

 

ここだ、とシンにも見えた。

 

ポカブが深く踏み込む。

 

ぶつかる。

 

ヒヤップが大きく揺れる。

 

「ひのこで押し切る!」

 

判断は正しい。

 

正しいはずだった。

 

だが、コーンの声はその一歩前に来ていた。

 

「下へ抜けて」

 

ヒヤップが低く沈む。

 

完全には避け切れていない。

 

それでも、火の芯をずらした。

 

浅くなったひのこが毛並みを炙る。

 

その代わりに、ヒヤップの手がポカブの足もとへ触れた。

 

「ひっかく」

 

体勢の崩れた側へ、爪が滑る。

 

ポカブがぐらりと傾いた。

 

そこへ間を置かず、水が来る。

 

「みずでっぽう」

 

至近距離だった。

 

まともに受けたポカブが後ろへ吹き飛ぶ。

 

着地に失敗し、床へ膝をつく。

 

ベルが息を呑んだ。

 

チェレンの表情は崩れない。

 

でも、目だけがはっきり揺れた。

 

たぶん、いまので勝ち筋がひとつ細くなったと理解したのだ。

 

「立て、ポカブ」

 

声は静かだった。

 

ポカブは立った。

 

立つ。

 

だが、さっきまでの踏み込みはもうない。

 

水を受け続けた身体が、少しずつ重くなっている。

 

コーンはそこを見逃さない。

 

「もう一度いくよ」

 

ヒヤップの動きは最後まで柔らかいままだった。

 

決めに来るのに、力んでいない。

 

「チェレン!」

 

ベルが思わず名前を呼ぶ。

 

チェレンは答えない。

 

答える余裕がないわけじゃない。

 

全部をポカブと相手のあいだへ注いでいるのだと分かった。

 

「ひのこ!」

 

最後の牽制。

 

ヒヤップが避ける。

 

「たいあたり!」

 

追う。

 

悪くない。

 

でも、ほんの少しだけ足が遅い。

 

ほんの少しだけ、決定的な瞬間に届かない。

 

「みずでっぽう」

 

正面から入った水が、ポカブの身体を止めた。

 

一歩。

 

もう一歩が出ない。

 

そのまま、前のめりに膝をつく。

 

立ち上がろうとして、力が入らない。

 

チェレンの唇がわずかに結ばれる。

 

数秒のあと、デントが告げた。

 

「……そこまでです」

 

場が静かになった。

 

ベルのときみたいな取り乱しはない。

 

チェレンはすぐにポカブへ歩み寄り、しゃがみこんで相棒の額へ手を置いた。

 

「よくやった」

 

それだけだった。

 

謝りもしない。

 

慰めすぎもしない。

 

でも、その短さの中に、悔しさと信頼の両方が入っていた。

 

ポカブが小さく鳴く。

 

不満そうでもあり、納得しているようでもある声だった。

 

コーンがヒヤップをボールへ戻す。

 

「強かったよ」

 

その言葉は社交辞令ではなかった。

 

「あと少しで、こっちが崩れるところもあった」

 

チェレンは立ち上がる。

 

「でも、崩しきれなかった」

 

「うん」

 

コーンはあっさり頷いた。

 

「そこが今日の差だね」

 

きつい言い方ではない。

 

でも、ごまかしもなかった。

 

チェレンはしばらく何も言わない。

 

それから、ほんの少しだけ息を吐いた。

 

「分かってる」

 

その一言が、思ったより低かった。

 

トウヤが壁から背を離す。

 

「チェレンらしい負け方だったな」

 

「慰めのつもりなら、最悪だよ」

 

チェレンが返すと、トウヤは肩をすくめた。

 

「違うって。ちゃんと強かった。でも、最後の最後で“もう一個向こう”に届かない感じ」

 

ベルが不安そうにチェレンを見る。

 

「それ、ひどくない?」

 

「ひどいけど、たぶん合ってる」

 

言ったのはシンだった。

 

チェレンがこちらを見る。

 

シンはその視線を受けたまま続ける。

 

「お前、崩れなかった。でも、相手が崩れる一歩手前で止まった」

 

チェレンはすぐには返さなかった。

 

否定できないのだろう。

 

悔しい顔をするでもなく、ただ事実として受け止めているように見える。

 

でも、その無表情の奥に熱がないわけじゃない。

 

むしろ、こういうときのチェレンは、表に出さないぶんだけ内側でよく燃える。

 

ベルが小さく言う。

 

「でも、強かったよ」

 

「ありがとう」

 

チェレンはそう返した。

 

「君より先に負けなかったことだけは、安心した」

 

「それどういう意味!?」

 

ベルが反射的に言い返す。

 

場に少しだけ笑いが戻る。

 

その軽さに助けられたのか、チェレンもわずかに口元を緩めた。

 

本当に少しだけだったが、シンにはそれで十分だった。

 

デントが視線を巡らせる。

 

「二人とも、よい戦いでした」

 

ポッドも頷く。

 

「うん。ベルは途中で自分へ戻ろうとしてたし、チェレンは最後まで形を崩さなかった」

 

コーンが続ける。

 

「でも、ジムってね。ちゃんとしてるだけじゃ越えられないこともある」

 

チェレンの眉が、ほんのわずかに動く。

 

その言葉はたぶん、いまのこいつにいちばん刺さる。

 

理にかなった動き。

 

正しい判断。

 

無駄のない指示。

 

それで届かないなら、何が足りないのか。

 

考え始めたら、チェレンはきっとその先を簡単には手放さない。

 

「さて」

 

ポッドがぱん、と手を叩く。

 

「残るは一人、かな?」

 

自然と視線が集まる。

 

トウヤはそこでようやく、いつもの軽い笑みを浮かべた。

 

「みんな見すぎじゃない?」

 

「残ったの君しかいないだろ」

 

シンが言う。

 

「そうだけどさ」

 

トウヤは肩を回してから、一歩前へ出た。

 

気負いが薄い。

 

なのに、逃げる感じもない。

 

その立ち方を見て、シンは内心で少しだけ口元を上げる。

 

やっぱりこいつはそうだ。

 

気負わないくせに、最初から場の真ん中へ立てる。

 

ベルとも、チェレンとも違う。

 

でも、たぶん自分とも違う形の強さだ。

 

「じゃあ、最後は俺かな」

 

トウヤがそう言うと、ポッドが楽しそうに笑った。

 

「待ってたよ」

 

赤い髪のジムリーダーが一歩前へ出る。

 

炎の気配を持つ者同士。

 

けれど、ただ熱いだけでは終わらないだろうと、シンはすでに分かっていた。

 

トウヤは対戦位置へ向かう途中、すれ違いざまにチェレンへ軽く言った。

 

「ちゃんと強かったよ」

 

チェレンは顔を上げる。

 

トウヤはそれ以上、慰めみたいな言葉を重ねなかった。

 

ただ笑う。

 

「でも、次は俺が勝つ」

 

その言い方が妙に自然で、嫌味にならないのがこいつのずるいところだとシンは思った。

 

ベルが小さく拳を握る。

 

チェレンはポカブのボールを見つめたまま、静かに息を吐いた。

 

二人の負けは、そこで終わりではない。

 

むしろ、ここからどう変わるかの始まりだ。

 

そして最後の一戦は、そのすぐ先にある。

 

サンヨウジムの空気が、また少しだけ熱を帯びはじめていた。

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