夢の跡地を出たとき、空はもう夕暮れの色を深くしはじめていた。
壊れた壁の隙間から見えていた群青は、外へ出てみるともっと広く、もっと静かだった。西の空だけが細く橙を残し、その下を低い雲が流れている。昼の熱を失いはじめた風が、草の匂いと土の匂いを一緒に運んでいた。
四人はしばらく無言で歩いていた。
夢の跡地で見たものが、それぞれの中でまだきちんと片付いていないのだと、シンにはわかった。プラズマ団の言葉。ムンナの怯えた様子。ムシャーナの静かな圧。マコモ博士の曇った表情。全部がまだ胸のどこかに引っかかっている。
先頭を歩くトウヤは、いつも通り足が止まらない。止まらないが、何も考えていないわけではない顔だった。むしろ、ああいう時ほど彼は先へ先へと意識を向けるのだろう。
その少し後ろで、チェレンは何かを整理するみたいに視線を落としている。昨日までなら、きっとあの場での対応をひとつずつ検証していたはずだ。どこが遅くて、どこが甘くて、どこを詰めればよかったか。そういう考え方をする男だ。
ベルだけが、何度もそっと後ろを振り返っていた。
露骨ではない。気づかれたくないみたいに、二歩か三歩進んで、少しだけ首を向ける。何かを期待しているようにも見えるし、ただ気になっているだけにも見える。
シンはそれに気づいていたが、すぐには何も言わなかった。
少し歩いたところで、トウヤがようやく口を開く。
「今日はこのへんで休んだ方がいいかもね」
ベルが顔を上げる。
「え、もう?」
「もう暗いし」
トウヤは空を見上げた。「夢の跡地のこと抜きでも、この時間から無理して進く意味は薄い」
「珍しいね」
チェレンが言った。
「何が」
「君が、自分からそう言うの」
「別に急ぐのが好きなわけじゃないよ。必要なら急ぐだけ」
そう返してから、トウヤはベルの方を見た。「それに、今日はみんな少し遅い」
ベルがぎくっとした。
「わ、わたし!?」
「ベルだけじゃないけど」
シンは思わず小さく笑った。ベルが即座に「なんで笑うの!」と睨んでくる。
「いや、ほんとに遅いから」
「だって……今日は、なんか……」
言い淀んで、ベルはまた後ろを見た。
何もいない。道の向こうには暮れかけた野原が広がり、その先に木立ちが見えるだけだ。小さな虫ポケモンの鳴き声が聞こえる。風が通るたびに草が波みたいに揺れる。
「何か気になる?」
シンが訊くと、ベルは少し迷ってから頷いた。
「……うまく言えないんだけど」
「言えばいい」
チェレンが言う。「言葉が曖昧でも、言わないよりはましだよ」
ベルは唇を寄せた。たぶん、その言い方が少しだけ気に入らなかったのだろう。でも反発せず、素直に口を開いた。
「後ろから見られてる気がする」
シンの足がほんの少しだけ止まる。
「見られてる?」
「うん。怖い感じじゃないの。なんていうか……」
ベルはまた振り返る。「置いてかれたくない、みたいな」
その表現が妙にベルらしくて、でも同時に、シンの胸の内側で何かが静かに鳴った。
トウヤも振り返る。 チェレンも道の後方を一度だけ見た。
何もいない。
だが、シンにはベルの言いたいことが少しわかる気がした。実際に何か見えたわけではない。でも、ただの気のせいと片付けるには引っかかる。
「いったん休もう」
トウヤがそう言って、道脇の開けた場所へ入っていく。低い木が風除けになりそうな、小さな平地だった。夜営というほど大げさなことはしないにせよ、しばらく腰を落ち着けるにはちょうどいい。
四人は荷物を下ろし、簡単な食事の準備をはじめた。火を使うほどではない。保存のきくパンと木の実、マコモ博士に持たされた携帯食。ポケモンたちにも少しずつ分ける。
ミジュマルは空腹のくせに偉そうな顔で受け取り、ポカブは素直にむしゃむしゃと食べ、ツタージャは少し選り好みしながらも結局口にした。
そんな何気ない時間のはずなのに、ベルは落ち着かなかった。
木の実をひとつ食べるたびに目線が泳ぐ。何か音がすると肩が揺れる。シンは向かいに座りながら、それを見ていた。
「ベル」
「な、なに」
「見に行きたい?」
ベルは目を丸くした。
「え」
「後ろ。気になるなら」
ベルはすぐには頷かなかった。 怖い、のだと思う。 確認したい。でも、何もいなかったら自分がおかしいみたいだし、何かいたらそれはそれで困る。そういう種類のためらいだ。
チェレンが水筒の蓋を閉めながら言う。
「ひとりで行くのはやめた方がいい」
「行かないよ!」
ベルが反射的に言い返す。
「ひとりでは、だけど」
「行くの?」
「だって気になるもん……」
その声は細かったが、ごまかしてはいなかった。
トウヤが立ち上がる。
「じゃあ見よう」
「軽いなあ」
シンが言うと、トウヤは肩をすくめた。
「気になるままの方が面倒だし」
結局、四人で少しだけ元の道を戻ることになった。
夕暮れはもうほとんど夜に近くなっている。完全な暗闇ではないが、色の区別が難しくなりはじめる時間だ。草むらの影が濃い。遠くの木立ちも黒い塊にしか見えない。
ベルがシンの少し後ろを歩く。
「いたらどうしよう」
「いなかったら?」
「それはそれで恥ずかしい」
「じゃあ、どっちでも困るじゃん」
「そうだよ!」
思わず笑いそうになる。ベルは本当に、その場その場の気持ちを隠さない。
道が少しだけ曲がる、その角まで来た時だった。
風で揺れた草の向こう、わずかに丸い影が動いた。
薄桃色。
シンは足を止めた。 ベルも同時に止まる。
「……いた」
ベルの声は、ほとんど息みたいだった。
草むらの陰からこちらを見ていたのは、ムンナだった。
夢の跡地で見たときと同じ、やわらかそうな体。だがあの時よりも警戒は強く見える。こちらが動けばすぐ逃げられる距離を保ちながら、でも目は離さない。追ってきた、というより、見失わないようについてきた、そんな佇まいだった。
ベルが思わず一歩前へ出る。
その瞬間、ムンナの体がびくっと揺れた。逃げる寸前の気配。ベルははっとして足を止める。
「ご、ごめん……」
謝る声が、夜の草の匂いに混じる。
チェレンが小さく息をついた。
「やっぱり来てたんだね」
「ずっと?」
シンが訊く。
「たぶんね」
チェレンはムンナから視線を外さないまま答える。「ベルが気づいたときから、という意味なら」
トウヤは腕を組まず、ただ自然に立っていた。敵意がないことを見せるためでもあるのだろう。
「どうする?」
その問いはベルに向けられていた。
ベルは返事に詰まる。
どうする。 呼ぶのか。 近づくのか。 放っておくのか。
どれも違う気がして、どれも少しは正しい気がする。
「……わかんない」
正直にそう言うと、トウヤは頷いた。
「じゃあ、わかんないままでいいんじゃない」
「え」
「無理に今決めなくても」
ベルは目を瞬かせた。 シンも少し意外だった。トウヤはもっと、白か黒かを早く決める側だと思っていた。
でも、トウヤは続ける。
「こっちに来たいなら来るし、来たくないなら来ない。今の距離でついてくるなら、それがムンナの選んでる距離なんでしょ」
その言葉を、ベルは静かに聞いていた。
シンはムンナを見る。 確かに、逃げてはいない。 来るでも、逃げるでもないこの距離は、ムンナ自身がどうにか保っているものなのだろう。
ベルがしゃがみこんだ。 近づくためではなく、自分を低くするために。
「……来てもいいよ」
小さな声で言う。
「でも、無理しなくていいからね」
ムンナは答えない。 ただ、その丸い体を少しだけ揺らした。
結局、その夜はそれ以上何も起きなかった。
四人が休憩場所へ戻ると、ムンナはまた少し距離を置いたところで止まった。近くへ来ることはない。けれど離れすぎもしない。視界の端にいるかいないか、ぎりぎりの位置で、こちらを見失わないようにしている。
ベルは何度もそちらを見たが、最後まで追わなかった。
寝る前、シンが横になりながら空を見ると、細い月が木の枝のあいだに引っかかっていた。ミジュマルはもう半分寝ている。ポカブの寝息が少し向こうから聞こえる。ベルの方を見ると、彼女は毛布にくるまりながら、まだうっすら目を開けていた。
「寝ないの」
シンが小声で訊く。
「寝るよ」
「でも見てる」
「……見てる」
ベルは素直に認めた。「いなくなってたらどうしようって思って」
「いるかもしれないし、帰ってるかもしれない」
「そうなんだけど」
ベルは小さく息を吐く。「自分で“無理に決めない”って思ったくせに、気になっちゃう」
「それでいいんじゃない」
「いいのかな」
「たぶん」
ベルはしばらく黙って、それから少しだけ笑った。
「シンって、こういう時たまに適当だよね」
「たまに?」
「わりと」
言い返そうとしたが、面倒なのでやめた。
夜は冷えたが、穏やかだった。
朝になると、ムンナは見えなかった。
ベルが起きて最初に辺りを見回し、それから少しだけ肩を落としたのを、シンは見ていた。けれど口には出さない。
朝露の残る草を踏みながら、四人は再びシッポウシティへの道を進きはじめた。
空はよく晴れていた。昨日の重たさが嘘みたいに青い。こういう朝は、気持ちだけが取り残される気がする。世界の方は平気な顔で前へ進むのに、自分の方はまだ少し遅れている、そんな感じだ。
午前の道はなだらかだった。
小さな林を抜け、浅い川にかかる木橋を渡り、背の低い草原を進く。ベルは最初こそ後ろを気にしていたが、何度見ても何もいないものだから、だんだん振り返る回数が減っていった。
チェレンがそれに気づく。
「諦めた?」
「諦めたっていうか……」
ベルは少し考えてから言う。「来るなら来るし、来ないなら来ない、って思うことにした」
「昨日トウヤに言われたこと、そのままだね」
「うるさいなあ」
ベルは頬を膨らませたが、そこまで嫌そうではなかった。
トウヤは前を見たまま言う。
「でも、本当に来ないかどうかはまだわからない」
「どっちなの」
「どっちでもある」
シンはその会話を聞いて、少しだけ笑う。 トウヤの言葉は乱暴に聞こえることがある。でも時々、やたら本質だけを抜いてくる。
昼近く、四人は野生のミネズミの群れに道を塞がれた。
大した相手ではない。だが数が多い。しかもこちらが休憩しようとした木陰を先に取られているらしく、妙に気が立っていた。
「どうする?」
ベルが訊く。
「追い払うしかないかな」
チェレンが言う。「無理に大きな怪我をさせる必要はないけど」
トウヤがツタージャのボールに指をかける。 シンもミジュマルを前へ出した。
ベルは少しだけ迷ってから、自分のミジュマルへ視線を向けた。ミジュマルはやる気のある顔をしている。
「行こう。ミジュマル、みずびたし!」
放たれた水が先頭のミネズミを濡らす。直接倒す技ではない。だが動揺を生むには十分だった。そこへシンが重ねる。
「ミジュマル、みずでっぽう!」
水流が地面すれすれを走り、群れの前列を崩す。 チェレンのポカブが一歩前へ出る。
「こらえる。前に出るな、その位置でいい」
飛び込んできたミネズミの体当たりを受け止めさせ、動きを止める。その隙にトウヤが短く言った。
「ツタージャ、にらみつける」
空気がぴたりと張る。 相手が一瞬ためらったところへ、ポカブのひのこが弾け、ツタージャのつるのむちが脇から地面を打った。
まともに戦えば長引く。 だが「ここは危ない」と思わせるだけなら、今の四人でも十分だった。
ミネズミの群れは二、三歩下がり、それから散っていく。
ベルがほっと息をついた。
「勝った、でいいのかな」
「追い払えたなら十分だよ」
チェレンが言う。「戦う目的は、倒すことだけじゃない」
その言葉を聞きながら、シンは昨日の夢の跡地を思い出していた。 たぶん本当にそうなのだ。 守ること。 離すこと。 届くこと。 そのために何を優先するかで、戦い方は変わる。
木陰で休憩をとっている時、トウヤがふいに顔を上げた。
「いる」
三人が一斉にそちらを見る。
道の脇、少し離れた茂みの陰に、丸い影が見えた。
ムンナだった。
昨日の夜よりも少し近い。 でも、まだ十分遠い。 近づけば逃げる距離、けれど見える位置には必ずいる距離だった。
ベルの顔が、一瞬で明るくなって、それからすぐに曇る。 近づきたい。でも近づけば消える。 そのことを、もうちゃんとわかっている。
「来てたんだ……」
ベルの声は、嬉しいような困ったような、変な音だった。
ムンナは草の陰からこちらを見ている。 ベルを見るというより、ベルたち全体を見ている感じだ。けれど、その視線が特にベルへ長く留まることを、シンは見逃さなかった。
チェレンが水筒を持ち上げる。
「ここで詰めない方がいい」
「うん」
ベルはすぐ頷いた。 頷いたが、その声は小さい。
トウヤが荷物の中から木の実をひとつ取り出した。
「置いとく?」
ベルが驚いて見る。
「いいの?」
「取るかどうかはあっち次第だけど」
ベルは少し迷ってから、その木の実を受け取った。 そしてムンナの方へ近づくのではなく、今自分がいる場所から数歩だけ離れた、ちょうど中間くらいの地面にそっと置く。
「これ、いるなら」
言葉が届くわけではない。 でも、声の温度は届くかもしれない。
「無理ならいいからね」
そう言って戻る。
ムンナはすぐには動かなかった。 四人がわざとその方向を見ないようにして休憩を続けていると、しばらくして小さな気配だけが動いた。ちらりと視線を向けると、木の実はなくなっていた。
ベルが小さく笑う。
声を出さないようにしているのに、嬉しさが隠しきれていない笑いだった。
午後、道は少しずつ町へ近づいていった。
整った柵が見えはじめ、遠くに建物の屋根も覗く。シッポウシティはもうそう遠くない。ここから先は、人の気配が増える。野生のポケモンが長くうろつくには向かない場所だ。
ベルもそれがわかっているのか、言葉が少なくなった。
シンが並んで歩く。
「不安?」
「……うん」
「来るかどうか?」
「それもあるし」
ベルは前を見たまま言う。「ここまで来たら、あの子がどうしたいのか、ちょっと決まっちゃう気がして」
シンはその意味を考える。 たしかに、町の手前というのは境目だ。 ここを越えれば、人の領分が濃くなる。 野生のポケモンにとっては、ついていくか、戻るか、どちらかを選ばされるような場所でもある。
「怖い?」
「うん」
「何が」
「どっちでも」
ベルは苦く笑う。「来てくれても、来なくても、どっちもこわい」
その答えに、シンは何も返せなかった。 たぶんそれがいちばん正直なのだと思ったからだ。
夕方が近づく頃、四人はシッポウシティ手前の林道を抜けた。
視界がぱっと開ける。 前方に町の輪郭が見えた。屋根の列、木組みの建物、整えられた道。もう「次の町がある」ではなく、「あそこが次の町だ」とはっきり言える距離だった。
そして、その開けた場所に出た瞬間、ベルがぴたりと止まった。
「……ムンナ」
振り返った先。 林の影と夕方の光の境目に、ムンナがいた。
かなり近い。 今まででいちばん近い。 でもまだ、ベルの足元までは来ない。来られない。 目には迷いがある。体にも警戒が残っている。けれど、それでも林の奥へ戻ろうとはしていなかった。
チェレンも足を止める。
「ここまで来たんだね」
トウヤは何も言わない。 ただ、口を挟まないことを選んでいる顔だった。
ベルがゆっくり、ムンナの方へ向き直る。 一歩だけ前に出る。 ムンナはびくっとする。 ベルはそれ以上近づかない。
「……来たんだ」
それだけ言う。 それ以上の飾りが出てこない。
風が吹く。 林の葉が擦れる。 夕方の光がムンナの丸い体の縁を淡く染める。
「わたし、まだよくわかんない」
ベルは静かな声で言った。
「一緒にいたいって思ってる。でも、それがあの子のためかどうか、ちゃんとわかんない。だから……」
言葉が途中で詰まる。 シンは見ているしかできない。
ベルは小さく息を吸い直した。
「だから、わたしの方から決めたくない」
ムンナはじっと見ている。 逃げない。 でも来ない。
「帰りたいなら帰っていいよ」
ベルの声は震えていた。でも逸れなかった。
「ここまで来てくれたの、すごく嬉しい。でも、無理してほしくない。怖いなら怖いままでいいし、まだ決められないなら、それでもいい」
シンの胸のどこかが、静かに締まる。
ベルは強くない。 少なくとも、自分でそう思っている。 でも、今のこの言い方には強さがある。自分の願いを押し切らない強さ。相手の迷いを急かさない強さだ。
「……もし」
ベルが言葉を継ぐ。
「もし、わたしを見失いたくなくて来たんだったら。わたしも、ちゃんと見る」
ムンナの体が小さく揺れた。
前へ出る。 止まる。 また半歩、出る。
ベルの顔がわずかに変わる。 でも走り寄らない。 手も伸ばさない。
ムンナは結局、ベルのところまでは来なかった。 ただ、林の境目からは完全に出てきた。 もう「偶然そこにいた」距離ではない。見えなくならないために、はっきり自分で近づいた距離だった。
ベルの目が少し潤む。
「……ありがとう」
小さく、それだけ言う。
チェレンがごく軽く息を吐いた。
「今は、ここまでかな」
「うん」
シンも頷く。
今この瞬間を、捕まえるとか仲間にするとか、そういう言葉にしてしまうのは違う気がした。 まだそこではない。 でも、ただの野生でもなくなりつつある。
トウヤが先に町の方を見た。
「入ろう。日が落ちる」
ベルはすぐには動かず、ムンナを見たまま立っていた。 それからようやく、ゆっくり頷く。
「……うん」
町の方へ歩き出す。 二歩進いて、ベルは振り返らない。 振り返りたいのを、こらえているのがわかった。
シンは一度だけ後ろを見た。
ムンナはまだそこにいた。 林の縁、夕方の光と影の間で、小さく丸い影のまま、こちらを見ている。
追ってくるかもしれない。 戻るかもしれない。 まだ決まっていない。
でも、見失う気はないのだろう。 それだけは、はっきりしていた。
シンは前を向き直る。
旅の中では、何を優先するかを何度も選ばされる。 急ぐこと。 守ること。 勝つこと。 追いつくこと。
でも今日、ベルが選んだのは、たぶん少し違うものだった。
先に答えを決めないこと。 相手の選ぶ余地を残すこと。 来るなら来る、来ないなら来ない、そのどちらにも耐えること。
それは目立たないし、格好よくもない。 けれど、簡単な強さじゃなかった。
シッポウシティが少しずつ近づく。 町の輪郭が大きくなる。 四人の影が夕暮れの道に長く伸びる。
そのずっと後ろ、林の境目に、もうひとつ小さな影が残っていた。
まだ並んではいない。 でも、もう完全に別の道でもない。
シッポウシティ手前まで追ってきたその気持ちは、言葉にならないまま、たしかにそこにあった。