BW素晴らしきイッシュ   作:もののふ教

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第8話 眠っていた場所には、まだ誰かの気配が残っている

朝のサンヨウシティは、昨日より少しだけ近く感じた。

 

知らない町のはずなのに、一度歩いた道があるだけで、景色のよそよそしさが薄れる。

 

ポケモンセンターを出たところで、ベルが空を見上げた。

 

「今日はいい天気だね」

 

「夢の跡地に行くにはちょうどいいんじゃない?」

 

トウヤが言う。

 

「ちょうどいいかどうかは知らないけど、雨よりはましだろ」

 

シンが肩を鳴らす。

 

ミジュマルは朝から機嫌がよく、足もとをせわしなく行ったり来たりしていた。

 

昨日の時点でも気にしていた場所だ。

 

相棒なりに、今日はあそこへ行く日だと分かっているのかもしれない。

 

チェレンが荷物の位置を直しながら言う。

 

「夢の跡地を見てから、必要なら少し調整する。そのうえでジムへ向かう。流れとしては悪くないと思う」

 

「言い方がもう作戦会議なんだよな」

 

シンが言うと、チェレンはわずかに眉を上げた。

 

「作戦なしで行くよりいいだろ」

 

「まあな」

 

ベルがその横で小さく息を吐く。

 

「……やっぱり、ちょっと緊張する」

 

「夢の跡地とジム、どっちに?」

 

トウヤが聞いた。

 

ベルは少し考えてから、正直に答えた。

 

「両方」

 

「知ってた」

 

シンが即答すると、ベルはむっとした顔をした。

 

「何その分かったみたいな言い方」

 

「分かりやすいんだよ、お前は」

 

「それ、昨日も言われた気がする」

 

「昨日だけじゃないだろ」

 

軽口を交わしながら町の外れへ向かう。

 

昨日は夕方だった道も、朝の光の中ではまた別の表情をしていた。

 

建物の影は短く、風はまだ少しひんやりしている。

 

にぎやかな中心部を離れるにつれて、人の声が少なくなった。

 

その静けさが、目的地の名を思い出させる。

 

夢の跡地。

 

名前だけなら曖昧で柔らかいのに、実際に近づくにつれて、その場所が持つ空白の気配はむしろはっきりしていく。

 

やがて、昨日見た白い建物がまた姿を現した。

 

崩れた壁。

 

ひびの入った窓。

 

伸びた草。

 

それなのに、ただ荒れているだけではなく、どこか“置き去りにされたまま時間が残っている”ような感じがある。

 

ベルが小声で言った。

 

「明るいと、ちょっとだけ怖くない」

 

「ちょっとだけなんだな」

 

シンが返す。

 

「ゼロじゃないもん」

 

「正直でよろしい」

 

トウヤが笑った。

 

チェレンは周囲を見回している。

 

建物そのものだけでなく、入口の足場、塀の崩れ方、草の揺れ方まで、無意識に確認しているようだった。

 

「昨日よりは見やすいね」

 

「何が?」

 

ベルが聞く。

 

「人が通った形跡」

 

チェレンが地面を指す。

 

「完全に放置されてるわけじゃない。町の人か、トレーナーか、野生のポケモンかは断言できないけど、少なくとも誰も寄りつかない場所ではない」

 

その言葉に、シンも足もとを見る。

 

土の上には、浅い踏み跡のようなものがいくつかあった。

 

人の靴跡に見えるものもあれば、ポケモンのものらしい小さな痕もある。

 

昨日は気づかなかった。

 

暗くなりかけていたせいもあるし、自分たちの意識が建物そのものへ寄りすぎていたのかもしれない。

 

「じゃあ、入っても大丈夫そう?」

 

ベルが訊く。

 

「大丈夫とは言わないけど、危険しかない場所なら町の近くにそのまま残ってないと思う」

 

チェレンの答えはいつも通り慎重だった。

 

けれど、進むこと自体を止める調子ではない。

 

シンは建物の正面を見た。

 

半分壊れた入口の向こうは、薄い影になっている。

 

朝の光が差しこんでいる分、昨日より内部の様子は見えた。

 

床には破片が散らばり、古い机らしきものが奥に倒れている。

 

風が抜けるたび、どこかでかすかな軋みが鳴った。

 

「行くぞ」

 

そう言って最初に足を向けたのは、結局シンだった。

 

ミジュマルがすぐ横につく。

 

相棒の気配があるだけで、妙に足が落ち着く。

 

ベルたちも続いた。

 

中へ入ると、外より少しだけ空気が冷たかった。

 

湿っているというほどではないが、日向とは違う静けさがある。

 

床に散った紙くずは文字が薄れていて、何に使われていたものかも分からない。

 

壁際には壊れた棚があり、そのひとつにはガラス瓶の名残みたいなものが残っていた。

 

「ほんとに研究所みたい」

 

トウヤが辺りを見ながら言う。

 

「夢の研究って、何してたんだろうね」

 

ベルが首を傾げる。

 

「ポケモンの眠りとか?」

 

「あるいは、人間の見る夢そのものかもしれない」

 

チェレンが答えた。

 

「この地方には、夢に関する伝承を持つポケモンもいる。そういう存在を調べていた可能性はある」

 

「伝承って、ムンナとか?」

 

ベルが言うと、チェレンは頷いた。

 

「そう。夢を食べるとか、夢に関わる匂いを出すとか、色々言われてる」

 

「なんか急に、この場所の名前がそれっぽくなってきたな」

 

シンが呟いたときだった。

 

奥のほうから、かすかな音がした。

 

擦れるような、小さな足音。

 

四人が一斉にそちらを見る。

 

ミジュマルも身体をぴんと張った。

 

「……いる」

 

ベルの声が低くなる。

 

昨日の軽い怖がり方とは違う。

 

ちゃんと気配を感じ取ったときの声だった。

 

シンは手を上げ、三人を止めるようにした。

 

「騒ぐなよ」

 

「言われなくても」

 

ベルが小さく返す。

 

壊れた棚の向こう、少し開けた場所へ視線を向ける。

 

最初に見えたのは、桃色だった。

 

丸みのある身体。

 

額にふわりと浮かぶ模様。

 

眠たげにも見える目つき。

 

昨日、裏手で一瞬だけ見えた影と同じだ。

 

「ムンナ……」

 

ベルが息を呑む。

 

ムンナは四人を見つめていた。

 

逃げるでもなく、近づくでもなく、ただ様子をうかがうように静かに浮いている。

 

野生のポケモンにしては、妙に落ち着いていた。

 

その周囲の空気だけ、少し柔らかく見える気さえした。

 

「かわいい」

 

ベルが思わず漏らす。

 

「声抑えろ」

 

シンが言ったが、気持ちは分からなくもなかった。

 

ミジュマルも警戒一辺倒ではない顔をしている。

 

敵意が薄いことは感じ取っているのだろう。

 

トウヤが一歩だけ位置をずらした。

 

「どうする?」

 

「何もしないなら、向こうも動かないかも」

 

チェレンが低く言う。

 

「刺激しないほうがいい」

 

シンもそのつもりだった。

 

無理に戦う理由はない。

 

ここへ来たのは、何かを確かめるためであって、手当たり次第にぶつかるためじゃない。

 

そう思った矢先、別の音がした。

 

今度はムンナの側ではない。

 

崩れた壁の向こう、外へ続くほうから、ばたばたと慌ただしい足音が近づいてくる。

 

人だ。

 

しかも一人ではない。

 

四人が反応するより早く、入口のほうから二つの影が姿を現した。

 

黒い服。

 

胸元の大きなPの字。

 

見覚えのある、統一された格好。

 

「プラズマ団……?」

 

ベルが思わず声に出す。

 

昨日、カラクサタウンで演説をしていた連中と同じだ。

 

現れた二人も、こちらに気づいた瞬間、あからさまに顔をしかめた。

 

「子どもか」

 

「こんなところで何してる」

 

吐き捨てるような声だった。

 

シンは反射的に一歩踏みかけて、そこで無理に勢いを乗せないよう意識する。

 

相手が何者か分からないわけではない。

 

だが、何をしに来たのかまではまだ断定できない。

 

チェレンが静かに問う。

 

「それはこっちの台詞だと思うけど」

 

その言い方に、片方の団員が鼻で笑った。

 

「見学だよ」

 

「そんな格好で?」

 

トウヤが軽く返す。

 

「ずいぶん怪しい見学だね」

 

ベルはシンのすぐ後ろにいたが、逃げ腰ではなかった。

 

怖がっているのは分かる。

 

それでも、ただ引くだけでは終わらないところがこいつらしい。

 

ムンナはそのやり取りのあいだも、少し離れた位置で浮いたままだった。

 

ただし、さっきより明らかに落ち着かない。

 

身体の周りに漂う空気が揺れている。

 

シンはそちらを見て、嫌な予感を覚えた。

 

こいつらの目的は、自分たちじゃない。

 

「……ムンナか」

 

口に出した瞬間、団員の片方の目つきが変わった。

 

それだけで十分だった。

 

「ベル、下がれ」

 

「え?」

 

「いいから」

 

シンが言った直後、団員のひとりが前へ出た。

 

いや、出たというより、獲物との距離を詰めるために身体を滑らせた。

 

「逃がすな!」

 

その声に、ムンナがびくりと震える。

 

次の瞬間には、ふわりと浮いていた体が奥へ退いた。

 

「やっぱりそういうことかよ」

 

シンの声が低くなる。

 

昨日の演説が頭をよぎる。

 

ポケモンのためだとか、解放だとか、もっともらしいことを言っていた連中が、こういう場所で野生のポケモンを追っている。

 

気に食わない、で済む話じゃなかった。

 

「ミジュマル!」

 

呼ばれるより早く、相棒は動いていた。

 

団員がムンナへ向けて伸ばした手の前へ、割りこむように飛び出す。

 

「邪魔をするな!」

 

「するに決まってるだろ!」

 

シンが返す。

 

団員がモンスターボールを抜いた。

 

飛び出したのはミネズミだった。

 

素早く、いやらしく動く目つき。

 

「かみつけ!」

 

鋭い指示と同時に、ミネズミが低く走る。

 

正面からではない。

 

床に散った破片を縫うように、足場の悪い場所をわざと選んでくる。

 

昨日までなら、その速さに釣られていたかもしれない。

 

だがシンは短く息を吸った。

 

「ミジュマル、迎え撃つな。横を切れ!」

 

ミジュマルがぶつかる直前で軸を外す。

 

ミネズミの牙が空を噛む。

 

そのすぐ脇を、貝の刃が浅く走った。

 

「みずでっぽう!」

 

狭い室内で撃たれた水が一直線に飛び、ミネズミの身体を壁際へ弾き飛ばす。

 

団員が舌打ちした。

 

「もう一匹出せ!」

 

もう片方の団員がボールを投げる。

 

出てきたのはチョロネコだった。

 

軽い身のこなしで瓦礫の上へ飛び乗り、上からこちらを見下ろしている。

 

ベルが息を呑んだ。

 

「二対一……!」

 

「分かってる!」

 

シンが返す。

 

分かっているからこそ、焦るなと自分へ言い聞かせる。

 

ミジュマルも気づいていた。

 

視線を左右へ配り、どちらを先に見るべきかを測っている。

 

そのとき、トウヤが一歩寄った。

 

「シン!」

 

「来るな!」

 

強く言ってから、自分の声が少し荒かったと気づく。

 

だが今は、誰かが半端に入るほうが危ない。

 

これはまだ、自分とミジュマルで収められる間合いだ。

 

チェレンもその判断を理解したのか、ベルの肩を軽く押さえていた。

 

「いまは任せろ」

 

短い声だった。

 

シンは前だけを見る。

 

チョロネコが上から飛ぶ。

 

同時に、立て直したミネズミが下から走る。

 

挟むつもりだ。

 

「ミジュマル、下は無視だ!」

 

相棒が一瞬だけこちらを見る。

 

意図は伝わった。

 

先に危険なのは上だ。

 

チョロネコの爪が振り下ろされる直前、ミジュマルは身体をひねって貝の刃で受けた。

 

火花みたいに小さな音が散る。

 

着地の瞬間、足もとへ来ていたミネズミが飛びかかった。

 

「いまだ、踏みこめ!」

 

今度は真正面だった。

 

ミジュマルは逃げない。

 

低い姿勢のまま一気に間合いを詰め、体当たりでミネズミを押し返す。

 

狭い場所でのぶつかり合いは、一歩ぶんの気迫で決まる。

 

押し切られたミネズミが床を転がった。

 

そこへ、態勢を立て直すより先に水が走る。

 

みずでっぽうがまともに決まり、ミネズミは声を上げて動きを止めた。

 

「チョロネコ、ひっかけろ!」

 

頭上からの声。

 

ミジュマルが反応するより少し先に、シンが叫ぶ。

 

「そのまま回れ!」

 

相棒は倒れたミネズミを軸にするように身体を回した。

 

爪を振り下ろしたチョロネコの狙いがわずかに外れる。

 

貝の刃が、すれ違いざまに相手の腹側を払った。

 

着地したチョロネコが苦そうに顔をしかめる。

 

シンはそこで止めなかった。

 

「もう一発!」

 

みずでっぽうが近距離から叩きつけられ、チョロネコも壁へぶつかった。

 

二匹ともすぐには起き上がれない。

 

室内に、急に静けさが落ちる。

 

団員たちが顔を見合わせた。

 

最初に表情を崩したのは、ムンナを追っていたほうだった。

 

「ちっ……!」

 

それ以上の強気は続かなかった。

 

目的を邪魔され、手持ちも崩された。

 

しかも、ここは町からそう遠くない。

 

騒ぎが大きくなれば面倒なのだろう。

 

「覚えていろ」

 

ありがちな捨て台詞を残し、二人は倒れたポケモンを回収して建物の外へ駆けていった。

 

足音が遠ざかる。

 

完全に聞こえなくなってから、ようやくベルが大きく息を吐いた。

 

「び、びっくりした……」

 

「無事か」

 

シンが振り返ると、ベルは悔しそうに眉を寄せた。

 

「無事だけど、悔しい。何もできなかった」

 

「勝手に飛びこまなかっただけ十分だろ」

 

チェレンが言う。

 

「状況を崩さなかったのは正しい」

 

ベルは少しだけ口を尖らせたが、反論はしなかった。

 

トウヤは肩の力を抜きながら、床に転がる破片を避けて近づいてくる。

 

「シン、ミジュマル、よかった」

 

「……ああ」

 

シンは短く答え、ミジュマルを見る。

 

相棒はまだ少し荒い呼吸をしていたが、立ち姿は崩れていない。

 

さっきの連続した切り替えは、昨日までより明らかによかった。

 

勢いだけじゃない。

 

ちゃんと噛み合っていた。

 

「平気か」

 

ミジュマルが鳴く。

 

胸を張る仕草はいつも通りだが、その声には少しだけ疲れも混じっていた。

 

シンは小さく息を吐く。

 

「無茶はすんなよ」

 

すると、少し離れたところで、またやわらかな気配が揺れた。

 

ムンナだった。

 

逃げていなかったらしい。

 

崩れた柱の陰からそっと姿を見せ、こちらをうかがっている。

 

ベルがそっと膝を折る。

 

「……大丈夫だよ」

 

優しく声をかけると、ムンナはすぐには近づかないまでも、さっきほどの怯え方は見せなかった。

 

むしろ、何かを確かめるみたいに、四人と四匹を順番に見ている。

 

その視線がシンとミジュマルに留まる。

 

ほんの一瞬、甘い匂いのようなものが空気に混じった気がした。

 

花とも違う、もっと曖昧で、眠気の縁に触れるような匂い。

 

「……何だ、いまの」

 

シンが呟く。

 

チェレンが目を細めた。

 

「ムンナの出す気配かもしれない。夢に関わる力の一種だって話もある」

 

ベルは驚いたように目を丸くした。

 

「怒ってないのかな」

 

「少なくとも、逃げたままじゃない」

 

トウヤが言う。

 

それはたぶん、そういうことなのだろう。

 

ムンナは少しだけ浮かび上がり、それから壊れた窓のほうへ向かった。

 

途中で一度だけ振り返る。

 

まるで、ここまででいい、とでも言うような間だった。

 

次の瞬間には、朝の光の向こうへ溶けるように消えていった。

 

静けさが戻る。

 

けれど、さっきまでの静けさとは違っていた。

 

ただ空っぽなだけの場所じゃない。

 

ここには、まだ息づいているものがある。

 

シンは崩れた壁の向こうを見ながら思った。

 

「……感じ悪い連中だったな」

 

昨日の演説のことを思い出すと、なおさら腹が立つ。

 

口では立派なことを並べておいて、やってることはあれだ。

 

Nの顔も一瞬よぎった。

 

あいつが見ていたものと、あの団員たちがやっていたことが、同じ線の上にあるのかどうかはまだ分からない。

 

でも、少なくとも気分のいい話ではなかった。

 

ベルが立ち上がる。

 

「ジム、行こう」

 

思ったより強い声だった。

 

シンたちがそちらを見ると、ベルは自分でも驚いたみたいに瞬きをしたあと、言い直す。

 

「……いや、すぐじゃなくてもいいけど。でも、なんか、行きたくなった」

 

「何だそれ」

 

シンが言う。

 

「上手く言えないけど、逃げたくなくなったの」

 

ベルは少しだけ唇を引き結んだ。

 

「怖いのは変わらない。でも、嫌なもの見たあとだからかな。ちゃんと自分で選んで進みたい」

 

その言葉に、チェレンが小さく頷く。

 

「僕も同意見だ」

 

「夢の跡地、来てよかったかもね」

 

トウヤが言う。

 

軽く聞こえる口調だったが、中身は軽くない。

 

シンも、同じことを思っていた。

 

ここへ来たからこそ、今の自分たちの立ち位置が少しはっきりした気がする。

 

ジムはただの関門じゃない。

 

自分たちがどう進みたいかを、自分で決めるための場所でもあるのかもしれない。

 

ミジュマルがシンの足を軽く叩いた。

 

見上げてくる目は、もう迷っていなかった。

 

お前はそうかよ、とシンは思う。

 

でも、その単純さに助けられることもある。

 

「……戻るか」

 

「うん」

 

ベルがすぐ答える。

 

「今日は、昨日よりちゃんと歩けそう」

 

「その基準は何なんだよ」

 

「気分」

 

「雑すぎるだろ」

 

「でも分かる」

 

トウヤが笑う。

 

チェレンも否定しなかった。

 

四人は夢の跡地をあとにした。

 

壊れた建物は相変わらず静かだったが、もうただ不気味なだけには見えない。

 

あそこで見たものが、少しだけこの旅の輪郭を濃くした。

 

町へ戻る道の先には、サンヨウジムがある。

 

あの妙にいい匂いのする、洒落たレストランみたいな最初の壁が。

 

そこへ向かう足取りは、昨日の見学のときより確かだった。

 

まだ不安はある。

 

勝てる保証もない。

 

けれど、だからこそ行く意味がある。

 

シンは隣を歩くミジュマルを見下ろした。

 

相棒もまた、同じ方向を見ていた。

 

サンヨウシティの朝は、もう次の勝負の匂いを運び始めていた。

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