最悪の英雄   作:山川たかし

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1話です。


つまらない

つまらない。

本当につまらない。

この世界は。

くそだ。

くそったれだ。

 

俺はもっと別の世界に生まれたかった。

人間になんの超能力もないこんな世界じゃなく、人間に未知のエネルギーがある、そんな魅力的な世界に。

 

俺の名前は戸塚純《とつかじゅん》。

日本で生まれて、今も日本で呑気に働いている19歳だ。

特徴はこれと言ってないが、強いて言えば身長が178cmと少し高めなだけだと思う。

 

そんな俺は最近、というか結構前からあることで悩んでいた。

 

この世界での人生がつまらなくて堪らないってことだ!

 

元々は普通に暮らせるだけで十分満足だった。楽しかった。

でもある日、俺は漫画や小説という面白い存在に出会って変わっちまった。

俺もあんな風に建物を破壊しながら、人間と思いっ切り戦いたい!!

って。

 

だって絶対に楽しいだろ

そんなことができたら。

最高のはずだ。ぶっ飛ぶくらい気持ちいはずだ。

 

こんなことを言うと頭がおかしいんじゃないかと周りからは思われるが、俺にとってはめちゃくちゃ叶えたい夢だ。

 

まあこのせいで、今みたいに何もかもが退屈に感じる様になっちまったんだけどな。

何をしていても頭を過る。

漫画みたいに戦ってた方が絶対に楽しいだろって。

 

友達にこのことを話すと軍とか警察にでも入って戦えばいいだろだって言われるけど、違うんだよ。

そういうことじゃない、そういうことじゃないんだ。

兵器に頼った無機質な殺し合いじゃない。

漫画みたいにだ。

 

俺は高速で移動して、高速で剣で斬り合ったり、パンチ1つで建物を簡単に破壊できるような、そういう派手な力で戦いたいんだ。

銃とかミサイルとは全く違う。

この世界にはない、超強力な人と人のぶつかり合い。

 

まあ誰も理解はしてくれないけどな。

 

だってそうだろ?

周りにいたか?

戦いたいとか言う人間。

いなかっただろ?

 

まあいいか、この話は。

 

それで俺はこの退屈という悩みを解決するために、いろいろと考えてみたんだ。

どうすれば俺のこの体に未知のエネルギーが手に入るか。

この平凡な頭で考え、考え、考えまくった。

 

そして俺はある時、1つの答えに辿り着いた。

それは、別の世界、つまり異世界に転生するしかないというとこだった。

 

まずこの地球という世界には、魔力やらの人間に秘められた膨大なエネルギーは存在しない。

もし存在しているなら、このご時世だ。絶対に公表されているだろうからな。

まあ、地球にダンジョンみたいなやつが突然湧いてくるみたいなことがあれば話は別だけどな。

起きるはずもないが。

 

だから俺は未知のエネルギーが眠っていそうな世界、異世界に賭けるしかなかったんだ。

 

だがそれにも色々な問題があった。

そもそも異世界が存在するのか、この世界から記憶を保持したまま転生と転移が可能なのか、異世界に魔力のような未知のエネルギーが存在するのかなど、まあたくさんだ。

 

そして一番の問題は、これら全てを証明できる方法が恐らく地球にはないということ。

つまり転生できるかは、運ゲーみたいな感じというわけだ。

 

俺は最初、それに気が付いた時、ワンチャンに賭けようか迷ったが、実行できなかった。

転生できなかったらと思うと足がすくんだんだ。

この想いが跡形もなく消えてしまうから。

 

地球が消滅する代わりに、俺が未知のエネルギーが存在する異世界へ行ける。そんな条件でも俺は躊躇なく異世界に行く。

それほど行きたい。

あちら側に。

 

きっと異世界に行きたい欲は、この地球でダントツ1位のはず。

頼む神。

こんな可哀想な俺にチャンスをくれ!

 

「間もなく〇〇駅です。」

 

そんな時、機械的なアナウンスが俺を現実に引き戻した。

おっ

もう着いたか。

こういうことを考えてるといつもより早く着くんだよな。

 

今は会社帰りの電車。

俺はドア付近が大好きだから、今もドアの目の前を陣取っている。

直ぐに出られるのがいいんだよ。ここは。

 

そうして俺は直ぐに出られるように準備を済ませる。

そんな時だった

 

グサッ。

 

突然、俺の背中に未知の衝撃が走った。

 

あ?なんだ?

 

俺は何が起きたのか、ゆっくりと振り返る。

 

「は?」

 

刺されていた。

フードを深く被った男?が握る長い刃物に。

俺の背中を。

しかもがっつり。

 

俺は一瞬、信じられない光景に思考が停止したが

 

「「「キャーーーーー!!」」」

 

周りからの悲鳴が車内に響いた。

それで思考が戻った。

 

刺された?

俺が?

なんで?

 

しかし今度は思考で脳が満たされ、今度は悲鳴が消えたように感じた。

まるで時間の流れが止まっているかのような。

不思議な感覚。

 

そして

 

「くっ」

 

膝から力が抜け、俺はドアにもたれ掛かかるようにして地面に崩れ落ちた。

 

不思議と痛みはない。

背中が焼けるように熱い。

何だこの熱さは?

 

これが刺された時の感覚。

死を感じる。

 

だけど、だけど・・・

なんでだ?

 

凄くいいっ!!!!

 

生まれて初めての、この焼けるような最高に熱い感覚!

ホントにいい!

 

俺の胸に湧き上がっていたのは恐怖ではなかった。

 

「・・・っ、はは・・!」

 

気分が高まり、俺は自然と笑みが溢れ出した。

 

楽しい!!!!!!!!!

 

そして心の底からそう思っていた。

久しぶりに味わう・・・

いや19年の人生で初めて味わう感覚。

 

死の淵に立たされ、俺の鼓動はかつてないほど激しく打ち鳴らしていた。

 

だけどだ。

死ぬのか?俺は。

こんなよく分からん奴に殺されるのか。

まだ死ぬ覚悟は決まっていない。

転生できる保証なんてないから。

 

もしこれで転生できなかったら、俺だけが不幸だ。

何の罪もない俺だけが。

 

こんな奴に俺の人生を終わらせられる。

ふざけるな!

それだけは絶対に許せない!

許してたまるか!

 

ならどうする?

俺に何ができる?死を待つだけの俺に。

そもそも、少しでも俺が救われる方法があるのか?

 

・・いや待てよ。

ある、あるじゃないか。

俺だけが不幸にならない方法が!

 

「こいつも道連れにすればいいんだ」

 

そう呟いた時、

何故だが分からないが、俺は立ち上がることができていた。

死にゆく体に無理やり力を流し込む。

 

俺を刺した男はまだ目の前にいる。

その顔には焦り。

刺したという事実から、正気に戻り、動けずにいるのだろう。

 

しかし俺は、今道連れにしてやると決めた。

今さら後悔しても無駄だ。

 

俺は背中に刺さっている刃物を抜き、返り血で赤黒く染まった手で強くそれを握りしめた。

 

血がどろどろと溢れ出すが気にしない。

 

ゆっくりと男へと這い寄る。

目が合った瞬間

 

「く、来るなぁ!」

 

男はその顔を恐怖で染め

刃物を持って近付いて来る俺が怖かったのか、

まるで腰が抜けたように、地面に座り込む。

 

だが俺は躊躇なく、そのまま男の腹に

 

グサッ!

 

刃物を刺し返した。

 

「これでお前も道連れだなっ!」

 

俺はこの時、どんな顔をしていたのだろうか。

男が俺の顔を見て、さらに怖がっているように見えたから少し気になった。

 

今自分自身で分かっていることは、裂けてしまうほどに上がった口角と目を異常なほどに見開いているという感覚があることだけ。

真実が気になる。

 

だが俺は全ての力を使い切ったのか、また体から急に力が抜け、男に覆いかぶさるように倒れ込む。

猛烈な眠気で、視界が霞んで良く見えない。

背中の熱さももう感じなくなった。

 

そして直ぐに猛烈な眠気が俺を襲った。

 

死ぬ。

死ぬんだ。

 

人はこんなにもあっけなく死んじまうのか。

悲しい現実だ。

あーあ。

どうしよう。

マジで死にたくねぇーよ。

ふざけんなよくそが。

ちくしょー。

神。

頼むから未知のエネルギーがある異世界に転生させてくれよ。

このまま死ぬなんて嫌だからな。

マジのマジで頼んだぞ。

 

俺はそんなことを願って、眠りについた。

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