「死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!」
あのぼったくり店を出て、悪い奴(戦えそうな奴)を探すために30分くらい怪しそうな場所をうろうろとしていると、少し離れた場所から暴言を吐く女の声が聞こえてきた。
「あらら、これは相当イライラしてそうだな」
耳を魔力で強化していると普通は聞こえない距離でも声は聞こえる。
俺はバレないように気配を消し、声の元に近づいた。
「ハハハッ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!」
そして現場に到着した俺が目にしたのは、異様な光景だった。黒髪の女が耳障りな甲高い声で笑い、地面に倒れている誰かの顔面を容赦なく何度も殴りつけていた。
こりゃー酷い。
完全にヤバい奴じゃん。
でも
くくくっ。
面白そうな場面だな!
思わず笑いが込み上げてくる。
俺は興味津々。
まったくこの世界は俺を退屈させないな~。
「おーい、あんた頭大丈夫か?」
人の顔を暴言吐きながら何度も殴る奴は頭がおかしい!
そう思い、声を掛けた。
「!?」
俺が声を掛けると女は殴るのを辞めて、慌てるように俺の方に顔を向けた。
ここは暗い。
少し離れているため、顔ははっきりとは見えない。
「いいパンチだったぜ!あんた!」
惜しみない称賛を込め、俺はグッと親指を立てる。
「・・・あんたいつからそこにいたの?」
折角褒めたのに無視かよ。
いいけど。
「え?今さっきくらい?」
「おかしいな?ここは人が誰一人来ないスポットなんだけど」
「いやあんたがいるじゃん。あとそこに倒れてる奴」
「それに私一応周りに誰か来ないか警戒してたんだけどな~」
「殴るのに夢中になってただけだろ」
う~ん会話が成立してないような。
さては相当な馬鹿だな。
いや、馬鹿は俺か。ははっ
「まあいいや。見られたものは仕方ない。
その言い方的にあんた?私がこいつ殴ってたの見てたんでしょ?」
「暴言もばっちり聞こえたぜ!」
「あんた私が誰か知ってる?」
何だいきなり。
唐突だな。
知るかよ。
「え?ヤクザとか?」
「全然違う」
「って言われても、そもそも顔が見えないからな~。
え?なに?もしかして有名人?」
「超が付くけど、まあそんなとこ。折角だから見せてあげる」
そう言うと女はゆったりとした歩調で、俺に近づいて来る。
「お~」
そして月明りで晒されたその容姿に俺は思わず声が漏れた。
美人だ。
驚くほどの。
しかも身長も高い。
170はある。
でも
「だれ?」
その顔に身に覚えはなかった。
芸能人ですか?
「え!?うそ!?私のこと知らないの!?
今の時代誰でも知ってるでしょ!
私と会ったら全員泣いて喜ぶのに!」
「全員はないだろ。俺泣いてないし。
で誰あんた?」
「はあ~。今日本で1番人気のアイドル"
「アイドルㇽ~~?絶対嘘じゃん。騙されないぞ俺は。
っていうかそもそもな話、こんな時代にアイドルなんていないだろ」
流石に嘘くさい。
アイドルってあんな暴言吐かねぇだろ。
「こんな時代だから必要なの。
信じられないなら、ほら」
俺が疑っていると、女はスマホの画面を見せてきた。
「マジかっ・・・」
そこにはこいつのアイドルとして称賛する記事がこれでもかと並んでいた。
「日本1のアイドル高徳愛!」「圧倒的な清純派アイドル」など記事を軽く読んだが、マジで日本1人気らしい。
圧倒的人気を誇っている。
ファン見る目なさすぎだろ。
「これで信じたでしょ。どう?凄いでしょ?サイン欲しい?」
「控えめに言ってばかいらない。
あんなに暴言吐くアイドルのやつなんか。暴力も酷かったし」
「まあ楽しいから。特に人殴るの」
屈託のない笑顔で言われても。
サイコパスかな?
「こわいな~これが裏の顔か。
まあそんなことはどうでもいいか。
それでどうしたいのあんた?自分から顔見せて、私アイドルだよって教えて」
「え?別に。
私のこの顔を生で見れずに死ぬのが可哀想だと思ったから?」
凄い自信だ!
見習いたいもんだ!
一応お礼を言っておこう。
「へぇ~あ、ありがとう?
・・・・ん?待てよ。死ぬ?誰が?」
「あんたが。ここで私に殺されて死ぬの。その顔面ボコボコにされて」
クスクスと笑いながらアイドルは突然とんでもないことを言ってきた。
死を宣言されちまった。
天下のアイドルに。
「え?なんで?」
「なんでって・・
大人気アイドルの私が暴言吐きながら他人の顔を殴ってる所をあんたが見たからでしょ」
心底呆れたようにアイドルは言う。
「なんで見ただけで殺されなきゃいけんの俺?」
「さっきスマホで見せたでしょ?私は清純派アイドルとして活躍してるの。あんな所見られてネットで拡散されたら溜まったもんじゃないの。だから口封じでね」
「俺が言っても誰も信じないだろ」
「噂になるだけで私は嫌なの。特に本当のことは」
「そもそも俺あんたがアイドルって知らなかったんだけど。
最初顔も見えてなかったし。
っていうか全部あんたから教えたんだろ!」
「私のせいにしてるの?呆れた。
あんたが嘘付いてる可能性もあるでしょ?私のこと知らない人間なんていないと思ってたから。
それに声だけで私が高徳愛って気が付くファンもいるの。
あんたもホントは分かってたでしょ?私が誰か。知らないふりしてたんじゃないの?」
「知らんかったけどな~、ほんまに。
・・・マジで殺すの俺のこと?」
「うん!」
満面の笑みで女は頷く。
その瞳には一点の曇りもない。
「まじか~」
「まじまじ!」
「俺の死体どうすんの?」
「その辺に放置かな?」
「あんた捕まってアイドル活動できなくなるぞ」
「そこは大丈夫!今の時代死体の1つや2つ普通だから。すでに1体あるしね!」
アイドルはグッと親指を立てる。
なんかむかつくな。
だけど
どうやらマジらしい。
戦闘になっても俺に勝てる自信があるらしいが。
でもどうすっかな~。
戦闘になるのは嬉しいけど、今回は正直あまり乗り気じゃない。
アイドルがまともに戦えるはずがないからだ。絶対に弱い。戦ってもつまらんだろ。
一応俺よりは魔力量は多いけど、強さは魔力量だけじゃ決まらない。
「じゃあ殺される前に1つアイドルのあんたに質問したいことがあるんだけど、いい?」
「質問?この私にぃ~?
まあこれがあんたの最後の会話になるから特別に許してあげる」
ありがたい。
実は昔からアイドルっていう存在にどうしても質問したいことがあったんだ。
「”アイドルってうんこすんの?”」