昼休み。
一時間目の歴史、三時間目の公民を終えた知は、ようやく教室の雰囲気にも慣れ始めていた。
窓から見える中庭では、運動部の生徒たちが元気よく昼食をとっている。
知が弁当を取り出すと、隣の席から雷斗が椅子を引いた。
「知、一緒に食おうぜ。」
「いいよ。」
二人は廊下へ出ようとした、その時だった。
「おーーーい!雷斗ーーー!!」
校舎中に響くほど大きな声。
雷斗の表情が一瞬で曇る。
「……げっ。」
「来た。」
知が首を傾げる。
「知り合い?」
「双子の妹だ。」
「双子?」
その瞬間だった。
「雷斗ぉぉぉーーーっ!!」
ドゴォッ!!
「ぐはぁぁぁっ!!」
見事な飛び蹴りが雷斗の背中へ炸裂した。
雷斗は廊下を数メートル滑り、そのまま床へ転がる。
周囲の生徒たちは誰一人驚かない。
「また始まった。」
「今日も飛んだな。」
「朝より飛距離伸びてない?」
どうやら日常らしい。
飛び蹴りを放った少女は腰へ手を当て、満面の笑みを浮かべていた。
肩まで伸びた黒髪をポニーテールにまとめ、健康的に日に焼けた肌。
活発そうな瞳は雷斗によく似ている。
「久しぶり!」
雷斗はゆっくり起き上がると額へ青筋を浮かべた。
「朝飯一緒に食っただろ!!」
「あっ。」
風子は数秒固まる。
「……そうだった!」
「忘れんな!!」
「いやー、昼になったらリセットされちゃって!」
「スマホじゃねぇんだぞ!」
「細かいこと気にしない!」
「細かくねぇ!!」
知は思わず吹き出してしまう。
「仲がいいんだね。」
「「どこが!?」」
双子の声がぴったり重なった。
二人は顔を見合わせる。
「「そこまで一緒かよ。」」
今度はまた同時だった。
知は思わず笑う。
(本当に仲がいい。)
風子は知へ近付くとニッと笑い、勢いよく右手を差し出した。
「初めまして!」
「あたし、大和風子!」
「二年B組!」
「ソフトボール部!」
「雷斗の双子!」
知も笑顔で握手を返す。
「平城知です。」
「よろしく。」
「よーし!」
「今日から友達!」
「決定!」
「早いよ。」
「友達になるのに時間なんかいらないって!」
雷斗がため息をつく。
「こいつ昔からこうなんだ。」
「考えるより先に体が動く。」
「失礼だなぁ。」
「ちゃんと考えてるよ?」
「飛び蹴りする前に?」
「もちろん!」
「『どう飛んだら綺麗に当たるかな』って!」
「考える方向がおかしい!」
知は再び笑ってしまう。
昨日まで京都にいた自分が、こんな風に笑っていることが少し不思議だった。
◇◇◇
三人は中庭のベンチへ移動し、昼食を食べ始めた。
風子は購買で買ったパンを豪快に頬張る。
「知って京都なんでしょ?」
「うん。」
「奈良どう?」
「静かで住みやすい。」
「でしょー!」
「ご飯も美味しいし!」
雷斗が驚く。
風子はパンを食べ終えると知を見た。
「放課後暇?」
「特に予定はないけど。」
「じゃあ学校案内してあげよっか!」
雷斗が首を振る。
「いや、それは俺がやる。」
「えー。」
「いいじゃん。」
「風子が案内したら三時間は寄り道する。」
「バレた。」
「昨日新しいクレープ屋見つけたし。」
「学校案内な!」
風子は頬を膨らませた。
「むぅ。じゃあ途中まで!」
「途中までなら。」
「やった!」
◇◇◇
その頃。
二階、生徒会室。
小田上は一人、窓から中庭を眺めていた。
「転校生……平城知。」
昨日まで名前も知らなかった少年。
それなのに、なぜか妙な違和感だけが胸に残る。
「……どこかで会った?」
考えても思い出せない。
それどころか、昨日の放課後の記憶さえ曖昧だった。
「疲れてるのかな。」
小田上は小さく笑い、資料へ目を戻す。
本人は知らない。
もう一人の自分が、鏡界で知たちを追い詰めていたことを。
◇◇◇
昼休みも終わり、午後の授業が始まる。
知は窓際の席から校庭を眺めていた。
右腕のアビスギアが、一瞬だけ微かに震える。
まるで何かを知らせるように。
(放課後……。)
昨日、自分たちが迷い込んだ鏡界。
そして、善吉と真が潜入捜査を続ける理由。
この学園には、まだ知らない秘密が数多く眠っている。
その真実へ近付くため。
知は放課後、雷斗と共に学園の調査を始めることを決意するのだった。
10話!