知と雷斗は同時に駆け出した。
二人の狙いはただ一つ。
――小田上を取り戻すこと。
「知! 俺が前に出る! その隙に援護してくれ!」
「分かった!」
雷斗は低く身を沈め、一気に間合いを詰める。
鋭い前蹴り。
続けざまの回し蹴り。
さらに後ろ回し蹴りへと繋ぐ。
元テコンドー学生チャンピオンらしい、一切の無駄がない連撃。
しかしシャドウは微動だにしない。
ガッ。
片腕だけで蹴りを受け止めると、そのまま雷斗を見下ろした。
「……ククッ。」
肩が震え始める。
「クククッ……アハハハハハハッ!!」
狂った笑い声が境界中へ響き渡った。
「何だその程度か! 学生チャンピオン? 笑わせるな! その程度の蹴りで俺を止められると思ったのか!」
腹部へ鋭い膝蹴りが突き刺さる。
「ぐっ……!」
雷斗の身体がくの字に折れる。
それでも雷斗はシャドウの腕を掴み、叫んだ。
「知ッ!!」
「任せろ!」
知は赤いメダルを装填する。
「アギ!」
炎弾がシャドウの背中を撃ち抜く。
わずかに体勢が崩れた。
知は間髪入れず青いメダルへ交換する。
「ブフ!」
足元が凍る。
さらに緑。
「ガル!」
突風が吹き荒れ、雷斗との距離を開かせた。
雷斗は着地すると再び飛び込む。
「まだだぁぁぁっ!」
二人の連携。
炎。
氷。
風。
蹴り。
拳。
息は合っている。
結界の向こうで善吉が叫ぶ。
「そのまま押し切れ!」
真も思わず拳を握った。
「いける!」
しかし。
シャドウはゆっくりと首を傾けた。
「終わりか?」
その一言と同時に黒い瘴気が爆発する。
ドォォォォン!!
「があっ!」
「くっ!」
二人の身体がまとめて吹き飛ばされた。
知は何度も地面を転がり、アビスギアを石畳へ突き立てながら立ち上がる。
息が荒い。
腕も震えている。
それでもアビスギアだけは離さない。
シャドウは二人を見下ろしながら、また笑い始めた。
「ククッ……アハハハハハッ!! 面白い! 本当に面白い! ワイルドだの学生チャンピオンだの、大層な肩書きを背負っておいて、この程度とはなぁ!」
知は睨み返す。
「まだ……終わってない!」
「終わってない?」
シャドウは腹を抱えて笑い転げる。
「アハハハハハハッ! 終わってないのはお前の頭だ! 属性をコロコロ変えて満足してるだけじゃないか! 火を撃って、氷を撃って、風を吹かせて……それで強くなったつもりか!」
知は歯を食いしばり、紫のメダルを装填した。
「ムド!」
黒い弾丸が一直線に飛ぶ。
しかしシャドウは避けることもせず、片手で握り潰した。
「ほら見ろ。そんな玩具みたいな攻撃が俺に効くわけないだろ?」
一瞬。
シャドウの姿が消えた。
「しまっ――」
重い拳が知の腹へめり込む。
「がはっ!!」
知の身体が宙を舞い、崩れた石壁へ叩き付けられた。
「知ッ!!」
雷斗は迷うことなく走る。
知を庇うようにその前へ立ち、両腕を広げた。
「もうやめろ! これ以上、知には手を出すな!」
シャドウはゆっくりと雷斗へ顔を向ける。
そして口元を大きく歪めた。
「アハハハハッ……そうか。じゃあ次はお前だ。」
拳が振り下ろされる。
雷斗は両腕で受け止めるが、骨が軋む音と共に大きく吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
それでも立ち上がる。
一歩。
また一歩。
知の前へ立つ。
知は血を吐きながら叫んだ。
「雷斗! もういい!」
雷斗は振り返らず、小さく笑う。
「馬鹿言うな……仲間を置いて逃げるなんて、俺にはできない。」
その言葉を聞いたシャドウの笑みがさらに深くなる。
「仲間ぁ? アハハハハハハッ!! 本当に笑わせてくれる! 昔、この体一人すら信じられなかったお前が、今さら仲間だと?」
雷斗の表情が固まる。
「……っ。」
「どうした? 図星か? また守れないぞ。そいつも、この体も、お前はまた何も守れない。」
その言葉が、雷斗の胸を深く抉った――。