世界から音が消えた。
暴走シャドウの咆哮も、雷斗たちの叫びも、舞い上がる瓦礫さえ空中で静止する。
色を失った世界で、動けるのは小田上だけだった。
「……ここは。」
白い霧がどこまでも広がる静寂の世界。
風も音もない。
それでも、不思議と恐怖は感じなかった。
霧の向こうから、一人の青年が静かに歩み寄る。
純白の法衣。
胸元には十字架。
穏やかな笑みを浮かべながらも、その瞳には揺るぎない信念が宿っていた。
青年は小田上の前で足を止め、静かに問い掛ける。
「……汝、何を望む。」
その一言が、小田上の胸を深く揺さぶった。
「俺は……。」
言葉が続かない。
すると白い世界へ波紋が広がり、幼い頃の記憶が映し出される。
泣いていた自分。
その前へ迷いなく立ち、手を差し伸べてくれた雷斗。
『行こう、小田上。』
景色は変わる。
事件を追い続けた日々。
そして雷斗から向けられた疑いの眼差し。
『もう信用できない。』
胸が締め付けられる。
「違う……。」
「違わない。あれもまた、お前が歩んだ道。信じてもらえなかった苦しみも、友に疑われた悲しみも、その全てがお前自身だ。」
小田上は唇を噛み締める。
さらに景色が変わる。
雷斗が傷だらけになりながら立ち上がる。
知が血を流しながら戦い続ける。
ミロクが笑みを浮かべ、大鎌を振るう。
皆、自分を守るために戦っている。
それなのに。
自分だけが恐怖で動けなかった。
「俺だけ……何もできなかった。怖かった……逃げたかった……また守られて終わるところだった……。」
青年は静かに頷く。
「恐怖を知ることは弱さではない。恐怖から目を逸らし続けることこそ、本当の弱さだ。」
小田上はゆっくり顔を上げた。
「俺は弱い。恐怖もある。自分が許せない。でも、それでも俺は前へ進む。もう誰かに守られるだけじゃ終わらない。俺を信じてくれた友達を、俺を助けてくれた幼馴染を、今度は俺が守る!」
青年の口元に穏やかな笑みが浮かぶ。
「その答えを待っていた。我が名は――天草四郎。その信念、共に貫こう。」
「ああ……力を貸してくれ!」
小田上は迷いなく右手を伸ばし、天草四郎の手を強く握った。
眩い蒼白い光が二人を包み込む。
胸の奥が熱い。
鼓動が高鳴る。
小田上は自らの胸へ手を差し入れ、一つの蒼い勾玉を取り出した。
脈打つように輝く、自らの心。
「これが……俺の力。」
強く握り締める。
「もう逃げない。俺は俺自身を受け入れる!」
叫びと共に力を込めた。
「来いッ!! ペルソナァァァァッ!!」
バキィィィィンッ!!
蒼い勾玉が砕け散る。
無数の光が渦を巻き、一人の青年が静かに舞い降りた。
純白の法衣。
背に浮かぶ十字架。
静かな笑みを浮かべたその姿は、小田上の隣へ降り立つ。
「某は天草四郎。革命の狼煙は上げられた、汝と共に歩み、その信念を貫こう。」
「ああ……行こう。」
白い世界が崩れ始める。
視界が光に包まれた次の瞬間、小田上は現実へ帰還した。
暴走シャドウの拳が雷斗たちへ振り下ろされる、その寸前。
「遅れたな。」
静かな声と共に、純白の十字架を背負った天草四郎が戦場へ舞い降りた。