ペルソナX訂正版   作:keimei

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第5話 鏡界

知と雷斗が並んで姿鏡を見つめていると、不意に背後から誰かに押されたような感覚が走った。

 

「――えっ!?」

「うおっ!」

 

 二人の体勢が大きく崩れる。

 咄嗟に踏ん張ろうとしたが足元に力が入らない。

 まるで床が消えたような浮遊感。

 鏡の表面が水面のように波打ち、二人の身体を飲み込んでいく。

 

「なっ……!」

 

 景色が反転する。

 世界が歪む。

 そして――。

 視界が真っ白に染まった。

     ◇

「おい! 起きろ!」

 

 肩を大きく揺さぶられる感覚で、知はゆっくりと目を開けた。

 

「おい、大丈夫か!」

 

 目の前には雷斗の顔があった。

 

「……雷斗。」

「良かった! 意識あるな!」

 

 知はゆっくりと体を起こす。

 頭が少し重い。

 

「ここは……。」

 

 見渡す。

 見覚えのある廊下。

 だが何かがおかしい。

 窓の外は灰色の空。

 床には黒い染みが広がり、壁には無数の亀裂が走っている。

 照明は点滅を繰り返し、不気味な静寂が校舎全体を包んでいた。

 

「学校……?」

「俺も最初そう思った。」

 

 雷斗は周囲を警戒しながら答える。

 

「でも人が一人もいねぇ。」

 

 知は立ち上がる。

 さっきまでいた生徒会室とはまるで別世界だった。

 廊下はどこまでも続いている。

 外へ出ようにも出口が見当たらない。

 

「職員室へ行こう。」

「いや、だからその根拠は?」

「先生なら何か知ってるかもしれない。」

「まぁ……それしかねぇか。」

 

 二人は廊下を歩き始めた。

 五分。

 十分。

 歩いても歩いても景色は変わらない。

 

「おかしい。」

 

 知が立ち止まる。

 

「普通なら職員室に着いてる。」

「だよなぁ。」

 

 雷斗も頭を掻く。

 

「この学校、広いとは思ってたけど、ここまでじゃねぇ。」

 

 その時だった。

 

「やぁ、こんにちは。」

 

 突然、前方から声が響く。

 二人が顔を上げる。

 そこには一人の男子生徒が立っていた。

 遷都学園の制服。

 腕には『生徒会長』と書かれた腕章。

 整えられた髪。

 余裕に満ちた笑み。

 

「小田上……?」

 

 雷斗が顔をしかめる。

 

「知り合い?」

「三年だ。」

 

 雷斗は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「小田上圭吾。生徒会長選挙に出てる奴だ。」

 

 小田上は優雅に笑う。

 

「やぁ雷斗くん。相変わらず元気そうで何よりだ。」

「まだ選挙終わってねぇだろ。その腕章、気が早すぎるんじゃねぇか?」

「気が早い?」

 

 小田上は肩をすくめる。

 

「違うよ。結果は最初から決まっている。」

「だから僕はもう生徒会長なんだ。」

 

 雷斗は舌打ちする。

 

「相変わらず気に食わねぇ奴。」

 

 知は静かに尋ねる。

 

「知り合いなの?」

「ああ。」

 

 雷斗は苦々しい表情で頷く。

 

「結果しか見ねぇ奴だ。」

「負けた部活は価値がないって言って、予算を削ったり廃部にしたりする。」

「親が市議会議員だから好き放題だ。」

「テコンドー部もあいつに潰された。」

 

 知は雷斗を見る。

 

「君はテコンドーを?」

「去年の県大会個人優勝。」

 

 短く答える。

 

「だった。」

 

 その一言だけで十分だった。

 知はそれ以上聞かなかった。

 小田上は楽しそうに拍手する。

 

「いいねぇ。昔話は感動する。」

「でも現実は違う。」

「勝った者だけが正義なんだ。」

 

 雷斗は睨み返す。

 

「お前……!」

「ところで。」

 

 小田上は知へ視線を向けた。

 

「そっちの転校生。」

「君は巻き込まれ事故だったね。」

「運が悪かった。」

 

 知は何も答えない。

 小田上は笑みを深める。

 

「まぁいい。」

「せっかくだ。」

「この世界のルールを教えてあげよう。」

 

 その瞬間。

 パンッ!

 小田上が指を鳴らした。

 廊下の奥。

 教室。

 階段。

 至る所から人影が現れる。

 

「なっ……。」

 

 知は目を細めた。

 制服姿の生徒。

 しかし顔は真っ黒で何もない。

 帽子を深く被り、腕には『役員』と書かれた腕章。

 まるで感情を持たない人形だった。

 

「何だ……あれ。」

 

 雷斗も息を呑む。

 人数は十体以上。

 無言で二人を囲み始める。

 小田上は満足そうに笑った。

 

「彼らは役員。」

「僕の命令には絶対服従。」

「つまり。」

「この学校の秩序そのものだ。」

 

 雷斗は拳を握る。

 

「ふざけんな。」

「そんなもん秩序でも何でもねぇ!」

「そうかな?」

 

 小田上は鼻で笑う。

 

「勝者がルールを決める。」

「それが社会だ。」

「だから君は負けた。」

「だから君の部は消えた。」

 

 雷斗の表情が変わる。

 

「……!」

 

 怒りが一気に込み上げる。

 

「てめぇぇぇ!」

 

 飛び出そうとする雷斗の腕を知が掴んだ。

 

「待って。」

「離せ!」

「数が多い。」

 

 知は冷静に状況を見る。

 

「勝てない。」

 

 雷斗も周囲を見回す。

 前後左右。

 完全に囲まれていた。

 小田上は笑う。

 

「逃げる?」

「いいよ。」

「逃げられるならね。」

 

 その瞬間。

 役員たちの体が黒い霧に包まれる。

 制服が裂ける。

 腕が異様に伸びる。

 帽子が溶けるように消え、巨大なカボチャのような頭部へ変化していく。

 目だけが妖しく光る異形。

 

「シャァァァ……!」

「何だよ……これ。」

 

 雷斗の顔から血の気が引く。

 知も息を呑む。

 

「化け物……。」

 

 小田上は楽しそうに笑った。

 

「さあ。」

「鬼ごっこの始まりだ。」

 

 異形たちが、一斉に二人へ向かって歩き始めた

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