「捕まえろ。」
小田上が静かに手を上げる。
その一言だけで、役員シャドウたちが一斉に動き出した。
「走るぞ!」
雷斗が知の腕を掴み、廊下を駆け出す。
後ろから無数の足音が響く。
振り返ると、制服姿だった役員たちは完全に異形へ姿を変えていた。
黒い霧を纏い、巨大なカボチャのような頭。
裂けた口から低いうなり声を上げながら迫ってくる。
「なんなんだよ、あいつら!」
「わからない。」
知は短く答える。
二人は角を曲がる。
しかし、その先にもシャドウ。
「前からも!」
左右の教室からも現れる。
完全に包囲されていた。
「くそっ!」
雷斗は拳を構える。
「突破する!」
テコンドー仕込みの前蹴りがシャドウの腹へ突き刺さる。
だが。
「……硬っ!」
シャドウは一歩も退かない。
逆に拳を振り抜く。
ドゴォッ!
「ぐあっ!」
雷斗は壁まで吹き飛ばされた。
「雷斗!」
知が駆け寄ろうとした瞬間、横から別のシャドウが殴りかかる。
避けきれない。
拳が腹へめり込む。
「ぐっ!」
息が止まる。
膝をついた知の肩を別のシャドウが掴んだ。
そのまま床へ叩きつけられる。
「がっ!」
視界が揺れる。
体中が痛い。
それでも立ち上がろうとする。
「まだ立つの?」
小田上が笑いながら歩いてきた。
「往生際が悪いね。」
雷斗は歯を食いしばる。
「……知には手を出すな。」
「へぇ?」
小田上は警棒を肩へ担ぐ。
「命令?」
「負け犬のくせに?」
ゴッ!!
警棒が雷斗の腹へ叩き込まれる。
「ぐあぁっ!」
「雷斗!」
「まだ終わらないよ。」
ゴッ。
ゴッ。
何度も振り下ろされる警棒。
雷斗は倒れながらも睨み返す。
「その目。」
小田上は鼻で笑う。
「嫌いなんだよ。」
さらに警棒を振り上げる。
「やめろ!」
知は必死にもがく。
しかしシャドウに押さえ付けられ、指一本動かせない。
無力だった。
何もできない。
(助けたい。)
(でも力がない。)
(こんな終わり方は嫌だ。)
その瞬間。
世界から音が消えた。
真っ暗な空間。
底の見えない深淵。
そこから低い声が響く。
【――力を望むか。】
「……望む。」
【汝は何を差し出す。】
「何でも。」
【神器すら捧げられるか。】
知の脳裏に、駅前で出会った銀髪の少女が浮かぶ。
黒い腕時計。
あれが神器。
理由は分からない。
だが迷いはなかった。
「構わない。」
【契約成立。】
【我は汝。】
【汝は我。】
【深淵より現れし無限の器。】
【我が名は――】
「アビス!」
右腕の腕時計が眩く輝く。
黒い装甲が腕を包み込み、青紫のラインが走る。
腕時計は一つの籠手へと姿を変えた。
『神器適合を確認。』
『ペルソナ《アビス》を確認。』
『アビスギア起動。』
知は右腕を見る。
「これが……。」
自然と体が動く。
右腕をシャドウへ向けた。
「エイ!」
紫黒い呪怨の弾丸が放たれる。
ドォン!
シャドウの胸へ命中。
断末魔とともに黒い身体が砕け散った。
「倒した……。」
すると。
砕けたシャドウは霧となって消えず、一枚の鏡のような黒い円盤へ姿を変える。
円盤には、先ほどのシャドウの姿が映っていた。
『対象の鏡化を確認。』
『ペルソナメダル生成。』
『初回登録を開始します。』
メダルが宙を舞う。
そのままアビスギアのスロットへ吸い込まれた。
ガシャン。
ギアの青紫のラインが一瞬だけ灰色へ変化する。
『役員シャドウを登録。』
『装備可能ペルソナ数』
『1』
知は息を呑む。
「ペルソナ……メダル?」
だが考える暇はなかった。
残るシャドウたちが一斉に飛び掛かる。
「エイ!」
一体。
「エイ!」
二体。
立て続けに呪怨弾を放つ。
しかし三発目を撃とうとした瞬間。
体から力が抜けた。
「っ……。」
膝をつく。
息が荒い。
頭も痛い。
『SP残量、低下。』
機械音声が淡々と告げる。
小田上は満足そうに笑った。
「なるほど。」
「初心者か。」
「せっかく目覚めたのに、もう限界なんだね。」
シャドウはまだ十体以上いる。
知も雷斗も満身創痍だった。
その時――。
校舎中に轟音が響いた。
ガシャァァン!!
生徒会室の窓ガラスが粉々に砕け散る。
舞い散るガラス片の中から、二つの影が飛び込んできた。
一人は黒いロングコートに狼のマスクを纏った男。
一人は赤いライダースーツに鉄仮面を纏った女性。
狼の男が警棒を肩に担ぎ、不敵に笑う。
「よう、ガキども。」
「ここからは公安……じゃなくて、俺たち怪盗団の仕事だ。」
その背後に青い炎が燃え上がる。
「来い――バルジャン!!」
巨大な革命家のペルソナが姿を現した。
一方、赤き怪盗も拳を構える。
「ヨハンナ!」
鋼鉄のバイクを思わせるペルソナが雷光を纏い、静かにエンジン音を響かせた。
知と雷斗は呆然と、その二人の背中を見つめることしかできなかった
6話!