ペルソナX訂正版   作:keimei

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第9話 転校初日

四月一日

 

 【ピピピピ】

 

 アラームの音で知はゆっくりと目を覚ました。

 昨日の出来事が夢だったかのように、部屋は静かだった。

 だが、右腕へ視線を向ける。

 黒を基調とした腕時計。

 銀髪の少女から譲り受けた時計――アビスギア。

 知はゆっくりと息を吐く。

 

「……夢じゃなかったんだな。」

 

 制服へ着替え、一階へ降りる。

 厨房からは出汁のいい香りが漂ってきた。

 霞が割烹着姿で振り返る。

 

「おはよう、知。よく眠れた?」

「はい、おかげさまで。」

「それならよかった。朝ご飯は用意してあるから食べちゃって。私は車を取ってくるから、その間に準備を済ませておいてね。」

「わかりました。」

 

 食卓には焼き鮭、だし巻き玉子、味噌汁、ひじきの煮物、炊きたてのご飯が並んでいる。

 一口食べる。

 思わず笑みがこぼれた。

 

「美味しい……。」

 

 料理人である霞の腕前は、やはり本物だった。

 朝食を食べ終え、食器を片付ける頃には店の外からクラクションが鳴る。

 

「知ー!準備できた?行くわよー!」

「今行きます!」

 

 鞄を持ち、店の外へ出る。

 霞は運転席から笑顔で手を振った。

 

「今日から高校生活ね。」

「緊張してる?」

「少しだけ。」

「大丈夫よ。あなたならすぐ友達ができるわ。」

 

 知は照れくさそうに笑った。

 

「そうだといいですけど。」

 

 車は朝の中央市を走り抜ける。

 しばらくすると、遷都学園の大きな校門が見えてきた。

 霞は車を停める。

 

「頑張ってらっしゃい。」

「はい。行ってきます。」

 

 知は一礼し、校門をくぐった。

◇◇◇

 職員室。

 

「失礼します。」

 知が入ると、和宮先生が笑顔で迎えた。

 

「おはよう、平城君。」

「おはようございます。」

「保護者の方の手続きも終わったわ。それじゃあ教室へ行きましょう。」

 

 知は頷く。

 職員室を出ると、多くの教師とすれ違う。

 その中には見覚えのある二人もいた。

 歴史教師・長谷川善吉。

 公民教師・新島真。

 二人は知へ一瞬だけ視線を向ける。

 しかし、それだけだった。

 昨日鏡界で会ったことなど、まるでなかったかのように教師として振る舞っている。

 

(そういうことか。)

 

 知も軽く会釈するだけに留めた。

 潜入捜査。

 余計なことは口にしない方がいい。

◇◇◇

 二年A組。

 ガラッ。

 教室の扉が開く。

 ざわついていた教室が静かになった。

 和宮先生が教壇へ立つ。

 

「みんな、おはよう。」

「今日は転校生を紹介します。」

 

 教室中の視線が扉へ集まる。

 

「入ってきて。」

 

 知は深呼吸を一つして教室へ入った。

 黒板の前まで歩き、一礼する。

 

「今日から二年A組になりました、平城知です。京都から来ました。一年間という短い間ですが、よろしくお願いします。」

 

 教室から拍手が起こる。

 

「よろしくー!」

「京都か!」

「修学旅行以来だな。」

 

 和やかな空気に知も少し安心する。

 和宮先生が教室を見回した。

 

「席は……大和君の隣ね。」

「えっ、俺?」

 

 窓際から元気な声が上がる。

 昨日、鏡界で一緒に戦った少年。

 大和雷斗だった。

 

「よろしくな!」

 

 知も笑顔で頷く。

 

「よろしく。」

 

 席へ向かう途中。

 一人の男子生徒と目が合った。

 小田上。

 昨日、鏡界で自分たちを追い詰めた少年。

 しかし――。

 

「よろしく、平城君。」

 

 穏やかな笑顔。

 どこにでもいる優等生のような表情だった。

 知は思わず足を止めそうになる。

 

(……覚えてない?)

 

 昨日の狂気は微塵も感じられない。

 席へ座ると、雷斗が小声で話しかけてきた。

 

「あいつ……。」

「やっぱり変だよな。」

 

 知も小さく頷く。

 

「昨日とは別人みたい。」

「演技には見えねぇ。」

「でも、あんなこと忘れるはずもないし……。」

 

 二人は答えを出せないまま前を向いた。

◇◇◇

 一時間目。

 教室の扉が開く。

 入ってきたのは歴史教師・長谷川善吉だった。

 

「よーし、席につけ。」

 

 教室が静かになる。

 

「今日から日本史を担当する長谷川だ。」

「堅苦しい授業は嫌いだから安心しろ。」

 

 教室から笑いが起きる。

 善吉は出席簿を閉じながら教室を見渡した。

 一瞬だけ知と目が合う。

 だが、それだけ。

 

「平城。」

「はい。」

「転校初日だが容赦なく当てるから覚悟しとけ。」

 

 教室中が笑いに包まれる。

 

「はい。」

 

 知も苦笑しながら返事をした。

 

(ちゃんと先生を演じてる。)

 

 潜入捜査官らしい見事な切り替えだった。

 

◇◇◇

 

 三時間目。

 今度は新島真が教室へ入ってくる。

 

「おはようございます。」

 

 教室の空気が少し引き締まる。

 

「今日から公民を担当します、新島真です。一年間よろしくお願いします。」

 

 綺麗なお辞儀。

 女子生徒たちが小さくざわめく。

 

「美人だ……。」

「若い先生だね。」

 

 真は淡々と授業を始める。

 知と目が合っても、教師として自然に微笑むだけだった。

 昨日のクイーンの姿はそこにはない。

◇◇◇

 昼休み。

 雷斗が知の机へやって来る。

 

「飯、一緒に食おうぜ!」

「いいよ。」

 

 二人は中庭へ向かった。

 弁当を開きながら雷斗が周囲を見回す。

 

「昨日のことなんだけど。」

「俺も。」

 

 知が頷く。

 

「放課後、少し学校を回ってみない?」

 

 雷斗は即答した。

 

「ああ。」

「小田上のことも調べたい。」

 

 二人の視線は自然と校舎へ向く。

 その窓際では、小田上がクラスメイトと談笑していた。

 どこからどう見ても普通の高校生。

 鏡界で見せた狂気など、一切感じられない。

 知は静かに呟く。

 

「やっぱり……何かがおかしい。」

 

 その違和感こそが、鏡界の謎へ近付く第一歩になるとは、まだ誰も知らなかった。

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