魔王の異世界巡り   作:0.The_Fool

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せっかくなのでね、過去作品を書き直していくわさ。


〈Ib〉編
〈Ib〉編 旅のしおり


≪絵画のしおり≫

 

 ゲートを展開し、帰る準備をしていた時だった。

 

 この世界で世話になった人たちが、私のもとへやって来た。

 

「もう、帰るの?」

 

 そう言った少女は、悲しそうな目でこちらを見ていた。

 

「帰っちゃうんだ。さみしくなるなー……。だけど、ありがとうね。私“たち”、感謝してもしきれないくらい助けてもらったから」

 

 黄色い髪の少女は、少しだけ寂しそうに笑った。

 

「できたら、もう少しいて、お父さんの話をしてほしかったけど……もう時間なんだよね? だったら、仕方ないか」

 

 その声には、引き止めたい気持ちと、それでも見送ろうとする優しさが混じっていた。

 

「昨日言っていたから仕方ないわよ。……まあ、何の言葉もなく帰ろうとしていたのは見逃せないけど」

 

 背の高い、オネエ口調の男が、少しいじらしい声でそう言った。

 

「手伝うことはある? あ、それと、あの絵は持った?」

 

「ありがと。特に手伝うことはない……かな」

 

 私は軽く肩をすくめ、それから手元に持っていたものを見せる。

 

「それと、ほら。大丈夫。ちゃんと持っているよ」

 

 それは、この世界で過ごした証のようなものだった。

 

 絵画の世界で出会い、共に過ごし、別れを迎えることになった私たちの、小さな思い出。

 

「一年間、お世話になったね」

 

 私は三人を見つめて、静かに言った。

 

「もしかしたら、またいつか来るかもしれない。その時は、また詳しくお父さんの話をしてあげるよ」

 

 黄色い髪の少女が、目を大きくする。

 

 少女は泣きそうで、けれど笑っていた。

 

「……うん。約束だよ」

 

「ええ。約束」

 

 私は小さく頷き、開いたゲートへ足を踏み入れる。

 

「それじゃあ、三人とも。またね」

 

 その言葉を最後に、私は自分の家へと戻った。

 

 背後で開いていたゲートは、音もなく閉じる。

 

 またどこかで再会することがあるのなら、それはきっと、彼女たちが成長し、一人で歩けるようになった頃のことだろう。

 

 あるいは、私がしびれを切らして、また気の向くままに旅へ出た時。

 

 その時、ふらりと立ち寄ることもあるかもしれない。

 

 今は、それを少しだけ期待しておくことにした。

 

 

「帰っちゃったね。また会えるかな?」

 

「そうね。けど、また会う約束ができたもの。大丈夫よ」

 

 背の高い男は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

 

「必ず会えるわ」

 

「けど、本当に不思議な人だったね」

 

 黄色い髪の少女は、ライラが消えた場所を見つめながら呟いた。

 

「お父さんが少しだけ教えてくれたけど……聞いていたよりも、ずっと不思議で、ずっと優しい人だった」

 

 少女の言葉に、二人は何も言わなかった。

 

 ただ、今はもう閉じてしまったゲートの跡を見つめる。

 

 そこには何も残っていない。

 

 けれど、確かに約束だけは残っていた。

 

~~~~~~

 

「さて、帰ってきて早々ではあるけど……次の旅の準備をするか」

 

 私は一人、自宅の中でそう呟いた。

 

「今の時間は……二時。向こうでは一年いたのに、こっちでは二十分しか経ってないのか」

 

 思わず、ため息が出る。

 

「いちいちこっちを経由して準備するのも面倒ね。次の世界で済ませられるものは、できるだけ向こうで済ませることにしようか」

 

 そんなことをぶつくさと呟きながら、私は荷物を確認していく。

 

 必要なもの。

 

 不要なもの。

 

 次の世界で使えそうなもの。

 

 持っていけば面倒になりそうなもの。

 

 ひとつずつ選び、整理し、しまっていく。

 

 そうしているうちに、気づけば二時間ほど経っていた。

 

「そろそろ出発するか」

 

 そう言いかけて、私はふと思い出す。

 

「……っと。忘れないうちに、あの絵を飾っておかないと」

 

 手にした絵を眺める。

 

「あいつには描くなって言ったんだけどね」

 

 けれど、描くと決めたら絶対に描く。

 

 そういう人間だった。

 

 だからこそ、これはきっと、あいつなりのしおりなのだろう。

 

 あの世界で出会った者たち。

 

 あの美術館で過ごした一年。

 

 そして、新しく歩き始めた彼女たちとの記憶。

 

「そういえば、あそこなら飾れる場所があったはず……」

 

 私は部屋の奥へ向かう。

 

 壁の一角。

 

 いくつもの旅の記録が並ぶ場所。

 

 そこに、ちょうど一枚分の空きがあった。

 

「……あった。ここならいいかな」

 

 私は絵をそっと壁に掛ける。

 

 少し離れて眺めると、その絵は不思議なくらい自然に、そこへ収まっていた。

 

「自分たちと、新しい彼女たちとの思い出を飾っておくなら」

 

 私は小さく笑う。

 

「ここがベストか」

 

 絵の中の記憶は、静かにそこに在り続ける。

 

 次の旅へ向かう私を見送るように。

 

 あるいは、いつかまた、あの美術館へ戻る日のためのしおりのように。

 

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