コンコンというノックの音で起きる。
「ルシアちゃーん。まだ寝てる〜?」
セシリアさんの声だ。
やばいかも!と飛び起きる。時計とか無いから分からないが日の高さ的にもう朝ではない!
抱きついているコウモリちゃんと反転して足が顔に乗っているコウモリちゃんを退けてドアへ行く。
少しだけ開けて、
「…ごめんなさい」
「あら、起こしちゃったのね?大丈夫よ!いつ来るとか行ってなかったものね!」
「……着替えてくる」
パタンとドアを閉じる。
コウモリちゃん達を幽世へ戻した後、今日はゴシックワンピース姿で行く。
4人がロビー兼食堂っぽい所で待機している。
「おはようございます。ごめんなさい、起こしてしまって。そろそろ行かないと色々時間が無くなりそうだったもので」
ブンブンと首を振り、
「…寝坊…ごめんなさい」
「あ、いえ。ボク達も昨日の今日で疲れている可能性を考慮出来てませんでした」
あぁ、疲れていて寝坊したと思われてる。
多分単純に吸血鬼の体質的なもので夕方まで寝ようとしてただけなのに。
「ほれ、これはお前の朝ごはんだ。もう昼だがな」
グレアさんが朝ご飯のお弁当を渡してくれる。
寝過ごした時はこうしてもらう事が出来るらしい。
「では、行きましょう?」
そう言われてセシリアさんと手を繋ぐ。
気分上々でギルドへ向かう。
「…完全に家族でピクニックですね?」
エリーゼさんが呟く。
片手にお弁当、もう片方をセシリアさんと繋いでいるのでそれっぽい。
そんなこんなでギルドへ着き、受付をして暫く待っていると、
「テメェ!決闘の約束をすっぽかしてんじゃねぇぞ!」
と大声で話しかけられる。
…あっ、そうだった異世界テンプレやったんだ!
「…ごめん…寝坊」
取り敢えず謝罪する。
「コイツ!!良いぜ!そっちがその気なら本気でぶっ殺してやる」
いやごめんて、いいじゃん別に。
夕方まで放置しなかったんだからさ。
時間の約束してないじゃん。
いつから待ってたのさ。
「…えっと、ルシアさん。こちらの方は?」
………そういや決闘の約束しただけで名前も知らんな。
「…知らない人」
「あァ!!!!テメェどんだけ舐めてんだァ!!!!」
「……あの、突然話しかけないでもらえますか?」
セシリアさんがかなり冷たい目をしてらっしゃる!!
ごめん決闘の約束はしたから!
ちょいちょいとセシリアさんの袖を引っ張る。
「…決闘…約束した」
「何の騒ぎですか!?」
被せるようにギルド長が血相変えてこっちへ来た。
「そこのBランク冒険者様に決闘を挑んでんだよ。なぁ、Bランク冒険者様?」
「…ん。受けた」
大きな胸を張る。
ギルド長とエリーゼさんが呆れてる?
そうしてギルドの奥にある訓練所へ受付さんとギルド長に案内される。後の時間で食べる余裕が無いのでご飯を食べながら、
「……あの人…誰?」
と聞くと、えぇ…みたいな引きつった顔される。
「Cランク冒険者パーティ双狼のリーダー。バルドさんです」
へぇ~1つ下のランクなんだ。
じゃあちょうど良いかも。教導の実演にしよう。
そうして闘技場のような場所に観客席に疎らに人が居る。
「やっと来たのね?逃げちゃったのかと思ったわぁ。ごめんなさいねぇ。せっかく買ったBランクを私達が貰っちゃうわよ?」
対戦相手の所に昨日話しかけてきた残り4人がおり、最初に話しかけてきた人が声を掛けてくる。
「…貰う?」
「あらぁ知らないの?世間知らずのお貴族様なのかしら?決闘で上位ランクが下位ランクに負けた時はランクが交代するのよ?」
へぇ~そんなのあるんだぁ。
「…面白いね」
顔を歪めてチッと舌打ちする。イライラしてんなぁ。
図らずも宮本武蔵の逸話みたいになったのかな?
受付さんに促されて向かい合う。
「知ってたか〜?決闘ってのはパーティ単位で行うんだぜ?だからお前は1対5でやらなきゃなんだぜ?どうする?リタイアするか?」
今まで喋ってなかった男が喋り出した。
1対10万とかでも全然やるぞこっちは。
「……大丈夫……手加減出来る」
そうして、ピコピコハンマーを取り出す。
何故か会場がザワついたので、
「……大丈夫、痛くない」
安心させる為にピコピコハンマーで自分の手をピコピコ叩く。
「……テメェ…いい加減にしろよ」
青筋を立ててこちらを見るバルド。
その後受付さんが間に立ち開始の合図待ちになる。
戦闘補助:教導モードへ移行する。
これは幽世のNPCに能力やらを譲渡する時用のモードで鍛錬時間に応じて能力を獲得していく物だ。
流石に実戦には勝てないが仕事とか行くときはこれで放置すると色々伸びが良い。
実戦に行かせると怪我したり死亡したりするしね。
まぁ、今回教えるのはチュートリアル。簡単な戦闘のイロハのみだ。
半自動化するので暇でキョロキョロしてると
手を振ると振り返してくれる。
「それでは用意いいですか?………始め!」
受付さんの開始の合図と共に突っ込んで切りかかってくるバルド。
それをピコハンの付け根で流してそのままの勢いでフルスイング!
【ブヒィィィィィィ!】
今回は豚の音だった。
このピコハンはダメージ大分カットしており、どんな攻撃力のキャラが使おうが1ダメージのみだ。
大体最初のザコ敵のHPが150だから、100回程度は当てられるはずだ。
そして強く叩くたびにいろんな音が鳴る仕組みになっている。何の音が出るかはランダムだ。
音声収録数が多く強さの割にデータを食うアホ武器だ。
「……足の速さを活かしたいなら直線に動かない。簡単に読まれて勢いを利用される」
このパーティは5人のうち後衛が女性陣で魔法使いと弓使い、前衛が男性陣でスピード型の剣士、火力担当の斧使い、小技の盗賊だ。
スピード型が激情して突っ込んできたから後衛にちょっかいを出しにいく素振りを見せる。
すると盗賊が前に出てくる。
「……小技担当なら攻撃の隙を伺うようにする」
ピコハンでパッカーンと頭を打つ。
【アカーーーーン!】
仕方ないのでそのまま後衛の対応を見る為に突っ込む。
すると弓使いはナイフを取り出し応戦する。
あえてピコハンで打たずに待つと斧使いが後ろで振り被る。
「……重い武器は振り下ろすだけにしてから移動」
何悠長に背後で構え取ってんねんと思いながらピコハンを当てる。
【いや〜〜〜〜ん】
……前衛が役割果たしてなさすぎるので一旦距離を取る。
すると対したダメージはないので前衛3人が突っ込んで来る。後衛の魔法使いも詠唱を始める。
なので定番の射線上に前衛が来るように位置どるとなかなか撃って来ないし、前衛も気付いていない。
……えぇ?何も対策考えていなかったの?
仕方ないので射線上から前衛を退けると魔法と矢が飛んでくる。
3歩程前に進みしゃがむと完全に回避出来る。
射線上から前衛が居ないということは直線距離に敵が居ないという事なので、今度こそ魔法使いに突っ込む。
「……射線上に味方がいる時の振る舞いを考える。放射線上に攻撃、味方の支援なんでもいいから」
杖で対抗しようとしたが普通に下手だったので、ピコハンで魔法使いをフルスイング。
【マグロ、ご期待ください】
信頼のおける冒険者パーティの
だから疑っていた訳ではなかったが、幼い年齢も相まって強力な魔法や身体能力等によるゴリ押しなのだと考えていた。
エルフ族として永い年月ギルド長をやってきたが、突出した能力を持つ者程、普通の人へ教えるのが下手だった。
本人は教導出来ると書いていたが、天才とは得てして教えるのは下手な物だ。
自分が簡単に出来る事は他人でも出来ると思っている。
そう考えて教導に関して期待してなかった。
だが、目の前の光景は全くの想定外だった。
短気で短絡的で短慮な所はあったが、実力はちゃんとCランクな冒険者パーティをまるで子供へ指南するように完璧にいなし攻撃を当てる前に良くない所を説明する。
その動きはどれを取っても一級品でありながらもCランクな冒険者なら不可能ではない動きだった。
かれこれ1時間は戦闘をしているが、疲れる様子もなく完璧にいなす。
それは才能だけでは成し得ない技術の結晶だった。
この短時間で彼らの動きが数段よくなったのが分かる。
良くなってなお余りある技量の差。
「……スピードを一定にしない…常に変化を加える」
そしてあの武器もおかしい。
いくら柔らかい素材で出来ていてもあんなにバカスカ叩かれればもっと腫れ上がるはずだが、疲労は見えるが痛みを感じているようには見えない。
【アァン足首をくじきましたーーー】
……そして何なんだろうこの音声は。
4人が倒れちゃった。
でも100発も叩いてないし多分動き疲れたんだと思う。
最後にリーダーのバルドだけが残った。
肩で息してるし、もぅ駄目そうね。
次で締めにしよっかな。
「…ハァハァ…………なぁ」
話しかけてきた。
「……ん?」
「済まなかった。見た目とか態度で誤解した。お前は間違いなくBランク以上だ」
「…別にいい。………こういうのちょっと期待してた」
「ハハッなんだそりゃ。…最後にもう一ついいか?」
「……ん?」
「俺達は……まだ強くなれるか?」
「…うん。……まだまだ伸びる」
「カハハッ!そりゃいいや!じゃあ最後まで手合わせ願うぜ!」
そうして数度のやり取りの後、最後にピコハンホームランを決めた。
【メルヘンゲットォォ!】
倒れた5人の周りを1周し、拳を突き上げる。
乙女は強くなくっちゃね!