天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~   作:ささき2026

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第15話 信じるという力

晩秋。グラウンドの木々が、すっかり色を変えていた。

 

翔は、相変わらず、あの「遠いパス」に挑み続けていた。

 

何度も、何度も、失敗してきた。味方が、そこに走り込めない。翔の発想に、ついてこられない。

 

「翔、また、あのパスか」

 

橘晴斗が、半ば呆れたように、けれど、以前ほど突き放した響きではなく、言った。

 

「うん。まだ、諦めてない」

 

翔が、何十回、何百回と、同じパスを出し続けている。その執念のようなものが、いつの間にか、味方の意識を、変え始めていた。

 

その変化は、ある日の練習で、初めて、目に見える形になった。

 

翔が、ボールを持った。いつものように、頭の中で、あの「遠いコース」が見えた。

 

翔は、迷わず、そのパスを蹴った。ボールが、コートを大きく横断していく。

 

そのとき——風間陸が、走り出していた。これまで、誰も走らなかった、その遠いスペースへ。陸が、全力で、駆け込んでいた。

 

ボールと、陸の走るコースが、ぴたりと、交わった。陸は、そのボールを、なんとか足元に収めた。完璧なトラップではなかった。けれど、確かに、つながった。

 

何十回も失敗してきた、あの「遠いパス」が——初めて、味方に届いた。

 

「翔! 今の、わかったぞ! お前が、いつもそこ狙ってたの、やっと、見えた!」

 

頭の中の声が、静かに、その瞬間を整理する。

 

——何十回もの失敗が、無駄じゃなかった。同じパスを出し続けたことで、陸が、僕の見ているものを、少しずつ、見えるようになってきた。

 

それは、まだ、一回成功しただけだった。完成には、ほど遠い。けれど、確かに、成功の兆しが、見えた瞬間だった。

 

「翔! さっきのパス、すごかった! お前が、ずっと、あそこ狙ってたからだよ! 何回も、何回も、同じところに蹴ってただろ? それ、見てるうちにさ、『あ、翔は、ここに走ってほしいんだ』って、身体が、覚えちゃったんだ!」

 

翔は、その言葉に、深く頷いた。

 

地区大会の後、新田栞に言われた言葉が、蘇った。

 

——あなた、自分の分析を、信じすぎてない?

 

あのとき、翔は、「遠いパスが通らないのは、味方のせいだ」と、無意識に思っていた。けれど、今、わかった。

 

通らなかったのは、味方のせいでも、自分の分析のせいでもなかった。ただ、まだ、時間が、足りなかっただけだった。味方を信じて、何度も挑み続ける、その時間が。

 

その夜、翔は、新田栞に、電話で報告した。

 

「栞さん。あの、遠いパス、初めて、通りました。栞さんが、前に言ってくれたこと、考えました。僕、分析を、信じすぎてたかもしれない、って。でも、わかったんです。あのパスが通らなかったのは、僕の分析が間違ってたからじゃなくて、味方を、信じる時間が、足りなかったからでした」

 

栞は、しばらく、黙っていた。それから、静かに言った。

 

「翔くん。あなた、すごい答えに、たどり着いたね。分析を信じることと、仲間を信じること。その二つは、別のものじゃないの。仲間を信じて、待つことも、分析の一部なのよ」

 

翔は、その言葉を、深く、心に刻んだ。

 

「分析だけでは勝てない」——その言葉の、本当の意味。それは、分析を捨てることでも、分析を軽んじることでもなかった。分析の中に、「仲間を信じる」という要素を、組み込むこと。それこそが、翔が、この一年で学んだ、最も大切なことだった。

 

冬が、訪れた。

 

その年の最後の練習日、翔は、グラウンドの隅で、一年を振り返っていた。

 

レギュラーに定着し、地区大会で優勝した。ファントムターンを身につけ、大和との特訓でフェザー・ループを会得した。そして、最後の最後に、ワイドビジョンパスの、成功の兆しを掴んだ。

 

技術は、確かに、成長した。けれど、それ以上に大きかったのは——心の成長だった。

 

夕食の席で、父・恒一郎が、いつものように尋ねた。

 

「翔。今年一年、どうだった」

 

「去年は、『一人では勝てない』って、学んだ。今年は——『仲間を信じることも、分析の一部だ』って、わかった」

 

恒一郎は、その答えを聞いて、深く頷いた。

 

「成長したな、翔」

 

母の陽子が、優しく微笑んだ。

 

「来年は、5年生ね。全国大会も、見えてくるわね」

 

翔は、静かに、闘志を燃やした。

 

 

 

ある日のことだった。

 

翔のクラスに、転校生が来るという話が、広まっていた。

 

「なんか、外国から来た子らしいよ」「スペインから、だって」

 

転校生の朝。教室の前に立ったその少女は、明るい金色の長い髪を、緩く編み込んでいた。冬の窓から差す光に、その髪が、淡く輝いていた。

 

「ソフィア・アルバレスです。スペインから来ました。よろしくお願いします」

 

 

【挿絵表示】

 

 

流暢な日本語だった。

 

その途中、ふと、彼女の視線が、一人の少年の上で、止まった。天野川翔。

 

けれど、彼女は、まだ知らなかった。この少年こそが、これまで見てきた誰よりも、特別な才能を持つ存在だということを。

 

翔もまた、まだ知らなかった。この少女との出会いが、自分の「世界一への夢」を、海を越えて広げていく、大きな転機になることを。

 

二人の物語は、ここから、始まろうとしていた。

 

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