天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~   作:ささき2026

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第21話 黄昏の公園 ソフィアと特訓開始 挿絵入れました

 

 

 全国大会から、数日が過ぎた。

 

 夏休みの、よく晴れた午後。あの、悔し涙の熱が、まだ、翔の胸に、くすぶっていた。

 

「翔。明日、時間ある?」

 

 その日、ソフィアが、いつになく、真剣な顔で、尋ねてきた。

 

「私と公園に行かない? あなたに――見てもらいたいものと教えたいことがあるの」

 

 いつもの、明るい誘いとは、違った。その瞳の奥に、何か、静かな、決意のようなものが、宿っていた。

 

「……わかった」

 

────────────────────────────

 

 翌日の、午後。

 

 ソフィアが、翔を連れて行ったのは、街の外れにある、大きな公園だった。

 

 翔は、思わず、足を止めた。

 

 これまで自主練に使っていた、あの小さな児童公園とは、まるで、規模が違う。広々とした、芝生の広場。青々とした芝が、どこまでも、続いている。片隅には、地域のスポーツ少年団が使う、本格的な、サッカーゴールが、二つ。その周りを、ランニングコースが、ぐるりと囲み、木陰には、ベンチが、点々と、置かれていた。

 

 平日の午後。人は、ほとんど、いない。広場は――二人だけの、貸し切りだった。

 

「すごい公園だね」

 

「でしょ?」

 

 ソフィアは、嬉しそうに、広場を見渡した。

 

「ここならゴールもあるし、広いし誰の邪魔にもならない。……ここで、翔と練習したいなって。ずっと、思ってたの」

 

 けれど、と、彼女は、そっと、自分の右膝に、手を当てた。

 

「私は激しいプレーはできない。膝が――もう、それを許してくれないから。だから……私は、教える役。分析する役。あなたが動く役。……それで、いい?」

 

「うん。それで、いい」

 

────────────────────────────

 

 そのとき、翔は、気づいた。

 

 ソフィアが、大きなバッグを、抱えていることに。

 

「それ、何?」

 

 ソフィアは、少し、ためらってから。そのバッグを、開けた。

 

 中から、現れたのは――一着の、サッカーユニフォーム。

 

 少し、色褪せた、赤いユニフォーム。スペインの、年代別のものだった。

 

「……これ?」

 

「私が昔着てたユニフォーム」

 

 ソフィアは、それを、両手で、そっと、広げた。まるで、壊れ物を、扱うように。

 

「代表候補に選ばれたときのもの。……膝を怪我してサッカーを諦めたとき。捨てようと思ったの。もう、着ることも、ないから。見るたびに、思い出して、つらいだけだから」

 

 ソフィアの声が、わずかに、震えた。

 

「でも……どうしても、捨てられなかった。何度、ゴミ箱の前に、立っても……結局できなかった。だって――これは。私が、一番、輝いてた時間の……証、だから」

 

 

【挿絵表示】

 

 

────────────────────────────

 

 ソフィアは、ベンチの陰で、そのユニフォームに、着替えた。

 

 赤いユニフォームに、袖を、通した、その瞬間。

 

 彼女の表情が――変わった。

 

 懐かしさと。喜びと。そして、ほんの少しの、切なさ。すべてが、入り混じった、複雑な、けれど――どこか、晴れやかな、表情だった。

 

「……久しぶり」

 

 ソフィアは、自分の姿を、見下ろした。

 

「このユニフォーム、着るの……怪我以来、初めて」

 

 その目に、うっすらと、涙が、滲む。

 

 けれど、それは。悲しみの、涙では、なかった。

 

「不思議。……着てみたら。つらい気持ちより――嬉しい気持ちのほうが、大きい」

 

 ソフィアは、空を、見上げた。

 

「私……サッカーが、本当に、好きだったんだなって。……改めて、思う」

 

 その姿を。翔は、静かに、見つめていた。

 

 頭の中の声が、彼女の心を、整理する。

 

 ――ソフィアは、サッカーを、諦めた。でも、サッカーへの愛は、消えていない。このユニフォームを、また着られたのは……たぶん、僕と、練習するから。僕を通して、もう一度――サッカーに、関われるから。

 

「ソフィア」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

 ソフィアが、きょとん、とする。

 

「なんで、お礼?」

 

「君が。大事なユニフォームを、僕のために……また、着てくれた。それが――嬉しいから」

 

 その言葉に。

 

 ソフィアは、一瞬、息を、呑んだ。

 

 そして――ぱっと、明るく、笑った。

 

 涙が、頬を、つたったけれど。その笑顔は――これまでで、一番、輝いていた。

 

「もう……翔は。たまに、すごいことを、さらっと、言うのね」

 

 彼女は、涙を、拭った。

 

「うん。……お礼を言うのは、こっちのほうかも。あなたが、いてくれたから。私、また、このユニフォームを、着られた。……また、サッカーに、関われた」

 

 二人は、しばらく、何も言わずに――見つめ合った。

 

 夏の風が、二人の間を、通り抜けていく。

 

 そして、ソフィアが。ボールを、手に取った。

 

「さあ――始めよう。翔。私が、あなたに、教えたいこと」

 

────────────────────────────

 

 ソフィアは、芝生の上に、ボールを、置いた。

 

「全国大会の試合。私、ずっと、見てた。あなたのプレーを、ずっと、分析してた。……翔。あなたの、凄さと、弱点が――はっきり、見えたの」

 

「弱点……」

 

「まず、凄さ。それは――あなたの、スタミナ。あなた、試合の最後まで、全力で、走り続けてた。あれは……世界レベルの、タミナよ」

 

 翔は、少し、意外だった。母に鍛えられた身体は、翔にとって、当たり前のものだった。

 

「でも――それが、同時に。あなたの、"弱点"でも、あるの」

 

「弱点?」

 

「あなたは、最後まで、走れる。でも、味方は、そうじゃない。普通の小学生は、後半になれば、疲れる。……あなた一人が、いくら走っても。味方が、ついていけないの」

 

 翔の、胸に――ずしり、と、響いた。

 

 それは。これまで、何度も、ぶつかってきた壁。「味方が、ついてこられない」という、あの、根深い問題の――核心を、突いていた。

 

「じゃあ……どうすれば、いいの?」

 

 ソフィアは。少し、間を、置いてから。静かに、告げた。

 

「あなたが――味方のスタミナまで "管理"するの」 

 

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 ソフィアは、語り始めた。

 

 試合には、リズムがあること。攻める側が、その速さを、決められること。緩急で、味方を休ませ、相手を、疲れさせること。九条のチームが、まさに、それを、していたこと。

 

「翔。私この技に。名前をつけたの」

 

 気づけば――夕暮れが、近づいていた。

 

 公園の芝生が。黄昏の、金色の光に、静かに、染まっていく。

 

「あなたが、好きな。戦国武将の、言葉から」

 

 ソフィアは、空を見上げ、その言葉を、一つひとつ、丁寧に、口にした。

 

「――疾きこと、風の如く。徐かなること、林の如く。侵掠すること、火の如く。動かざること、山の如し」

 

 黄昏の風が、彼女の、金色の髪を、揺らす。

 

「速く動くときは、風のように。ためるときは、林のように、静かに。攻めるときは、火のように、激しく。動かないときは、山のように、どっしりと」

 

 ソフィアが、翔を、まっすぐ、見た。

 

「この技の名前は――"風林火山"。あなたが、試合のリズムを、自在に操る……戦術技よ」

 

 風林火山。

 

 その名が。黄昏の公園に、静かに、響いた。

 

 翔の、胸の奥で。あの、悔し涙が――今、確かな、闘志へと、変わっていく。

 

「ソフィア。教えて。その――風林火山を」

 

 ソフィアは、嬉しそうに、頷いた。

 

「うん! 一緒に――作り上げよう。翔の新しい武器を!!」

 

 




黒子のバスケっぽい必殺技です。
ソフィアは必殺技をウキウキしながら考えていたでしょう。
日本大好き、スペイン人少女なので。

次は今日の16:30に投稿します。
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