天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~   作:ささき2026

22 / 24
第22話 風林火山 挿絵入れました

 

 

「まず、"試合のリズム"って、何かを理解することから始めよう」

 

 黄昏の公園。ソフィアが、芝生にボールを置き、翔に向き合った。赤いユニフォームが、午後の光に、映えていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「サッカーの試合はずっと同じ速さじゃ、進まない。速くなったり、遅くなったり、波がある。その波を作るのは――攻める側。九条のチームは、それが、上手かった。速く攻めるところと、休むところを、はっきり、使い分けてた。だから、最後まで、疲れなかった」

 

「うん。……あのチームは、ずっと、冷静だった」

 

「翔。あなたなら――そのリズムをもっと精密に操れる。あなたには、分析力が、あるから。……やってみよう。私が、相手役になる。まず、わざと、ゆっくり、ドリブルしてみて」

 

 翔が、ゆっくりと、ボールを運ぶ。ソフィアが、相手役として、立ちはだかる。激しくは動かない。けれど、立ち位置と、重心の置き方だけで、確かな「壁」になった。

 

「そう。ゆっくり、ためる。……このとき、味方は、どうしてると思う?」

 

「……休んでる?」

 

「正解。あなたが、ゆっくりボールを持ってる間、味方は、息を整えられる。次の、全力ダッシュに、備えられる」

 

「じゃあ、次。私が『今』って、言ったら――一気に、スピードを、上げて」

 

 翔が、静かに、ボールを運ぶ。ソフィアの重心が、わずかに、緩んだ、その瞬間――

 

「今っ!!」

 

 翔が、爆発的に、加速した。

 

 ゼロステップ。一歩目で、ソフィアの脇を、駆け抜けていた。

 

「……速い!」

 

 思わず、ソフィアが、声を漏らす。膝のために、本気では追えないとはいえ、その初速は――別次元だった。

 

「これが、"火"。攻めるときは、火のように、激しく。……翔、今、わかった? 静かに、ためてから、一気に、加速する。この落差が、大きいほど――相手は、対応できない。そして、味方は、あなたがためてる間に、休めて。あなたが仕掛けた瞬間――一緒に、走り出せる」

 

 翔の中で、何かが、繋がった。

 

 ――緩急。それは、相手を抜くためだけの、ものじゃない。味方を、休ませ。味方と、動き出しを、合わせるための――"合図"にも、なる。

 

────────────────────────────

 

 特訓は、来る日も、来る日も、続いた。

 

 午前は、クラブの練習。午後は、この公園で、ソフィアと。

 

 ある日、ソフィアが、新しい要素を、加えた。

 

「翔。風林火山の――"山"が、まだ、足りない」

 

「山?」

 

「動かざること、山の如し。あえて――動かない、こと。これが、一番、難しいの」

 

 ソフィアは、ボールを持って、その場に、立った。

 

「攻めなきゃいけない場面で、あえて、動かない。相手は、あなたが仕掛けてくると思って、身構える。でも、あなたは、動かない。すると――相手は、待ちきれずに、自分から、動く。その、瞬間に――隙が、できる」

 

 ――動かないことで、相手を、動かす。相手に、無駄なエネルギーを、使わせる。これが……敵の、スタミナを削る、ということか。

 

「翔のスタミナは、無限みたいなもの。でも、相手は、違う。あなたが、緩急で、揺さぶり続ければ――相手だけが、どんどん、疲れていく。試合の後半、あなたのチームが、元気で。相手が、へとへと。……そういう状況を、あなたが、作れる」

 

 風林火山の、全体像が――ついに、翔の中で、一つに、繋がった。

 

 風。速く、動く。

 林。静かにためて、味方を、休ませる。

 火。一気に、攻める。

 山。動かず、相手に、無駄に、動かせる。

 

 この四つを、自在に操ることで――ピッチ全体の、スタミナを、"支配"する。味方を、生かし。敵を、削る。

 

────────────────────────────

 

 ある夕方。特訓の合間。二人は、ベンチで、休んでいた。

 

「ソフィア。……なんでここまで僕に教えてくれるの?」

 

 ソフィアは、少し、驚いた顔を、して。それから――空を、見上げた。

 

 黄昏が、公園を、金色に、染めていた。

 

「最初はね。ただ、すごい才能を――無駄にしてほしくないって、思っただけ。私が、できなくなったから」

 

 彼女は、そっと、右膝に、触れた。

 

「でも……今は。ちょっと、違う。あなたと、練習してると。私……また、サッカーに、関われてるって、思えるの。あなたが、私の見つけた技を――本当に、できるようになっていく。それを、見てると……自分が、もう一度、プレーしてるみたいで。……嬉しいの」

 

 翔は。その言葉を、静かに、受け止めた。

 

 ――ソフィアは。僕を通して、もう一度、サッカーを、している。僕が、彼女の技を、形にすることが。彼女にとっての――"プレー"、なんだ。

 

「ソフィア。僕、絶対――この技を、完成させる。君が……後悔しないように」

 

 ソフィアは。その言葉に。目を、潤ませた。

 

 けれど、すぐに。いつもの、明るい笑顔に、戻って。

 

「うん。……期待してる。――私の、スター」

 

────────────────────────────

 

 そして――数週間後。

 

 クラブの、紅白戦の日。

 

 その日、グラウンドの隅には。大きなカメラを構えた、一人の女性の姿が、あった。

 

 朝倉ひかり。クラブOBの、サッカー系YouTuber。

 

「はいっ、みんなー! こんにちは、朝倉ひかりでーす! 今日はね、天野川SCの、練習に、お邪魔してまーす! ……で。実はあたし、今日、"すごいもの"が、見られるって、噂を、聞きつけて、来ました!」

 

 ひかりは、カメラに、顔を近づけ、にやり、と、笑う。

 

「なんでも……翔くんが。夏の全国での、あの、悔しい敗戦のあと。新しい"武器"を、身につけたらしいんです。しかも――今日の紅白戦で、それを、初めて、実戦で、使うとか……!」

 

【コメント欄】

「え、翔くんの新技!?」

「気になる」

「絶対撮って!」

 

「もっちろん、撮りますよ! さあ――紅白戦、キックオフ、間近です!」

 

────────────────────────────

 

 ピイッ――!!

 

 紅白戦の、笛が、鳴った。

 

 翔は、初めて――風林火山を、実戦で、試した。

 

 前半。翔は、あえて、ゆっくりと、ボールを保持する時間を、増やした。

 

「翔、なんで、ためてるんだ?」

 

 味方の、橘晴斗が、戸惑う。

 

「晴斗。今は、休んでていい。僕が、合図したら――一気に、行く」

 

 翔が、林のように、静かに、ボールを、回す。

 

 その光景に――カメラを構えたひかりの表情が、「あれ?」と、変わった。

 

「……ん? みんな、見てください。翔くん――攻めない。ゆっくり、ボールを、回してます。いつもの翔くんなら、もっと、仕掛けるはずなのに……なんで?」

 

【コメント欄】

「たしかに遅い」

「どうした翔?」

「これが新技?」

 

 ――と。

 

 ひかりの、元選手としての目が。はっ、と、見開かれた。

 

「……あ。あああっ、待って、みんな! わかった、わかっちゃった! これ――"わざと"だ! 翔くん、味方を、休ませてるんです! ゆっくり回して、味方の、体力を、温存してる……! 相手は、ボールを取ろうと、走り回って――どんどん、疲れていく……!!」

 

 ひかりの声が、興奮で、跳ね上がる。

 

「これ、すごいですよ、みんな! 普通、小学生は、ボールを持ったら、すぐ攻めたがる。でも、翔くんは――試合の"リズム"そのものを、コントロールしてるんです! こんなの、プロでも、なかなか、できない……!」

 

 そして――ピッチの上。

 

 相手チームの守備の、集中が、切れた。じりじりと、待たされ、走らされ――足が、止まり始めた、その瞬間。

 

「今だっ!!」

 

 翔が、火のように、仕掛けた!!

 

「――っ、来たぁぁっ!!」

 

 ひかりが、絶叫した。

 

「翔くん、一気に、加速ぅっ!! そして――見て! 見てください、これっ!!」

 

 翔だけでは、ない。

 

 それまで、"休んでいた"、晴斗と、陸が。翔の加速に、ぴたりと合わせて――爆発的に、走り出していた!!

 

「味方が、動いた――!! 全員、同時に、動き出したぁっ!! 翔くんが、ためてる間に、休んでたから――みんな、まだ、走れるんです!! 相手は、へとへとなのに――天野川SCだけ、元気いっぱい!!」

 

 翔の、スルーパス。走り込む、風間陸――

 

 ズドンッ!!

 

「ゴオオオォル!! 決めたぁぁっ!! いやぁ、これは……これは、鳥肌ですよ、みんな!!」

 

【コメント欄】

「うおおおお!!」

「なんだ今の!?」

「チーム全体が動いた!」

「これが新技か……!」

「翔くん、進化してる」

 

「みんな、興奮しすぎ! でも、わかる! あたしも、鳥肌、止まらない!!」

 

 ひかりは、カメラに向かって、身を乗り出した。

 

「いいですか、みんな。今のは――翔くん一人の、力じゃ、ないんです。翔くんが、"試合のリズム"を、操って。味方を、休ませて。相手を、疲れさせて。……チーム、全員で、もぎ取った、ゴールなんです!」

 

 ひかりの声が、しみじみと、熱を、帯びた。

 

「夏の全国で……翔くんは、"一人じゃ、勝てない"って、教わった。悔しくて、泣いた。……でも、あの子は。ちゃんと、その答えを――見つけてきたんです。一人で勝つ選手から――"チームで、勝つ"選手へ。……あたし、この成長を、追いかけてこられて――本当に、よかった」

 

【コメント欄】

「泣ける」

「めっちゃ成長してる」

「ひかりさんの解説わかりやすい」

「この子の未来が楽しみ」

 

────────────────────────────

 

 ベンチで、見ていた、監督の、眉が。わずかに、動いた。

 

(あの、間の取り方……翔が、自分で、"リズム"を、作っている。……いつのまに、こんな武器を)

 

 紅白戦の、後。監督が、翔を、呼んだ。

 

「翔。全国大会で、お前が、学んだことは――何だった?」

 

「チームで、勝つこと。一人では、勝てないこと」

 

「そうだ。……そして、今日。お前は、その答えに、一歩、近づいた。才能のある選手は、自分の力で、勝とうとする。だが――"本物"の選手は。自分の力で、"仲間を、勝たせる"。お前は今、その、入り口に、立っている」

 

 少し離れた場所で。ひかりが、その様子を、そっと、カメラに、収めていた。

 

(……監督さんも、認めてる。翔くんは、間違いなく――"本物"だ)

 

────────────────────────────

 

 その夜。翔は、ソフィアに、電話で、報告した。

 

 電話の向こうで、ソフィアは――自分のことのように、飛び跳ねて、喜んだ。

 

「やったね、翔!! ……あ、そういえば。今日、ひかりさんが、来てたんでしょ? 動画、あとで、見なきゃ!」

 

「うん。すごく、盛り上げてくれてた」

 

「ふふ。ひかりさんの実況、あたしも、大好きなの。……でも、まだ、完成じゃないよ! それに――次に、教えたい技が、もう一つ、あるの。今度は、"点を取る"ための技。あなたのレーザーショットを――もっと、進化させる技」

 

「どんな、技?」

 

「それは……今度の、公園で。楽しみに、してて!」

 

 風林火山という、"チームを動かす"技を、手にした翔。

 

 次に、ソフィアが、用意しているのは――ゴールを、こじ開けるための、新たな、一手。

 

 その名を――"種子島三段撃ち"、という。




次は明日の11:30に投稿予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。