天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~   作:ささき2026

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第23話 種子島三段撃ち

 

 

 次の、特訓の日。

 

 ソフィアは、いつもより、明らかに、気合いが、入っていた。

 

「翔! 今日は、いよいよ――新しい技を、教えるからね! あなたのレーザーショット、すごく速くて、鋭いでしょ。でも――速いシュートは。正面から、飛んでくれば、いいGKなら、止められる。だから――発想を、変えるの。ゴールを、直接、狙わない」

 

「狙わない?」

 

「ポストや、相手の足に――わざと、当てる。跳ね返ってきたボールを、味方が、拾って。もう一度、シュートする」

 

 翔は、その理屈を、頭の中で、組み立てた。

 

 ――直接狙えば、GKが、対応できる。でも、跳ね返りなら、GKは、一度、態勢を崩している。そこに、二の矢、三の矢を、放てば……防ぎきれない。

 

「合理的だ」

 

 翔が、淡々と、そう言った、その瞬間。

 

 ソフィアが――待ってました、とばかりに。ぐっと、拳を、握りしめた。

 

「でしょう!? そして、この技には――"最高の名前"が、あるの!」

 

 ソフィアは、すっ、と、一歩、下がった。

 

 夕陽を、背に。芝居がかった仕草で、胸に、手を当てる。

 

 声に――ありったけの、情感を、込めて。

 

「一五七五年……長篠の、戦い」

 

(……始まった)

 

「織田信長は、三千挺の、鉄砲を、三列に、並べ……絶え間なく、弾を、撃ち続け! 無敵と謳われた、武田の、騎馬隊を――打ち破った……!! 撃って、下がり、次が、撃つ。途切れぬ、連射こそが……鉄壁を、崩す!!」

 

 夕陽を浴びて。ソフィアの瞳は――完全に、潤んでいた。歴史のロマンに、心の底から、酔いしれていた。

 

「その名も――」

 

 彼女は、ばっ、と、手を、掲げた。

 

「"種子島、三段撃ち"ぃっ!!」

 

 決まった。……という、顔だった。

 

────────────────────────────

 

 翔は。

 

 しばらく、黙っていた。

 

 ソフィアの、渾身の決めゼリフの余韻が――黄昏の公園に、静かに、漂う。

 

 そして。翔は――真顔のまま。口を、開いた。

 

「……三段、撃つの?」

 

 ソフィアの、満面の笑みが。ぴしり、と、固まった。

 

「……え?」

 

「一回じゃ、なくて。三回、撃つってこと?」

 

 翔の関心は。ネーミングのロマンには――一ミリも、向いていなかった。

 

 ただ、淡々と。技の、"仕様"を、確認していた。

 

 ソフィアは。こめかみが、ぴくり、と、引きつるのを、感じた。

 

(そこ……!? 長篠の戦いは……!? 信長は……!?)

 

 けれど――ここで、引くわけには、いかなかった。彼女は、決死の覚悟で、武将トークを、続行した。

 

「そ、そう! 一の矢、二の矢、三の矢! 信長の、鉄砲隊のように! 途切れなく――」

 

「一の矢が、僕のレーザーショット。二の矢と、三の矢は、味方が、拾って、撃つ。……でも」

 

 翔が、地面を見つめ、考え込む。

 

「ポストに当てる、角度の、再現性が、問題だ。毎回、同じ場所に、跳ね返らせるのは、難しい。……あと、相手の足に、当てる場合。意図的に、ぶつけたと、判断されると――反則を、取られる可能性がある」

 

 ――と。

 

 ソフィアは、心の中で。深く、深く、頷いた。

 

(……それ。実は、私が、一番、気にしてたこと)

 

「……翔。それ、私も、同じこと、考えてた。だから――相手の足に当てるのは、あくまで、自然な流れの中で。狙って、当てに行くんじゃ、なくて。シュートコースに、相手がいたら、あえて、強く蹴り込んで、跳ね返りを、拾う。……危険なプレーには、しない」

 

「それなら、現実的だ」

 

 翔は、ようやく、納得したように、頷いた。

 

 そして――ぽつり、と、付け加えた。

 

「種子島三段撃ち、っていう名前は……長いから。試合中、味方に、伝わるかな」

 

 ソフィアは。

 

 とうとう――がくっ、と。膝から、崩れ落ちそうに、なった。

 

(そこを、気にするの……!? 私の、渾身の、命名が……!)

 

 けれど、翔は。いたって、真剣だった。茶化しているわけでは、ない。本気で、実戦での、運用を――心配していた。

 

 ……二人とも、終始、大真面目だった。

 

 だからこそ。その、決定的に噛み合わない温度差が――黄昏の公園に。なんとも言えない、可笑しみを、残していた。

 

「……わかった。試合中は――『三段撃ち』だけで、いいから」

 

 ソフィアは。半ば、諦めたように。けれど、どこか、可笑しそうに――そう、言った。

 

────────────────────────────

 

 名前の温度差は、さておき。特訓そのものは――真剣だった。

 

 翔は、ゴール脇のポストを、目標に。レーザーショットを、叩き込んでいく。

 

 最初は、跳ね返りの方向が、まるで、安定しなかった。数センチ、当たる位置が違うだけで、跳ね返りは、まったく別の方向へ、飛んでいく。

 

 ソフィアは、膝のために、激しくは、動けない。けれど――跳ね返りの、軌道を、見極め、修正点を、伝える。その役割は、彼女にしか、できなかった。

 

「翔! 今のは、ポストの、少し内側に、当たった。だから、ゴール前の、中央に、跳ね返った。狙うなら――そこ!」

 

 何百本と、蹴るうちに。翔の中で、跳ね返りの、"法則"が、見えてきた。

 

 それは。翔の、分析力と。母譲りの、正確な、ボールコントロールが――噛み合って、初めて、可能になる。繊細な、繊細な、技術だった。

 

────────────────────────────

 

 クラブの練習で。翔は、種子島三段撃ちを――チームメイトと、試し始めた。

 

「みんな、聞いてくれ。僕が、わざと、ポストに、シュートを当てる。跳ね返りを、二人目、三人目が、拾って、押し込む。跳ね返りの位置は――僕が、計算する。蒼は、ここ。晴斗は、ここに、走り込んでくれ」

 

 これまでの翔なら。自分の頭の中だけで、完結させていた。けれど、今は――自分の計算を、味方に、共有し。味方を、その位置へと、走らせていた。

 

 そして――ある、一本。

 

 翔が、ポストに、狙い澄ました、レーザーショットを、叩き込んだ。

 

 ズガンッ!!

 

 ボールが、ポストの内側に当たり、ゴール前の中央へ、鋭く、跳ね返る。

 

 そこに――森本蒼が、走り込んでいた。

 

 蒼が、押し込もうと、する。だが――GKが、反応! 蒼のシュートは、弾かれた。

 

 その、弾かれたボールの、先に――

 

「もらったぁっ!!」

 

 橘晴斗が、いた。

 

 晴斗が、三の矢を――ゴールへ、突き刺した。

 

 ゴール。

 

 一の矢。二の矢。三の矢。

 

 途切れない、連射が――ついに、ゴールを、こじ開けた。

 

「決まった……!」

 

 蒼と、晴斗が、ハイタッチを、交わす。

 

 翔も、静かに、手応えを、感じていた。

 

(これが――三段撃ち。僕一人じゃ、絶対に、決められなかった、ゴールだ)

 

 ベンチで見ていた、監督が――小さく、唸った。

 

(また、新しい形を、持ってきたか。……あの子は、こうやって。一人で勝つ選手から、"チームで勝つ選手"へと――変わっていく)

 

────────────────────────────

 

 その夜。翔は、ソフィアに、三段撃ちが決まったことを、報告した。

 

 電話の向こうで、ソフィアは――飛び上がって、喜んだ。

 

「やった!! ついに、決まったのね!! どうだった、長篠の――」

 

「蒼と、晴斗が、決めてくれた。二人とも、すごく、喜んでた」

 

 翔は――ソフィアの「長篠の」を、また、さらっと、素通りした。

 

 ソフィアは、電話の向こうで、苦笑した。

 

(この子……ほんとに。ロマンには、興味ないんだから。……でも)

 

 その、噛み合わなさが。なぜか――嫌では、なかった。むしろ、翔らしくて、可笑しくて――愛おしかった。

 

「翔。私、これからも――あなたに、技を、教えるね。漫画や、アニメや……本物の選手の技、いっぱい、知ってるから。あなたなら、きっと、全部――現実に、できる。……ただし!」

 

 ソフィアの声が、いたずらっぽく、なった。

 

「分身したり、ボールから、炎が出たりする技は――無理だからね! あれは、漫画の中、だけ!」

 

 翔は。真顔で、答えた。

 

「当たり前だ。物理的に、不可能だ」

 

 ソフィアは。電話の向こうで――ぷっ、と、吹き出した。

 

「あはは! ……だよね! 翔なら、そう言うと思った!」

 

 世界を知る少女が、ロマンを込めて、技を、名づけ。世界一を目指す少年が――それを、淡々と、現実に、変えていく。

 

 その、繰り返しが。これから先も――翔を、高みへと、導いていく。

 

────────────────────────────

 

 風林火山。種子島三段撃ち。

 

 ソフィアが、翔に、授けた、二つの技。それは、どちらも――"チームで、勝つ"ための、技だった。

 

 全国大会で、九条蒼真に、突きつけられた――「一人では、勝てない」という、現実。

 

 その答えへと向かう、道を。ソフィアは、"技"という、形で。翔に、示してくれた。

 

(来年は……6年生だ)

 

 ふと、翔の胸に――寂しさが、よぎった。

 

(蓮さんと、大和。二人は――今年で、卒業する)

 

 翔が、3年生のときから。ずっと、そばで、支えてくれた。エースと、親友。

 

 その二人との、最後の時間が――もう、すぐ、そこまで、来ていた。

 

 そして。その、別れの日に。

 

 蓮が、翔に――"あるもの"を、託すことに、なる。

 

 背番号10の――リストバンドを。




次は今日の16:30に投稿します。
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