天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~   作:ささき2026

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一度間違ってアップロードしてしまいました。すみません。


第26話 憧れの技

第2章 憧れの技と、別れの予感

 

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 一

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 新学期。

 

 翔と、ソフィアは。同じクラスのまま、6年生に、進級していた。

 

 ソフィアは。すっかり、クラスに、溶け込んでいた。明るく、誰とでも、分け隔てなく接する彼女は――教室の、中心的な存在に、なっていた。そして、相変わらず――翔の、隣の席、だった。

 

「翔、おはよう。……今日も、難しい顔、してるわね」

 

「……そう?」

 

「うん。キャプテンの、悩み。まだ、続いてるの?」

 

 翔は、少し、驚いた。自分では、表情に、出していない、つもりだった。

 

「なんで、わかるの」

 

「だって――ずっと、見てるもの。翔のこと」

 

 ソフィアは。にっこり、笑って、そう、言った。

 

 何気ない、言葉。けれど、翔は。その「ずっと見てる」という言葉に――わずかな、温かさを、感じた。

 

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 二

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「実は、下級生に……指摘の仕方で、悩んでて」

 

 翔は。ソフィアにも、キャプテンの悩みを、話した。褒めてから、指摘する。姉に、そう教わったが。まだ、うまく、できないこと。

 

 ソフィアは、それを聞いて――頷いた。

 

「翔。それね……スペインのサッカーでも。すごく、大事にされてる、ことなの」

 

「スペインでも?」

 

「うん。スペインの、指導者は。子どもを、絶対に、頭ごなしに、叱らないの。まず、良かったところを、認める。それから――改善点を、伝える。怒鳴って、萎縮させたら。その子は、ミスを、恐れて。挑戦、しなくなる。……挑戦しない選手は。成長、しないから」

 

 翔は。その話に、深く、頷いた。

 

「世界最高の、クラブでも……そうなの?」

 

「そうよ。むしろ――レベルが、高いところほど。選手の、"心"を、大事にするの。技術だけじゃ、なくて。心も、育てる。それが……本物の、育成なんだって。祖父が、いつも、言ってた」

 

 ソフィアの言葉には。世界を知る者の、確かな、説得力が、あった。

 

(……キャプテンの、悩みの答えも。世界に、繋がってる)

 

 翔は。改めて、ソフィアという、存在の、大きさを、感じた。

 

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 三

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 放課後。翔と、ソフィアは。いつもの、公園に、向かっていた。

 

 公園での、特訓は。6年生に、なっても、続いていた。

 

「翔、今日は――シュートの話」

 

 ソフィアは。ボールを、芝生に、置いた。

 

「あなたのシュート。レーザーショットも、フェザー・ループも。すごく、強い。でも――全国大会の、九条のチームみたいに。組織的に、守られると。シュートコースが……限られる」

 

「うん。……あのとき。なかなか、いい形で、打てなかった」

 

「そう。だから――狭いコースでも。正確に、決められる、技術が、いる」

 

 ソフィアは。ゴールの、四隅を、指さした。

 

「ここと、ここと、ここと、ここ。この、四つの隅は。GKが、一番、届きにくい、場所。ここを、自在に、狙えるようになれば――どんなに、狭いコースでも。点が、取れる」

 

「威力より……精度」

 

「そう! さすが、翔。理解が、早い!」

 

 ソフィアは。少し、考えてから――言った。今回は、戦国武将では、なかった。

 

「名前は……シンプルに。"ピンポイントショット"、かな。狙った、一点を――正確に、撃ち抜く」

 

 翔は。わずかに、口角を、上げた。

 

「……今回は。戦国武将じゃ、ないんだ」

 

 ソフィアは。ぷっ、と、吹き出した。

 

「あら、期待してた? あなた、いつも、私の命名――素通りする、くせに!」

 

「素通りは、してない。長いと、試合で、使いにくいだけ」

 

「ふふっ。ピンポイントショットなら――短いでしょ?」

 

 二人は。顔を見合わせて、笑った。

 

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 四

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 ピンポイントショットの、特訓が、始まった。

 

 翔は。ゴールの、四隅に、目印を置き。そこへ、正確に、ボールを、蹴り込む練習を――繰り返した。

 

 最初は。なかなか、思った場所に、入らなかった。

 

 けれど――翔の、正確な、ボールコントロールと。分析力が。少しずつ、精度を、高めていく。

 

「翔、今のは……少し、高すぎた。あと、5センチ、下」

 

 ソフィアが。軌道を、見極めて。修正点を、伝える。膝のために、激しくは、動けない彼女だが。その分析眼は――何よりの、コーチ、だった。

 

 何百本と、蹴るうちに。翔は、ゴールの四隅を。かなりの精度で――狙えるように、なっていった。

 

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 五

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 ある、夕方。特訓の、合間。二人は、ベンチで、休んでいた。

 

「翔。……あなた、最近。すごく、変わったね」

 

「変わった?」

 

「うん。前は、もっと……とっつきにくかった。無口で、何考えてるか、わからなくて。でも――今は。なんていうか……人に、優しくなった。下級生にも――ちゃんと、気を、配ってる」

 

 翔は。少し、考えてから――答えた。

 

「キャプテンに、なったから。……みんなの、気持ちを。考えるように、なった」

 

「うん。……いい、キャプテンに、なってきてる」

 

 ソフィアは。そう言って、空を、見上げた。その横顔に、夕陽が、優しく、当たっていた。

 

 そのとき。翔は。ふと――ソフィアの表情に。わずかな、影が、よぎったのを、見た気がした。

 

(……ソフィア?)

 

 ――今、一瞬。ソフィアの顔が、寂しそうだった。何か……隠している?

 

 けれど。翔が、それを、尋ねる前に。ソフィアは、いつもの、明るい笑顔に、戻っていた。

 

「さあ! 特訓の、続き、しよう! ピンポイントショット、完成させなきゃ!」

 

 ソフィアは、立ち上がって。ボールを、ゴールのほうへ、転がした。

 

 翔は。その背中を、しばらく、見つめていた。

 

(……気のせい、かな)

 

 けれど。その、違和感は。翔の胸の奥に。小さな――しこりとして、残った。

 

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 六

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 その日から、数日。

 

 ある日の、公園。特訓が、一段落したとき。

 

 ソフィアが。持ってきた、一冊の漫画を。膝の上で、大事そうに、開いた。少し古い、読み込まれた様子の――漫画、だった。

 

「翔。これ、何の漫画か、わかる?」

 

 ソフィアが、その表紙を、翔に、見せた。サッカー漫画だった。表紙には、ボールを蹴る、一人の少年が、描かれていた。

 

「……サッカーの、漫画?」

 

「うん。でも――ただの、サッカー漫画じゃ、ないの。これはね……私が。世界で、一番、好きな漫画」

 

 ソフィアの目が。これまで見たことが、ないほど――輝いていた。

 

「私の父が。日本のアニメや、漫画が、大好きだって、言ったでしょ。その父が、私に、一番最初に、見せてくれたのが……この作品なの。私が、サッカーを、好きになった――きっかけ」

 

 ソフィアは。その漫画を、愛おしそうに、撫でた。

 

「この漫画の、主人公はね。『ボールは、友達』って、言うの。サッカーを、心から、愛していて。どんなに、強い相手にも――絶対に、諦めない。私……この主人公に、憧れて。サッカーを、始めたんだ」

 

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 七

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「この、主人公にね。……必殺技が、あるの」

 

 ソフィアは。漫画の、あるページを、開いた。

 

 そこには。ボールが、不思議な軌道を描いて。ゴールへ、突き刺さる――迫力のある、シーンが。描かれていた。

 

「――"ドライブシュート"、っていうの。空中で、ぐーんと、急に、落ちる、すごいシュート。GKが……絶対に、取れない」

 

 翔は。そのページを、じっと、見つめた。

 

 ――ボールが、空中で、急激に、落ちる。これは……強烈な、縦回転を、かければ。現実でも、起こせる、現象だ。回転の力で、空気抵抗が、変わって、ボールが、落ちる。理屈は……わかる。でも――

 

「ソフィア。これ……現実でも、できるの?」

 

 ソフィアは、少し、考えてから――答えた。

 

「……正直に、言うとね。漫画みたいに、大きくは、落ちないと思う。あれは、漫画の、演出だから。でも――強い縦回転を、かけて、急に落とすシュートは。現実にも、あるの。プロの選手でも……使う人が、いる」

 

「現実にも……ある」

 

「うん。でも――すごく、難しい、技なの。ボールに、強烈な、縦回転を、かけながら、コントロールするって……普通の選手には、まず、できない。プロでも――限られた選手しか、使えない」

 

 ソフィアは。漫画を、閉じて――翔を、見た。

 

「だから、翔。これは……あなたには、まだ、早いと思う。今のあなたでも、たぶん――できない」

 

 それは。ソフィアの、正直な、分析だった。彼女は、翔の才能を、誰よりも、信じている。けれど――だからこそ。安易に「できる」とは、言わなかった。

 

「でも――いつか。あなたなら、できるように、なる気がする。あなたの、分析力と、ボールコントロールなら……いつか。このドライブシュートも――現実に、できる。それは、たぶん……もっと、先のこと、だけど」

 

 翔は。その言葉を、静かに――心に、刻んだ。

 

(ドライブシュート。……ソフィアが、一番、好きな漫画の、主人公の技)

 

 そのとき。翔の中に。小さな――火が、灯った。

 

(ソフィアが、いつか、できるようになる、と言った技。……彼女が、一番好きな、技を)

 

 その、火の名前を。翔は、まだ、知らない。

 

 けれど――それは。やがて、翔を。小学校編の、最後の最後で。"奇跡"へと、導いていく――願いの、灯火、だった。

 

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 八

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 数日後。

 

 学校からの、帰り道。

 

 ソフィアが。いつもより――ずっと、静かだった。

 

「ソフィア。今日……元気、ないね」

 

 翔が、尋ねた。今度は、翔のほうから、気づいた。キャプテンに、なって、人の心を、分析するように、なった翔は――ソフィアの、わずかな変化にも。敏感に、なっていた。

 

 ソフィアは。しばらく、黙っていた。

 

 それから――ぽつり、と。言った。

 

「翔。私ね……来年の春に。スペインに、帰ることに、なったの」

 

 翔の、足が――止まった。

 

「……帰る?」

 

「うん。お父さんの、日本での仕事が。来年の春で、終わるの。だから――家族で、スペインに、戻ることに、なって」

 

 翔は。すぐには、言葉が、出なかった。

 

 ――ソフィアが、いなくなる。来年の春に。スペインへ。

 

 それは。これまで翔が、経験したことのない――種類の、感情だった。

 

 蓮や、大和が、卒業したときとも、違った。あのときは、同じ国の、近い場所に、いた。けれど――ソフィアは。海を、越えて。遠い、スペインへ――行ってしまう。

 

「いつ、決まったの?」

 

「少し前に。……でも。言えなくて。言ったら――本当に、なっちゃう気がして」

 

 ソフィアの、声が。震えていた。

 

 翔は。ようやく。あの、公園での、寂しそうな表情の――理由を、理解した。

 

 ――ソフィアは。ずっと、知ってたんだ。帰ることを。それでも、いつも通り、明るく――僕に、技を、教えてくれてた。

 

 翔の胸が。締めつけられた。

 

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 九

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 その夜。翔は、自分の部屋で。ぼんやりと、天井を、見上げていた。

 

 ソフィアが、いなくなる。

 

 その事実が。まだ、うまく――受け止められなかった。

 

 ソフィアは。翔にとって、特別な、存在だった。世界を知る彼女は、翔の才能を、誰よりも早く、見抜いた。漫画やアニメから、新しい技のヒントを、くれた。そして――いつも。「あなたは、世界一になれる」と、信じてくれた。

 

(ソフィアが、いなくなったら……)

 

 翔は。その先を、考えるのが――怖かった。

 

 ――ソフィアとの、時間は。有限だった。来年の春まで。それまでに……何が、できるか。何を、残せるか。

 

(……そうだ。残りの時間を――大事に、しよう)

 

 翔は。決意した。

 

 ソフィアが、スペインに、帰るまでの、一年。その間に。自分は、もっと、強くなる。ソフィアが、教えてくれた技を、完成させる。そして――全国大会で、結果を、出す。

 

 それが。ソフィアへの――最高の、恩返しに、なる。

 

 そう、翔は、思った。

 

 けれど。翔は。まだ、知らなかった。

 

 ソフィアが、スペインに、帰る日に。二人が――"ある約束"を、交わすことになることを。

 

 そして。その日まで。翔の中で。あの、"ドライブシュート"への、願いが。静かに――燃え続けることを。

 

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 十

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 ――そして、その夜から。

 

 翔の、"密かな挑戦"が。始まった。

 

 誰にも、言わなかった。ソフィアにも。仲間にも。監督にも。

 

 家の近くの、小さな児童公園。クラブの練習が、終わった後の――ほんの、少しの、時間。

 

 翔は。たった一人で――ドライブシュートに、挑んだ。

 

 ソフィアが「できない」と、言った技。彼女が、世界で、一番好きな、技。

 

 ――だからこそ。翔は、それを。できるように、したかった。

 

(ソフィアが、スペインに、帰る前に……もし、この技を、見せられたら)

 

 蹴っても。蹴っても。ボールは。思うように――落ちなかった。

 

 それでも。翔は、諦め、なかった。

 

 夜の、児童公園。汗を、流しながら、ボールを、蹴り続ける、その背中を。

 

 冬の、月が。静かに――照らしていた。

 

 ――ソフィアとの、残りの、時間。

 

 その、一日、一日が。翔にとって。かけがえのない――宝物に、なっていく。

 

 最高の、栄光と。避けられない、別れが、待つ――最後の一年が。

 

 今、静かに――動き始めていた。

 




次は明日の11時30分になります。
いつもありがとうございます。
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