天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~ 作:ささき2026
初夏。
全国大会への、道が――始まっていた。
まずは、地区予選。そこを勝ち抜いた者だけが、あの、全国の舞台へと、進める。
天野川サッカークラブは。キャプテン・翔のもと。これまでとは、明らかに、違う――"チーム"に、なっていた。
その日の、予選一回戦。
ピッチに立つ、翔の背中には。「10」の、背番号。左手首には――受け継いだ、リストバンド。
試合前の、円陣。
「みんな。……去年、僕たちは。全国で、ベスト8だった。今年は――その、先へ、行く」
翔が、静かに、口を開く。
「でも、焦らなくていい。一戦、一戦。……僕たちの、サッカーを、するだけだ」
「おうっ!」
と――そのとき。
「よーし! キャプテンの、初陣、飾るぞー!」
橘晴斗が、勢いよく、腕を、突き上げた。
……が。今日は、ちゃんと、隣を、確認してから、だった。
「……あれ? 晴斗。お前、今日は、陸に、肘、当てなかったな」
森本蒼が、にやり、と、する。
「う、うるせえ! この前のは、事故だ、事故! ……今日は、ちゃんと、周り、見た!」
「風林火山の、"周りを見る"は。……そういう意味じゃ、ないと思うぞ」
「翔まで、いじるなよ!?」
ど、と。円陣に、笑いが、広がる。
翔の口元にも――自然な、笑みが。
「……行こう。晴斗の、肘に、気をつけて」
「だから、いじるなって!!」
────────────────────────────
二
────────────────────────────
ピイッ――!!
キックオフ。
そして――ピッチの、天野川SCを見て。スタンドの、朝倉ひかりが。カメラ越しに、唸った。
「……みんな、見てください。今年の、天野川SC。……去年より、"完成度"が、段違いです」
翔が、風林火山で、リズムを、握る。ゆっくり、ためて、味方を、休ませ。
「今だっ!」
一気に、仕掛ける。晴斗と、陸が、爆発的に、走り出す。
『来たぁっ! チーム全体が――一つの生き物みたいに、動いたぁっ!!』
そして――ゴール前。
翔が、囲まれる。シュートコースは、ほんの、わずか。
だが――翔の足が。ボールを、正確に、撫でるように、振り抜いた。
ゴール、右上の、わずかな、隙間へ。
『――ピンポイントショットぉっ!! 吸い込まれたぁっ!! ゴオオオォル!!』
「出ました、新技! ピンポイントショット! ……いいですか、みんな。今のは、"威力"じゃ、ないんです。"精度"! ゴールの、四隅の、たった数センチを――狙い撃ち! こんなの、GK、動けませんよ……!」
【コメント欄】
「また新技!?」
「精度おかしい」
「四隅とか無理ゲー」
「翔、進化しすぎ」
初戦は――快勝、だった。
────────────────────────────
三
────────────────────────────
だが。キャプテン翔の、真価が、問われたのは。試合の、勝敗だけでは、なかった。
予選、二回戦。
その試合で。途中出場した、下級生が――大事な場面で、痛恨の、パスミスを、した。それが、失点に、繋がりかけた。
その下級生は。ベンチに、戻ると。うつむいて、今にも、泣きそうに、なっていた。
「……すみません。僕の、せいで……」
これまでの翔なら。ここで、冷静に「次は、こうしろ」と、指摘、していただろう。
けれど――今の、翔は。違った。
翔は。その下級生の、隣に、座った。そして。
「さっきの、ミスの前。……お前、いいポジション、取ってた。あの、動き出しは、正解だ」
「……え?」
「ミスは、誰でも、する。僕も、する。……大事なのは、その後だ。下を、向くな。次の、プレーで、取り返せばいい」
翔は。その下級生の、肩を、ぽん、と、叩いた。
「お前が、必要だ。……顔、上げろ」
下級生の、目に。じわり、と、涙が、滲んだ。けれど、それは――さっきとは、違う、涙だった。
「……はいっ!」
そして。その下級生は。次の、出場機会で。見違えるような、動きを、見せた。
その様子を。ベンチから、監督が――静かに、見ていた。
(……翔。お前は、もう。ただの、天才じゃ、ない。……"キャプテン"だ)
────────────────────────────
四
────────────────────────────
スタンドでは。新田栞が。その、一部始終を――見つめていた。
「……ねえ、ひかり」
「ん?」
「私、3年生のときから、翔くんを、見てきた。……あの頃の、翔くんは。正しいことを、正しいまま、言って。仲間を、萎縮させてた」
栞の目に。感慨が、宿る。
「でも、今の、翔くんは。……仲間の、心を、支えてる。……あの子、本当に、変わった」
「うん」
ひかりも、頷いた。カメラを、構えたまま。その目は――少し、潤んでいた。
「あたしね、栞。……あたしたちの、仕事って。ただ、"すごいプレー"を、伝えることだけじゃ、ないと思うの」
「……ひかり?」
「こういう。……人が、成長していく、瞬間を。伝えること。それも――あたしたちの、仕事だよね」
栞は。静かに、微笑んで――頷いた。
「ええ。……そのために、私たちは、いる」
記録と、配信。二人の記者は。それぞれの形で。一人の少年の、成長を――追い続けていた。
────────────────────────────
五
────────────────────────────
地区予選、決勝。
天野川SCは。危なげなく、勝ち上がり――ついに、地区予選の、頂点に、立った。
全国大会への――切符。
その、瞬間。
「うおおおおっ!! 全国だぁっ!!」
晴斗が、絶叫した。仲間たちが、抱き合う。
だが――翔は。喜びの、中心で。静かに、左手首の、リストバンドに、触れていた。
(蓮さん。大和。……全国に、戻ってきました。今度こそ――"チームで"、てっぺんを、獲ります)
────────────────────────────
六
────────────────────────────
その夜。天野川家の、食卓は。全国出場の、お祝いで、賑わっていた。
明日香が、腕によりをかけた、ご馳走が、並ぶ。
「全国、おめでとう、翔! ……今日は、あんたの、好物、いっぱい、作ったからね!」
「……ありがとう、姉ちゃん」
妹の美羽が。タブレットを、抱えて、割り込んできた。
「お兄ちゃん! 予選、全部、撮ったよ! ……で、分析、したんだけど」
「分析?」
「うん。お兄ちゃん、キャプテンに、なってから。……試合中、"笑う"回数が、増えたの」
「……笑う?」
「うん! 前は、ずーっと、怖い顔してたのに。最近は、仲間と、話すとき。ちょっと、笑ってる。……ほら、この映像!」
美羽が、タブレットを、見せる。そこには――仲間と、談笑する、翔の姿が。
「ほんとだ。……翔、笑ってるじゃない」
明日香が、覗き込んで、笑う。
「これはね、いい、変化なの。キャプテンが、笑ってると。チーム全体が――リラックスするんだって。私、本で、読んだ!」
美羽の、分析に。父の恒一郎が、感心する。
「美羽は、本当に。人の、変化を、見るのが、上手いな」
「えへへ! 私、将来、お兄ちゃんの、専属カメラマンに、なるんだ!」
「……専属?」
「うん! お兄ちゃんが、世界一に、なる瞬間を。一番、近くで、撮るの!」
翔は。妹の、まっすぐな言葉に。少し、照れて――けれど、嬉しそうに、頷いた。
「……頼む。撮ってくれ」
「まかせて!」
温かい、笑い声が。食卓に――満ちていた。
────────────────────────────
七
────────────────────────────
その夜。翔は、自分の部屋で。一人。
机の上の、リストバンドと。壁に飾られた、ソフィアとの、写真を、見つめていた。
全国大会が――近づいている。
そして。翔には。まだ、家族にも、仲間にも、言っていない――"二つの想い"が、あった。
一つは。全国大会で、九条蒼真に、リベンジすること。「チームで、勝てるように、なったとき、また戦おう」――あの、約束に、答えること。
そして、もう一つは。
(ソフィアが、見ている前で……あの技を)
――ドライブシュート。
翔は。この日も。あとで、こっそり、児童公園へ、行くつもりだった。誰にも、言わずに。あの、未完成の技を――磨くために。
成功率は、まだ。十本に、一本も、ない。
それでも。翔は、諦めなかった。
(ソフィアが、スペインに、帰る前に……全国の舞台で。彼女の、一番、好きな技を)
翔は。窓の外の、夜空を、見上げた。
そのどこかに。ソフィアの、いる場所も。繋がっている。
(待ってて、ソフィア。……最高の、舞台で。最高の、プレーを、見せる)
全国大会。
九条蒼真との、再戦。ソフィアが、見届ける、最後の、試合。そして――密かに、磨き続けた、"奇跡の一撃"。
その、すべてが。もうすぐ――一つの、ピッチの上で、交わろうとしていた。
キャプテンの、翔が。仲間を、背負い。意志を、背負い。そして、願いを、胸に。
最後の、夏へと――歩き出す。
次は16時30分に投稿します。
いつもありがとうございます。