天才も、一人じゃ勝てない ~努力する少年の挑戦~   作:ささき2026

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第27話 キャプテンの背中

 

 初夏。

 

 全国大会への、道が――始まっていた。

 

 まずは、地区予選。そこを勝ち抜いた者だけが、あの、全国の舞台へと、進める。

 

 天野川サッカークラブは。キャプテン・翔のもと。これまでとは、明らかに、違う――"チーム"に、なっていた。

 

 その日の、予選一回戦。

 

 ピッチに立つ、翔の背中には。「10」の、背番号。左手首には――受け継いだ、リストバンド。

 

 試合前の、円陣。

 

「みんな。……去年、僕たちは。全国で、ベスト8だった。今年は――その、先へ、行く」

 

 翔が、静かに、口を開く。

 

「でも、焦らなくていい。一戦、一戦。……僕たちの、サッカーを、するだけだ」

 

「おうっ!」

 

 と――そのとき。

 

「よーし! キャプテンの、初陣、飾るぞー!」

 

 橘晴斗が、勢いよく、腕を、突き上げた。

 

 ……が。今日は、ちゃんと、隣を、確認してから、だった。

 

「……あれ? 晴斗。お前、今日は、陸に、肘、当てなかったな」

 

 森本蒼が、にやり、と、する。

 

「う、うるせえ! この前のは、事故だ、事故! ……今日は、ちゃんと、周り、見た!」

 

「風林火山の、"周りを見る"は。……そういう意味じゃ、ないと思うぞ」

 

「翔まで、いじるなよ!?」

 

 ど、と。円陣に、笑いが、広がる。

 

 翔の口元にも――自然な、笑みが。

 

「……行こう。晴斗の、肘に、気をつけて」

 

「だから、いじるなって!!」

 

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 二

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 ピイッ――!!

 

 キックオフ。

 

 そして――ピッチの、天野川SCを見て。スタンドの、朝倉ひかりが。カメラ越しに、唸った。

 

「……みんな、見てください。今年の、天野川SC。……去年より、"完成度"が、段違いです」

 

 翔が、風林火山で、リズムを、握る。ゆっくり、ためて、味方を、休ませ。

 

「今だっ!」

 

 一気に、仕掛ける。晴斗と、陸が、爆発的に、走り出す。

 

『来たぁっ! チーム全体が――一つの生き物みたいに、動いたぁっ!!』

 

 そして――ゴール前。

 

 翔が、囲まれる。シュートコースは、ほんの、わずか。

 

 だが――翔の足が。ボールを、正確に、撫でるように、振り抜いた。

 

 ゴール、右上の、わずかな、隙間へ。

 

『――ピンポイントショットぉっ!! 吸い込まれたぁっ!! ゴオオオォル!!』

 

「出ました、新技! ピンポイントショット! ……いいですか、みんな。今のは、"威力"じゃ、ないんです。"精度"! ゴールの、四隅の、たった数センチを――狙い撃ち! こんなの、GK、動けませんよ……!」

 

【コメント欄】

「また新技!?」

「精度おかしい」

「四隅とか無理ゲー」

「翔、進化しすぎ」

 

 初戦は――快勝、だった。

 

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 三

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 だが。キャプテン翔の、真価が、問われたのは。試合の、勝敗だけでは、なかった。

 

 予選、二回戦。

 

 その試合で。途中出場した、下級生が――大事な場面で、痛恨の、パスミスを、した。それが、失点に、繋がりかけた。

 

 その下級生は。ベンチに、戻ると。うつむいて、今にも、泣きそうに、なっていた。

 

「……すみません。僕の、せいで……」

 

 これまでの翔なら。ここで、冷静に「次は、こうしろ」と、指摘、していただろう。

 

 けれど――今の、翔は。違った。

 

 翔は。その下級生の、隣に、座った。そして。

 

「さっきの、ミスの前。……お前、いいポジション、取ってた。あの、動き出しは、正解だ」

 

「……え?」

 

「ミスは、誰でも、する。僕も、する。……大事なのは、その後だ。下を、向くな。次の、プレーで、取り返せばいい」

 

 翔は。その下級生の、肩を、ぽん、と、叩いた。

 

「お前が、必要だ。……顔、上げろ」

 

 下級生の、目に。じわり、と、涙が、滲んだ。けれど、それは――さっきとは、違う、涙だった。

 

「……はいっ!」

 

 そして。その下級生は。次の、出場機会で。見違えるような、動きを、見せた。

 

 その様子を。ベンチから、監督が――静かに、見ていた。

 

(……翔。お前は、もう。ただの、天才じゃ、ない。……"キャプテン"だ)

 

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 四

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 スタンドでは。新田栞が。その、一部始終を――見つめていた。

 

「……ねえ、ひかり」

 

「ん?」

 

「私、3年生のときから、翔くんを、見てきた。……あの頃の、翔くんは。正しいことを、正しいまま、言って。仲間を、萎縮させてた」

 

 栞の目に。感慨が、宿る。

 

「でも、今の、翔くんは。……仲間の、心を、支えてる。……あの子、本当に、変わった」

 

「うん」

 

 ひかりも、頷いた。カメラを、構えたまま。その目は――少し、潤んでいた。

 

「あたしね、栞。……あたしたちの、仕事って。ただ、"すごいプレー"を、伝えることだけじゃ、ないと思うの」

 

「……ひかり?」

 

「こういう。……人が、成長していく、瞬間を。伝えること。それも――あたしたちの、仕事だよね」

 

 栞は。静かに、微笑んで――頷いた。

 

「ええ。……そのために、私たちは、いる」

 

 記録と、配信。二人の記者は。それぞれの形で。一人の少年の、成長を――追い続けていた。

 

────────────────────────────

 五

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 地区予選、決勝。

 

 天野川SCは。危なげなく、勝ち上がり――ついに、地区予選の、頂点に、立った。

 

 全国大会への――切符。

 

 その、瞬間。

 

「うおおおおっ!! 全国だぁっ!!」

 

 晴斗が、絶叫した。仲間たちが、抱き合う。

 

 だが――翔は。喜びの、中心で。静かに、左手首の、リストバンドに、触れていた。

 

(蓮さん。大和。……全国に、戻ってきました。今度こそ――"チームで"、てっぺんを、獲ります)

 

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 六

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 その夜。天野川家の、食卓は。全国出場の、お祝いで、賑わっていた。

 

 明日香が、腕によりをかけた、ご馳走が、並ぶ。

 

「全国、おめでとう、翔! ……今日は、あんたの、好物、いっぱい、作ったからね!」

 

「……ありがとう、姉ちゃん」

 

 妹の美羽が。タブレットを、抱えて、割り込んできた。

 

「お兄ちゃん! 予選、全部、撮ったよ! ……で、分析、したんだけど」

 

「分析?」

 

「うん。お兄ちゃん、キャプテンに、なってから。……試合中、"笑う"回数が、増えたの」

 

「……笑う?」

 

「うん! 前は、ずーっと、怖い顔してたのに。最近は、仲間と、話すとき。ちょっと、笑ってる。……ほら、この映像!」

 

 美羽が、タブレットを、見せる。そこには――仲間と、談笑する、翔の姿が。

 

「ほんとだ。……翔、笑ってるじゃない」

 

 明日香が、覗き込んで、笑う。

 

「これはね、いい、変化なの。キャプテンが、笑ってると。チーム全体が――リラックスするんだって。私、本で、読んだ!」

 

 美羽の、分析に。父の恒一郎が、感心する。

 

「美羽は、本当に。人の、変化を、見るのが、上手いな」

 

「えへへ! 私、将来、お兄ちゃんの、専属カメラマンに、なるんだ!」

 

「……専属?」

 

「うん! お兄ちゃんが、世界一に、なる瞬間を。一番、近くで、撮るの!」

 

 翔は。妹の、まっすぐな言葉に。少し、照れて――けれど、嬉しそうに、頷いた。

 

「……頼む。撮ってくれ」

 

「まかせて!」

 

 温かい、笑い声が。食卓に――満ちていた。

 

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 七

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 その夜。翔は、自分の部屋で。一人。

 

 机の上の、リストバンドと。壁に飾られた、ソフィアとの、写真を、見つめていた。

 

 全国大会が――近づいている。

 

 そして。翔には。まだ、家族にも、仲間にも、言っていない――"二つの想い"が、あった。

 

 一つは。全国大会で、九条蒼真に、リベンジすること。「チームで、勝てるように、なったとき、また戦おう」――あの、約束に、答えること。

 

 そして、もう一つは。

 

(ソフィアが、見ている前で……あの技を)

 

 ――ドライブシュート。

 

 翔は。この日も。あとで、こっそり、児童公園へ、行くつもりだった。誰にも、言わずに。あの、未完成の技を――磨くために。

 

 成功率は、まだ。十本に、一本も、ない。

 

 それでも。翔は、諦めなかった。

 

(ソフィアが、スペインに、帰る前に……全国の舞台で。彼女の、一番、好きな技を)

 

 翔は。窓の外の、夜空を、見上げた。

 

 そのどこかに。ソフィアの、いる場所も。繋がっている。

 

(待ってて、ソフィア。……最高の、舞台で。最高の、プレーを、見せる)

 

 全国大会。

 

 九条蒼真との、再戦。ソフィアが、見届ける、最後の、試合。そして――密かに、磨き続けた、"奇跡の一撃"。

 

 その、すべてが。もうすぐ――一つの、ピッチの上で、交わろうとしていた。

 

 キャプテンの、翔が。仲間を、背負い。意志を、背負い。そして、願いを、胸に。

 

 最後の、夏へと――歩き出す。

 




次は16時30分に投稿します。
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