よろしくお願いします〜
整った顔立ちを「私、不機嫌です!」とばかりに頬を膨らませて、領主を睨む女の子。
歳は俺と同じ12歳ほどに見えるが、すでにその顔は大人顔負けの美人さんであり、将来帝の妃候補として後宮にいくのも頷けるほどだ。
芙蓉妃、といえば、俺の頭にはあの色恋に関してはバッドエンドが多かった薬屋において唯一好きな人と一緒になることができた女性としての認識が強い。言うなれば、ハッピーエンドルートの羅漢と鳳仙と言えるだろう。
好きあっていた二人は離ればなれ。後宮に召し上げられ、皇帝のお手付きがあれば結ばれることなどほぼないという状況。
その中で、方や夢遊病を演出することで皇帝からの注目を落とし、かたや武功を上げて芙蓉妃を娶れるだけの実績を積み、結果めでたく結ばれるという結末を迎えたこの二人。
アニメでも大きく取り上げられることはなかったものの。俺の中で強く印象に残っていた密かな推しなのだ。
なので、俺の頭の中は今現在押しを目の前にした限界オタクそのものとなっている。
うわ!うわ!うわぁ!芙蓉妃じゃん!まじかここ芙蓉妃のいる都だったんだ?!てか確か属国の姫とかいう設定じゃなかったっけ?まじでそれも頷ける顔面偏差値の高さだわ!いや〜最推しは羅漢×鳳仙ですよ?もちろんそこは変わらないですよ?だけどやっぱハピエン厨としてはこの芙蓉×武官の公式カップリングも実に素晴らしいものがあったわけでして?困難を乗り越えて一緒になれた二人が馬車の中で抱き合うシーンなんかもうよだれがジュルチザムの天元突破グランラガンッ!!してたからねぇ〜!!っは!?ってことはもしかして武官の人もいる!?いるの?!アニメだと名前出てこなかったからな〜、ここで知れるのはまじで熱い!いやほんとこの世界まじでクソほど生きるの辛いけどリアルな二人に会えるのだけは感謝するわ〜。まじ転生してよかった!!あ〜、脳がエンドルフィンで回復する〜〜〜!!!
「...ど、どうしたのでしょう?お連れの方が天を仰いで腕を突き上げていますわ?」
「さぁ...。なんか嬉しいことでもあったんじゃないか?」
桃源郷はここにありぃ!!!
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「え〜、大変お見苦しいところをお見せいたしました。誠に申し訳ございません。命以外でどうぞ何なりと処分を。」
「いや謝罪しているようで要求してるあたり割とお主悪いと思っとらんじゃろ。」
「いえそんなことは。」
「連れてきたの間違いだったかの...?」
領主様が割と寛容でありがたかった。側から見たら不審者そのものだったよな、と土下座を敢行しながら思っている俺です。
そんな俺の姿を見て、くすくすと笑っている芙蓉妃。実に可憐だ。推せる。
「ふふ、面白い方ですね。」
「じゃろ?」
「お父様は反省して下さい」
「(´・ω・`)シュン」
また怒られている。この街一番の権力者も、実の娘には頭が上がらないか。時代は変わってもそこは同じなのだろう。
「でも、お父様の腰をたちどころに直せるほどの按摩だなんて。私と同じ歳なのにすごいのですね。」
「いえ、それほどでもありません。まだまだこの身は若輩なれば。研鑽を積んでいる最中にございます。」
「それでも、お父様の体を治してくれたのは事実。お礼をさせて下さい。」
その言葉を聞いて、項垂れてじめんにのの字を書いていた領主は、すぐに機嫌を直して会話に加わってくる。
「そうじゃ!その礼のために屋敷に連れてきたのだ!お主、旅の按摩と言っていたが今日はどこに泊まるのだ?」
「いえ、まだ泊まる場所は見つけられておらず...。最悪野宿でもと考えております。」
「なら泊まっていけ!恩人を野宿させたとあればワシの沽券に関わる!」
いや恩人て。ぎっくり腰直した程度でそんな大袈裟な...とも思うのだが、割とぎっくり腰は場合によっては寝たきりになることもある危険な状態だ。あながち恩人というのも大袈裟というわけではないのだ。
領主が寝たきりになることで生まれる政治的要因も考えると尚更だ。
ここは素直に甘えるとしよう。
ちなみに、ぎっくり腰になった時に腰を揉むのは、本来であれば絶対NGな行為だ。反転術式を使用できる俺だから問題がないだけなので、良い子は決して真似してはいけない!まじだからね!
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」
「ええ。もう時期夕食ですので、是非そちらも楽しんでいって下さいな。」
「っ......。」
芙蓉様がそのように話された瞬間、一瞬ではあるがその場にいた全員の顔に強張りがあった。
何もおかしなことは言っていないのだが、何か事情があるのだろうか。
その後、話を変えるかのように、領主より「娘と少し話してやってくれ。同世代と話せる貴重な機会だ。」と言われて部屋に案内された。
どれ、この約3年で俺が体験してきた旅の話でもしてやろうか。
まずは、大根を盗んで鬼婆に追いかけ回された話からするか。
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芙蓉様に旅の話をしている際、一緒に護衛としてついてきた同世代の男の子がいた。キリッとした顔で芙蓉様の横に立ち、こちらを油断なく見つめる少年。
名を李信。後の芙蓉妃を娶るあの武官である。
アニメで昔から付き合いがあった幼馴染として紹介されていたが、なるほど護衛役として長年芙蓉様のそばにいたのか。
こちらを眺める目に警戒だけでなく若干の嫉妬が混じって見えるのも、そういうことなのだろう。
むほほ、ええのうええのう!仰げば尊し!実にてえてえ光景じゃ。
心配せずとも俺は芙蓉様に手など出さんよ。むしろお前が出せ。ハーリー!ハァーリィー!!
「うふふ!本当に面白い方ですのね、黒曜様は。」
「黒曜と呼び捨てにして下さいませ、芙蓉様。私は一介の按摩なのですから。芙蓉様に様付けさせるなど、お父上に見つかれば首が飛んでしまいますよ。」
「あら、お父様はそのようなことで怒るような器量の狭い人ではありませんよ。それに、黒曜様こそ同じ年齢なのですから、芙蓉と呼び捨てにしても良いのですよ?」
「お嬢様、それはなりません。按摩のいう通り、あなたはこの都の領主の姫君なのです。」
口を固く引き結び、護衛の李信がこちらを睨みつつ芙蓉様に注意をする。
芙蓉様はそれを聞いて、困ったように笑った。
「李信、今は周りに誰もいないのだから、いつも通り呼んで?」
「ですが、お嬢さ「李信?」......わかったよ、芙蓉。」
「うん!よろしい。」
は?死ぬよ?俺が。
何そのやりとり、可愛いかよ。
「李信は幼馴染なのに、いつも敬語でばかり喋ってくるんです。黒曜様、どう思います?寂しいですよね。」
「いやそれは立場とか色々あるから...わかってるでしょ?」
「ふーん。知りませーん。」
「芙蓉はもう、本当に...。」
は?かわよ。
てえてえの取りすぎで俺今日死ぬのかな?
死んでもいいわ。
いや死んだらだめだろ。また羅漢と鳳仙の結婚式見てないだろ。
散っ!!!
「ど、どうしたお前急におでこなんかぶっ叩いて!?気でも違えたか!?」
「いえ、ちょっと蚊がいたもので。」
「この時期にいないだろ...。」
うるせぇ、蚊がいたんだよ。
でっけぇのがな。
「お二人は、本当に仲がよろしいのですね。」
そういうと、芙蓉様はにっこりと、本当に花が咲くような笑みで。
李信は恥ずかしそうに遠くを見て。
「はい!とっても!」
「まあ...そうだな。」
散っ!!!!!!
「いや本当お前なんだよ!?」
「蚊です。」
「いやいねぇよ!?」
そんな茶番を3人で楽しんでいたら、いつの間にか夕方になっていた。
どこからかご飯を炊く匂いもしてきた。夕食が近いのだろう。
ふと二人を見ると、芙蓉様は普通だったが、李信の表情がどこか暗くなっていた。
なんだ?一体。さっきからご飯の話になるとどいつも顔が暗くなってやがる。
「それでは黒曜様、我が家の料理番が腕によりをかけて作った夕食。楽しんでくださいね!」
「あ、ああもちろん。楽しみにしております。」
そう言って、二人は部屋から出ていき、俺は今日泊まる部屋に案内された。
久しぶりの広くて綺麗な部屋で、本来だったらワクワクドキドキしていたはずなのに。
こうもご飯の話題が出るたびに、芙蓉様を除く全員の顔が暗くなっていたら、なんとも釈然としない気持ちにもなるというものだ。
ご飯...。ご飯ねぇ...。
綺麗に磨かれた床に寝そべり、天井を見上げて思案する。
そういや、昼間屋敷に入る前に目にしたんだが。
たくさんの食材を積んでいたあの牛車が、隠れるように影に置かれてあったのと、何か関係があるのだろうか?
時系列
オリ主
9歳:もしかしてご飯、美味しくない...?
芙蓉
12歳:同年代と話せて楽しかった!
李信
12歳:............。