反転術式で行く薬屋世界ハピエン計画   作:蜂鳥

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お仕事忙しくて少し空きました。
また書いていきます。

感想、お気に入りありますと励みになります。
よろしくお願いしますー。


按摩のお仕事は、お休みです

 

 すでに日は暮れ、辺りはすっかり真っ暗になっていた。都について今の今まで、何も食べていないためお腹の空き具合は最高潮。芙蓉様のおっしゃる通り、出された夕食はそんな俺の胃袋を十分に満たす量と味を誇っていた。

旬の野菜に果物、新鮮な川魚の焼き魚など、実に贅を凝らした食事であった。

 

 旅をしている時に食べるものは大抵碌でもない。最近は按摩として稼げるようになったからマシな料理にありつけているが、まだこっちにきたばかりの頃はそこらの食べられる野草を煮込んだスープだったり、蛇やカエルといった小動物の串焼きだったりと碌なものではなかった。

 

 飽食の時代・日本に生まれた俺としては、寝る場所や着るものよりも何より食の質の低下に心底がっかりしたものだ。もちろんこの体になって、反転術式が常時展開しているからほとんど物を飲み食いせずに生活はできる。しかし、何も飲まず食わずでは体より先に精神がやられてくるのだ。だからこそ、今ではなるべく3食しっかり食べるようにしている。その内容がゲロまずという点に救いのなさがあるのだが...。

 

 故に、故に!この美味い飯を食えたことに俺は全力で感謝をしているのだ。こんな豪華な飯などこの3年間で一度としてなかった。最後に豪華な食事を取ったのなんて、罠で仕留めたウサギの丸焼きぐらいだ。その肉も、血抜きなんで高等な技術持ち合わせていなかったから血生臭く獣臭いという代物だ。

 

 「ああ。あの時あの領主様を助ける判断をした俺よ。グッジョブ...!」

 

 過去の自分の行動に感謝を捧げながら、椀に盛られた白米を書き込んでいく。実に幸せである。

 

 腹が膨れれば次は眠気が襲ってくる。ここしばらくまともな寝所などなかった故に、一目散に布団にダイブする。高級布団からはほのかに甘い香りが漂ってきており、目を閉じればすぐにでも寝落ちしてしまいそうだ。

 この屋敷に来て、色々と気になることはある。しかし部外者が首を突っ込みすぎるのも問題だ。何しろ相手は都の領主だ。触らぬ神に祟りなし。関わりすぎないこともこの3年間で学んだことだ。

 

 ただ、李信くんのあの表情を見た後では、少し気持ちも変わるというものだ。二人が何か困っていて、自分にできることがあるのなら、なんとか手助けをしてやりたい。

 

 そう強く思うのだ。

 

======================================================

 

 ふと、バタバタという音が聞こえてきて、目が覚めてしまった。辺りはまだ真っ暗で、障子からうっすら月の光が漏れ出していた。開けると、月は真上より少し西側の位置で輝いていた。どうやら時刻は深夜1時ほどらしい。考えているうちに、いつの間にやら寝落ちしてしまったらしい。

 

 しかし、こんな真夜中にバタバタと何かが動く音がするなど少し妙である。すわ呪霊かと思ったが、どうやら複数の人間が行き交う足音のようだった。何事かと思い部屋から出ようとすると、引き戸が開かない。どうやら、外からつっかえ棒か何かで押さえられているようだ。招き入れ、飯を振る舞った客人を部屋に閉じ込めるなど、どうにもおかしい。なんとか開かないかと色々やってみる。

 

 すると、バキっ!という音と共に一気に引き戸が開いた。

 

 「っあ...。」

 

 カランコロンと、床に転がるつっかえ棒。凹んで一部破損もしている扉。当然領主の住む屋敷の部屋の扉だ。綺麗な彫り物や装飾、絵が描かれた逸品だ。それが、凹んで、破損した。頭から血の気が一気に引き、目も一瞬で覚める。

 

 と、閉じ込める方が悪い。ということで...。

 

 頭の中で猛烈に弾かれる算盤の数字を無視して、俺は人の足音が聞こえてくる方へと歩いて行った。

 

 音のする方へと行ってみると、女中らしき人たちが忙しなく動き回っているのが見えた。皆何かを手にして、奥の広間らしき場所へと何かを持って行っていた。今は見つからないよう柱の陰からのぞいているが、暗さもあって何を運んでいるかまでは見えなかった。運んでいるものをもっとちゃんと見ようと近づいてみる。

 

 どうやら、それは膳のようだった。

 

 時間は深夜1時。こんな時間に膳を用意しなきゃいけない御仁でも来ているのだろうか。いや仮に来ているとしても、膳の量が以上だ。一人二人ならわかる。しかし今目視しただけでその数15、あまりに多い。こんな時間に15人も客など普通に考えれば来るはずがない。

 

 それと同時に、俺の頭の中に屋敷に来た時に目にした、隠されるように置かれていた牛車のことが思い起こされた。あの牛車は、都に来た時に大量の食料を乗せていた牛車と特徴が似ていた。町の人が冗談めかして「領主が皇帝に謀反を起こそうとしているのでは」などと言っていたが、謀反とまで行かずとも何か良からぬことでも起こっているのだろうか。

 

 好奇心は猫をも殺すというが、ここまで来て引くという選択肢など元からない。膳が運ばれている方へと、俺は足を進めた。

 

 膳が運ばれている部屋、その入り口が見える柱の位置に隠れて、そおっと覗いてみる。位置的に中の様子が上手いこと見えないが、中からは光が漏れている。間違いなく誰かがいる。気づかれぬように、俺は場所を移動し、窓から中を覗くことにした。

 

 

 そこには、一心不乱で膳の料理を平らげていく、芙蓉様の姿があった。

 

 

======================================================

 

 

 むしゃむしゃ。

 

 もぐもぐ。

 

 ガツガツ。

 

 昼間のお淑やかで華やかな姿とは似ても似つかず、手づかみで、ひたすら料理を口に運ぶ姿は獣のそれと相違ない。手は料理の油や汁で汚れ、周りに食べかすがボロボロとこぼれ落ちている。瞬く間に無くなる料理。次々と運ばれる膳。もはやそれはわんこそばに近いスピードで行われている。

 

 昼間の周囲の「食事」に対してのあの反応は、こういうことか。

 

 最初は、物語でも出てきた夢遊病のそれかと思った。しかし、いくら夢遊病であっても、あれだけご飯を食べていながら一切気づかないなどということは考えづらいだろう。

 

 何より、その食べている量が異常なのだ。

 

 空いた膳の数、実に27つ。齢12歳の芙蓉様の体に入る量を逸脱している。明らかに体が弾けている量だ。だというのに本人の体は細いまま。何も入っていないかのように普通なのだ。これは、明らかに夢遊病などといった病気などではない。もっと別の何かだ。

 

 もしや、呪霊か?

 

 俺は、目に力をこめ、芙蓉様をじっと見つめた。深夜でかつ窓越しの見えづらい状況であったため、芙蓉様ご自身の呪力の色は見えても、それ以外に何かが混じっている様子は、ここからは確認できなかった。もっとよく見ようと目を凝らし、窓にできるだけ近づく。

 

 

 「いけませんね、こんな夜中に、淑女の食事を覗き見るのは。」

 

 瞬間、俺は振り返ると同時に頭に布を被せられ、思い切りぶん殴られた。オートで自身を包み込んでいる反転術式によりケガは一瞬で治るも、その振動までは身構えていなかったため殺しきれなかった。視界が少しだけ揺れる。

 

 「連れて行きなさい。」

 

======================================================

 

 

 連れて行かれた先は、どうやら牢屋のようだ。ところどころに虫が湧き、明らかに体に良くない環境である。俺はそんな牢屋の中で後ろ手に縛られ、牢屋の中に放り込まれていた。

 

 「全く。部屋は出られぬようにつっかえ棒をし、夕食には薬を仕込んだというのに。死なぬ程度に量を制限したのが良くなかったですかね。」

 

 そう呟くのは、昼間領主と言い合いをしていたあの将来禿げそうな男性だった。昼間の雰囲気とは打って変わり、目は細く開かれ、冷徹な色をたたえていた。

 

 「客人に睡眠薬入りの飯を食べさせるとは、なんとも手厚いことですね。これは領主様もご存知のことと捉えてよろしいですか?」

 「質問に答える義理はありません。大人しく眠って、部屋から出なければここで死なずに済んだものを。」

 「おやおや、私を殺すと?」

 「芙蓉様のあの姿を見られた以上、生かして返すわけはないでしょう。」

 

 そりゃそうだな。属国の姫のあんな姿がもしも世の中に出回りでもしたら、それこそ後々どんな影響をもたらすか想像に難くない。政治的にも、芙蓉様ご自身の未来についても。

 

 「今は忙しいので、殺すのは後です。せいぜい残り少ない人生を噛み締めなさい。」

 

 「一つだけ。芙蓉様はこのことを知っているのですか?」

 

 「...。」

 

 

 質問には答えず、男は連れていた数人の男たちと共に、牢屋を後にした。

 

 

 さて、どうするか。ぶっちゃけ逃げるのは簡単なんだが。

 

 俺は牢屋の中で、今後どうするかについて考えていた。この世界に来たばかりの俺ならば、この状況は絶体絶命のピンチだったろう。しかし、この3年間で俺も色々とに見つけてきたのだ。いざとなったら今縛っている縄も引きちぎって逃げ出せる。

 

 しかし、最後の質問の反応から察するに、芙蓉様ご自身はこのことを自覚していないのだろう。自覚していたらあんなにこやかに食事に対して話をするわけもないし。自覚がないのは夢遊病の症状と一致する。しかし、やはりあれは病気では説明のつかないものだ。昼間の牛車も、町民たちが言っていた先月、先々月の牛車の大量の食料も、これが理由だろう。

 

 どうするか、と真剣に頭を悩ませている最中。誰かが部屋に入ってきた気配がした。

 

 「按摩!無事か!」

 

 李信さんである。

 

 「これは李信殿。こんばんわ。」

 フランクに話した俺の様子に、ガクッと落ちる李信さん。ノリがいいねぇ。

 

 「なんでお前そんな余裕そうなんだよ!?」

 「いや〜、一周回って落ち着いちゃいまして!人間、想定外のことが起こると恐怖より冷静になるもんなのですね。」

 「なんだよ、助けに来て損した...。そうだ、早く出ろ!?すぐ警備の人間がやってくるぞ!」

 

 そう言って牢屋の関を抜き取り、縛っている縄を解いてくれる。

 

 「いいんですか?私を助けて?」

 「...芙蓉がこのことを知ったら、絶対後で悲しむから。仕方なくだ。」

 「それでも、私を助けることはあなたにとってとてつもなくマイナスに働くでしょう。そこまでして私を助けますか?」

 「そんなのわかってんだよ。...それでも、俺は芙蓉には、いつも笑顔でいて欲しいんだ。きっとお前との会話は、芙蓉にとってすごく嬉しかったろうから。」

 

 なんとも、こりゃ芙蓉様が惚れるわけだ。実に、格好のいい男の子だ。

 

 「よければ、芙蓉様の身に何があったか教えていただけますか?」

 

 「...話したところで、なんになるんだよ。あいつの身に起こっていることは、普通じゃない。...ただの按摩に、何ができるんだよ。」

 

 ただの按摩。その言葉にはおそらく、何もできない自分のことも含まれているのだろう。芙蓉様があんな状態なのに、何もしてやれない自分。それに対して、悲しみや怒り、不甲斐なさといった感情が渦巻いているのだろう。

 

 俺は、下を向いて歯を食いしばっている李信の手をとった。

 

 「確かに、私は按摩です。でも、ただの按摩じゃないんです。」

 

 同時に、ここに来るまでにできたであろう、手の傷を反転術式で綺麗さっぱり消してあげる。

 その光景に、李信は目を見開き、何度も自分の手とこちらの顔を交互に見つめた。

 

 「超スーパーウルトラ腕の立つ、霊媒師でもあるんです。」

 

 「一つ、私にお話ししてみませんか?」

 

 

 

 

 




時系列

オリ主
9歳:霊媒師がアップを始めました。

李信
12歳:キェアアアアアアア!!!

芙蓉
12歳:.......。

将来禿げになりそうな人
39歳:李信はどこに行った?まさか!?
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